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フィンレー2

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 事情を聞いたフィンレーは、眉を寄せる。

「黒竜族に力が戻ったという話は聞かないな。まあ、俺たちも直接見に行ける訳じゃないから、聞いた話だが」

 エルフの情報源はどこにでもある。どこでと言われても、答えられないが。

「そもそも黒竜族は、数年前に数頭残してほぼ絶滅したはずだけどな」
「絶滅?」
「その人、白竜族だろ? 聞かなかったのか?」
「私一人の情報では確信が持てないと考えましたので」

 ノーマンはにっこりと笑う。

「まあ、そうだな。情報は複数あってこそ確実性が増す」

 うんうんと頷いた。エルフも、一つの情報源だけを鵜呑みにはしない。

 エヴァンが不在にしている間に、黒竜族には様々な事があった。だが居たところで、離れた場所に住む青竜族には分からなかっただろうが。

「黒竜族の村は、今は墓場と呼ばれてる。どすぐろい霧に覆われてて、誰も近付けないらしい」
「生き残った者は、その先の滝の側で暮らしていると聞きますね」
「俺が聞いた情報と同じだな。黒竜に関してはこの人の方が詳しいだろ」

 ここへ来た本当の理由は、それではないのだろう。フィンレーは肩を竦めた。

「エルフの中に犯人がいるかを聞きたいんだよな」
「……ああ」
「気にするな。俺としても、そんな馬鹿な事をする奴がいれば捕まえて顔を見てみたいからな」

 そんな行動に出た理由も含めて興味がある。


「考え方はエルフらしいが、エルフなら結果を見たいものだからな。暗殺もその人間が失敗した時の為に自ら潜んで、失敗と分かり次第、弓かナイフでとどめを刺す」

 淡々と語るフィンレーを、皆静かに見つめた。

「他国にそこまで干渉する覚悟があるなら、リュエールの王がいなくなった後に国がどうなるか、命と知識を懸けても見たい。長くは待てない。だから、その犯人はエルフじゃないな」
「それは、お前の考えだけじゃなくてか?」
「ああ。エルフは分からない事が嫌なんだ。他に目的があったとしても、一つずつの結果を先延ばしに出来る性格じゃない」

 きっぱりと言い切った。

「それと、他国に行ったエルフは他の村も含めて大体把握してるが、身長がそこまで低い奴はいなかったな」

 その身長となると、まだ子供だ。子供の中に自ら出て行った者も、拐われた者がいるとも聞かない。

「そうか。エルフじゃないなら、やはり人間か……」
「かもな。竜族もそこまで積極的に他国を乱そうとかしないしな」
「そもそも興味ない奴が多いんだよ」
「お前は特殊だよなぁ」

 けらけらと笑う。

(綺麗な顔なのに豪快な人だな……)

 エヴァンと気が合うのも分かる気がした。


「で、黒竜のところに行くのか?」
「ああ、そうなるな」
「俺も行っていいか?」
「は?」
「青竜と白竜がいれば安全だろ? 俺も黒竜の村を見てみたい」

 目をキラキラさせてエヴァンを見る。

「駄目だ。人間がこれだけいるんだ。お前の事まで守りきれない」
「竜がいれば大体は寄ってこないだろ。俺は弓も使えるんだしさ」
「エルフもそこまで強くないだろ。巨人とかオークがいたらどうする」
「上手く逃げる」
「気になったら出てくるだろうが」
「大丈夫だって」

 なあなあ、とエヴァンに強請るフィンレーと、駄目だと言い続けるエヴァン。

「既視感があるな」
「ああ、昨日見た気がするよ」

 オスカーとウィリアムは、誰とは言わずに目の前の光景を見つめる。涼佑りょうすけだけはちらりと暖人はるとを見た。

(俺はフィンレーさんを応援したい……)

 エヴァンにとって危険に晒したくない人なのだろうが、エルフは弓の名手で身が軽く、動きも素早いはず。ナイフも使うなら、自らの身を守る事は出来るはずだ。

 そこで得た知識が、彼にとって後々何かの役に立つかもしれない。エルフは長い時を生きるのだから。


 結局エヴァンが折れ、フィンレーは満足そうに胸を張る。そして使い込まれた弓矢とナイフを持ってきて準備を始めた。
 武器はどれも白銀で、内側から淡く光を放つように神秘的に輝いている。

「……すごい、綺麗」
「一本あげようか?」
「えっ、そんな、申し訳ないのでっ」
「いいっていいって。君の事気に入ったから、特別にこのミスリルの短剣をあげよう」
「ミスリルっ……」
「お、知ってる? これはその中でも、ドワーフ族が神秘の泉の水で鍛え上げた最上級品だよ。魔除けにもなるんだ」
「そんな大切なものをっ……」
「それより貴重な漆黒の髪を貰ったから、気にしないで」

 フィンレーは明るく笑って暖人の手に短剣を握らせた。

「っ……、ありがとうございますっ、大切にしますっ」

 ぎゅっと短剣を抱き締める暖人に、フィンレーも嬉しそうに頬を緩めた。


(ミスリル……存在した……)

 元の世界でミスリルといえば色々な設定があったが、この世界では、特別な鉱山でしか採れない希少価値の高い金属という扱いがしっくりくる気がした。
 中でもドワーフが打った物は、軽くて頑丈な武器になる。

(しっかりしてるのに、軽い……)

 全て金属で出来た重い肉叩きのように、絶対に折れない信頼感のある掴み心地。それなのに、ステンレスの果物ナイフよりも軽い。
 この軽さは、素早さが武器のエルフにはぴったりだろう。
 
 ウィリアムたちはミスリルを知らない様子。エルフの手記にも載っていなかったのだろう。
 確かにこんなものがあると知れれば、攻め入る国もあるかもしれない。エルフも話す事を選んでいるのだ。

 オスカーは短剣を見つめながら、暖人の頭をポンポンと撫でる。

「魔除けか。いい物を貰ったな」
「扱いには充分気を付けるようにね」
「はいっ」

 ウィリアムとオスカーがすんなりと許してくれて、暖人は驚きながらも嬉しそうに頷いた。


 ……本当は、刃物など持たせたくないが。
 二人は内心でそっと息を吐いた。
 だが、暖人は料理包丁を器用に扱える。それもこの短剣より大きなものを。
 心配な事に変わりはないが、暖人にとってこれは扱い慣れた武器かもしれない。

 ……出来れば、これを使わなければならないような機会は、与えたくないが。


 暖人の隣で、涼佑も剣を覗き込む。
 月の光を弾く雪のように、静かに輝く鞘。そこには、元の世界で見たことのないような美しい模様が掘られていた。

「繊細な彫刻だね。レアアイテムの宝剣みたい」
「っ……、確かに……」
「SSRアイテム、エルフ族の宝剣」
「確かにっ」

 暖人はぷるぷると震えた。鞄に入れようにも、水筒とぶつかりそうだ。

「中身こっちに入れるよ」
「いいの?」
「うん。はるのバッグの方がふわふわだし」
「ありがとう、涼佑」

 水筒とクッキーを涼佑に渡し、激レアアイテムをそっと鞄へと入れた。

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