上 下
22 / 37

行動開始2

しおりを挟む

「で、いつなら行けそう?」
「え……っと……でも、……直柾なおまささんが……」
「ああ、気にすんな。話はついてるから」

 あっさりとそう言う隆晴りゅうせいに、そういえばこの間直柾さんが言っていたな、と優斗ゆうとは思い出す。

「来週か再来週の土日は?」
「土日……どっちも大丈夫です」
「じゃ、来週の土日な」
「はい」

 と答えて、優斗はハッとする。
 押し切られてしまった。というより、直柾の事以外には特に断る理由がなくて。

 ――昔から、先輩と旅行とかしてみたかったしな……。

 密かに憧れていた。
 それに隆晴なら、直柾のように優斗の体を当然のように洗い出したりはしないだろう。

 考え込む優斗の隣で、隆晴は宿のページをスクロールする。
 来週の土日は、直柾は地方で映画の舞台挨拶がある。検索をすればすぐに彼の予定表が出てきた。有名人はこういう時に便利だ。
 もし優斗か直柾が三人一緒にと言い出した時の対策も万全だった。


「予約した」
「えっ、もうですか?」
「善は急げって言うだろ?」

 急ぐにしても早いです、と優斗は笑う。
 そしてそこで、大事な事に気付いた。

 今月のお小遣いはまだほとんど残っているが、出来ればあまり手を付けずに後々返却したいと考えている。
 アルバイトが出来れば良いのだが、母と正樹からはせめて一年は何もせずに家でゆっくりして欲しいと、もはや懇願されている状態だった。

 家に帰って、一度今月の支出を計算し直したい。

「すみません、お金、当日で大丈夫ですか?」
「いや、俺のオゴリ」
「……へ?」
「ふ、間抜けな顔」

 隆晴は笑って優斗の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「え、あの、それはさすがに……」

 チラッとしか見えなかったが、かなりお高い宿だった。

「おとなしく奢られてろって。デート代出すのって、一度やってみたかったんだよ」
「で、デート……」
「恋人って今までいなかったし」
「それに関しては未だに信じられないですけど」

 まだそう主張する優斗に苦笑する。これに関してはどうあっても信じてくれないようだ。
 確かに、優斗に出逢う前は恋人未満という相手がいた事は何度かある。ただ、デートだ何だという甘い関係ではなかった。

「俺の最初の恋人、お前だから」
「責任重大です……」
「だな。だから、俺に彼氏面させる責任があるだろ?」
「あははっ、なんですかそれ」

 つい吹き出した優斗に、隆晴も愉しげに目を細めた。

「じゃあ、すみません。お言葉に甘えます。ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる礼儀正しい優斗を、またわしゃわしゃと撫でる。何だかまた犬扱いだな、と少し嬉しくなってしまった。


「……あっ、ということは、泊まりです……よね……?」
「だな。襲うかも」
「っ……」
「なわけねぇだろ。そのつもりなら、もうしてる」
「そ、……です、か……」

 顔を真っ赤にする優斗にクスリと笑う。
 襲うと言われても、この反応。押せばどうにでも出来そうだが、やはり大事にしたい気持ちが勝る。

「自分でも意外なんだけどさ、抱きたいってより、お前が笑ってる顔見る方が好きなんだわ」
「…………あり、がとうございます……」
「普通にゆったりしようぜ」
「はい……」

 好き……。優斗は俯いた。
 こんな優しい顔で優しい事を言う。こんなに大事にされている。もう、好きでしかない。

 それなのに、まだどうしてもその先が出来るかが分からなくて。二人きりで旅行という特別な環境になれば、もしかしたら、その答えが出るかもしれない。
 せっかくの機会だしじっくり考えよう、と優斗はそっと息を吐いた。


「紅葉にはまだ早いし、来月はこっちに行くか」

 候補のひとつ、とスマホを見せられる。

「そんな連続で……あっ、でもすごく綺麗ですね」
「だよな。こっちでもいいけど」
「こっちもいいですね……。先輩、いいお宿見つけるの上手ですね」
「お前を連れて行きたい場所って考えたら、自然とな」

 グッ、と息を呑む。恋人仕様の隆晴は、本当に……心臓が止まるかと思った。

「先輩の彼氏力……? が高くて心臓への負荷が……」

 うっ、と優斗は胸を押さえる。

 彼氏力。彼氏。隆晴は一瞬目を見開き、すぐにニヤリと笑った。

「そのまま本気で好きになれよ」
「っ……は、い……いえ、その……」
「優斗」
「は……、っ……」

 俯く優斗を抱き寄せ、首筋にキスをする。そのままきつく吸い上げ、くっきりとした痕を残した。

「っ……! ちょっ……ここ、見える場所っ……」
「残念ながら、ギリギリ隠れるんだよな」

 髪で隠れる場所だ。
 奇しくも直柾が付けたのとは真逆になる場所。どうしてこの二人はこう気が合わないようで合うのか。

 と思っている間に、今度は服で隠れる肩の近くにチクリとした痛みが走る。それも、二ヶ所も。

「紅葉メインだと、もう一個候補あるんだよな。時間あるしあっちで決めようぜ」

 何事もなかったかのように優斗の服を正し、話を再開する。まだ、しっかりと抱き締めたままで。

 服の上から痕をなぞられ、ビクッと体を跳ねさせて、ばかっ! と隆晴の胸を叩いた。ばかっ、信じられないっ。

 隆晴にはもう、それすらも可愛いだけでしかなく、やっぱ早く恋人になりてぇ……と優斗を腕の中に閉じ込めてそっと息を吐いたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...