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10 ハンバーグ

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 あれからディヴィッド様の件は、うんともすんとも言われず、ミルフィーユも触れられたくない話題なので知らんぷりしている。

 相変わらず、ディヴィッド様は、昼頃来られて、コーヒーと何か甘いものを食べて帰られるだけで、愛の言葉の一言もない。

 さて、「本日の料理」は、ハンバーグ定食です。濃いデミグラスソースと一緒に食べるのは、ご飯がいいです。やっぱり!異世界の主食はパンですが、前世ニッポン人のミルフィーユは、ご飯に味噌汁がないと落ち着かない。

 では、ハンバーグの作り方ですね。

 まずは、玉ねぎをみじん切りにして、レンジで5分ぐらいチンする。
 フライパンであめ色になるまで炒めてもいいですよ。

 卵、合いびき肉、炒めた玉ねぎ、塩コショウ、サトウ(入れる人もいるお好みで)パン粉、少量の牛乳を粘りが出るまで素早く混ぜる?捏ねる?

 叩きながら空気を抜き楕円形になるように形を整える。真ん中は、へこませておく。

 フライパンで両面焦げ目がつくまで焼き、少量の水を加え、ふたをする。

 竹串で、ハンバーグを突き刺し、煮汁?焼き汁?が透明であれば、ふたを外して水分を飛ばし、ハンバーグを取り出す。

 空いたフライパンに赤ワイン、ケチャップ、ウスターソースなどお好みのソースかお醤油を入れ、ハンバーグに掛ければ完成です。

 前世の我が子が好きだったのよね。でも、旦那も好きだったように思える。有名な料理屋の跡取り息子だった旦那は、小さい時から、仕出しの残り物しか食べさせてもらえないらしく、こういう家庭料理の味に飢えていたのである。

 そうだ。初めて、手料理をごちそうしたとき、感激して泣いてたっけ。だんだんうすらぼんやりだが、前世の旦那の顔が見えてくるようになってきた。

 会いたいな。

 ディヴィッド様との縁談が来てから、やたら前世の夫のことが思い出される。無意識に比べているのだ。だから、その結果、ディヴィッド様とのことは論外としか言えない。

 そんな中、待望のアントン様がお越しになりました。
 今まで沈んでいたミルフィーユの顔がパアっと明るくなって、たとえ、身分は違っていても好きになる自由はある。

 「これは、ジャマルダ国王陛下、ようこそおいでくださいました。」

 「やめてくれよ。その呼び方、ここへはお忍びで来ているのだからさ。久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 「ええ、なんとか。」

 嘘である。アントン様に逢いたくて、会いたくて。でも、そうは言えない。身分が違い過ぎるから。

 「今日は真面目な話をしに来たんだ。ちょっといいかい?」

 ミルフィーユは2階の個室に案内した。「コーヒーでいいですわね」
 コーヒーを差し出しながら、席に着く。

 「実は、ディヴィッドのことなのだが、婚約話が出ているね?」

 ああ、ディヴィッドは、ミルフィーユとのことがうまくいかないから、アントン様に頼んだのか?

 「はい。でも、お断りしました。」

 「え?婚約するんじゃなかったの?聞いていた話と違うな。」

 ミルフィーユは好きな男性の前でポロポロと涙を流す。

 「ど、どうしたの?何か悪いこと言った?」

 「わたくしは、身分違いのご無礼を申し上げますが、アントン様のことを愛しています。アントン様がジャマルダ国王陛下だと知り、恋心を諦めました。ですから、もうここへは来ないでください。あなた様の顔を見ると辛くなります。さようなら。」

 そう言って、部屋から出て行こうとするミルフィーユに

 「ま、待ってくれ。今日はそのことで話があったのだが、思いがけずにミルフィーユ嬢の気持ちが聞けて嬉しく思う。愛している。私と結婚してほしい。」

 「え?でも、身分が?」

 「身分なんて、どうでもいい。ミルフィーユ嬢に側にいてほしいのだ。そしてミルフィーユ嬢の作る料理を腹一杯食べたいのだ。だめだろうか?」

 「本当に?本当にわたくしでよろしいのでしょうか?」

 「もちろんだ。愛しているミルフィーユ。」

 「わたくしも愛していますアントン様。」

 二人は抱き合い、キスを交わした。

 「良かったぁ。ディヴィッドに取られるかと思って、慌ててきたんだ。君を誰にも渡したくない。」

 また、ぎゅっと力強く抱きしめてくださる。

 もう、ミルフィーユは嬉しくて、また泣いてしまう。

 「今夜は、ハンバーグなんです。良かったら食べて行ってください。」

 「食後でいいから、出来たら君も欲しいな。」

 真っ赤になって頷くミルフィーユ。その日、二人はマドレーヌ亭に泊る。
 こうして、二人は既成事実を作って、結婚することになったのである。
 ジャマルダ国に店の荷物の一切合切を送り、王妃の仕事をしながらレストランを続けるつもりでいます。

 王妃として、覚える仕事はいっぱいあるが、アントン様ができる限りサポートして、料理屋を続けることを応援してくださいます。

 王子様の胃袋を掴むつもりが、国王陛下の胃袋を掴んじゃった。人生って、わからないものね。
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