上 下
1 / 31

1.ちりめん山椒ごはん

しおりを挟む
 社畜OL 吉田美波25歳は、大手家電量販店の販売員をしているが、PB(プライベートブランド)の炊飯器の売り込みに余念がなく、性能を調べるために、いくつも社割で炊飯器を買い調べている研究熱心な女の子。

 ある日のこと、残業で遅くなった美波は急いで、炊飯器のスイッチを入れる。手洗いうがいをしていると、突如、足元が光り出し、咄嗟に炊飯器に手を伸ばしたまま、そのまま異世界に召喚されてしまう。

 大理石の床に寝転がされた美波だが、ふと隣を見ると、まだ中学生?高校生かもしれない少女が震えながら佇んでいる。可愛い。

 休憩時間に読んでいるラノベの設定によくあるやつだ。きっと、この娘が聖女様で、私は役立たずとして、放逐されるのだろうな。とぼんやり考えていると、案の定、奥の廊下から進んできたこの世界の王族か?きらびやかな衣装をまとった一団がやってくる。

「やっと、聖女様召喚に成功したというのだな?」

 そのいでたちは、ほとんど千成瓢箪かと思えるほどの成金趣味で金きらしている。

「なんだ二人いるのか?どっちが聖女様か?」

「まだ魔力判定をしておりませぬゆえに……」

「そんなもの決まっておるわ。この薄汚い女をつまみ出せ!」

 え!薄汚いって言われた?失礼ね!美波がプンプン怒る間もなく、炊飯器ごと、城の外へ放り出されたのだった。

「い、痛っ!ちょっと、何すんのよ?」

 辺りは、もう真っ暗で、そりゃそうだ。残業から帰ってきた時間は夜の22時を回っていたもの。ふと、美波は自身の左手首にある時計に目を遣ると、なんと午前0時!

 この時計は、就職祝いで、祖母からプレゼントされたものだった。

 ひょっとしたら、もう二度と元の世界に帰れないかもしれない。急に寒さと空腹のせいで、現実に引き戻される。なんだか、悲しくなり、しゃっくりを上げながら泣き崩れる。

 その時、お腹から「ぐーーーっ」と音が鳴り、我に返る。

「そうだ!こうしちゃいられない。とにかく今は、ご飯を食べることが先決。腹が減っては戦ができないっつうの」

 炊飯器の蓋を開けると、中からまばゆいばかりの真っ白なご飯!うっとりと眺めながらも、お茶碗とお箸で一口、食べてみる。

「ん~♪美味しい。やっぱ、白ご飯は、最高だよね。でもちりめん山椒があれば、まぶしてもっと美味しく食べられるのに」

 口に出した途端、どこからかちりめん山椒の袋が落ちてきた。それを美波は深く考えもせず、炊飯器の上にぶちまけ、しゃもじで混ぜる。

 そして再び、お茶碗によそい、食べ始める。昨日のお昼から12時間、おやつも食べないで、頑張ってきたのだから、お腹が空いていて当然だったのだ。約3合のご飯を一人で全部平らげ、満足していると眠くなってくる。

 いつの間にか、ウトウトしていて、気づいたときはお日様が空高く昇っていた。

 きゃぁっ!大変、知らない世界で野宿してしまったんだわ。でも、盗られるものは何もないから、当然何も盗られていない、当たり前だけど。

 近くに水が流れているような音がしたので、そこへ行き、口をゆすぎ、顔を洗うことにした。

 そういえば、昨日、クレンジングをせずに寝てしまったことを川に映った自分の顔を見て思い出す。

「ヤダ。どうしよう。もう若くはないのよ。お肌の曲がり角を曲がっちゃったかな?」

 シャバシャバっと、小川の水で、顔を洗う。それを手早くタオルハンカチで拭きとり、化粧水はないが、ほっぺたをパチパチと叩いて、血行を良くする。

 それにしても、昨夜のあの金ぴか野郎の言い分については、腹が立つといったらありゃしない!

 誰が薄汚い女だとぉ!

 女を見る目がないにも程があるっていうものだ!

 でも、あのままあのお城にいたら、何をされていたかわからないし、早々と放逐させてもらってよかったあもしれない。

 とにかく、今は、あのお城が見えなくなるところまで、行こう。と心に決めて、前進あるのみ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

処理中です...