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出来心
しおりを挟む同じベッドで寝るのは今更ながら躊躇われて、その日はソファで寝た。
起きたのは午前十時。寝室を覗くと、シロはまだ眠っていた。無防備に眠る姿はやはり猫のようで可愛い。
最近、少し疲れていたのかもしれない。
最後にここに来たのは、甘え上手でプライドの高い男だった。その前は遊び慣れた派手な女。その前も同じような相手だった。
その方が後腐れがなく楽ではあっても、心が休まる事はなかった。
そういえば、最後に本物の猫を拾ったのは半年前か。
長時間一匹だけで置いて行くのも心配で、いつも仕事に出るまでの数時間だけ保護していた。
陽が昇って、飼い主探しを引き受けてくれる動物病院の知り合いに預けるまでの、少しの時間。
思えばあの時間が唯一の安らげる時間だったかもしれない。
ふわふわの髪を撫でていると、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
寝ぼけてとろりと溶けた甘い色の瞳が、ぼんやりと寛哉を見つめる。そして。
「っ……!?」
「昨日と同じ反応だな」
クッと笑うと、シロはまだ頭がはっきりしていないのか、寛哉と周囲をしきりに見回した。
「っ……」
ガバッと起き上がると、何か言いたげに寛哉を見つめる。
大体の事は表情や雰囲気で分かる。だが心が読める訳ではなく、言葉でないと分からない事もあった。
本当は、シロの声で聞きたい。
だがこの様子。無理だろうな、と小さく息を吐き、携帯のメモアプリを開いた。そしてそれを渡すと。
『すみません。すぐ出て行きます』
と打って、ハッとしたようにそれを消した。そしてまた何かを打とうとして、俯いてしまう。
「行くとこがないなら、好きなだけ居て構わないが」
そう言うと、シロは顔を上げた。本当に? と今度は分かりやすい顔で。
「ああ。ただ……お前、本当に未成年じゃないんだよな?」
この幼い表情。本当に成人済みだろうか。また疑ってしまう。
シロは一度キョトンとして、そればかり気にする寛哉にクスリと笑った。
だが、すぐにハッとして下を向いてしまう。
「なんだ、笑えるんじゃねぇか」
と言うと、シロは誤魔化したいのかぷるぷると首を横に振る。
「もっと笑えよ。その方が可愛い」
「っ……!」
「可愛いな」
「っ!」
パッと赤くなった頬。するりと触れると、シロは弾かれたように壁際へと逃げて枕を抱えた。
盾にしたつもりだろうが、そんなもの何の役にも立たない。
「っ!?」
腕を引きベッドに押し倒せば、枕はあっけなく転がり落ちてしまう。それを追う手を掴み、両手首をベッドに押し付けた。
「ほら、もっと見せろよ」
「っ……」
顔を近付けると、ふい、と横を向く。
それなら、と目の前にある耳朶を軽く喰む。するとビクリと大袈裟に跳ね、ジタバタと暴れ始めた。
本気で抵抗してこれなら、あのまま公園に置いて来ていたらヤられ放題だっただろう。やはり保護しておいて良かった。
――……って、俺もやってる事は同じか。
パッと手を離す。
好きなタイプは清楚な子でも、悲しくも性癖は別物。こんなシチュエーションに大層燃える。征服欲や嗜虐性が強いのだ。
体を起こしシロから離れ、ニヤリと笑ってみせた。
「焦ってる顔も可愛いな」
「っ……! っ!」
からかわれた! そんな顔をして、拾った枕でベシベシと寛哉を叩く。
真っ赤になって怒る顔も可愛い。もう何をしても可愛いのは、年下だからか。
「悪かったよ。ほら、朝飯作るから顔洗って来いよ」
笑いながらベッドから降りると、最後に背中に枕が飛んできた。なかなかの負けず嫌いだ。
背後にひらひらと手を振りながら部屋を出て、リビングへと入った寛哉は深い溜め息をついた。
憲剛のアドバイスを、早々にふいにしてしまった。いや、そもそも性に関しては憲剛のような誠実さを持ち合わせていないのだから、最初から無理な話……いや、善処しよう。
もうひとつ溜め息をつき、今日はハムエッグにするかと冷蔵庫を開けた。
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