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江戸時代編

出会いと別れ(江戸時代完結)

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 最近、時空の歪みが気になる。急激に文明開化を進めたせいか?
 今日は、さる大名屋敷に往診に行った帰り、オートバイに乗った若者を見た。気になり、つい声をかけてしまったら、なんと!京大生らしい、ちょっとウチへ来ないかと裏口診療所へ呼んだ。

 「わぁっ!オッサンとこ、凄いっすね。」

 聞けば、彼の親父さんも開業医で、お兄さんが後を継ぐそうだ、彼の名前は、古田大地、異世界召喚者だった。そういえば、脱線車両まるごと1台消えた事件があった。
 二十二堂の塔頭のお嬢さんが聖女で、召喚されたが全員で戻ってきたレアだとか、ニュースを賑わしていた事件。
 彼は、その中の一員で、彼女とデートへ行った帰りに事件に巻き込まれたらしい。彼が言うには、その彼女も聖女素質があるらしく、異空間収納が使えるらしい。大変な魔力の持ち主で、脚気ぐらいなら治癒魔法で手をかざしただけで治せるらしい。
 彼女にも会ってみたい。とだけ、伝えて帰ってもらおうと思ったら、家内が

 「ご飯、食べていきなさいよ。」

 飯を食いながら、ウチの門弟たちを紹介した。もし、時空が歪んで、裏口と繋がらなくなった場合、門弟たちを親元に帰してもらえないだろうか?
 古田君は、工学部の学生で4回生、一級建築士事務所に就職内定があるそうだ。今は、羅生門復元に向けて、宮大工と打ち合わせの真っ最中、羅生門というのは、今の京都駅付近に建てられていたのだが、聞けば、まったく構造計算がなされていなく、強風が吹いただけで倒れたそうだった。頭でっかちなのである。

 その日、古田君は京都市内から自宅へ帰った。
 早速、翌日には、古田君と彼女が表のクリニックから来た。

 彼女の名前は結衣ちゃん、きょうおんな大学のやはり4回生で卒業後は実家のお茶問屋を継ぐお嬢さんだった。
 結衣ちゃんの家の蔵の地下室がタイムトンネルになっていて、偶然見つけたので、卒論を書くために、その穴?扉?を行き来していたところ、宮様や所司代に目を付けられ、いろいろ公儀の仕事を手伝っていたそうだ。宮様に対しては。シャボン玉を飛ばしただけです。と頬を赤らめていた。とにかく、ウチの裏口から出て、結衣ちゃんの家の蔵まで行けるか検証してみることにした。タイムトンネルは、江戸にもつながっていると知り、さらに驚く。

 裏口から出た二人は、あんぐりと口をあけっぱなしにしていた。
 そりゃそうだな、初めてこの景色を見ると、摩訶不思議だよね。表は、現代。裏口は、江戸時代。匂いの空気感も変わる。何より驚かれたのは、太陽光パネルにセンサーライト、いやいやこれぐらいで驚かれたら困る。木炭車に自転車、ゴムの木のための温室まである。最近は、ミシガン船を真似て、井戸号なる外輪式の船まで作ったのだから。

 「「ちょっとぉ、先生やりすぎじゃない?」」

 二人から指摘されても、頷くしかできない。必要がそうさせたのだ。

 とにかく、先を急いだ。念のため、ハイエースを出して妻と門弟たちを乗せ、宇治屋まで車を走らせた。ひょっとしたら、このまま江戸へ行くことになるかもしれないので、医薬品も積めるだけ積んだ。

 車に乗って、1分もう宇治屋に着いてしまった。
 結衣ちゃんが、車ごと異空間に収納した。不思議な光景、空中がグニャリと歪み、その中にハイエースが消えていく。

 宇治屋の当主、主人清兵衛さんに会う。一通りのあいさつを済ませ、蔵へ案内される。
 ついで、清兵衛さんの体調診察もした。これが結衣ちゃんとの唯一の条件だから快く飲んだ。少し、血圧が高め程度で、特に問題はなかった。おじいさん風に見えるが、まだ40歳にもなっていない。

 蔵の中は、現代につながる階段と江戸へ行く扉があった。お茶壷道中で何かトラブルがあった時のため、江戸へ通じる扉もあるそうだ。

 「とりあえず、どうしゃはります?」

 「江戸の門弟を帰したい。」

 江戸から来た門弟たちは、驚くが、最近の時空の歪みを皆、感じ取っていたみたいだったので、応じた。いつ、現代に取り残されてしまうかわからないから。

 古田君にも頼みがあった。それは、太陽光パネルの修繕、設置、工学的な技術指導をお願いした。もし、裏口が封鎖されても宇治屋さんルートがあれば、大丈夫だろう。

 それに宇治屋の蔵を使えば、大井川の件がクリアできるのだ。出会いのタイミングが恨めしかったような、結果オーライだったような?
 井戸クリニックから持ってきた医薬品を宇治屋の蔵に置いてもらうことにした。もし、江戸の門弟たちが急に医薬品不足になった時、宇治屋にあるものを使ってもらえばいいのだから。化粧品も、あとで結衣ちゃんにたくさん渡しといて、結衣ちゃんが売るようにすればいい。というか、仕入れも結衣ちゃんなら違和感なくできる。凛太朗がコスメを見ていると「変態!」の目で見られるから。

 こうして、着々とその日が来るのを待った。
 京の門弟たちも帰れるうちに帰した。
 「あの御方」にも、暇乞いをして、後任は、門弟か古田君に連絡するように頼んだ。
 裏口長屋の連中には、困ったことがあれば、古田君を頼るように言い残した。別れを惜しまれ、その日は夜遅くまで宴会をした。

 次の日の早朝、裏口は現代のガレージに繋がっていた。

 さみしい、せつない、と感じ、しょっちゅう裏口を覗いていたら、ある日、江戸ではないと思う。光景が広がっていた。どうやら、次は平安京(?)らしい。



 江戸時代編 完結です。

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