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一泊二日6
しおりを挟む一睡も出来ませんでした。
という事もなく、ぐっすりと眠ってしまった自分は結構図太いのかもしれない。優斗はパチリと目を開けた。
朝から露天風呂という贅沢。
朝焼けを見ながら入りたくて、優斗は早朝からこっそり布団を抜け出した。
隆晴を起こすのは申し訳なくて……と思ったのだが、明け始めた空があまりに綺麗で、隆晴にも見せたいと思った。
そっと部屋を覗くと隆晴はもう起きていて、優斗を見て驚いた顔をした。
一度くらい独りでゆっくり入りたいかと思い寝たふりをしていたのだが、綺麗なものを共有したいと思ってくれた事が嬉しい。とは言葉にはせずに、朝焼けが綺麗ですよと笑う優斗の誘いにただ応じたふりをした。
一泊二日の旅行はあっと言う間だった。
駅で解散かと思えば、家まで送る、と隆晴はマンションの方へと脚を向けた。
優斗も名残惜しいと思っていたのでありがたく送って貰い、それでもあっと言う間に時間が経ってしまった。
中でお茶でも、と言う優斗に、離れがたくなるからとマンションの下で脚を止めた。
「二日間、ありがとな。楽しかった」
「いえ、こちらこそありがとうございました。とっても楽しかったです」
優斗が笑うと隆晴は愛しげに目を細める。そして周囲を窺うと、優斗の髪にそっとキスをした。
「じゃあな」
「っ……、はい。……あっ、あの」
「ん?」
「その、お礼になるか、分かりませんが……、というか、ならないとは思いますが……」
周囲を窺い、背伸びをすると、チュッと隆晴の頬にキスをした。
「っ……」
「すみません」
目を見開く隆晴に、先回りで謝る。これがお礼になるとは自意識過剰も甚だしいかもしれない。
お礼にならなくても、気持ち悪いと思われてなければいいな……。
そっと視線を上げると、隆晴は、はーー……、と息を吐いた。
「もう付き合おうぜ?」
「え、っと……前向きに検討しております……」
「本当に、まだ検討中?」
「……もう少しだけ、……心の準備をさせてください」
心の準備。と、いう事は。
「分かった。待ってるな」
「はい、すみませ、っ……」
チュッ、と目元にキスをされて、間近でぶつかる視線。
一気に頬を赤くした優斗の頭を、隆晴はポンポンと撫でる。
「また学校でな」
そう言って去っていく後ろ姿を見つめ、優斗は片手で顔を覆った。
――……駄目だ、心臓がもたない……。
次の予定は、冬。
紅葉は日帰りで見に行く事にした。
冬の旅行までに耐性をつけておかなければ、本当に心臓が止まってしまうかもしれない。
ますます格好良くなる隆晴に、どう耐性をつけて良いか分からないが。
深く息を吐き、秋風で頬の熱をしっかりと冷ましてから、マンションの玄関をくぐった。
帰宅後、マンションで待っていた直柾に突然抱き締められ「今度は俺と一緒に海外旅行に行こうね。絶対、約束だよ」と拗ねられてしまった。
帰宅した母と正輝に見られても直柾は離れずに。仲良しね、と母は微笑ましく笑い、正輝は、優くんがいなくて寂しかったんだね、とこちらも微笑ましく見つめた。
そしてその日、初めて直柾が泊まる事になった。
両親共に大喜びだったのだが、……拗ねたままの直柾に、優斗は抱き枕のごとく抱き締められて夜を明かしたのだった。
悪女、という単語が脳裏を何度もよぎった。でも、だって、拗ねた直柾さんが可愛かったから。優斗は心の中でそんな言い訳をした。
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