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合格祝い
しおりを挟む一見に触れられる心地よさで緊張の糸が切れたのか、気付けばうたた寝をしてしまっていた。
目を開けると、目の前には……やたらと嬉しそうな、整った顔が。
「おはよう、壱村」
「おはよう……、って、まさかずっと見てた……?」
「俺も寝ちゃって、今起きたところだよ」
と言うが、何とも嘘くさい。寝起きにしてはキラキラしすぎている。
寝顔を見られるのは初めてではなくて、まあいいか、と気にしない事にした。
それより、ふかふかの布団と一見に抱き締められているこの状況。また眠気が襲ってきそうだ。
眠っている間にソファからベッドに運んでくれたのだろう。悪かったな、と思い、一見の頭を撫でようとして……。
「は……? いやいやいや、保留って言ったじゃん!?」
寝る前にはなかった物が、そこに嵌まっていた。
慌てる壱村を一見はギュウッと抱き締め、頬を擦り寄せる。
「うん。だから、合格祝いだよ」
俺も合格したからお揃い、と少し体を離して自分の手を見せる。
「…………合格、祝い……」
そっか……。そうか。
動揺して早とちりしてしまったが、確かにプロポーズではなさそうだ。指輪は左手ではなく、右手の薬指に嵌まっていた。
「……ありがとな」
「うん」
素直に受け取ると、一見はキラキラの笑顔を浮かべる。
普段使いしやすそうな少し幅のある綺麗な流線型の指輪には、やはり小さな石が付いていた。赤くて、太陽のような色。
以前貰った指輪にも、太陽のような石が付いている。一見の、壱村に対するイメージかと思うと少し気恥ずかしい。
――……いや、ちょっと待て、これ本物の宝石じゃ……?
嫌な予感がして外してみれば、指輪の内側に、壱村でも知っているセレブな店名が刻印されていた。
「お前、連休中にどんだけバイトしたんだよ……」
これはきっと連休中のアルバイト代の残りで買ったのだろう。
……そういえば、夏休みにも週に一度は予定があると言っていた。それでも楽々合格するとは……。
「夜勤も出来れば良かったんだけど、高校生は不可だったんだ。だからそこまで高いものじゃなくて、ごめん」
「いや、充分過ぎる……。貰うの申し訳ない……」
「壱村のために頑張ったんだから、貰って?」
「…………ありがとな」
……素直に、嬉しい。
自分のために頑張ってくれた事が。
アルバイトなんて慣れないだろうに、成長したな……とまた親心が顔を出した。それと同時に、大事にされているな、と恋人としても嬉しくて。
自分も何か、一見にプレゼントをしたかった。
「一見は欲しいもんある? 合格祝いに」
「壱村が欲しい」
一見は、迷いなく言い切った。
「…………その真意は」
「そのままの意味だよ」
「……ま、まだ早い」
「じゃあ、壱村からキスして欲しいな」
「う、えっ!?」
「かわいい……」
我慢していた分、と呟いて、一見は腕いっぱいに壱村を抱き締めた。
久しぶりの大蛇ばりの締め付けを受けながら、一見だなぁ、としみじみ思ってしまう。
一見からのプレゼントは本当に嬉しくて、こうして合格出来たのも、一見のおかげで。
そう考えると、出来る限りの事は叶えてあげたい。
締め付けから解放され、可愛い、と顔を覗き込む一見へと、これがプレゼントになればいいな……とキスをした。
あの時の、一見の顔。
ポカーンとして、じわじわ赤くなって、不意打ちずるい……と呟き布団の中に埋まってしまった。
そんな可愛い一見の姿に、一緒に暮らすのも悪くないな、と思ったのだ。
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