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江戸時代編

大井川

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 凛太朗は、失念していた。大井川を。やはり、マウンテンバイクにしとけばよかった。いや、ここまで短時間で進めたのだから文句はない。
 ハイエースからマウンテンバイクを取り出し、そこからは、自転車で行ってもらうことにした。
 もう、江戸まで半分以上、過ぎた290kmあたりまで来たのだから、あとは、門弟たちの脚力次第である。あと200㎞で江戸である。
 凛太朗は、門弟たちにトランシーバを渡した。あと200km程度なら、無線で飛ばせることができる。学生時代、アマチュア無線に一時、凝ったことがあるから知っていた。当時は、携帯電話などなかった。
 しかし、葵の御紋の威力はすごい。350年後のハイテクも葵の御紋を見せるだけで、なんでも通った。

 弟子たちが、江戸での治療が終わるまで、大井川で臨時の診療所を開くことにした。診療所スペースは、ハイエースの中だ。最後尾の座席をベッド代わりにした。
 ストマイもペニシリンも十分余裕がある。
 京都所司代の公儀の役人も一人、残ってもらうことにした。

 門弟たちは、電動アシストを使い、その日のうちに箱根まで到着した。関所も葵の御紋のおかげで、難なく通過できたそうだ。箱根で一泊し、翌日の昼頃までは江戸城へ入れるだろう。

 3日ほど過ぎたころに、江戸から連絡があり、ペニシリン、ストマイの在庫が切れた、と連絡があった。今ある在庫すべてを飛脚に託し、凛太朗たちは、一時、京へ戻り、再び医薬品を積んで、大井川に向かった。

 残りの3人の弟子たちに、大井川で電動アシストマウンテンバイクとバッテリーの予備を渡した。公儀のお役人も一緒だから、安心して任せられる。
 先発隊の3人を帰して、京へ帰還した。
 一週間ごとに、3人ずつピストン輸送して、ようやく江戸での治療が収まった。
 江戸から、裏口診療所への弟子入り希望者が殺到したのは、言うまでもないこと。
 凛太朗は、大井川で簡単な試験と面接を行い、6人を新たに採用した。

 いつも通りの日常が取り戻せたある日、また、京都所司代から、伝令があった。
 江戸で太陽光パネルを設置したいのだそうだ。
 そういうことは、一度に言ってくれないと困るよ。と思いつつも、京から宮大工を派遣し、太陽光パネル、発電機、行灯型センサーライトと天井から光るタイプのライト、AEDを新たに仕入れ、持たせた。
 大井川までハイエースで、何度も往復した。

 最後の電源設置確認は、凛太朗自身が行くことになった。将軍様が、ぜひとも凛太朗本人と会いたいと仰せのこと、渋々、行くことにした。
 だいたい、弟子たちでも設置確認ぐらいは、できるのだが最終確認は、やはり、凛太朗が。ということになった。

 行きのハイエースの運転は、凛太朗自身が行い、帰りは妻が京まで運転していった。

 江戸での最終確認も滞りなく終わり、将軍様の目通りも無事、済ませた。
 鬼の居ぬ間の命の洗濯で、しばらく江戸で遊ぶことにした。
 宮大工たちと共に、夜な夜な吉原へ繰り出し、どんちゃん騒ぎをした。

 羽目を外し過ぎた凛太朗が、妻からこってり絞られるのは、ご想像の通りである。
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