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再会2

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「ストーカー、か」

 並木道を抜けた先、湖の傍のベンチに座り、寛哉ひろやは小さく息を吐いた。
 隣に座るシロがビクリと震える。顔を上げられないまま、膝の上の拳をギュッと固く握った。

「俺はまだ、そこまで執着されてないってことか」

 そう言ってそっと髪を撫でると、シロは顔を上げ、驚いたように寛哉を見上げた。
 大方、面倒臭がられるか気持ち悪がられて突き放されると思ったのだろう。

「っ……、寛哉さんは、たくさん連絡をくれる、から……」

 シロはハッとして慌ててそう答えた。

 シロの為にカレンダーを買って、毎日の予定をシロの為だけに書き込んだ。帰宅が遅れる時は必ず連絡をした。
 だから、不安になる事はなかった。
 だから、執着していないわけじゃない。
 シロは必死に訴える。

「何があったか、訊いても?」
「っ……、ごめん、なさい……」

 シロはか細い声を零す。
 話せないのは、寛哉に追い出されたくないからか、あの男を悪者にしたくないからか。
 寛哉は深く溜め息をついた。

「あのっ、わたるは悪くないんですっ、俺がっ……俺が、全部……」
「事情は知らないが、そうは見えなかったけどな」

 苛立った声にシロはビクリと跳ね、口を噤む。
 分かっている。あの男への苛立ちをシロにぶつけているだけ。八つ当たりなど最悪だ。
 あの男の元へ行かず、ここに残ってくれただけで充分なはずなのに。

「……こんな事で、声を聞きたくはなかった」
「っ……、ごめんなさいっ……」

 シロは怯えた声を出し、泣きそうに顔を歪めた。

 こんなにシロの声を聞いたのは今日が初めてだ。それなのに、怯えて震えた声ばかり。謝る声ばかり。あの男の事ばかり。


 震えるシロの髪を撫で、顔を上向かせる。

「あいつのためじゃなく、俺のために話す声を聞きたいんだが」

 涙に滲んだ瞳。目元に唇を触れさせると、瞬いた瞳からひとつ、雫が零れた。

「今からは、俺のために声を聞かせてくれ」

 指先で頬を撫でる。その頬が赤く染まったのは、夕日の所為だろうか。柔らかな頬にキスを落とすと、シロはコクコクと何度も頷いた。



 寄り添って、髪を撫で、シロの気持ちが落ち着いた頃。

「そんな気分じゃないとは思うが、何か食べて帰るか」

 寛哉はそう言って時計を見た。

「お前さえ良ければ、デートの続きをしたい」
「……デー、ト……」
「俺は最初からそのつもりだったけどな?」

 困ったように笑うと、シロは慌てたように寛哉の手を握った。

「で、デートの続き、お願いしますっ……」

 懸命に声で伝えてくれる。どうやらシロには少し弱った表情を見せた方が効果的らしい。寛哉は心の中でそっと口の端を上げた。

 デートらしくシロの手を取ったまま立ち上がり、指先にキスをする。するとシロはピクリと震え、寛哉を見上げた。

「ぁ……」

 ぱちりと視線が合うと、ぶわっと顔を赤くして俯いてしまう。シロは本当に、恋人のような触れ合いに慣れていないらしい。

 今日これからの時間は、シロを徹底的に甘やかして恋人扱いをしようと決めた。
 あの男の事で傷付いたままで、今日の記憶を終わらせてはやらない。

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