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カトリーヌ・フランチェスカ
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学園の卒業記念パーティでのこと
「公爵令嬢カトリーヌ・フランチェスカ、貴様との婚約は、本日をもって破棄とする。」
「は?」思わず、公爵令嬢らしからぬ声が出てしまった。カトリーヌには、なんら心当たりがなかったからである。
今日の午前中、学園で卒業式が行われ、夕方からは、保護者を招いて王宮内でパーティが行われる。当然、保護者だから王国に仕える貴族の父兄もたくさん招かれているこの場所でのいきなりの婚約破棄宣言に、周囲の学生や貴族も驚き、固まっている。
本来なら、公爵家の両親が参加するはずだったカトリーヌなのだが、領地でトラブルがあり、フランチェスカ公爵、一人で領地へ舞い戻った。こういう場合は、家族全部で領地へ行くのが習わしだったのだが、カトリーヌの母が急病で体調が悪く、王都の公爵家に、カトリーヌと母が残った。母を残してパ-ティに出るつもりは、なかったのだが、王太子の婚約者であったため欠席は許されない。
「なぜ、いきなり婚約破棄なのですか?」
王太子クロード殿下の眉間にわずかに皺が寄った。いままで見たことがないほど冷たい目をしている。
「そんなこともわからない女だったんだな。」
「それでは、いくらなんでもわかりません。きちんと説明していただかないと、それに殿下からそのような目で見られる覚えがございませんもの。」
クロード殿下は憎悪に燃えるような眼をして、カトリーヌを睨んでいる。よく見ると殿下のそばにピンクブロンドの彼女がいる。そう、確か学年が一つ下の男爵令嬢だったとか、天真爛漫で、貴族令嬢とはあるまじき大口を開けて笑うなどの振る舞いに、一度、お説教したことがあったような気がする。
「なぜ、部外者である彼女が、殿下のお側にいらっしゃいますの?」
カトリーヌは、名前も知らない女が、殿下にビクッと抱き着いたのを見逃さなかった。まるでカトリーヌに睨まれでもしたかのような反応は、不愉快だった。
でも、クロードは、女がカトリーヌを恐れて、抱きついたものだと勝手に解釈し、その女を隠すように、前へ出た。
「なんですの?まるでわたくしが彼女に危害を加えるとでも、お思いなのですか?」
「貴様が今まで虐めていたではないか。」
「は?なんのことですか?」
「彼女の名前は、リリアーヌ・ドイル、私が初めて愛した女性だ。」
クロード殿下の「初めて愛した女性」にズキリと胸が痛む。そう、わたくしたちは5歳の頃よりの政略で結ばれた婚約者だった。愛のない婚約者だとはわかっていたが、改めて言われると自覚する。
「カトリーヌ、貴様が私の婚約者にふさわしくないということが分かったのだ。」
「何がわかったのですか?隣にいるその女性がふさわしいということですか?納得できませんわ。」
「カトリーヌいい加減にしないか、ここまで言ってもわからない貴様は、リリアーヌがそばにいる理由がわかないなど、性根が腐っている人間だということだ。」
カトリーヌはわけがわからず、ただ悔しい。
その時、リリアーヌが急に悲鳴を上げた、それが合図でもあったかのように、カトリーヌの背中に衝撃が走った。背中を刺されたのだ。刺した本人は、騎士団長の息子でガードニア伯爵令息だった。
カトリーヌは振り向きざまに「なぜですの?」血まみれの剣を引き抜いたとき、後ろに倒れて後頭部を強かに打った。そのまま意識が遠のいていく……。
刺した本人が一番、驚いていた。なぜ、丸腰の令嬢を後ろから刺してしまったんだろう。騎士として恥ずべき行動。リリアーヌ嬢の悲鳴を聞いたとき、なぜか刺してしまった。というほかはない。
ガードニアは、その場ですぐ拘束された。何か催眠術のようなものにかかっていたような感覚だった。地下牢に放り込まれたガードニアは、自らの行いを恥じ、自害した。
カトリーヌの亡骸は、公爵家へ運ばれた。ここのところ体調が悪かった公爵夫人は、変わり果てた娘の姿を見て、絶句したまま倒れ、翌朝、息を引き取った。
3日後、領地から屋敷に戻った公爵は、変わり果てた娘と夫人の亡骸を見て呆然とし、単身、王宮に乗り込み返り討ちにあった。国王は、その遺体に向かって、涙を流して謝罪の言葉を放った。
カトリーヌが殺された日から、王宮にたびたびカトリーヌの幽霊が出るようになった。国王陛下は、カトリーヌが死んだ日の夜から、内々にカトリーヌがリリアーヌに対して虐めを行っていたという裏付け調査を行ったが、目撃者が誰もいず、カトリーヌは冤罪で婚約破棄され、殺害されたことが明らかになった。リリアーヌは、ほかの貴族令嬢からは、窘められることがあった程度で、すべては男爵令嬢のリリアーヌの自作自演であることが明らかになった。
男爵令嬢リリアーヌは、修道院で、生涯幽閉されることになった。奇妙な魔法を使ったという噂も出たが、証拠がないので死罪にできず、幽閉された。婚約者を信じず、リリアーヌの甘言を信じた王太子は、廃嫡となり、自ら国を出た。
ほかに王位継承権者がいない王国は、衰退の道を辿った。
その後も、カトリーヌの幽霊は出続けた…らしいです。
「公爵令嬢カトリーヌ・フランチェスカ、貴様との婚約は、本日をもって破棄とする。」
「は?」思わず、公爵令嬢らしからぬ声が出てしまった。カトリーヌには、なんら心当たりがなかったからである。
今日の午前中、学園で卒業式が行われ、夕方からは、保護者を招いて王宮内でパーティが行われる。当然、保護者だから王国に仕える貴族の父兄もたくさん招かれているこの場所でのいきなりの婚約破棄宣言に、周囲の学生や貴族も驚き、固まっている。
本来なら、公爵家の両親が参加するはずだったカトリーヌなのだが、領地でトラブルがあり、フランチェスカ公爵、一人で領地へ舞い戻った。こういう場合は、家族全部で領地へ行くのが習わしだったのだが、カトリーヌの母が急病で体調が悪く、王都の公爵家に、カトリーヌと母が残った。母を残してパ-ティに出るつもりは、なかったのだが、王太子の婚約者であったため欠席は許されない。
「なぜ、いきなり婚約破棄なのですか?」
王太子クロード殿下の眉間にわずかに皺が寄った。いままで見たことがないほど冷たい目をしている。
「そんなこともわからない女だったんだな。」
「それでは、いくらなんでもわかりません。きちんと説明していただかないと、それに殿下からそのような目で見られる覚えがございませんもの。」
クロード殿下は憎悪に燃えるような眼をして、カトリーヌを睨んでいる。よく見ると殿下のそばにピンクブロンドの彼女がいる。そう、確か学年が一つ下の男爵令嬢だったとか、天真爛漫で、貴族令嬢とはあるまじき大口を開けて笑うなどの振る舞いに、一度、お説教したことがあったような気がする。
「なぜ、部外者である彼女が、殿下のお側にいらっしゃいますの?」
カトリーヌは、名前も知らない女が、殿下にビクッと抱き着いたのを見逃さなかった。まるでカトリーヌに睨まれでもしたかのような反応は、不愉快だった。
でも、クロードは、女がカトリーヌを恐れて、抱きついたものだと勝手に解釈し、その女を隠すように、前へ出た。
「なんですの?まるでわたくしが彼女に危害を加えるとでも、お思いなのですか?」
「貴様が今まで虐めていたではないか。」
「は?なんのことですか?」
「彼女の名前は、リリアーヌ・ドイル、私が初めて愛した女性だ。」
クロード殿下の「初めて愛した女性」にズキリと胸が痛む。そう、わたくしたちは5歳の頃よりの政略で結ばれた婚約者だった。愛のない婚約者だとはわかっていたが、改めて言われると自覚する。
「カトリーヌ、貴様が私の婚約者にふさわしくないということが分かったのだ。」
「何がわかったのですか?隣にいるその女性がふさわしいということですか?納得できませんわ。」
「カトリーヌいい加減にしないか、ここまで言ってもわからない貴様は、リリアーヌがそばにいる理由がわかないなど、性根が腐っている人間だということだ。」
カトリーヌはわけがわからず、ただ悔しい。
その時、リリアーヌが急に悲鳴を上げた、それが合図でもあったかのように、カトリーヌの背中に衝撃が走った。背中を刺されたのだ。刺した本人は、騎士団長の息子でガードニア伯爵令息だった。
カトリーヌは振り向きざまに「なぜですの?」血まみれの剣を引き抜いたとき、後ろに倒れて後頭部を強かに打った。そのまま意識が遠のいていく……。
刺した本人が一番、驚いていた。なぜ、丸腰の令嬢を後ろから刺してしまったんだろう。騎士として恥ずべき行動。リリアーヌ嬢の悲鳴を聞いたとき、なぜか刺してしまった。というほかはない。
ガードニアは、その場ですぐ拘束された。何か催眠術のようなものにかかっていたような感覚だった。地下牢に放り込まれたガードニアは、自らの行いを恥じ、自害した。
カトリーヌの亡骸は、公爵家へ運ばれた。ここのところ体調が悪かった公爵夫人は、変わり果てた娘の姿を見て、絶句したまま倒れ、翌朝、息を引き取った。
3日後、領地から屋敷に戻った公爵は、変わり果てた娘と夫人の亡骸を見て呆然とし、単身、王宮に乗り込み返り討ちにあった。国王は、その遺体に向かって、涙を流して謝罪の言葉を放った。
カトリーヌが殺された日から、王宮にたびたびカトリーヌの幽霊が出るようになった。国王陛下は、カトリーヌが死んだ日の夜から、内々にカトリーヌがリリアーヌに対して虐めを行っていたという裏付け調査を行ったが、目撃者が誰もいず、カトリーヌは冤罪で婚約破棄され、殺害されたことが明らかになった。リリアーヌは、ほかの貴族令嬢からは、窘められることがあった程度で、すべては男爵令嬢のリリアーヌの自作自演であることが明らかになった。
男爵令嬢リリアーヌは、修道院で、生涯幽閉されることになった。奇妙な魔法を使ったという噂も出たが、証拠がないので死罪にできず、幽閉された。婚約者を信じず、リリアーヌの甘言を信じた王太子は、廃嫡となり、自ら国を出た。
ほかに王位継承権者がいない王国は、衰退の道を辿った。
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