上 下
16 / 26

16 婚約破棄

しおりを挟む
 アントワネット大使の次の赴任先は、ワルシャルのさらに北側の隣国モンマルトルと決まったのである。

 アントワネット公爵は、いったんサンドラへ戻らず、そのまま北上して、モンマルトルを目指すことになった。

 そこで、クリスティーヌの出番というわけ。

 異空間の中に何でも放り込み、サンドラとの通路をふさぐ。引っ越しだけだから、今回はメアリーとマークはお留守番してもらっている。

 クリスティーヌが引っ越し準備をしていると、ワルシャルでは、焦った王家がシャーロットちゃんとの婚約を破棄してしまう事件が起こる。

 「公爵令嬢シャーロット・ブラウン、貴様との婚約は今をもって破棄し、公爵令嬢クリスティーヌ・アントワネットに婚約を申し込むものとする。」

 インディ・ワルシャル第1王子様から、高らかに宣言されてしまったのである。

 シャーロットちゃんもなんとなくわかっていたようで、

 「どうぞ、御勝手になされませ。今日から妃教育に行かなくてもよいのなら、せいせいいたしますわ。わたくし、自立した女性ですので、これからは自由に好きに行かせていただきますわ。」

 おそらくシャーロットちゃんもクリスティーヌとお友達になっていなければ、10歳の子供が言えるようなセリフではない。

 クリスティーヌの影響が大きいのである。

 この婚約破棄騒動に大激怒したのが、母親の王妃殿下、すぐさま夫で父親である国王陛下に進言して、インディ第1王子様の王位継承権を失わせてしまったのです。

 「自立した女性と婚約破棄するなど、インディはいつからそんな不遜なつまらない男になってしまわれたのでしょう。そのような者、王位に就く資格などございませんことよ。」

 聖女様かもしれないクリスティーヌを欲したばかりに、婚約者と王位をいっぺんに失ってしまう。もう、インディは大人になっても、結婚相手すら保証されない。

 「ごめんなさい。婚約破棄の破棄をしたいです。シャーロット嬢を傷つけたことは謝ります。ですから、……。」

 婚約破棄の破棄には、ならなかった。いくら子供だといえ、10歳にもなって、将来の王妃を蔑ろにするなど、とんでもない話なのである。

 引っ越し前に、ブラウン公爵一家が来られ、急遽、婚約破棄パーティをすることになってのである。

 がらんとした大使公邸に、サンドラ公爵邸から、様々なサンドラ名物料理が運び込まれ、ささやかなパーティが開かれる。

 「政略での婚約なのに、身分の高い男は自分のご都合で婚約破棄されてしまう。妻もそれで苦しんだ一人。だが、クリスティーヌ嬢のおかげで、妻も娘も救われた。心から感謝する。」

 ブラウン公爵が挨拶され、クリスティーヌに跪く。

 「やめてくださいませ。大人の男の人にそんなことされるいわれは、ございませんわ。」

 「そうですよ。サンドラの家には、たまたまウチのじいさんが魔法師団長をしていた関係で魔法の蔵書がたくさんあったものです。それを幼い時から、クリスティーヌが読んだもので、別に大したことではありません。基礎的な魔法ができるだけで、勝手に聖女様と勘違いされても困ります。」

 「でもそのおかげでシャーロットは助かりましたのよ。だからこれからは、家族ぐるみでお付き合いを継続させていただきたく、今日はこちらにお邪魔いたしましたの。」

 「まぁ!エリザベス様とお近づきになれたことは、大変うれしく存じます。クリスティーヌのおかげと言えば、おかげですわね。どう?いつでも行き来できるように、クリスあれできない?」

 「え?お母様まさか?あれを?」

 「ええ、ダメかしらね?いちいちモンマルトルやサンドラまで、お越しいただくの大変でしょう?」

 ブラウン家の人々は、首をかしげている。なんのことだか見当がつかないから。

 「はぁ、仕方ないですわね。お母様がそこまでおっしゃるのなら。ブラウン公爵様のお屋敷に使っていないお部屋かクローゼットがございますか?」

 パーティを早めにお開きにして、みんなでブラウン公爵様のお家へお邪魔することになりました。もちろん、後片付けをして、このまま出発するつもりでいます。お母様は、サンドラへお戻りにならず、一緒に馬車に乗られます。

 メアリーとマークが乗っていない分だけ、馬車は空いている。

 どこの公爵邸でも造はだいたいに通っているのだと、改めて感心するクリスティーヌ。

 二階の一番奥の部屋がやはり空き部屋になっていたので、鍵を開けてもらって、入る。

 使われていないクローゼットを開けると中は、空っぽだったので、ここに異空間通路を作ることにしたのである。ただし、行き先は、限定する。誰でも彼でも、入って来れられるのは困るから、指紋認証にしようか?それとも網膜認証にしようか?まだ、何も決めていないので、先に呼び鈴を取り付けることにしたのである。誰かが異空間を通ってやってきたとき、呼び鈴を双方に鳴らすように仕掛ける。

 空き部屋の鍵は、主人夫婦が持つようにして、不特定多数の者が出入りできないようにする。

 こうしてブラウン邸にも、異空間を作りその中で転移魔法を使いサンドラのアントワネット帝とつなげてみた。

 サンドラ邸では、誰もいない部屋から呼び鈴が聞こえたので、まだ説明していなかったことを思い出す。

 先に、クリスティーヌが通り、その後をシャーロットちゃんとエリザベス様、そしてヴィクトリアとアントワネット公爵、最後にブラウン公爵の順で通る。

 「ようこそ、サンドラ国の我が家へ。」

 「お嬢様に旦那様、奥様まで、それにお客様でございましょうか?このようなむさくるしいところへようこそ、おいでくださいました。」

 執事のセバスチャンに理由を話す。

 「ほぅ、どこの国でも王子様というものは、世間知らずで我が儘なんでしょうな。それは婚約破棄おめでとう存じます。早速、婚約破棄祝賀パーティでも。はて?先ほどそのようなパーティをしたばかりでございますが……?あれは、もしやこちら様の?」

 「そうですわよ。セバスチャン何を言っているのかしらね。」

 全員で大笑いをする。

 それからは、ワルシャルのブラウン家とサンドラのアントワネット家は、家族ぐるみだけでなく、使用人同士まで仲良くお付き合いすることになりました。

 いったん、ブラウン家の玄関までお見送りいただいて、そこから隣国モンマルトルまでの道のりを出発する。

 途中、空を飛びながら行くから到着するのが早い!お父様は、さっきサンドラへ行ったついでに、ヒマつぶしになりそうな本を持ってこられた。読みながらの快適な空の旅。キャビンアテンダントはいないけど、ゆっくりされたみたいで、良かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

(完結)離婚された侯爵夫人ですが、一体悪かったのは誰なんでしょう?

江戸川ばた散歩
恋愛
セブンス侯爵夫人マゼンタは夫から離婚を哀願され、そのまま別居となる。 どうしてこうなってしまったのだろうか。彼女は自分の過去を振り返り、そこに至った経緯を思う。 没落貴族として家庭教師だった過去、義理の家族の暖かさ、そして義妹の可愛らしすぎる双子の子供に自分を見失ってしまう中で、何が悪かったのか別邸で考えることとなる。 視点を他のキャラから見たものも続きます。

「距離を置こう」と言われた氷鉄令嬢は、本当は溺愛されている

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...