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 ふいにアリエールの指にとまったテントウムシ君から、思いがけない情報を得られた。

 それによると、単純明快な罠が貼ってあり、それにまんまと引っかかったのが、先頭にいたエドワードとセレナーデの馬車だということ。

 トリックは簡単なことで、分かれ道に通行止めの立て看板を置き、どちらか一方の道に誘導しながら、後続の馬車には目くらましをかませ、誘導した道に草をばらまき、1本道に見せかけたということらしい。

 たいていの場合、盗賊団が絡んでいることが多く、馬車の中に女がいた場合、売り飛ばされるか、慰み者として餌食になる。男は、なぶり殺しにされると相場が決まっている。

 そうなれば救出は困難で、一刻も早く見つけ出さなければ大変なことになる。

 テントウムシ君の証言を頼りに、道の分岐点を探し出す。すぐ証言通りにわかり、もう一方の道を進むと金属音が聞こえてきた。

 お兄様と護衛の騎士がセレナーデ王女を守るべく、懸命に盗賊と刃を交え戦っている。

 そこへグレゴリーやその護衛が加勢し、一気に流れが変わる。

 アリエールは、馬車の中に飛び込み、おびえているセレナーデを念のため老婆の姿に変える。そこで異空間を広げ、先ほどまでアリエールがいた馬車の中の異空間につなげ、セレナーデとともに、元の馬車へと戻る。

 アリエールが飛び込んだのを見ていた盗賊どもは、アリエールの後を追い、すぐさま馬車の中に入るが、その時にはすでに誰も載っていないもぬけの殻だったのだ。

 「あれ?馬車を背にして、あいつら戦っていたからてっきり?」

 「でも、さっき乗り込んでいった女もいなくなっているとは?どこへ行ったのだ?」

 「なんだか、薄気味悪いな。馬車側の援軍も来たところだし、嫌な予感しかしない。」

 馬車に入り込んだ盗賊たちの話し合いが終わらないうちに、外での戦いが終わり、全員が縄に就くことになっていた。

 「武器を捨て、馬車から出ろ!」

 グレゴリーの声が響く。盗賊はビクリと肩を震わせ、恐る恐る声のする方を見ると、仁王立ちしたグレゴリーとエドワード王太子殿下の姿が……!

 え?襲った馬車は、金持ちの裕福な馬車だと思ったら、王太子殿下の馬車を襲ってしまったということに気づき、青ざめる。

 グレゴリーとエドワードは、盗賊に縄を打ち、アルキメデス侯爵家に引き渡す。

 すぐにも愛するセレナーデやアリエールの元に戻りたいが、王族という立場上、盗賊のアジトを突き止め、調査しなければならない。

 ほかに囚われているかもしれないから。

 盗賊のアジトでは、盗んだ金銀財宝のほかに、アールスハイドのキャサリン嬢が変わり果てた姿で見つかった。

 半ば放心状態で、盗賊の慰み者になっていたらしく、ほとんど失明していたようだが、その面影に見覚えがあったのだ。

 王太子殿下の婚約者になることを夢見て、身の程をわきまえない態度に眉根をしかめたこともあったが、今となれば、哀れとしか言いようがない。

 アールスハイド家に帰そうにも、そのように穢れた娘は、わが娘ではないと言い張り、引き取り手がないので、仕方なく修道院送りにすることにしたのだ。

 修道院で、身も心も正常になってから、改めて己の慢心や不始末を顧みてもらいたいという意味で。

 だが、キャサリン嬢は、カラダが元に戻るにつれ、余計に精神的に追い込まれていくようになる。

 一度は、ジークフリートの婚約者になりそこない、エドワードには見向きもされず、社交界で笑いものになり、学園は退学処分、父は辺境の地へ領地替えになり、自身は盗賊に囚われ、辱めを受けた記憶が戻ってきてからは、ふさぎ込むようになり、ついには修道院の一番高い塔の上から身を躍らせたのだ。

 考えてみれば、またキャサリン嬢も被害者と言えるのかもしれない。
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