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 クリスティーヌは、一生結婚しなくても、差支えがないほど魔法ができる。でも、最近、特に結婚したくなったのである。それは過去世の藤堂加奈子先生が影響している。過去の自分が幸せそうにしていると、自分も幸せになりたい。と心から願っている。

 クリスティーヌとして転生してから、ロクな人生ではない。またロクな男と出会っていない。初恋の人、フェルゼン様も実のところ、どうだったかはわからない。

 これは、男を顔で選ぶからだろう。過去世があまりにもドブスに生まれてしまったから、綺麗な顔へのコンプレックスが影響していると思える。

 藤堂加奈子先生のお相手のナカジュン先生は、決してハンサムなわけではない。だけど知性と教養が顔を作っていらっしゃる。

 だから、今世では、クリスティーヌもそういう男性を選ぶことにしよう。いつも顔と爵位で選んでしまうから失敗することに、ようやく気が付く。お相手は学者がいいけど、この時代は、学者という職業は、あまり重用されていない。だったら、どういう男性がいいか?

 とりあえず、50年後の未来へ飛ぶことにする。もし、誰かに殺されるようなことがあっても、50年後の先の世のことはわかる。その中で一番いい男を選べばよい。そして、これから先、誰にどのようにして、殺されるのかもついでに見てこよう。未来は回避できるのだから。まだ、殺されるとは、決まっていないのだけど、いつも途中で死んでしまうから。



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 先に結論から言おう。

 やっぱり、サンドラ国に帰ったクリスティーヌは、サンドラ国でも我が国の令嬢が、ベルサイユ国で「ベルサイユのばら」と称されるほど、美しい令嬢に育ったとの噂でもちきりになる。

 それがチャールズ殿下の耳に入り、チャールズ殿下に召し上げられることが決まる。王城で暮らすクリスティーヌに嫉妬したリリアーヌとカトリーヌの手により、リリアーヌに一服盛られ、意識が朦朧としているところに、複数の下卑な男たちから犯され、最後はカトリーヌの手により美しい顔を切り刻まれ殺される運命にあったのだ。

 リリアーヌとカトリーヌが手を組むということがわからない。敵の敵は味方ということか?それにしても複数の男から犯されるということは、淫乱なカトリーヌが考えそうなことだと思ったわ。ご自分が犯されたいのでは?

 っひゃっ~!美人に生まれると、どうして女から嫉妬されるのかしらね。加奈子先生は育ちがいいから、美人に嫉妬などしなかっただけなのかもしれない。

 あのフランツの浮気相手の女子生徒もそうだった。あの子の場合は、会ったこともないクリスティーヌへの憎悪が丸出しだったけどね。

 あぁ、……まぁこうなるとわかっていながら、二度とサンドラの地は踏むまい。もし、サンドラ王家から正式に召し上げられたとしても、その時はベルサイユへ亡命してやる!

 なんといっても、ベルサイユ国王の命の恩人なんだもんね。そうだ、グズグズして召し上げられる前に、今から亡命しちゃおうか?

 いや、待てよ。50年後のいい男を探しに行くのが先ね。

 再びクリスティーヌは、未来へ飛んだ。














 50年後、立派な王様が君臨している。国民から吸い上げる税金を減額し、教育、医療とも充実している。国民は皆、元気で仕事に汗を流し、夜には笑いながら、労をねぎらい一杯やっている姿が見える。

 とても立派な王様だけど、その人の名前と国名がわからない。顔も見たことがあるようなないような?年のころは、カトリーヌとリリアーヌに殺されなければ、同じぐらいに見える。

 そうか、まず、未来を変えていないから、はっきりわからないのである。過去世で未来を見に行ったときは、ついでにイイ男を見つけただけで、加奈子先生の相手を探しに行ったわけではなかったから。加奈子先生が生きていようが死んでいようが、違う人生を送るはずの人だったから、わかったのである。

 ということは?その理屈からすれば、この立派な王様とクリスティーヌは、将来何らかの関係があるかもしれないということか?

 だから、今はうすぼんやりとした未来しか見えない。もし、殺される運命を回避したら、きちんと見えるのかもしれない。

 1年先の未来に飛ぶ。ちょうど、王家から正式に、クリスティーヌを召し上げたいという依頼が来ているところだった。

 両親は、渋い顔をしている。王家からの使いの者が帰った途端、クリスティーヌが出てきて、

 「ベルサイユ国へ亡命しましょう。あそこには、領地もあるし、気候は温暖。肥沃な土地もベルサイユ陛下がご用意してくださっています。」

 「おお、そうであったな。あそこへは将来、隠居したら、行くつもりであったが、公爵位も授与してくださるという話であったわい。」

 一応、領地のほうへも亡命話を打診すると、皆、賛成してくれたのでその足でベルサイユ領地へ向かい、ベルサイユ王都のお城の陛下に亡命する旨を伝えたのである。

 引っ越しは、父の大使として、何度も荷造りしているから、超慣れている。それに今回は、亡命なので、公爵邸を持っていくことにしたのである。全員に転移魔法をかけ、ベルサイユへ引っ越しする。

 引っ越し先の領地には、既に公爵邸が建っていて、卒業後、しばらくクリスティーヌはその屋敷で暮らしていたのだ。

 だが、それとは、別に少し離れたところにサンドラ領地から持ってきた公爵邸を出す。

 ベルサイユの王都には、土地だけが用意してあったので、そこには、サンドラ王都から持ってきた公爵邸を建てた。ついでに、6歳の頃、お世話になった納屋も出す。あれは、モントオール国へ行く道、崖が崩落していて通行止めになった時、この納屋の中で一夜を過ごしたものだった。雨露がしのげれば何かと便利だろうという理由で、6歳のクリスティーヌがサンドラ王都に在った使われていない納屋を掃除して、持ってきたものだった。気づけば、その納屋を10数年にわたり、異空間の中に入れっぱなしにしておいたものを、またベルサイユ王都に出すことにした。その時の過去があるから、今の自分がある。

 亡命したことで、殺される運命は回避できた。……はず。

 最後まで、見届けずに、49年後の未来に飛ぶ。

 発展している国は、チェインバルーン国だった。ええ?うそ?あの毒にも薬にもならない男が?頼もしい立派な王様になるなんて、信じられない!

 ああ、でも、兄弟がいて、違う人かもしれない。あんなマヌケな男がそうそう様変わりして、立派な王様に豹変できるわけがない!

 立派な王様には、王妃様がまだご存命なようで、よく見ると……わたくし?いやいや、わたくしは、もっときれいなはずよ。こんなおばあさんのわけがない。いやいや、でも49年後だから、老いは人間をブサイクにする?

 王様の孫娘が今のわたくしにそっくりだから、孫娘に転生しちゃうってこと?となると、王妃か王太子妃のどちらかに殺され、孫娘に転生してしまう?ってことなのか?

 名前を確認しとかないと、え……と、

 名前はリチャード・チェインバルーン様。

 リチャード様と言えば、前々世のわたくしの夫だった人。チャールズ殿下の一つ下の弟殿下だったが、今世は、存在しないことになっている。

 あの時は、もうリチャード様なしでは生きていけないほど、リチャード様にのめり込んでいたのだ。確かに愛していた、……と思う。

 そのリチャード様が、国違いでチェインバルーンに存在していたなんて、灯台下暗しということしかない。

 この前のパーティにいらっしゃったのかしらね。あのマヌケ王子がのこのこやってきたから、気づかなかったわ。マヌケといっても、悪い人ではなさそうだったから、義理の弟か義理の兄になってもいいよ。

 まぁいいわ。今世は殺されないように気を付ければいいのだもの。とりあえず、リチャード・チェインバルーン様にアプローチするため、まずはお手紙をしたためる。

 殺されそうになったら、未来を変えれば殺されない。だから、安心してリチャード様に近づく決心したのだ。

 次の日、リチャード様と会う約束をする。いわゆるデートです。場所は父が常駐している大使館。何か色気ないわね。ピクニックへ行くとか、遠出するとか、街でショッピングを楽しむとか、いくらでもあるのに。きっとマヌケというのは、チェインバルーン家特有のものなのかもしれない。

 まぁ、これから 鍛え上げればいいのだから、これからリチャード様をわたくし色に染め上げてあげる♡なんちゃって。

 そして、約束の時刻に現れたリチャード様を見て、さらに驚く。なんと!あのパーティで一緒に踊った時のマヌケ王子様だったのである。

  {うそ?}

 あのマヌケがリチャード様だったなんて、前世のリチャード様と一緒なのは名前だけで、まったく別人格であったのだ。

 「いやぁ、嬉しかったな。クリスティーヌ嬢から、お手紙をもらえるなんて、恐悦至極でございます。」

 「いえ、あの夜のお花とチョコレートのお礼を申し上げたくて……。」

 「遠路はるばる御足労いただけたのだから、当然のことでごさいます。」

  {役立たずの側近だと思っていたが、good job ではないか!あとで褒めてやろう。}

 「少し、お庭でお話ししませんこと?」

 さっきから、父アントワネット大使が仕事そっちのけで、聞き耳を立てているから、居心地が悪い。

 それに庭なら、父の執務室から見えるから、父も安心するだろうという配慮。

 リチャード様は、優しくクリスティーヌをエスコートしてくださる。こういうことは、マヌケでもできるのね。

 未来では、リチャード様が賢王になられる予定だったけど、いつどうやって変わられたのかしら?

 庭へ出ると、ベンチに腰掛けようとしたら、すかさずリチャード様が胸のチーフを広げてくださる。

 案外、イイ人なのね。

 そして、リチャードは、クリスティーヌの足元に跪き

 「クリスティーヌ嬢、どうかこの私の妻になっていただけませんか?一目見て、クリスティーヌ嬢に恋をしました。愛しています。まずは結婚を前提としたお付き合いをさせていただきたいのです。」

 「リチャード様には、御婚約者の方がいらっしゃいませんの?」

 「そんなもの、いるわけないでしょ。この顔ですよ。女性にモテない。」

 うーん。確かに、前々世の夫と比べたら、落ちる。でも、王子様という地位が女性を惹きつけるのではないか?

 「王子様なのに?」

 「そういう女性は嫌いです。だから、昨年まで、王子の身分を隠し別の国に留学していました。案の定、留学先でもモテないことに変わりはありませんでしたよ。あはは。」

 「わかりましたわ。わたくしで良ければ、お付き合いさせていただきます。」

 「え?本当に?ありがとう。」

 「実は、わたくしにも10歳の頃よりの婚約者がおりまして、留学先の学園で浮気されてしまいましたの。学園長やご学友の方は、ひた隠しになさっているけど、なんとなくわかりましたわ。それで婚約破棄されてしまいまして、気分が落ち込んでいるときに、パーティの招待状を頂いて、とても嬉しかったですわ。」

 「そうだったのですか?私は運が良かったということですね。私は自分で言うのもなんですが、運だけはいいのです。顔は悪いけど。あはは。」

 明るいマヌケ、いやリチャード様の笑顔につられ、ついクリスティーヌも笑顔になってしまう。

 「やっぱり、あなたは笑顔が美しい。ずっと私の傍で笑っていてください。」

 そう言って、リチャード様は、クリスティーヌの手にキスをされる。

 もうそれだけで、クリスティーヌは、真っ赤になる。

 執務室からその様子を見ていた父が、クリスティーヌが赤面していることから、怒鳴り込んできたのだ。

 「ウチの娘に何をした?」

 「お父様、わたくし、この方と……、リチャード様と結婚したいですわ。」

 「ええー!まったぁー?」

 そうフランツの時も、自分がさっさと結婚を決めたことで、後からいろいろ思ったけど、父はすっかりしょげ返っている。

 「いいのか?またフランツの時みたいに、後悔するのではないか?」

 「大丈夫です。わたくしももう18歳、10歳の頃と同じではありませんわ。」

 チェインバルーン王家は、クリスティーヌの気が変わらないうちに、婚約式をさっさと済ませる。

 そして、クリスティーヌには、妃教育が待っていたのだが、前々世、前々前々世で妃教育を終了しているから、1週間で難なくクリアする。

 ウエディングドレスの仕立てが急ピッチで行われる。

 ドレスが出来上がり、世界各国に招待状が出される。結婚式は大聖堂で行われるのである。

 クリスティーヌは、藤堂潤・加奈子夫妻にも招待状を出す。時空間通路は、まだつながったままにしているから、行き来ができる。はず。

 そして、もう一人の親友、シャーロット・ブラウン公爵令嬢にも、こちらは異空間通路があるから、すでに出席の返事が来ている。

 結婚式当日、その日は朝からよく晴れ渡っている。まるで天までもが、二人の門出を祝福しているかのように。

 控室で「俺は、運だけはいいのだ。顔は悪いが、あはは。」

 リチャード様がクリスティーヌを笑わせてくださっているかと思うと、急に真面目な顔をして、

 「俺は、浮気は絶対にしない。クリスを悲しませるようなことは、絶対にしないから。」

 誓いのキスをしてくださいました。
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