上 下
7 / 35

第7話 カルト教団 ’’S’’

しおりを挟む
 松野は、打ち倒した男の遺体から鞄を剝ぎ取った。



それは先程の立ち回り、特に刃物の操法が明らかに軍属のものであったからだ。

それもこの國の一般兵卒が用いる基礎的な徒手格闘術を習得したのち、洗練された近接格闘についても鍛錬を積んだような動きであったのだ。



「こいつの身元について早急に確認せねばなるまい」

松野はそう呟くと、‘’戦利品‘’を物色し始めた。



鞄は先程述べた通り 奥行きのある容量が大きいもので、荷物も相当入りそうだ。

中は整頓されており、3日分ほどの包装された戦闘糧食や衣類、旅券・ドーラン(※1)、血に塗れた布切れ、それから数枚の写真が入っているのだった。



そのうちハンカチーフとも手拭いとも分からぬ布切れだけは、クシャクシャに丸められており持ち主が現場でどういう心境であったかをはっきりと物語っていた。

包装物の中には、いくつか硬い感触のするものがあった。



L字型の物体・・・それと円筒状のもの・・・



開封すると、まさしくそれは拳銃と減音器サプレッサーであった。

弾倉マガジンが3本。弾丸は計21発。



銃把グリップに双頭の鷲、現ロマノフ朝(※2)で生産されている小型拳銃フェドロフM1956。

そこらのゴロツキや反社勢力の構成員が所持するものとは違い、表面加工など仕上げも良い‘’純正品‘’のようだ。



「なかなかいいもの持ってるじゃないの・・・」

そう自分で茶化した松野ではあったが、内心焦りを感じていた。



半端者(例えば徒党を組んだアウトロー気取り)などであれば、‘’後処理‘’は容易だ。

場合によっては、反社同士の抗争で受傷したところを発見した、などと官憲に申し出る気でさえあった。



だが、目の前に横たわるコイツは恐らく それなりの規模を持つ組織の尖兵だ。



つづいて中にあった写真を見る。

狩谷睦夫(内務省長官)、佐々木宗弘(国防省政策参与)、佳乃・ルナスキアム・ディアナ(官僚・財務省事務次官)・・・

いずれも國家運営に携わる人物ばかりである。



特に佳乃・ルナスキアム・ディアナ女史は、先日外遊中に不慮の事故により亡くなったとの報道が流れたばかりであった。



この間、先の激闘より2分半。

言い知れぬ不安を憶えた松野であったが、男の襟元に付けられたエボナイト製の徽章バッジを確認するにあたり、その不安は現実のものとなった。



頂上の法輪に下向きの三叉の槍・・・

男は昨今、巷を騒がせるカルト教団‘’S‘’の人間だったのだ・・・



※1:化粧品の一種。軍隊においてフェイスペイントなどに用いられる場合がある。

※2:ロマノフ朝は作中世界において健在である。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...