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第27話 tuning:復讐者 ソマ
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西統紀元1989年、アルビオ連邦・ヴェスプティア連合軍(フルグ共和國も含む)はエーステライヒに勝利した。
戦死者・行方不明者は民間人を含めると1,330万人と言われる。
その内、オーダーメイド・チュニックによる死亡者は およそ250万人。
そして戦後の統計によると、その12倍の後遺症患者が生まれたという。
戦後、人権活動団体や当時の議会内部の一部議員らにより、開発者やその薬剤を散布した衛生・化学兵は人道に悖る行為を行った戦犯・外道の者であり、アルビオ連邦の恥部であるとして糾弾されることとなる。
軍刑務所に収監される者、市民からの苛烈な弾圧により自死を選ぶ復員兵が続出。
しかし、アルビオ政府からは衛生・化学兵らに対する恩賞や退役後の年金が支給されることはなかった。
終戦から6年後、ウェストフォレスター議事堂にて・・・。
「おおケイレヴ様、本日は快晴!最高の日和ですなぁ・・・最近はいかがお過ごしか?」
「ええ・・・おかげ様で壮健でございます。今日は陽射しが少し眩しいような気もいたしますが、日頃の運動不足解消にこの後散歩でもしてみようかと考えております」
「おお!それはいい!私もご一緒出来ればとも思いましたが、あいにく暮れ合いにはここを発ってしまわねばなりません」
「おや・・・それは残念」
アルビオ連邦の中央議会が開かれる中、連邦議会議員:シャトー=ケイレヴことソマ=リュオンはスタンリー総督:ジェイコブ・S・コールマンからの辞儀に対して、彼は恭しく応答しながら、手袋ごしに握手を交わす。
「スタンリーに・・・向かわれるのですか?」
「ええ!別邸で会食をせねばならんのですよ。相手は現地部族の長達とのことで・・・」
「それはご心労・・・お察しいたします」
「いえいえ!これも公務ですから。では、失礼いたします」
「スタンリーの別邸か・・・」
議員は懐から通信端末を取り出すと、それを耳元にあてて素早く、しかし明瞭に話をし始めた。
「元東部戦線の指揮官、ジェイコブ・S・コールマンと接触。”例のブツ”を準備しておいてくれ・・・・」
彼はシャツの胸ポケットに端末をしまうと、その手で背広の内ポケットから一枚の写真を取り出し呟いた。
「アリシア・・・報いは必ず」
細く、そして長く息を吐いた後写真を再びポケットに戻すと、左の手袋をゆっくりと外す。
剥き出しとなった、その手は黒光りする金属によって構成されていた。
オーダーメイド・チュニックは、エーステライヒ兵士や國民・國境地帯の人々の命を次々と奪っていった。(國境地帯の住人は混血であることが多かったため)
彼の想い人であったアリシアも例外ではなく、彼は悲嘆に暮れることとなる。
しかし、彼に降りかかった不運はそれだけではなかった。
オーダーメイド・チュニックに不凍化効果のあるものなど、添加された薬剤の中には、人種に関係なく作用する物質も含まれていた。
長期間薬剤に曝されていた彼の左手は壊死してしまっていたのだ。
恋人、自らの左手、そして理不尽な理由から自死を選んでいった兵士たち。
その全ての”決着”をつける、それがソマ=リュオン改めシャトー=ケイレヴが凶行を行う動機となったのだった。
※西統紀元1989年=煌暦2649年
戦死者・行方不明者は民間人を含めると1,330万人と言われる。
その内、オーダーメイド・チュニックによる死亡者は およそ250万人。
そして戦後の統計によると、その12倍の後遺症患者が生まれたという。
戦後、人権活動団体や当時の議会内部の一部議員らにより、開発者やその薬剤を散布した衛生・化学兵は人道に悖る行為を行った戦犯・外道の者であり、アルビオ連邦の恥部であるとして糾弾されることとなる。
軍刑務所に収監される者、市民からの苛烈な弾圧により自死を選ぶ復員兵が続出。
しかし、アルビオ政府からは衛生・化学兵らに対する恩賞や退役後の年金が支給されることはなかった。
終戦から6年後、ウェストフォレスター議事堂にて・・・。
「おおケイレヴ様、本日は快晴!最高の日和ですなぁ・・・最近はいかがお過ごしか?」
「ええ・・・おかげ様で壮健でございます。今日は陽射しが少し眩しいような気もいたしますが、日頃の運動不足解消にこの後散歩でもしてみようかと考えております」
「おお!それはいい!私もご一緒出来ればとも思いましたが、あいにく暮れ合いにはここを発ってしまわねばなりません」
「おや・・・それは残念」
アルビオ連邦の中央議会が開かれる中、連邦議会議員:シャトー=ケイレヴことソマ=リュオンはスタンリー総督:ジェイコブ・S・コールマンからの辞儀に対して、彼は恭しく応答しながら、手袋ごしに握手を交わす。
「スタンリーに・・・向かわれるのですか?」
「ええ!別邸で会食をせねばならんのですよ。相手は現地部族の長達とのことで・・・」
「それはご心労・・・お察しいたします」
「いえいえ!これも公務ですから。では、失礼いたします」
「スタンリーの別邸か・・・」
議員は懐から通信端末を取り出すと、それを耳元にあてて素早く、しかし明瞭に話をし始めた。
「元東部戦線の指揮官、ジェイコブ・S・コールマンと接触。”例のブツ”を準備しておいてくれ・・・・」
彼はシャツの胸ポケットに端末をしまうと、その手で背広の内ポケットから一枚の写真を取り出し呟いた。
「アリシア・・・報いは必ず」
細く、そして長く息を吐いた後写真を再びポケットに戻すと、左の手袋をゆっくりと外す。
剥き出しとなった、その手は黒光りする金属によって構成されていた。
オーダーメイド・チュニックは、エーステライヒ兵士や國民・國境地帯の人々の命を次々と奪っていった。(國境地帯の住人は混血であることが多かったため)
彼の想い人であったアリシアも例外ではなく、彼は悲嘆に暮れることとなる。
しかし、彼に降りかかった不運はそれだけではなかった。
オーダーメイド・チュニックに不凍化効果のあるものなど、添加された薬剤の中には、人種に関係なく作用する物質も含まれていた。
長期間薬剤に曝されていた彼の左手は壊死してしまっていたのだ。
恋人、自らの左手、そして理不尽な理由から自死を選んでいった兵士たち。
その全ての”決着”をつける、それがソマ=リュオン改めシャトー=ケイレヴが凶行を行う動機となったのだった。
※西統紀元1989年=煌暦2649年
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