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可愛いな?

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 深夜2時過ぎ。
 リビングのドアを開けると、そこは静まり返っていた。
 こんな時間だ。さすがに寝ているか、それとも……。
 妙な気分になりつつ、寝室をそっと覗く。

「帰ったか」

 暗闇に包まれた部屋。廊下からの明かりでぼんやりと浮かび上がるベッドにも、シロの姿はなかった。きっと“彼”から連絡が来て、帰ったのだろう。

 昼に見た、泣きそうな顔。あんな顔をさせる相手がシロを大切にしているとは思えないのだが……シロがそこに帰りたいのならば、自分がどうこう言う筋合いはない。自分はただ、捨て猫を拾って保護しただけなのだから。

「ん?」

ドアを閉めようとして、ピタリと動きを止める。今、微かに布の擦れる音がした。
 もしかして、と音を立てずに室内に入る。部屋の奥にあるベッドへと近付くと、壁際の、布団の端の方がちんまりと盛り上がっていた。
 ほぼ確信しつつ慎重に布団を持ち上げる。と。

 ――…………可愛い、な……?

 そこには、猫のように身を丸くして眠るシロの姿があった。
 就寝用に準備していた緩めのTシャツとハーフパンツを着て、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。

 先程は少し驚いて疑問符を浮かべてしまったが、猫のように眠るシロはとても可愛い。
 遠慮して端の方で寝たのだろう。そんなところも可愛いと思えた。

 本物の猫を飼っている客が、眠る猫の姿は幾ら見ていても飽きないと言っていた。これがまさにそれだろうし、自分にも覚えがある。


 壁へと向けている横顔をジッと見つめる。横顔、というより体勢が可愛い。丸い。それだけでひと晩中眺めていられそうだ。
 それでもやはり顔が見たくなり、軽く布団を引いてみる。するとコロリと寝返りを打ち、こちら向きで横になり丸まった。

 ――猫みたいだな……。

 また同じ事を思ってしまう。
 警戒心が強そうで、眠ると完全に無防備になる。猫というには幾分警戒心が足りない気もするが。

 髪を撫でても静かな寝息は止まらない。もしかしたら、心身共に疲れて過眠気味になっているのかもしれない。
 そっと頬を撫でると、すり……と控えめに頬を擦り寄せてきた。

 ――……可愛い、な……?

 少し動揺してしまった。
 それでも起きる気配のないシロ。“ここは安全”と思って貰えているのだろうか。そうだとしたら、素直に嬉しい。


 ――連絡待ちの相手は何してんだ?

 枕元に置かれた携帯電話を見やり、眉間に皺を寄せる。
 自分にはどうこう言う筋合いはない。そもそも相手が一方的に悪いとも限らない。ただ、シロを見ていると自然と相手に対する苛立ちが込み上げてくるのだから仕方なかった。

 次々沸き起こる自分らしくない感情に、細く息を吐く。

「おやすみ」

 少し迷いつつもシロの額にそっとキスを落とし、静かに部屋を後にした。

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