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玉の輿

4.

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 そういうわけで、美里は洋一と結婚することになった。

 あいしているというわけではないが、恥ずかしいところ全部見られちゃったから、仕方なくと言った方が適切。

 それで年が明け、早々に結婚することになり、島田美里になって病院へ出勤する。

 どうせ一度ぐらいは結婚するつもりだったから、相手が洋一というところに不服はあるけど、仕方がない。

 両家の両親に結婚すると報告をしたら、両家とも大変喜んでくれたので、まあいいやと思っている。

 新居は、転勤中の空き家というか?現在、みさとふぁ住んでいる吉村家になる。美里は引っ越しをしなくていい分だけが、楽だったと言える。

 この家と林家の島だけは、共に26年前建売住宅として、建てられたもので、家の造りはほぼ同じで、左右対称になっている。

両家の間には、庭があり、物干しとして使っている。夏はよくここで花火大会をして遊んだ。一応、塀というものがあるけど、木の塀で、経年劣化の為かところどころ抜けているので行き来ができる。

 秋には、バーベキューを楽しんだこともあったな。あの頃は無邪気で、何も分からなくて楽しかったわ

 それがだんだん大人になるにつれて、吉村家は大企業勤務であるということと、島田家は中小企業勤務者であることがわかり、それぞれ格差が生じてきたところから、関係性が少しずつ変わっていく。

 新婚時代は、給料の格差もなくても、年齢が上がるにつれて、歴然とした差が出てくるのは仕方がないこと。

 美里が国立大学に合格してからは、頻繁に嫌味を言われるようになったとか?

「島田家の息子は高い授業料を払っているのに、大企業勤務の吉村家は国立大学ですって?」

 そのお闇がだんだん煩わしくなり、父が転勤するとき、母も付いていくことになった原因がそこにあったと後から美里も知るようになった。

 洋一との結婚は、表面だっては、悦んでくれているみたいだけど、わからないものね。

 でも、吉村家としては、結婚せずに美里がキズモノになったと噂をばらまかれるよりは、マシだと考えるようになり、この結婚は、最初からあきらめの境地にいたということは確かなことだったのだ。



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 それから4年が過ぎ、後期研修も終わり、進路を決めるときが来た。

 大学病院からは、このまま研究委としての椅子は用意があるという内示をもらうが、なんせ給料が安すぎて、話にならない。

 大手のわたくし立病院へ行けば、月給100万円は確約されているという。でも……、でも……。やっぱり迷う。

 ちょうど、島田の両親が定年退職を迎えるときと、重なったから。これを機会に、両親にはあの家を売却してもらって、新たにマンション住まいをしてもらいたいと思っているから。

 そのことを洋一に何気なく話すと、

 「だったら、美里が開業医になれば?両家の親の退職金で、この場所にマンションを建て、1階を診療所にすればいい。2階を俺たち夫婦が住むか共有部分にして、上の階にそれぞれ両親が済むって言うのはどうかな?残りは、賃貸にすれば、家賃収入も入ってくるし、一挙両得だと思うのだが?」

 「うーん。確かにいい案だとは思うけど?権利関係がややこしくならないかな?」

 「ならないよ。俺たちの家は、一人息子と一人娘の家同士で結婚したんだ。将来は、俺たち夫婦のものになるのだから。ほかに相続人がいない。」

 その話は実際、両家の両親がすべてなくなってしまった後に考えればいいと思うのよ。今は、まだお(義)父さんたちも若いのだから。

 美里としては、早く吉村の両親が島田家の両親と離れて暮らしてほしいと思っている。実家と婚家が隣同士であるということが悩みの種なのだから。
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