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 王太子ジークフリート殿下とその婚約者アリエール・ルクセンブルク公爵令嬢の仲が悪いことは、社交界でも学園でも周知の事実であるにもかかわらず、誰も二人に粉をかけるようなことはしない。

 それもそのはずで、アリエールに懸想している男を片っ端からジークフリートが潰して回る。相手が王太子殿下なら勝ち目がないから、皆諦める。

 ジークフリートに近寄ってくる女は、ジークフリートがアリエールに見せる以上にけんもほろろの態度で断ってしまう。

 ジークフリートは、アリエールには「嫌い。」「お前が憎い。」と言っているが、実は大好きなのだ。小さい頃から習慣として、会うたびに言っていたから、肉体関係を結ぶようになってからでも、その言葉を覆すことができないでいる。

 小学生が好きな娘に意地悪をするのと同じレベルなのだ。本人は、悪ふざけのつもりでも、言われた本人はひどく傷ついていることを理解していない。

 そもそも肉体関係を結ぶきっかけになったことは、最近、お妃教育に来ているはずのアリエールがぷっつりとジークフリートを訪ねてこなくなったことが原因で、寂しくてたまらない気持ちから起こしてしまったこと。ほんの出来心が肉欲と快楽に溺れてしまった結果に過ぎない。

 それに遅かれ早かれ、我が妻になるアリエールを抱いたところで問題にならないだろうという甘えからくるもの。

 なんといっても、アリエールは自分にぞっこんだと思い込んでいるから。アリエールもきっと喜んで股を開いていると勝手に思っているのだ。

 愛の言葉もなく襲うことは、暴力だという意識はまるでない。自分が気持ち良ければ、相手も気持ちいいと思っている単純身勝手男なのだ。

 それはお妃教育で、将来の王妃となる女性は、決して表情を読み取られてはいけません、との教えを忠実に守っていたアリエールだからこそであって、どうしてもアリエールは、ジークフリートに会ってしまうと思わず顔が緩んでしまうことから、会わずに帰るようになったのだ。

 それがいきなり羽交い絞めにされ、ドレスの裾から手を入れられ、カラダをまさぐられ泣き叫んでも決して緩められることがない恐怖心は、アリエールの心に深い傷を負わせた。

 そのことをなんとも思っていないバカ王子がジークフリートなのだ。それからは、ジークフリートのことを大嫌いになったのだが、婚約解消には至っていない。なぜなら、ジークフリートに襲われたことを家族に秘密にしたから。言えば、きっとお父様のことだから、我が家が取りつぶしになっても、王家を敵に回すことになるだろう。

 ジークフリートと婚約するとき曾祖母立会いの下で、誓約魔法が施されている。その内容と解除の魔法を知っているのは、曾祖母亡き後アリエールだけなのだが、アリエールだけを解除してもジークフリートが解除しなければ、誓約魔法は生き続けるという厄介なもの。文字通り死が二人を分かつまで誓約が呪縛として残る。

 だからアリエール側から解除するには、命をかけなければ解除できない。同じことがジークフリートにも言えることなのだが、これが全然わかっていないから問題なのだ。

 曾祖母がこんな呪縛のような誓約魔法を施したのには訳がある。アリエールの純潔を守るためと、もしものことがあった時、王族の種がばらまかれないようにとの配慮から、ジークフリートは妻になるアリエールとしかできないようになっているのだ。

 もし、アリエール以外の女性とコトに及ぼうとすれば、勃たないし、激痛を伴う。そしてもうひとつ大事なことは、相手がアリエールであっても、意に副わない暴力で服従させた場合、今後、アリエール以外の女性と行為をしようとすれば、命を対価とする誓約になっているのだ。

 だからアリエール以外の女性を妻とすることは、事実上のジークフリートの死を意味する。この誓約は、当時5歳の子供の婚約だったため、公にはなっていない。国王陛下ご夫妻とルクセンブルク家には、伝えられていること。

 曾祖母は、何よりもひ孫が悲しむ様を見たくなかったので、こんな誓約魔法を施したのであろう。
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