置き去りにされた聖女様

青の雀

文字の大きさ
上 下
5 / 5

5.

しおりを挟む
 ミカエルの縁談は、王国の内外から多く寄せられることになった。

 バスティーユ公爵は、できればミカエルを嫁に出したくはない。婿を取って、いつまでもミカエルと共に暮らしたいというのが本音のところ。

 さりとて、王家からは、聖女様になられた限りは、一公爵家に置いておくのはもったいないという考え方で、すぐにでも王家に召し出したいところ。

 頑として、バスティーユ公爵が首を縦に振らないことにいら立ちを覚えている。

 教会もミカエルはもともと、下男として雇い入れたものだから、教会に所有権があるはずと主張している。

 ミカエルが聖女様として覚醒できたのは、聖なる空気を吸って育ったからだとも言い張り、バスティーユ家に引き渡しを要求するも拒否され、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「できれば高位貴族の次男坊か三男坊で、養子に来てもいいという男性に嫁いでもらいたい」

 公爵の意向は、ミカエルに伝えられ、ミカエルは有り余る釣り書きの中から、その条件に合う男性を探すのに、一苦労している。

 公爵邸では、聖女様ではなく「お嬢様」として、傅かれていることから、お嬢様として、縁談を探した方が身の丈に合っていると考えるようになった。

 その考えから必然的に、王族との縁談を遠ざけ、もっともミカエルのことを大切に考えてくれる殿方の元に嫁ぎたいと考えるようになり、それはある結論を生み出したのだ。

 ミカエルは、父の書斎を訪ね、こう切り出す。

「いろいろと釣り書きを拝見しましたが、気になる殿方は一人もおられず……、それで、わたくし、できればお父様と結婚したいと思っております」

「そうか」と返事をしたもののバスティーユは二の句を告げない。

「えっ!?今、なんと申した?」

「ですから、お父様の妻になりとう存じます」

「いやいや、それは……」

 確かに、今は独身の公爵だが……年齢差があり過ぎるだろっ!

 聖女様と言うのは、純潔の証で……純潔でなければ覚醒しない。だからと言って、純潔を失ったからと言って、聖女様の地位ははく奪されないし、聖魔法は衰えない。それに、何かの本で、聖女様はいつでも処女膜を再生することができると書いてあったような記憶がある。

 カラダの相性もあるから、一度、味見だけでもしてみたい。これが公爵自身が考えたスケベ心から来ることは間違いようがないが、同時にそんなことはできないという否定する心も持ち合わせている。

 娘には、いい男のところに嫁いで幸せになってもらいたいという気持ちも確かにある。そうでなければ、教会から養女として引き取ったりしない。

 ミカエルは挑発するかのように薄いネグリジェの前を開け、バスティーユの膝の上に乗る。そしてカラダを上下に動かすと、胸のふくらみが揺れていることがわかる。

「いい加減にしないか!」

 声を荒げてみたところで、下半身のムクムク感は収まらない。

「お願い。一度だけでいいからお父様に女にしてほしいの。聖女だからいつでも処女に戻れるわ。責任なんて、口にしないからお願い、抱いて。」

 そこまで言われたら、我慢できない。理性も何もかも吹っ飛んでしまう。

 執務室から、寝室までは奥の扉ひとつで行け、誰に見られることもない。念のため、執務室にカギを閉め、ミカエルを抱きかかえたまま奥の扉へ消えてゆく。

 前の妻が流産してから、ずいぶん女の肉とは無縁の状態でいた。公爵は妻が流産したことにより、妻のカラダを労わるため没交渉していたのだ。その間に間男を引き入れているとも知らずに、マヌケな男だとつくづく自嘲していた。

 それが今、とびきり上等の聖女様から「抱いて」と言われ抱き着かれてしまい、すっかり我を忘れてしまっている状態に、もはや抑えるべき理性の欠片もない。

 ミカエルをベッドに寝かせ、自らも全裸になって、覆いかぶさる。まるで野獣のごとき、ミカエルのカラダを貪り愛し始める。ミカエルは小さく喘ぎながら、公爵の背中に腕を回す。

 公爵は、25歳。ミカエルとは10歳差だ。男の25歳というのは、一番ヤりたい年齢で、よく今まで女なしの生活ができていたと思えるほど、情熱的にミカエルを抱く。

「あっは。あっは。お父様、もっと、深く……んん……」

「ミカエル、名前で呼んでくれ」

「お父様の名前って?」

「ラファエルだ。ラファエル・バスティーユそれが俺の名前だ」

「ラファエル……!ああん」

「ミカエル、一緒に……」




 何が1回だけの味見だ。その夜は、ミカエルと10回もチャレンジしてしまい、翌日は久しぶりに黄色い太陽を見た。

 必然的に、ミカエルの縁談は、ミカエル自身がすべて断り、なくなってしまった。その日から毎日、10回以上、愛し合う日々が続き、使用人に知られることになったが、誰も咎めない。前の夫人よりよっぽどいいから。

 そして、いつの間にか妊娠して、聖女覚醒から1年後、元気な男の子を産みました。男の子はガブリエルと名付けられ、すくすくと育っています。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

離婚から玉の輿婚~クズ男は熨斗を付けて差し上げます

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿の離婚版 縁あって結婚したはずの男女が、どちらかの一方的な原因で別れることになる 離婚してからの相手がどんどん落ちぶれて行く「ざまあ」話を中心に書いていきたいと思っています 血液型 石女 半身不随 マザコン 略奪婚 開業医 幼馴染

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。

青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。 公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。 父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。 そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。 3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。 長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。

辺境伯は王女から婚約破棄される

高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」  会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。  王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。  彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。  だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。 婚約破棄の宣言から始まる物語。 ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。 辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。 だが、辺境伯側にも言い分はあって……。 男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。 それだけを原動力にした作品。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約破棄? そんな! お願いですから私を捨てないでください!(いいぞ、その言葉を待っていた)

咲阿ましろ
恋愛
【癒し】の異能を持つ聖女アイシャ。星を見るのが好きな彼女は、同じく星好きの王子ユリウスと距離を近づけていく。 もともとアイシャの婚約者は他の女にご執心で、このまま婚約破棄してくれたら、すべてが上手くいくのに――。

「きみを愛することはない」祭りが開催されました

吉田ルネ
恋愛
わたしの婚約者には恋人がいる。 初夜に、彼は言うのか言わないのか。あのセリフを。

処理中です...