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青の騎士団、談話室

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 隣に位置する青の騎士団の部屋は、深い海の色をした壁紙に、濃い緑の観葉植物が置かれていた。
 バーカウンターやビリヤード台もあるが、飾られた絵画は少なく、代わりに本棚の数が赤の部屋の倍以上あった。


 オスカーに連れられ部屋に入ると、皆敬礼したまま唖然として動きを止めた。

「お……オスカー団長の、お子で……?」
「そうだ」
「っ!?」

 皆声もなく叫ぶ。
 髪色は青に染めているが、顔も体格も似ていないのに何故と暖人はるとは思う。だが、オスカーが連れて来て肩に手を添えているだけで親しい間柄だと思うのだろう。
 親しい、つまり、肉親、子供、と。

 彼らの前では冗談を言わないオスカーの言葉をそのまま信じた可哀想な騎士たちは、あのオスカー団長が、婚外子を……ウィリアム団長じゃあるまいし……と言うに言えずにただ震えた。
 暖人がオスカーを見上げると、愉しそうな顔をしている。

「オスカーさん、冗談を言うならちゃんと訂正もしてくださいよ」
「冗談には訂正が必要なのか」
「知らないふりは無理があります」

 そう言うと、オスカーはまた愉しげに口の端を上げた。
 赤の騎士団と違い、こちらでは囲まれずに適度な距離を保ってくれている。暖人は戸惑う事なくペコリと頭を下げた。


「申し訳ありません。子供ではなく、オスカーさんにいつもお世話になっています、暖人と申します」

 その自己紹介では関係性が何一つ伝わらない。だが騎士たちは息を呑んだ。

「あっ、あなたがっ……」
「オスカー団長に長期休暇を取らせた、伝説のお方っ……」

 いつの間に伝説に。暖人は頬を引きつらせた。そこまで長期休暇を取らなかったオスカーにも驚きだ。

「しかし、まさか……団長に今まで浮いた話がなかったのは、少年趣……」
「すみません。俺は成人済みです」

 この世界では、だが。

「っ……、失礼しました!」

 未成年と勘違いした事もだが、その隣で睨み付けるオスカーの視線に縮み上がった。

「コイツは俺の婚約者だからな。手を出したら、……分かってるな?」
「こっ……!!」

 皆一様に固まり、すぐに慌てふためき、混乱のあまり頷くどころかビシッと敬礼をした。

「オスカーさん、婚約者って」
「事実上そうだろ」
「でもまだ、恋人になったばかりですし……」
は、そういう意味だと思っているが?」
「っ……」

 チャリ、とネックレスを見せられ、カァ……と頬を染める暖人に、オスカーは愛しげに目を細める。しっかりと腰を抱いて。


 我らの見ているものは現実か……。
 あのオスカー団長が……。
 団長が、腰に手を……。
 贈られたと思われるネックレスを見せつける、など……。

 赤くなったり青くなったり、騎士達は身動きも取れずに震えた。

「オスカーさん、変な空気になっちゃったじゃないですか」
「ああ、悪かった。お前は俺のものだとしっかり釘を刺しておきたくてな」
「そんな事しなくても、俺はオスカーさんみたいにモテませんから」
「お前はそうだから心配なんだ」

 悪かった。
 俺のもの。
 釘を刺す。
 心配。

 もうどれもパワーワード。
 薄く笑みを浮かべて腰に手を添えているところも、もう。


「お見苦しいところをお見せしてすみません。友人の涼佑りょうすけを捜索していただいたことで、皆様には大変お世話になりました。こちら、心ばかりですが……」

 そう言い、サンプル用の箱を開けて見せる。
 本当は、以前ラスに貰った女神の祝福を使ったクッキーを贈りたかったのだが、あれは希少で滅多に入荷しないという。
 代わりに妖精の微笑みを使ったクッキーと、蒼天の潮風を使った煎餅のような菓子を選んだ。どちらも希少で高価な材料だ。

 それから、そのどちらにも合うシンプルな香りと味わいの、夏向けの爽やかな茶葉を添えて。
 海のように澄んだ青色の缶とブランドロゴがお洒落で、見た目にも美しい。赤の騎士団には熟れた果実のような赤色の缶にした。

「こんなに高価なものを、よろしいのですか……?」
「はい。皆様には大変お世話になりましたので、受け取っていただけたら嬉しいです」

 ふわりと暖かな笑みに、皆ほわりとした気持ちになる。オスカーを射止めた理由が分かる気がした。
 一人一人に用意された菓子と茶葉。貴族の彼らには大きな額ではないが、子供にしか見えない彼が自ら用意したらしいそれに、騎士たちは感涙すらしそうだった。

「ありがたく頂戴いたしますっ……」
「団長を……団長を、よろしくお願いします……」

 ようやく団長にも春が、と皆そっと目頭を押さえる。

「はい、あの、ありがとうございます。オスカーさんの恋人の名に恥じないよう、頑張ります」
「っ、けなげっ……」
「まさかこんなに健気で優しげで愛らしい方が団長のっ……」

(メルヴィルさんと同じこと言うんだなぁ……)

 ちらりと端にいるメルヴィルを見ると、皆の前で見せつけるように暖人の腰を抱くオスカーに呆れた顔をしていた。


 そんなメルヴィルも、騎士たちも、誰も嫌な顔をせずにオスカーの恋人として受け入れてくれる。嬉しくて、ついオスカーの手をぎゅっと握った。

「みなさんとても優しいですね。俺、オスカーさんの恋人として認めて貰えて、嬉しいです」

 オスカーを見上げ笑うと、オスカーもそっと目を細める。そして。

「団、っ!?」

 ちゅ、と暖人の唇へと触れるだけのキスをしたその光景に、皆、顎が外れそうな程に驚いた。

「っ、オスカーさん!!」
「どうした?」
「時と場所というものをですねっ……」

 顔を真っ赤にして怒る暖人に、あの団長に説教出来るお人が……と騎士たちは固まったままで感動するやら驚愕するやら。

「団長がここまでベタ惚れとは、あまりに滑稽ですねっ」

 メルヴィルだけは、骨抜きではありませんか、と愉しげに笑っていた。

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