4 / 35
痴漢
4.
しおりを挟む
陽子は7か月の身重になっていて、少し早いけど、産休を兼ねて、会社を退職することにしたのだ。
結局、後任の秘書は見つからないまま、引継ぎを専務にしかできないでいるけど、何も引継ぎをしないよりはマシということで、専務相手に膨大な資料を片手に、引継ぎをしている。
そして、定時に終わらなくて、その日も残業して、引継ぎを行い、専務が自宅まで送ってくれるという話を固辞して、会社を出た。
その直後、見知らぬ男性から声をかけられる。お子化で確かに出会った記憶はあるが、それが誰だったか、そしてどこだったかさえも思い出せない。
「本郷さんの奥さまですよね?」
「え……と、どちら様ですか?」
「ご主人の知り合いですよ。」
でも、なんとなく正彦の知り合いではないという気がする。
その男は、嫌がる陽子を無理やり多目的トイレの中に押し入れようとしている。こんな密室に入れば、何をされるかわからない。陽子は、とっさにお腹をかばい、手に持っていた荷物をドアの部分に置き、扉が閉まらないように工夫をする。
「やめてください!人を呼びますよ。」
「ご主人が金を払ってくれないもので、そうなると奥さんに払ってもらうしか方法がないわけですよ。」
「主人が、アナタから借金をしているのですか?いくらですの?」
「さあね。金額は奥さん次第というところかな?」
襲われる、犯される。と言う恐怖心が、以前、痴漢に遭った時の記憶がよみがえると、まさに今、陽子を襲おうとしている男と依然、痴漢をしていた男と重なる。
「アナタは、あの時の置換ですわね!誰か、助けてー!痴漢!」
「へっへっへ。ようやく思い出してくれて、嬉しいよ。そんなに俺の指使いが忘れられなかったということかい?」
両腕を押さえつけられ、マタニティドレスのスカートをまくり上げられる。あわや!の瞬間。そのビルの警備員と共に、専務がとびこんできてくれた。
男は駆け付けた警官に引き渡され、帰路はあれだけ固辞していた専務の車で送ってもらうことになった。
「けがはない?大丈夫?よかった。間に合って。怪しい男性が本郷さんをつけ狙っていることを昼間外出した時から、気になっていてね。帰りもビルの前をうろついていたから、その直後に本郷さんの叫び声が聞こえたものだから、警備を呼んで、駆け付けたということだけど、何事もなくて、よかった。」
「あの痴漢、一年ほど前に電車の中で私を執拗に置換していた人だと思い出したの。そしたら急に怖くなって、足がすくんでしまった。でも、本郷さんの奥さん?と言って声をかけてきて、主人の知り合いだと言っていたけど、どういうことかしら?」
「そのあたりは、警察が明らかにしてくれますよ。心配しなくて大丈夫だから。」
「そうね。そういうことにさせてもらうわ。専務ありがとうございます。ここが済んでいるマンションなんです!」
「え?ウチと同じではないか!知らなかったな。俺は33階に住んでいるんだけど、本郷さんは?」
「私は25階なんですよ。今日は送っていただき、ありがとうございました。」
専務に送っていただいたことが思わぬ波紋につながるとも知らないで、その時は、怖い思いをしたけど、正彦さんがいなくても、近くに知り合いができたことの方が嬉しく思っていた。
翌朝、出勤前の正彦と昨夜のことをかいつまんで話したが、
「約1年前の痴漢と、出会ったって本当か?」
聞いたきり、それ以上は何も言ってくれなかったのだ。
「私が大声上げて、抵抗したものだから、未遂で終わったけど、怖かったわ。偶然、会社の人が見かけていてくれて、それで助かったのよ。その人このマンションの住人だというから、さらに驚いちゃった。」
もう正彦は、陽子の言葉など耳に入ってこない上の空で生返事をしている。
丸岡(痴漢役の名前)の奴!許さない!
いくら会社から、丸岡の携帯電話に電話をかけても、いっこうにつながらない。それもそのはずで、丸岡は、昨日から警察署の留置場の中にいる。
度重なる着信に、昨日の被害者の夫からだと気づいた啓二は、その夫と丸岡との関係を調べることになる。
結局、後任の秘書は見つからないまま、引継ぎを専務にしかできないでいるけど、何も引継ぎをしないよりはマシということで、専務相手に膨大な資料を片手に、引継ぎをしている。
そして、定時に終わらなくて、その日も残業して、引継ぎを行い、専務が自宅まで送ってくれるという話を固辞して、会社を出た。
その直後、見知らぬ男性から声をかけられる。お子化で確かに出会った記憶はあるが、それが誰だったか、そしてどこだったかさえも思い出せない。
「本郷さんの奥さまですよね?」
「え……と、どちら様ですか?」
「ご主人の知り合いですよ。」
でも、なんとなく正彦の知り合いではないという気がする。
その男は、嫌がる陽子を無理やり多目的トイレの中に押し入れようとしている。こんな密室に入れば、何をされるかわからない。陽子は、とっさにお腹をかばい、手に持っていた荷物をドアの部分に置き、扉が閉まらないように工夫をする。
「やめてください!人を呼びますよ。」
「ご主人が金を払ってくれないもので、そうなると奥さんに払ってもらうしか方法がないわけですよ。」
「主人が、アナタから借金をしているのですか?いくらですの?」
「さあね。金額は奥さん次第というところかな?」
襲われる、犯される。と言う恐怖心が、以前、痴漢に遭った時の記憶がよみがえると、まさに今、陽子を襲おうとしている男と依然、痴漢をしていた男と重なる。
「アナタは、あの時の置換ですわね!誰か、助けてー!痴漢!」
「へっへっへ。ようやく思い出してくれて、嬉しいよ。そんなに俺の指使いが忘れられなかったということかい?」
両腕を押さえつけられ、マタニティドレスのスカートをまくり上げられる。あわや!の瞬間。そのビルの警備員と共に、専務がとびこんできてくれた。
男は駆け付けた警官に引き渡され、帰路はあれだけ固辞していた専務の車で送ってもらうことになった。
「けがはない?大丈夫?よかった。間に合って。怪しい男性が本郷さんをつけ狙っていることを昼間外出した時から、気になっていてね。帰りもビルの前をうろついていたから、その直後に本郷さんの叫び声が聞こえたものだから、警備を呼んで、駆け付けたということだけど、何事もなくて、よかった。」
「あの痴漢、一年ほど前に電車の中で私を執拗に置換していた人だと思い出したの。そしたら急に怖くなって、足がすくんでしまった。でも、本郷さんの奥さん?と言って声をかけてきて、主人の知り合いだと言っていたけど、どういうことかしら?」
「そのあたりは、警察が明らかにしてくれますよ。心配しなくて大丈夫だから。」
「そうね。そういうことにさせてもらうわ。専務ありがとうございます。ここが済んでいるマンションなんです!」
「え?ウチと同じではないか!知らなかったな。俺は33階に住んでいるんだけど、本郷さんは?」
「私は25階なんですよ。今日は送っていただき、ありがとうございました。」
専務に送っていただいたことが思わぬ波紋につながるとも知らないで、その時は、怖い思いをしたけど、正彦さんがいなくても、近くに知り合いができたことの方が嬉しく思っていた。
翌朝、出勤前の正彦と昨夜のことをかいつまんで話したが、
「約1年前の痴漢と、出会ったって本当か?」
聞いたきり、それ以上は何も言ってくれなかったのだ。
「私が大声上げて、抵抗したものだから、未遂で終わったけど、怖かったわ。偶然、会社の人が見かけていてくれて、それで助かったのよ。その人このマンションの住人だというから、さらに驚いちゃった。」
もう正彦は、陽子の言葉など耳に入ってこない上の空で生返事をしている。
丸岡(痴漢役の名前)の奴!許さない!
いくら会社から、丸岡の携帯電話に電話をかけても、いっこうにつながらない。それもそのはずで、丸岡は、昨日から警察署の留置場の中にいる。
度重なる着信に、昨日の被害者の夫からだと気づいた啓二は、その夫と丸岡との関係を調べることになる。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完結】離婚の慰謝料は瞳くりくりのふわふわ猫でした!
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
私はディアンナ・ラングストン。元マクギャリティ侯爵夫人。
「元」というのは、夫と離婚したから。
元夫ときたら結婚当初から長期にわたってお付き合いする3人もの浮気相手がおりまして、彼の自由奔放っぷりに私は当然うんざりしていたわけ。
でも、離婚して清々しい気持ちになっていたのに、急に元夫が「浮気して済まなかったーっ!」とジャンピング土下座をしてきた。
「何よ、いまさら?」と思っていたら、元夫の復縁希望理由は、まさかの『飼い猫のリリーと離婚で離れて寂しくなったから』と判明。 ふざけてるの? 復縁は絶対にお断りだわ!
そうしたら、次々に元夫の浮気相手のところに『猫が絡んだ奇妙な事件』が起こり始めた……。いったい、何が起こっているというの――?
首謀者は、え――?
短め連載・完結済み。設定ゆるいです。
お気軽に読みに来ていただけたらありがたいです。
他サイト様でも公開しています。
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください
未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。
全4話で短いお話です!
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。
しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。
ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。
そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる