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3.豚の角煮

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 たくさんもらった金貨をポシェットの秘密のポケットに入れ、そのまま野宿することにしたのだが、最初に声をかけてきた男が、

「若い娘が、こんなところで野宿するのは、危険だ」

 その男の幌馬車の中を提供してくれた。親切な人もいる者だと感謝して、眠りにつく。そうだよね、夜中に雨でも降ろうものなら今までは、朝起きたら、ずぶぬれになっていたこともあったもの。

 その男は、ポールと名乗り、百姓だという。王都で野菜を運んで売ってきた帰りで、これから生まれ故郷のベルソムラまで行くところだという話をしてくれた。

「お前さんも、王都から来なすったのかい?」

 お城で、異世界から召喚されてきたのだけど、もう一人の少女が聖女様だということになり、追い出されてしまったことを打ち明ける。

 ここで見栄を張ったわけではないけど、あえて薄汚い女という言葉は省略した。

「そらぁ大変だったねぇ。そういやお城で、聖女様を召喚することに成功したとかで、お祝いがあったようだったなあ。そのお祝いの席にも呼んでもらえなかったのかい?」

 美波は、コクリと頷く。一緒に召喚された少女のことを思い浮かべ、あの娘もこれから大変だろうなとぼんやり考える。

 親や学校が今頃、捜索願を出して、さぞかし心配していることだろう。

 翌朝、行く宛がないという美波をベルソムラまで連れて行ってくれるというポール様のお言葉に甘えてしまった。

 幌馬車に無賃乗車させてもらえることになり、今日は歩かなくてもいいことにホっと胸をなでおろす。

 自慢の大根足に自信はあったものの、毎日、歩くばかりの移動ではしんどい。

 昼間は、ポールさんの御者席の隣に座らせてもらって、とりとめもない世間話をしながらベルソムラを目指している。

「いやあ、いつも一人だから、話し相手ができて助かるよ」

「いえ、こちらこそ、タダで乗せてもらえて光栄です」

「その代わりと言っちゃなんだけど、今夜も、美味い飯作ってくれるか?」

「ええ、もちろんです。ポールさんは何がお好きですか?」

「うーん。昨日みたいなものもいいけど、肉が良いな?」

「じゃあ牛丼とか?すき焼き丼とか?豚の角煮なんて、どうかしら?」

「ドン、ドンってとこがよくわからないけど……、ミナミちゃんの作りやすいものでいいよ。野菜ならベルソムラには、たくさんあるから、なんでも調達できる」

「あっは。ありがとうございます」

昨日と同じように街道沿いの野っ原で野営というか、野宿の場所が決まる。ポールさんは、水を汲んできてくれる。

 その間に、今日は何を作ろうか思案する。この世界には、どうやら家畜という考えがないらしい。それで、肉料理というと、もっぱら毒のない魔物の肉かたまたま遭遇した野生の獣の肉を使うことが多いらしい。

 ということで今日は、豚の角煮を作ります。炊飯器を遣わなければ、圧力鍋で作るので、ここはあえて、炊飯器レシピらしいものを作っていきたいと思います。

 今日は、炊飯器でご飯を炊かず、代わりにポールさんがパンを王都で買ってきてくださったと言うので、パンのおかずに豚の角煮を作ります。

 下ごしらえとして、豚バラブロックとネギを食べやすいような大きさに切っておく。

 炊飯器に水70cc、濃い口醤油大さじ4、コーラ1本、ショウガひとかけら(できたら千切りにしておく)長ネギ1本を適当に切って入れる。そこに豚バラを投入して、蓋を閉め、炊飯ボタンを押す。

 ちなみにコーラでなくても、炭酸水でもOKなんだけど、コーラには甘味があり肉を柔らかくする炭酸があるので、今日はコーラを遣いました。

 きらきら星が~きれいな星が~♪

 できたと合図があったので、蓋を開けると、ボワンといい匂いがしてくる。器は、ポールさんが用意をしてくださったので、その器に豚の角煮を盛り付け、ついでにゆでたまごを半分に切って、供します。

「う~美味しそう」

 美波は、出来栄えに思わずニンマリとし、「いただきまーす」で一口、食べる。もう、肉が柔らかくて、美味しすぎる。

 チラリと横目で見ると、ポールさんも黙々と食べていらっしゃる模様で、満足していただけたのなら、嬉しい。ひとりで食べるよりも、誰かと一緒に食べる方がご飯は美味しい。

「まだまだ、お替りがありますからポールさんどうぞ」

「それなら、俺に売ってくれないか?」

「え?」

知らない間に、美波の背後に人が突っ立っていた。

「美味そうなニオイにつられて、来てしまったのだが、それは魔物の肉かい?」

その男は、金貨を美波に渡し、あげるとも言っていないのに、さっさと器を手にし、黙々と食べ始める。

「うまっ!柔らかい!こんなもの初めて食った!」

 その男の声を皮切りに今まで興味本位で群がっていた他の人達も美波に金貨を手渡し、どんどん持っていく。

 仕方がないから、またまたお代わりを作るべく炊飯器に向かい、夜が更けていく。
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