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 彼女たち三人に歌を教える事になった。教えるといってもそれぞれの声にあった歌い方と曲に合わせて歌えるようにしたりと基本的なところだった。振付は種族的な差があるため、教えられるものではないことを各自わかっていたので特に問題はなかった。
 問題は曲の方については、三人で同時に歌うわけではなく、歌っていない時は曲を自分たちの声で奏でるように教えたのだった。元から曲みたいな裏を歌っていたので、曲そのものを提供することで方向性が定まったことで各自本領を発揮した。
 
 数時間に一回は、もう一度歌ってくださいと土下座され、ナミがやれという圧を俺にしてきた。俺は情けない話だが、圧に負けオートモードで数時間に一度は歌って踊った。
 
 数日間、三人に歌を教えていったが、よくよく考えると俺は歌なんて教えた事がなかったがなぜか出来ていた。
 
 偵察型パッケージに現地に溶け込むための音楽指導者データがあるため、可能となっています。
 
 ナビから疑問に対しての答えが出て、なるほどと思った。だが、冷静に考えて人類敵である異電子はそういった文化がそもそもあるのか?
 
 不明、あらゆる状況を想定して作成されただけです。
 
「そろそろデビューね」
 
 ナミが三人の歌を聴き終えて、頷いた。
 
「三人ともよくがんばったわね」
 
「はい、ありがとうございます! レンツ先生もありがとうございます!」
 
「そ、そのありがとう・・・ほんとに・・・助かったぜ」
 
「末代まで語り継がれるように布教するわ」
 
 俺はほぼ無音となった都市を窓から眺め、ハーピーとセイレーンが飛び交う空が終わりを告げるのかと思った。
 
 翌日、ハーピー、セイレーン、人魚の区域がちょうど重なる都市の中心部にいた。巨大な円形型のステージがあるが、人魚のところだけ海面だった。
 三人はそれぞれステージの中心にいて、それを見た人たちは何がはじまるんだろうと足を止めていた。ただ、都市は無音状態となっていた。
 
 ナミは三人を見るとうなずき、三人は俺とナミを見て頷いた。
 
 ナミは卵型の武具でノイズキャンセリングを無効化するフィールドを形成した。その異変に気づいた人たちはあたりを見渡し、声が出ることに喜びと戸惑っていた。空に飛び交うハーピーとセイレーンはその異変に気づき、三人がいる近くに降り立った。
 
 そして、三人は歌いだした。
 
 その音色、歌詞は今まで都市の人たちが聴いたことがない歌だった。ハーピーとセイレーンはその場で崩れ落ちるように跪いて涙し、口を両手で抑えていた。住民たちも同じような状態になり、立っているのは俺とナミだけだった。海面からは何事かと人魚たちが顔を出し、しばらくすると涙を流しながら、両手で口を抑えていた。
 
 みんな同じ反応過ぎて、もしかしてそうしなきゃいけないのか、という錯覚に陥った。
 
「勝ったわ」
 
 ナミがぼそりとつぶやいた。
 
 歌が終わると、大歓声と悲鳴が飛び交い誰もがアンコールと叫んでいた。失神している人も何人か存在しており、都市は大パニックとなっていた。アンコールが受け入れられると、途端に静寂になり、みな歌を清聴しはじめた。失神していたものが、すぐに意識を取り戻したのを見た時は、驚いた。
 
 アンコールは三人が歌えなくなるまで続いた。そして、大量の魔核が山積みとなっていった。
 
 その日、無音だった都市は無音ではなくなり、三人の歌姫は真の歌姫として君臨する事となった。都市は祭りのような状態となり、住民たちや歌う者たちは、彼女たちの歌を口ずさみ、自分も本当の歌を歌いたいと思う者は練習に励む事になった。
 
 次第に以前と比べて、様々な歌が都市の中で聴くようになり、互いにノイズキャンセリングすることはなくなっていったのだった。
 俺とナミは三人に対して、後は自分たちで研磨し、高め合っていくことを伝えた。三人はそれぞれ別々に活動をしたり、三人一緒に活動をしたりしていくこととなった。
 これで一件落着だと俺は思い安堵した。都市で聞こえる歌は元居た世界に比べて審査落ちにはならないものの、聞ける歌が聞こえるようになった。
 
 数日後――。
 
 見知らぬ歌を聴きながら、ナミと昼食をオープンカフェで食べていると、行きかう人たちがなぜか自分を見て何か喋っていた。俺は気になって、指向性集音機能を使い、何を喋っているのか聞いた。
 
「ねぇ、あそこに座ってるのはじまりのスターのレンツさまじゃないかしら?」
 
 はじまりのスター・・・?
 
「銅像にそっくりだし、間違いないんじゃない?」
 
「でも、こんなところにいる?」
 
「でも似てない?」
 
 なんだか嫌な予感がし、ナミに聞いてみる事にした。
 
「ん? ああ、彼女たちが銅像にしたいって言っていたから別にいいって言っておいたわよ」
 
「え・・・」
 
 俺は恥ずかしさのあまり都市を去ることにした。ナミはまだ滞在したそうにしていたが、懇願したら顔を赤めながら了承してくれた。
 
 そして、行く先々で誰かがその歌を口ずさんだりしてて、それを聞くたびに恥ずかしさが襲ってきた。

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