41 / 168
おやすみ
しおりを挟む「ほう……!」
対面してから初めて少しばかり驚いた顔を見せた悪魔の眼下で、ルタは拳を握ると自身の身体の上へと振り上げた。ガラスが砕けるような音とともにキラキラとした透明な破片が周囲に降り注いでいく。
「これは驚いたの。スキルとやらでも我輩の魔力に対抗出来るとは」
「まだだ!」
ルタが振り上げていた拳を広げた。その手のひらから暗い光が悪魔へと撃ち出されていく。高速で迫る光に、しかし悪魔は首を少し傾けただけで回避した。
「確か何日か前にお主が大剣持ちの脳筋と戦っていたときに、空中に文字が浮かんでいたのう。『デバフ』とか書かれていたか」
ルタがニーサを三人組から助けたときのことだ。ニーサが見ていたということは、つまりこの悪魔にも知られていたことにつながる。
「そのデバフで我輩の魔力を弱体化させた。じゃが、我輩自身はそう簡単に受けんわ。正面から来ればなおさらのう」
悪魔は笑みを絶やさない。
「仮にお主がいまの光を操れるとしても無駄じゃぞ。あの程度の速さなら容易に回避可能じゃし、万が一にも受けてデバフされても、その分を強化すればいいのじゃからな」
魔力や魔法では身体や物質を強化できる。悪魔ほどの実力ならば、下げられた能力を帳消しにできるだけでなく、さらなる強化も可能だろう。
「かっかっかっ」
お主のやることなどに意味はない……そう言うように笑い声を上げる悪魔に、しかしルタは静かな声を返した。
「……俺のスキルは『未熟』だ」
「ん? 何か言ったか?」
「……デバフはただのレベル1の技に過ぎないってことだ……『未熟』の真骨頂は……」
ルタが地面を蹴ってその場を離れる。その瞬間、はるか上空から滝のような大量の水が降り注いできた。
「……⁉ これは……っ⁉」
瞬時に悪魔も空中を移動してその場を離れる。衝撃音とともに地面にちょっとした池のような、大きな水溜まりが出現した。
「何じゃ⁉ お主のスキルは水も作れたのか⁉」
さっきよりも明確な驚き。それも無理もないだろう。ルタのスキルはあくまでステータス変化であり、物質生成ではないはずなのだから。
「作れんのは水だけじゃねえぜ」
ルタが言った瞬間、水溜まりから爆ぜるようなガスの塊が立ち上った。
「水蒸気爆発か⁉ じゃが火はないはず⁉」
「……もっと戻れ……水蒸気のさらに前に……」
火山の爆発のように激しかった水蒸気が、一瞬にして視界から消え失せる。いや消滅したのではない、彼が言ったように戻ったのだ。水蒸気を形成するさらに前の状態に。
ルタがポケットからマッチを取り出した。魔物の肉を焼くときに用いているものだ。その一本を取り出して火を灯す。
「……⁉ お主、まさか……⁉」
「……てめえを倒すのは、てめえの周りのものだ。てめえのスピードじゃ逃げられやしねえ」
「やめ……⁉」
ルタがマッチを悪魔が浮かぶ空中に放り投げる。その瞬間、逃げようとした悪魔をとてつもない爆発と火炎が飲み込んだ。
79
※続編はこちら。→ 『後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2』
お気に入りに追加
1,812
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる