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1婚約破棄
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今日は、サンドラ国立学園の卒業記念祝賀パーティがサンドラ王城の大ホールで行われる。卒業生の女性ほとんどがウエディングドレスで参加している。この卒業パーティが済めば、その足でパーティ会場の奥のチャペルに移動して、そこで挙式するからである。
クリスティーヌ・アントワネットもそのうちの一人であったのだが、婚約者であるチャールズ王太子殿下から、エスコートされないで、会場入りした。寂しそうな横顔が、絶世の美女とうたわれる彼女の美貌をより一層引き立てている。
貴族令息の中には、ある噂があり、チャールズ王太子殿下は、男爵令嬢と浮気していて、クリスティーヌ嬢を蔑ろにしている。もし、今宵、チャールズがクリスティーヌと婚約破棄するようなことがあれば、すぐさま自分がクリスティーヌにプロポーズしようと目論んでいる者が相当数いる。
当然、結婚式が行われるので、それぞれの父兄並びに司祭様、国王陛下、王国の重鎮も参加している。
そして、学園長が祝辞を述べ、乾杯の音頭が始まりそれぞれが歓談タイムに入った頃を見計らい、チャールズ王太子殿下が男爵令嬢を伴い、クリスティーヌの元へ。
「公爵令嬢クリスティーヌ・アントワネット、貴様との婚約は、今をもって破棄させてもらうこととする。」
貴族令息の中には、小声で「待ってました。」と不謹慎につぶやく者がいる。
「やはり殿下は、噂通り、そちらの令嬢と浮気なさっておいでで、わたくしのことが邪魔になられたのでしょう。畏まりました。婚約破棄の儀、確かに承りましてございます。」
「うむ。今までの長きに渡る妃教育大儀であった。」
「ご紹介いただけませんこと?殿下が愛してやまない令嬢を。」
「男爵令嬢のリリアーヌだ。ほら、リリアーヌ、挨拶せぬか?」
リリアーヌは、黙って突っ立っている。挨拶もロクにできない男爵令嬢か、でも仕方がない。この令嬢に託すしかないのだから。
「リリアーヌ男爵令嬢様、チャールズ殿下のこと、くれぐれもよろしくお願いいたしますわね。殿下、今まで楽しい夢を見させていただき、ありがとうございました。」
そういうなり、隠し持っていた短剣で心臓を一突きして、その場で果てた。真っ白なウエディングドレスがみるみる真っ赤な鮮血で染まっていく。
死に顔が、また美しい。
対して、男爵令嬢リリアーヌは、青ざめ震えている。
悲鳴と怒号、場内は騒然となる中、プロポーズするタイミングを今や遅しと待ち構えていた貴族令息も、チャールズ殿下も茫然としている。
国王陛下の傍で仕えていたクリスティーヌの父アントワネット公爵も、慌てて娘の亡骸に駆け寄り呆然とするも、
「娘は13年間の妃教育につき、泣き言一つ言わずに頑張ってまいりました。娘なりに今日の予感があったのでしょう。晴れの卒業パーティを娘の血で汚してしまい、申し訳ございません。葬儀は、こちらでいたします。今日のところはこれにて、ごめん仕ります。」
アントワネット公爵は、クリスティーヌの遺体をそっと抱いて、その場を後にしたのである。
パーティ後の結婚式はお流れとなる。皆、クリスティーヌの死を悼み、憐れんで喪に服すためである。
その中でただ一組、仮祝言を上げたカップルがいた。それはチャールズ王太子と男爵令嬢リリアーヌである。本来なら、妃教育を済ませないと王籍には入れられないのであるが、リリアーヌが妊娠していたため、お腹が目立っては、世界各国に世間体が悪い、子供を産んでからでも、改めて正式な結婚式をすることになったのである。
さすがにその日のうちの挙式に難色を示したのは、司祭様と国王陛下、それを押し切ったチャールズの言い草は、
「クリスティーヌがリリアーヌに、『くれぐれもよろしく』と言ったではないか!クリスティーヌが認めてくれたから、今宵挙式することに決めたのだ。」
結局、仮祝言でならというところに収まる。
「私は嫌です、今夜、式を挙げるとクリスティーヌ様が化けて出られるような気がしてコワイ。」
「何を言っているんだ?クリスは、祝福してくれたんだから心配いらないよ。」
最初から陛下も司祭様も仮祝言のつもりだったから、滞りなく式は済む。
大ホールの大理石は、クリスティーヌの血痕が付着して、拭いても洗い流しても、赤い色は取れなかったらしい。それを気味悪がった女官は、次々と辞めていく。
結婚式が終わった夜(クリスティーヌが自害した夜)から、異変は次々起こる。誰もいない部屋で物音がする。女性の泣き声がする。急にランプの灯が消える。鏡に人影が映りこんでいる。
連日、連夜の怪奇現象から、ついにリリアーヌがおかしくなる。
「クリスティーヌよ。『何がよろしく頼みます。』ってんだ。あの女が嫉妬に狂って、化けて出ているのよ。そうに、決まっているわ。」
「やめないか!クリスが化けて出るのなら俺のところだろ!」
「まだクリスティーヌのことを愛称で呼んでいるなんて、チャールズやっぱり、あの女と結婚したほうが良かったって思っているんでしょう。男爵令嬢なんかに誑かされて、後悔しているんでしょう?」
「俺を誑かしたのか?」
「そうよ、アンタなんか王太子じゃなければ、つまらないクズ男だもの。クリスティーヌはせいせいしたんだと思うわ。キャハハ。」
リリアーヌは、その日のうちに貴族牢へ入れられた。時は流れ、臨月を迎えても、まだ貴族牢から出してもらえなかった。
チャールズは、リリアーヌから言われたことが図星で
「なぜ、リリアーヌと結婚してしまったのだろうか?クリスみたいな絶世の美女を婚約者に持っておきながら、ほんの浮気心がこんな結果を招くとは……。ああ、クリス……。俺をおいて一人で逝くなんて、ひどいよ。」
思えば、チャールズが5歳の誕生日を迎えた日に、クリスティーヌと出会ったのだ。お妃選定会が行われ、その年に5歳になる女の子を一堂に集めて、行われる。
クリスティーヌのあまりの美幼女ぶりに、完全にノックアウトしてしまい、あの娘以外は絶対イヤだ。と駄々を捏ねて、婚約者にしてもらったのだ。
クリスティーヌは、世に言う絶世の美女であるにもかかわらず、決して自分の美貌を鼻にかけることはなかった。常に謙虚で前向きで、よほどアントワネット家での躾が良かったのであろう。
以来、13年間、出会うたびにどんどん美しくなっていく婚約者に、時には羨ましく思い嫉妬し、時には誇らしく自慢して、また時には自分の姿と見比べ委縮して……、そんな時にリリアーヌと出会ってしまった。リリアーヌは俺の自尊心をくすぐるようなことばかりを言ってくれて、いっぺんに俺はのぼせ上ってしまったのだ。
リリアーヌは、貴族牢の中で女児を出産したのだが、誰にも似ていない。強いて言えば、クリスティーヌによく似た感じの綺麗な顔。
女児を出産してからのリリアーヌは、落ち着きを取り戻したので、貴族牢から出される。マリッジブルー?マタニティブルー?で、一時期気がおかしくなったということで片づけられた。
しかし、ここから13年間の地獄が待っていようとは、リリアーヌ自身想像していないことであったのだ。
貴族牢から妃教育室へ移され、24時間監視のもと、お妃になるための教育が施される。ナイフとフォークの使い方から、姿勢、カーテシーの仕方、ダンスにマナー、外国語、世界各国の政治経済問題の追及、行事の挨拶原稿を丸暗記することなどなど数えきれないぐらいに覚えなければいけない。
少しでも間違えれば、容赦ないムチが飛んでくる。
逃げ出すことも考えたが、妃教育室は窓もなく、扉は1つしかなく、常に警護の騎士が見張っているのである。
なんでも逃げ出すようなことがあれば、殺しても構わないという命令が出ているらしい。
トイレに行くときも、お風呂に入っているときも常に何人もの女性騎士が見張っている。
産んだ子供は、乳母に取り上げられ顔を時々、見せてくれるだけで抱かせてももらえない。
チャールズとの寝室も別々で、リリアーヌは、仮祝言以来、一度もチャールズに抱かれていないのである。最初は、お腹の子供に障るから、次は気鬱になりクリスティーヌの亡霊に悩まされたことで、別の寝室になり、次はチャールズと喧嘩して貴族牢に入れられたからである。
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貴族令息の中には、ある噂があり、チャールズ王太子殿下は、男爵令嬢と浮気していて、クリスティーヌ嬢を蔑ろにしている。もし、今宵、チャールズがクリスティーヌと婚約破棄するようなことがあれば、すぐさま自分がクリスティーヌにプロポーズしようと目論んでいる者が相当数いる。
当然、結婚式が行われるので、それぞれの父兄並びに司祭様、国王陛下、王国の重鎮も参加している。
そして、学園長が祝辞を述べ、乾杯の音頭が始まりそれぞれが歓談タイムに入った頃を見計らい、チャールズ王太子殿下が男爵令嬢を伴い、クリスティーヌの元へ。
「公爵令嬢クリスティーヌ・アントワネット、貴様との婚約は、今をもって破棄させてもらうこととする。」
貴族令息の中には、小声で「待ってました。」と不謹慎につぶやく者がいる。
「やはり殿下は、噂通り、そちらの令嬢と浮気なさっておいでで、わたくしのことが邪魔になられたのでしょう。畏まりました。婚約破棄の儀、確かに承りましてございます。」
「うむ。今までの長きに渡る妃教育大儀であった。」
「ご紹介いただけませんこと?殿下が愛してやまない令嬢を。」
「男爵令嬢のリリアーヌだ。ほら、リリアーヌ、挨拶せぬか?」
リリアーヌは、黙って突っ立っている。挨拶もロクにできない男爵令嬢か、でも仕方がない。この令嬢に託すしかないのだから。
「リリアーヌ男爵令嬢様、チャールズ殿下のこと、くれぐれもよろしくお願いいたしますわね。殿下、今まで楽しい夢を見させていただき、ありがとうございました。」
そういうなり、隠し持っていた短剣で心臓を一突きして、その場で果てた。真っ白なウエディングドレスがみるみる真っ赤な鮮血で染まっていく。
死に顔が、また美しい。
対して、男爵令嬢リリアーヌは、青ざめ震えている。
悲鳴と怒号、場内は騒然となる中、プロポーズするタイミングを今や遅しと待ち構えていた貴族令息も、チャールズ殿下も茫然としている。
国王陛下の傍で仕えていたクリスティーヌの父アントワネット公爵も、慌てて娘の亡骸に駆け寄り呆然とするも、
「娘は13年間の妃教育につき、泣き言一つ言わずに頑張ってまいりました。娘なりに今日の予感があったのでしょう。晴れの卒業パーティを娘の血で汚してしまい、申し訳ございません。葬儀は、こちらでいたします。今日のところはこれにて、ごめん仕ります。」
アントワネット公爵は、クリスティーヌの遺体をそっと抱いて、その場を後にしたのである。
パーティ後の結婚式はお流れとなる。皆、クリスティーヌの死を悼み、憐れんで喪に服すためである。
その中でただ一組、仮祝言を上げたカップルがいた。それはチャールズ王太子と男爵令嬢リリアーヌである。本来なら、妃教育を済ませないと王籍には入れられないのであるが、リリアーヌが妊娠していたため、お腹が目立っては、世界各国に世間体が悪い、子供を産んでからでも、改めて正式な結婚式をすることになったのである。
さすがにその日のうちの挙式に難色を示したのは、司祭様と国王陛下、それを押し切ったチャールズの言い草は、
「クリスティーヌがリリアーヌに、『くれぐれもよろしく』と言ったではないか!クリスティーヌが認めてくれたから、今宵挙式することに決めたのだ。」
結局、仮祝言でならというところに収まる。
「私は嫌です、今夜、式を挙げるとクリスティーヌ様が化けて出られるような気がしてコワイ。」
「何を言っているんだ?クリスは、祝福してくれたんだから心配いらないよ。」
最初から陛下も司祭様も仮祝言のつもりだったから、滞りなく式は済む。
大ホールの大理石は、クリスティーヌの血痕が付着して、拭いても洗い流しても、赤い色は取れなかったらしい。それを気味悪がった女官は、次々と辞めていく。
結婚式が終わった夜(クリスティーヌが自害した夜)から、異変は次々起こる。誰もいない部屋で物音がする。女性の泣き声がする。急にランプの灯が消える。鏡に人影が映りこんでいる。
連日、連夜の怪奇現象から、ついにリリアーヌがおかしくなる。
「クリスティーヌよ。『何がよろしく頼みます。』ってんだ。あの女が嫉妬に狂って、化けて出ているのよ。そうに、決まっているわ。」
「やめないか!クリスが化けて出るのなら俺のところだろ!」
「まだクリスティーヌのことを愛称で呼んでいるなんて、チャールズやっぱり、あの女と結婚したほうが良かったって思っているんでしょう。男爵令嬢なんかに誑かされて、後悔しているんでしょう?」
「俺を誑かしたのか?」
「そうよ、アンタなんか王太子じゃなければ、つまらないクズ男だもの。クリスティーヌはせいせいしたんだと思うわ。キャハハ。」
リリアーヌは、その日のうちに貴族牢へ入れられた。時は流れ、臨月を迎えても、まだ貴族牢から出してもらえなかった。
チャールズは、リリアーヌから言われたことが図星で
「なぜ、リリアーヌと結婚してしまったのだろうか?クリスみたいな絶世の美女を婚約者に持っておきながら、ほんの浮気心がこんな結果を招くとは……。ああ、クリス……。俺をおいて一人で逝くなんて、ひどいよ。」
思えば、チャールズが5歳の誕生日を迎えた日に、クリスティーヌと出会ったのだ。お妃選定会が行われ、その年に5歳になる女の子を一堂に集めて、行われる。
クリスティーヌのあまりの美幼女ぶりに、完全にノックアウトしてしまい、あの娘以外は絶対イヤだ。と駄々を捏ねて、婚約者にしてもらったのだ。
クリスティーヌは、世に言う絶世の美女であるにもかかわらず、決して自分の美貌を鼻にかけることはなかった。常に謙虚で前向きで、よほどアントワネット家での躾が良かったのであろう。
以来、13年間、出会うたびにどんどん美しくなっていく婚約者に、時には羨ましく思い嫉妬し、時には誇らしく自慢して、また時には自分の姿と見比べ委縮して……、そんな時にリリアーヌと出会ってしまった。リリアーヌは俺の自尊心をくすぐるようなことばかりを言ってくれて、いっぺんに俺はのぼせ上ってしまったのだ。
リリアーヌは、貴族牢の中で女児を出産したのだが、誰にも似ていない。強いて言えば、クリスティーヌによく似た感じの綺麗な顔。
女児を出産してからのリリアーヌは、落ち着きを取り戻したので、貴族牢から出される。マリッジブルー?マタニティブルー?で、一時期気がおかしくなったということで片づけられた。
しかし、ここから13年間の地獄が待っていようとは、リリアーヌ自身想像していないことであったのだ。
貴族牢から妃教育室へ移され、24時間監視のもと、お妃になるための教育が施される。ナイフとフォークの使い方から、姿勢、カーテシーの仕方、ダンスにマナー、外国語、世界各国の政治経済問題の追及、行事の挨拶原稿を丸暗記することなどなど数えきれないぐらいに覚えなければいけない。
少しでも間違えれば、容赦ないムチが飛んでくる。
逃げ出すことも考えたが、妃教育室は窓もなく、扉は1つしかなく、常に警護の騎士が見張っているのである。
なんでも逃げ出すようなことがあれば、殺しても構わないという命令が出ているらしい。
トイレに行くときも、お風呂に入っているときも常に何人もの女性騎士が見張っている。
産んだ子供は、乳母に取り上げられ顔を時々、見せてくれるだけで抱かせてももらえない。
チャールズとの寝室も別々で、リリアーヌは、仮祝言以来、一度もチャールズに抱かれていないのである。最初は、お腹の子供に障るから、次は気鬱になりクリスティーヌの亡霊に悩まされたことで、別の寝室になり、次はチャールズと喧嘩して貴族牢に入れられたからである。
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