後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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接触→観察

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 キースにとって、暖人はるとと騎士団長二人は、平和ボケしているようにしか見えなかった。

 キースの能力は視力だけでなく、どこにでもいる普通の青年に擬態出来る技術もあった。
 外見や声は勿論、利き手や歩き方、クセなども完璧に変えられる。元からそうであったように。

 身軽で身体能力は高いが、戦闘能力は並レベル。それに、敵意がない。
 だからこそウィリアムたちも疑いはしても排除出来ずにいる。
 それが、自分が暖人の監視に適任だと言った理由の一つでもあった。


 ……だからといって、これは緩すぎだろう。


 翌日、中庭へ通されたキースは満面の笑顔の暖人と話をした。問題はその後。
 彼らは、キースがいる前で堂々と涼佑りょうすけやリグリッド帝国の話を始めたのだ。

「やはりリョウスケが自ら存在を隠している可能性を捨てきれないな」
「もしかして、内戦の中でも俺が会いに行っちゃうから……?」

 おいおい、バレたぜ? どうする?
 初っ端からクライマックスくらいに驚いた。

「でもそれなら、事情を話してくれればちゃんとこの国で待ってるのに……」

 本当だよ。そうすりゃいいって気付いてない訳じゃないくせに、存在を伝えるなって意味がわかんねぇ。

「ハルトは、彼がいると知れば待てと言われても飛び出して行くだろう?」
「そうだな。内戦の真っ只中でも止まらんだろ、お前は」

 ハルトちゃんってそんな? そんな危険な猪突猛進タイプ? それなら教えなくて正解か……。

「それは……お二人が止めてくれれば、ちゃんと待てますし……」

 どんだけ二人の事信頼してんの!? そんな関係!? リョウ、まじでヤバくない!?

「何ソワソワしているのかな?」

 ウィリアムに声を掛けられ、内心で悲鳴を上げた。だが、表情はいたって普通に。

「いえ、なんか大事そーな話なのに、俺が聞いてていーのかなーって」

 キースは普通に気まずそうな顔をして頬を掻いた。

「彼が恋人を捜索しているのは、国家機密でも何でもないからね」

 確かにね!
 冷たく返すウィリアムに、キースは「そうですよね!」と笑った。
 なんだもう……こいつらといると疲れる……。

「もしかして君は、リョウスケを知っているのかな?」

 ウィリアムがにっこりと笑う。
 ……訂正する。平和ボケでなく、探りを入れられていたのだった。
 だとしても、動揺するキースではない。

「いえ、知ってれば良かったんですけど……。ハルト君の恋人さん、行方不明なんですか……」

 眉を下げ、悲しげな顔をしてみせる。

「はい。今もお二人に探していただいて……」

 そう言って視線を伏せる。それ以上続けられない暖人の肩を、ウィリアムがそっと撫でた。

 暖人は今も涼佑を探している。忘れて暢気に暮らしている訳ではなかった。
 涼佑はリグリッドにいると言ってしまおうか。だが、涼佑の命令を無視すると後が怖い。どうしたものか。


「その恋人さんに会えたら、どうします?」
「え?」
「したい事とか、言葉にすると叶うらしいんですよ。村の言い伝えみたいなものなんですけど」

 キースは眉を下げて笑った。嘘ではなく、リグリッド南部の一地方に伝わる話だ。調べられても問題はない。
 その言葉に、暖人はぽつりと声を零した。

「……俺のいた国では出来なかったことをしたいです」

 したい事は、たくさんある。

「手を繋いで街を歩いたり、恋人同士が行くような店で一緒に買い物をしたり……。涼佑と一緒に食べたいものとか、行きたい場所とか、たくさんメモしてるんです」

 覚えきれなくなって、紙に書き留めた。忘れないように、しっかりと意識して日本の文字で。

「最近、俺たちの故郷の食材に似たものがあるって知って……。それも食べて貰いたいな……」

 語るうちに、指先が震える。

「……きっとまた会えるって、信じてます」

 暖人はそう言って、悲しげな顔で笑った。





「ちゃんとまだ好きなんじゃん」

 宿へと戻ったキースは、ベッドに横になり息を吐く。他人事なのに酷く安堵してしまった。
 三人の首には確かに同じ店で買ったであろうものが掛かっていたが、そこまで訊くとさすがに疑われる。また今度にする事にした。

 涼佑が姿を隠したばかりに、あちらは複雑な事になっていた。
 だがリグリッドにいると教えれば、内戦の中で涼佑が命を落とさないかと暖人は更に心配するだろう。騎士二人も懸念しているように、飛び出して行くかもしれない。

 一般兵の偵察ならともかく、まさかリュエールトップの赤と青の騎士団長がリグリッドに同行するわけにもいかない。革命軍に手を貸したと思われれば、それこそ二国間の戦争に発展してしまう。

「アイツらが止められなかったら終わりだな」

 涼佑も懸念しているなら、相当無鉄砲なのだろう。
 それに、今更新たに不安な日々を過ごさせるよりは、今のままの方が良いのかもしれない。


『ずっとお前を探してたが諦めかけてる。急がないと取られる!』

 そう書いた紙を飛ばしたのは半月前。それ以来あちらからの応答はない。

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