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20 過去2

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 クリスティーヌは、それから何度かベルサイユ国王陛下を伴い、過去の日本の病院へ訪れる。術後の消毒や検査のためである。

 そして、その都度、加奈子さんのお部屋に行き、いろいろなことを二人で話し合う。なんといっても5度目の人生だと思っていたら、6度目の人生だったとは?

 そしてベルサイユ国王の治療費として、山盛りの金貨を出したときは、驚かれたけど大変喜ばれる。 

 それである時、前の旦那さんとヨリを戻そうかどうしようかを相談されることになったのである。まだ提出していない離婚届の存在が頭の中を駆け巡る。

 「加奈子さんの1年後に行ってみますか?」

 「え?いいの?そんなことして、歴史が変わらない?」

 「わたくしがここにきていることが既に、歴史が変わっているということです。それにわたくし、聖女様でもなければ、神様でもありませんから、誰かから文句をつけられる筋合いもございません。」

 「それもそうね。わかったわ。自分の目で確かめてみる。」

 二人して、加奈子さんの一年後の未来へ飛ぶ。













 戻ってきてからは、二人ともため息しか出ない。

 「私、笹崎麗華に殺される運命だなんて……。それに前の旦那の子供を身ごもっていて、出産することになるのね。」

 クリスティーヌは、別のことで、ため息をついている。

 それは、加奈子さんの前の旦那さんが、フェルゼンにそっくりだったということ。フェルゼン好きは、この頃からの因縁だったとは、思いもしなかったのである。

 「未来は回避できるわ。」

 ちなみに、その後のフェルゼン似の元旦那様がどうなったのかも、見に行こう。偶像?幻影だけをその場に残し、見に行った。まぁ、時間にすれば、2~3秒のことだから、幻影を置いておかなくてもよいとは思うのだけどね。

 元旦那様は、1年後医療器械の営業マンとして、就職されていたが、元医者ということで、やたら女にモテ、女性問題を次々起こし、会社が長続きしない。

 その後、ある化粧品会社の研究員になられ、CM女優と再婚され、女優のヒモのような生活を送られる。見事、開業医になられるが、女優が浮気して捨てられ、借金だけが山のように残り、ご自分の生命保険で完済するしか方法がない。

 その時になって、はじめて藤堂加奈子さんとの生活を懐かしみ、あの頃は幸せだったと後悔して、人生の幕を閉じる。

 ふーん。なるほどね。

 転んでもただでは起きないクリスティーヌは、元旦那様の人生を見に行ったついでに、とんでもない有望株を見つけたのである。

 「やっぱ、妊娠するのだったら、離婚届の提出を見送ろうかしらね。生まれてくる子供が婚外子になれば、子供がいらぬ不利益を被ることになる。子供が生まれてから、離婚届を出せばいいよね?」

 「はい、それでいいと思います。それよりも、とんでもない有望株を見つけてしまいましたから、今から青田買いしましょう。」

 「え?さっき、1年後を見に行っただけでわかるの?」

 「えへ。実は、元旦那様の生涯を見に行ったのです。勝手に見ちゃってごめんなさい。その時に、見つけちゃいました。」

 有望株とは、東京大学医学部の6年生で、そのまま大学院生に進まれる苦学生なのだが、どんな病気でもたちどころに治してしまう薬を将来開発することがわかったのである。そして、その功績を認められ、トーベル賞を受賞する。

 そうなれば、世界の藤堂の名前が響き渡るという寸法である。

 「へぇ!すごい!そんな学生をどうやって、婿殿に?私、ブスだから無理っぽいは。」

 「大丈夫、スポンサーになると言えば、必ず乗ってくる。だって、将来製薬会社と揉めて、裁判を起こされるぐらいだから。」

 それからは、藤堂の名前をフルに活用し、その学生とコンタクトを持つことに成功する。

 その学生の名前は、中里潤。ナカジュンである。

 藤堂の財力に目が眩んだナカジュンは、自分から積極的にアプローチしてきた。6歳も年上のバツイチブス女でも、研究には、莫大な金がかかるから非常に魅力的な女性に見える。

 「もし、結婚しても研究は続けてかまわないから。そのかわり、名前だけ、院長に就任してね。やっぱり、男の人が院長をしないと箔がつかないのよ。どうしても女医は下に見られるからね。」

 その頃、前の旦那との子供を妊娠していたから、いくら若い彼氏とヤっても、子供はできない。若い彼氏は、好きな研究を思い存分でき、金の苦労をせず、女を抱ける。今はまだ内縁関係だが、博士を修了するころには、正式に夫になれる。

 そうなれば、名実ともに藤堂潤の誕生。

 まさに棚から牡丹餅、加奈子の元旦那さんに感謝の言葉しかない。

 女性の平均寿命のほうが長いから、6歳年上でも気にならない。それに案外、加奈子のカラダはイイのだ。名器というやつかどうかは、経験不足でわからないが、今までしたどのオンナよりも断然イイ!

 こんな女が居ながら、性悪バカ看護婦と浮気するなど考えられない。もっとも、俺には研究があるから、浮気などしている時間がない。加奈子以外の女を抱きたいとも思わないから、俺たちは相性抜群のカップルだと思う。

 そんなころ、加奈子の妊娠が判明する。俺は籍を入れることを強く望んだが、加奈子は、

 「違うの。この子は、前の旦那の子供かもしれないから、前の旦那の籍を抜くまで待っててほしいの。それに再婚禁止期間もあるから、そりゃあ、ナカジュンの子供だったら、嬉しいけど、ハッキリするまでは、入籍は待ってほしい。お願い。」

 「わかったよ。その子が誰の子でも、俺はその子を愛し育てる。愛している加奈子。」

 そっと加奈子の唇を奪う。その頃、本気で加奈子を愛していることに気づく。最初は、金目当てだったが、今では、加奈子のことが愛おしくてたまらない。

 そんな加奈子が約10か月後、死んでしまうなんて!そんな……。

 ある時、加奈子の部屋で誰かと喋っている声を聞いてしまった。声の主はわからないが、若い女のようだ。

 「笹崎麗華が私を殺そうとしているのに、どうやって逃れられるの?」

 「……まだ、……ただ、マンホールに細工……。」

 「そんなことで、本当に死ぬことを止められるの?下水管の中を流されて海までたどり着くのかしらね?」

 それにササザキレイカって誰だ?

 俺はいたたまれなくなり、ノックもせずに加奈子の部屋に飛び込んだ。そこには誰もいなかった。

 「え?確かに、話し声が聞こえたと思ったんだが……愛している加奈子、だから死なないでくれ。」

 俺は泣きべそをかきながら、加奈子に跪き懇願してしまった。

 「いいわよ。出てきても。」

 その後は、お決まりのいつものイチャイチャに、クリスティーヌは呆れ、さっさと時空間通路を抜け、帰って行く。子供には、目の毒だけだからね。

 俺はすっかり満足した加奈子の寝顔を見ながら、さっきの話の内容を思い出していた。どうやら加奈子は、あと10か月後に、ササザキレイカの手にかかり、マンホールにつき落とされ、下水管に流されてしまうような口ぶりだったのだ。

 どうしてそんなことがわかるのか?ササザキレイカによる殺害計画書でも見たのか?

 そもそも俺と加奈子の出会いも不自然と言えば、不自然なもので、教授に呼ばれ行ってみると、そこに加奈子がいたのだ。

 加奈子が藤堂病院の跡取り娘であることは、医学生なら誰でも知っている常識だから、俺はそんな女性から声がかかり、舞い上がったのだ。それからは、なんとしても加奈子をモノにしたくて、すぐに押し倒したのだが、加奈子は抵抗せず、俺を受け入れてくれた。嬉しかった。俺にもやっとチャンスが巡ってきたと思ったよ。

 とんとん拍子で話が進み、俺は藤堂家の婿養子となることが決まったのだが、まだ学生だからとなかなか籍を入れてもらえない。だから俺は毎日、欠かさずやりまくった。加奈子を誰かほかの男に盗られたくないという気持ちとスポンサー契約がおじゃんにならないかを心配して、加奈子のカラダと気持ちを繋ぎとめたかった。それでようやく加奈子が妊娠したというのに、これでやっと俺だけの女になってくれると信じていたのに、前の夫の子供かもしれないから、という理由で籍に入れてもらえなかったのだ。

 それに今度の殺害予想事件?俺の明るい未来に暗雲が立ち込めるような話ではないか?

 なんとしても、真相を突き止めねばなるまい。

 でも真相は意外と早くに来た。加奈子がすべてを話してくれたから。たぶん、俺は加奈子の信頼を勝ち得たのだろう。

 内容は、とても信じられるような話ではなかったが、それでも俺はすべてを信じることにしたのだ。俺との出会いの10日前に、まさかそんなことが起ころうとは……でも、そのおかげで俺は加奈子に出会えたのだから、むしろ感謝すべきことかもしれない。

 「今度、クリスティーヌちゃんが来たら、ちゃんと紹介してあげるから。一応、こっちからも行けるみたいなんだけど、向こうにも都合ってものがあるでしょ?10歳で婚約したんだって、その婚約者と理解を深めるために一週間に一度は必ずお茶会をして、近況を報告し合うそうよ。」

 「一週間に一度なら、大して報告できる内容がないのでは?」

 「だから、異世界なのよ。恋することに内容なんて、どうでもいいのではないかしらね。」

 「ああ、なんとなくわかる。俺が加奈子に対する気持ちと同じだ。ただ会えるだけで嬉しい。ただ側にいられるだけで幸せ、ってことだな。」

 「いやだわナカジュン、恥ずかしいわ。」

 「好きだよ、愛している。」

 また、ちゅっちゅが始まる。でも、今はキスだけで終わる。だってこれから、クリスティーヌちゃんが来る予定だから、イチャイチャしていると帰ってしまうから、自重しなきゃね。

 クローゼットの中から、クリスティーヌちゃんが来る。



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