上 下
15 / 24
江戸時代編

15.カピタン

しおりを挟む
 カピタンとは、長崎県の出島に、ポルトガルとの通商のため、ポルトガル語で商館長を意味する。この時代では、ポルトガルから、すでに東インド会社が入り込んでいるが、最初の名残で、そのまま名称として使っている。

 カピタンは、4年に1度、江戸へ参上し将軍様に目通りし、歌を唄ったり、踊りを披露したりして、引き続きの通商を約束させる。

 今年は、その季節となった。ちょうどカピタン一行が京へ立ち寄った時、清水寺で発熱と腹痛を起こし、倒れた。

 カピタンは、すぐさま裏口診療所へ運ばれ、そのまま入院した。

 凛太朗は、診察したが、長旅で疲れが出ただけであったが、なかなか退院してくれない。350年以上、時代が進んでいて、当時のイギリスより、はるかに近未来的な設備に居心地がよく退院してくれないのだ。

 カピタンの一行は、京の宿屋へそれぞれ泊ってもらったのだが、酒も食事も裏口診療所のほうが、すべてにおいて勝る。
 近習の将校や貴族連中は、なんだかんだと理由を付けて、裏口診療所に来たがり酒盛りを始める。

 ウチの門弟たちは、見事なクイーンズイングリッシュを操ることから、話し相手にちょうどいいらしい。

 将校や貴族は、門弟たちを将軍様以上に敬っている節があるほどだ。

 一人の青年将校(貴族らしい)が、さよに一目ぼれした。
 さよは、現代ヨーロッパへ連れて行っても、見劣りしないぐらいの美少女だ。クイーンズイングリッシュを巧みに使いこなし、芸事に通じているから所作も美しい。おまけに最近は、妻のせいで常にロングドレスを纏っている。髪もタカラジェンヌ風に三つ編みにして流したり、結い上げたり、編み込みにしたりと美しい。

 しかし、さよはダメだ。さよは、ウチの娘だからだ。江戸時代の他の女なら、いくらでもちょっかいを出しても構わないが、さよだけはダメだ。

 凛太朗は、カピタンに猛然と抗議をした。

 「Dr.ido 本人同士が好き合っているのだから反対するのは、おかしい。」

 え?さよは、あの外人が好きなのか?寝耳に水だ。早速、妻を通してさよの気持ちを確かめた。

 どうやらカピタンの言うことは、本当らしい。

 それでもだ、それでもさよを手放すのは、心苦しい。

 若い娘が家の中にいるのと、いないのとは大違いだ。以前は、いないのが当たり前だったが殺風景だと思わなかった。今は違う。さよがいない家は、砂漠よりひどいだろう。

 「お父さん、もう諦めなさい。さよは、かぐや姫だったのよ。」

 見かねたカピタンが提案してきた。

 さよをカピタンの養女にして、さよの希望を聞き、イギリスの大学へ進学させ、青年将校のもとへ嫁がせる、というものだった。

 さよの実父、家老と話し合いがもたれ、その線で決まった。
 さよは、カピタン一行が、江戸へ行き戻ってくるまで、裏口診療所で暮らすことになった。
 それまでに嫁入り道具をそろえなきゃ、と妻は張り切っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

うりふたつ

片喰 一歌
恋愛
「あの、お心遣いには感謝しますけど、お兄さんのことは半分も信じてませんからね」 「しっかりしてるねえ。ひとまずは俺、初対面の馴れ馴れしくて怪しいお兄さんってことで」 (※本文より抜粋) ある日、アキノの前に現れたナンパ男は、死んだ恋人・ハルトにうりふたつだった。 無口な彼とは対照的におしゃべりなその男は、自分をハルト本人だと言い張る。 アキノは半信半疑ながらもその男の誘いに乗り、『冥界デート』に付き合うことに。 聞くと、彼は生前の目的を果たすために戻ってきたらしい。 その口から語られたのは、亡き恋人しか知らないはずの『一緒のお墓に入りたい』というアキノの願いだった。 戻ってきたハルトは、どのようにしてアキノの願いを叶えるつもりなのか? 衝撃のラストは必見です! 2024/5/6~ 1話あたりの分量を変えて帰ってきました! あなたはこの結末をどう読みますか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...