上 下
8 / 50

出来心

しおりを挟む

 同じベッドで寝るのは今更ながら躊躇われて、その日はソファで寝た。
 起きたのは午前十時。寝室を覗くと、シロはまだ眠っていた。無防備に眠る姿はやはり猫のようで可愛い。

 最近、少し疲れていたのかもしれない。
 最後にここに来たのは、甘え上手でプライドの高い男だった。その前は遊び慣れた派手な女。その前も同じような相手だった。
 その方が後腐れがなく楽ではあっても、心が休まる事はなかった。

 そういえば、最後に本物の猫を拾ったのは半年前か。
 長時間一匹だけで置いて行くのも心配で、いつも仕事に出るまでの数時間だけ保護していた。
 陽が昇って、飼い主探しを引き受けてくれる動物病院の知り合いに預けるまでの、少しの時間。
 思えばあの時間が唯一の安らげる時間だったかもしれない。


 ふわふわの髪を撫でていると、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
 寝ぼけてとろりと溶けた甘い色の瞳が、ぼんやりと寛哉ひろやを見つめる。そして。

「っ……!?」
「昨日と同じ反応だな」

 クッと笑うと、シロはまだ頭がはっきりしていないのか、寛哉と周囲をしきりに見回した。

「っ……」

 ガバッと起き上がると、何か言いたげに寛哉を見つめる。

 大体の事は表情や雰囲気で分かる。だが心が読める訳ではなく、言葉でないと分からない事もあった。
 本当は、シロの声で聞きたい。
 だがこの様子。無理だろうな、と小さく息を吐き、携帯のメモアプリを開いた。そしてそれを渡すと。

『すみません。すぐ出て行きます』

 と打って、ハッとしたようにそれを消した。そしてまた何かを打とうとして、俯いてしまう。

「行くとこがないなら、好きなだけ居て構わないが」

 そう言うと、シロは顔を上げた。本当に? と今度は分かりやすい顔で。

「ああ。ただ……お前、本当に未成年じゃないんだよな?」

 この幼い表情。本当に成人済みだろうか。また疑ってしまう。
 シロは一度キョトンとして、そればかり気にする寛哉にクスリと笑った。
 だが、すぐにハッとして下を向いてしまう。

「なんだ、笑えるんじゃねぇか」

 と言うと、シロは誤魔化したいのかぷるぷると首を横に振る。

「もっと笑えよ。その方が可愛い」
「っ……!」
「可愛いな」
「っ!」

 パッと赤くなった頬。するりと触れると、シロは弾かれたように壁際へと逃げて枕を抱えた。
 盾にしたつもりだろうが、そんなもの何の役にも立たない。

「っ!?」

 腕を引きベッドに押し倒せば、枕はあっけなく転がり落ちてしまう。それを追う手を掴み、両手首をベッドに押し付けた。

「ほら、もっと見せろよ」
「っ……」

 顔を近付けると、ふい、と横を向く。
 それなら、と目の前にある耳朶を軽く喰む。するとビクリと大袈裟に跳ね、ジタバタと暴れ始めた。

 本気で抵抗してこれなら、あのまま公園に置いて来ていたらヤられ放題だっただろう。やはり保護しておいて良かった。

 ――……って、俺もやってる事は同じか。

 パッと手を離す。
 好きなタイプは清楚な子でも、悲しくも性癖は別物。こんなシチュエーションに大層燃える。征服欲や嗜虐性が強いのだ。
 体を起こしシロから離れ、ニヤリと笑ってみせた。

「焦ってる顔も可愛いな」
「っ……! っ!」

 からかわれた! そんな顔をして、拾った枕でベシベシと寛哉を叩く。
 真っ赤になって怒る顔も可愛い。もう何をしても可愛いのは、年下だからか。

「悪かったよ。ほら、朝飯作るから顔洗って来いよ」

 笑いながらベッドから降りると、最後に背中に枕が飛んできた。なかなかの負けず嫌いだ。
 背後にひらひらと手を振りながら部屋を出て、リビングへと入った寛哉は深い溜め息をついた。

 憲剛けんごのアドバイスを、早々にふいにしてしまった。いや、そもそも性に関しては憲剛のような誠実さを持ち合わせていないのだから、最初から無理な話……いや、善処しよう。

 もうひとつ溜め息をつき、今日はハムエッグにするかと冷蔵庫を開けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ずっとふたりで

ゆのう
BL
ある日突然同じくらいの歳の弟ができたカイン。名前も年齢も何で急に弟になったのかも知らない。それでも頼れる兄になろうとして頑張っているカインと仕方なくそれを陰から支えている弟。 それから時は経ち、成人する頃に弟があからさまに好意を示しても兄はそれに気付かない。弟の思いが報われる日はいつになるのか。 ◎がついているタイトルは弟の視点になります。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...