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 セバスチャンは仕事が早い、滞在許可どころか永住権まで取ってきたのである。それに国王陛下からの伝言も。

 「ごゆるりと滞在されよ。」

 いいんじゃない?レイクビワー国の主は、太っ腹なようだ。

 湖の周りに次々と住居を出していき、最後に公爵邸を2軒出す。ここに永住するなら、なおのこと、住居は必要になる。一般国民の住居は?王都に置いたままにしてあるという。ならば、取りに行こうか?

 アグネスは、一般庶民を集めて、住所を聞きだしていく。ファスリー通り1丁目を右に曲がって、3軒目で。。。。。。キリがないので、住民を一緒に連れて行くことにする。

 住民たちは、恐縮しきっているが、やはり我が家で寝泊まりできることは嬉しいようだ。

 王都から建物を根こそぎ、異空間に放り込んでいく様は、圧巻である。

 アグネス一行の周りに次々と人が集まってくる。

 「何をされているのですか?」

 「聖女様とともに、引っ越すので家をそちらに運んでもらっているのです。」

 一般国民は、得意げに説明すると、

 「どうすれば、聖女様と引っ越しができるのでしょうか?私の家も、聖女様のいらっしゃるところへ行きたいので、一緒に運んではもらえないだろうか?」

 そう言われてもね。レイクビワー国の王様は太っ腹だけど、みんなを移住させられるほどの土地があるのかしらね。

 土地ごともらっていくのは、可能だけど、それができるのは、トンプソン領だけだと思う。

 とにかく一緒にオートリアへ行った人の住居だけは、異空間に放り込み、アグネスたちは、さっさとレイクビワー国へ戻ったのだ。

 それからはしばらくの間、移民ラッシュが続く。レイクビワー国がよく受け入れてくれるなぁと感心する。

 とにかくこの国は湖からの風が通っていて、涼しい。

 いつかは海に繋がるところまで行きたいものだと思っている。人数が増えてくれば、無人島で移り住んでもいいだろう。

 ある日のこと、その湖で泳いでいる人を見たのだ。

 その人はそのまま沖のほうへ行き、帰ってこなかった。

 別に心配しているわけではないが、気になる。

 また、ある日、その人を見かけたのだ。するとこの湖で漁をしているという。この湖は淡水だけでなく海水も入り込んでいるので、さまざまな生き物・海藻が穫れるという。

 で、その若者に、無人島があるというのは、本当か?と聞くと、本当だが、近寄ってはいけないという返事。

 厳密に言うと、海の生き物が住んでいるので、その島へ上陸すると食われるらしい。セイウチやオットセイ、白熊などが住んでいるのだろうか?

 それから、度々若者は海の幸を届けに来てくれたので、無人島の話を詳しく聞いたのである。

 驚いたことに、無人島は人魚の島であったのだ。

 上陸した者が男である場合、女の人魚から、とことん弄ばれ、海の底に引きずり込まれて食われるそうだ。

 女が上陸しても、男の人魚から廃人になって孕むまで、やられ、子供を産んだ後は、やはり食い殺される運命にある。

 「なんて!恐ろしい!」

 「だから聖女様は近づいてはダメです。」

 「はい、わかりました。せっかくの聖女能力が台無しになってしまいますものね。」

 無人島は人魚の島であることを全員に伝え、決して近寄ってはダメだということの念を押す。

 レイクビワー国は、食べ物がおいしい。山の幸、海の幸と豊富だから、でも人魚のことを聞くと怖くていられない。

 また、どこかへ行こうかしら?だから最初この地へ来たとき、家が一軒も建っていなかったのだ。

 レイクビワー国の王様は太っ腹ではなく、わたくし達を人身御供にするつもりであったのだ。

 人魚への生贄として、だからいつまでも滞在されよ。と言われたのだ。美味しい話には必ず裏がある。

 アグネスは、セバスチャンを呼んで、次の国の候補国を相談する。こうなりゃ、少々物価が高くても隣国のクルシュトフにでも?

 いったんまた、トンプソン領へ立ち戻ることにしたのだ。それが一番、手っ取り早くていい。

 一般国民や領民、公爵邸の面々に事情を話すと皆納得してくれたのだが、次の行き先に困っている。

 レイクビワー国は風光明媚でいいところだったけど、人魚に食われるわけにはいかないから。

 アグネスは、セバスチャンとともに、皆を集めて、クルシュトフ行きを検討する。

 前は、確かにクルシュトフへ行商に行ったものがいたはずだったけど、どこをどう探してもいない!まさか!その若者は、人魚の島へ行ったきり帰ってこないらしい。

 でもレイクビワー国へ行くためにクルシュトフの中を通ったことがあるという人物が2人いたので、その人たちに道案内を頼み、無事、入国できたのである。

 またセバスチャンに頼み、皇帝へ滞在許可を取りに行く。今度の皇帝陛下は、聖女様と謁見を望まれたのである。

 久しぶりに立派なドレスに袖を通すアグネス、着飾ればどこの令嬢かと見まがうほどに美しい。いや、元令嬢だったのだ。今は公爵家当主になったのだが。

 王城へ家令とセバスチャンとともに行く。二人ともどこから引っ張り出してきたのか?タキシードを着ている。

 謁見の間に通される3人。久しぶりの緊張感である。

 皇帝陛下は、思ったより若く30歳代そこそこといった感じである。

 「聖女アグネス様。よくぞ参られた。そなたにこの国で公爵の地位を授けるものとする。いつまでも我が国に留まってほしい。」

 なんと領地まで拝領したのである。これで住むところがどうとか、心配しなくてもいいようになったのだ。

 隣国から流れ込んできた国民をすべて、領地に住まわせ、領地にトンプソン領から持ってきた公爵邸を一軒出す。王都には、王城近くの貴族街に立派な屋敷があったので、それを異空間に放り込み、持ってきた公爵邸を出す。こちらの方が落ち着くからである。

 これで引っ越しは完了である。これからは、クルシュトフでも扶持がもらえる。ありがたい。ただの傷心旅行なのに。もういっそのこと、こちらの国で永住しちゃう?

 クルシュトフの皇帝は、賢いのである。聖女に公爵位を与えれば、よその国に行かれず、この国で根を下ろしてくれる。隣国が何の努力もせず、繁栄できたのは、聖女様の力のおかげだということをわかっていたのである。

 聖女様がクルシュトフ国にさえ、いてくれていたら、我が国の繁栄は間違いなしであるから。

 自分はもう結婚して子供が10歳の王子とは、結婚させられない。自分の弟殿下なら、ちょうど20歳、偶然を装い、お互いがどこかで会ってくれれば幸甚である。

 それには、聖女様に公爵位を与えておけば、ちょうど都合がいいのだ。

 それからしばらくして、定刻から聖女様歓迎パーティの宴が催されることになったのは、言うまでもないこと。
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