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第1章 守護神石の導き

第9話 守護神石の秘める力(5)

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翌朝、ソニアは山際から差し込む朝日の眩しさで目を覚ました。目を細めて周りを見ると、二人はまだ寝ているようだった。
ソニアが起き上がり二人に声をかけると、ライアンだけが目を覚ました。

あくびをしながら言う。
「おお、ソニア。おはよう」

「おはよう、ライアン。ティムを起こしてくれますか」

「ああ」と答えると、ライアンは寝呆け眼をこすりながらティムを見た。
「朝のこいつは厄介だぜ。そう簡単にはお目覚めになってくれねえからよ」

ライアンは起き上がると、いきなりティムの尻を力いっぱい蹴り飛ばした。全く手加減をしているようには見えない。ソニアは思わず両手で口を覆う。

するとティムはがばっと上半身を起こすと、思い切り伸びをした。

ソニアが言う。
「おはよう、ティム」

「おはよう、ソニア」とティムは答えたのだろうが、口元でもそもそ言ったのではっきりと聞こえなかった。

「もう朝だぜ。ぼちぼち出発すんぞ」

ライアンが言うと、ティムは勢いよく立ち上がった。今日はいつもより目覚めが良いようだ。

立ち上がりもう一度伸びをすると、ティムは思い出したように言った。
「あ、そうだ。昨日あの後ずっと石を見てたんだけどね、また変化があったんだ。ちょっと見てよ」

「変化だと?」
ライアンが聞く。

「うん」
ティムは袋からサファイアを取り出し、真剣な眼差しで見つめ始めた。すると、サファイアからおぼろげではあるが、青い光が出ているのが分かった。二人がサファイアに触れてみると、サファイアは昨晩よりも明らかに温かくなっていた。

「お前・・・。すげえな」
ライアンが驚いて目を見開く。

「へへへ、まあね!」

ソニアは一つ頷いた。
「どうやら、ちゃんと石と心が通い合えたようですね」

「やったあ!」
ティムは目を輝かせて拳を握った。
「これで俺も魔法使いだぜ!ウヒョヒョヒョ・・・」

「いえ、まだまだですよ。まだ魔法習得のスタート地点に立っただけに過ぎません」

「ええ、まだ何かあるの?嫌だなあ」

「嫌嫌言ってたら、魔法は使えるようにならないですよ。また今晩次のことを教えます」

「はあい」

ティムの力の無い返事を聞きながら、横にいるライアンは更に輪をかけて力の無い声で言った。
「まだスタート地点にも立ててない俺って一体・・・」




しかし、三人がヘーゼルガルドを目指して歩き始めてから三日が経った日のことである。

「おお!ティッ・・・ティム!ソニア!」

夕飯を食べ終えてごろごろしていたティムと、もぐもぐとグリュエルを食べ続けていたソニアの二人は、突拍子もなく叫んだライアンを見やった。

「ライアン、どうしたんだ?ケツにほくろでも見つけたのかい?」

ティムがあくび混じりにそう尋ねると、ライアンは「ほら、これ見てみろよ!」と言って、持っているルビーを突き出した。

ルビーは焚火の明かりで霞んでしまう程微弱ではあったが、真っ赤な光を確かに放っていた。

「やっと光ったぜ!」
ライアンは顔を輝かせる。

ソニアは軽く拍手をして、ライアンをねぎらう。
「ライアン、良かったですね!」

一方ティムは、「あちゃー、光っちゃったか」とおどけた口調で悔しがった。

ティムがサファイアと共鳴し合うことができるようになってから、もう四日。その間ティムはソニアの指導の下、ライアンとは別メニューで本格的な魔法の特訓をしていたのだが、ライアンは全く共鳴ができないままだった。だからティムは、ライアンに魔法は永遠に使えないと言ってからかっていたのだ。

「へっ!どうだ!ざまあみやがれ!」
ライアンが得意げにルビーをティムの顔の前に突きつける。

ソニアは言った。
「何はともあれ、これで二人一緒に練習ができますね」

ソニアがようやく夕飯を食べ終わると、三人は早速魔法の特訓を始めた。夕飯後の魔法の特訓は習慣になりつつある。

「さて、ライアンが共鳴に成功したので、これからは二人で実践的な魔法の練習をしていきましょう」

「合点承知だぜ!」
ライアンは歯を見せてこぶしを握った。

「じゃあ、まずティム。ライアンに特訓の成果をまず見せてください」

「えーと、どうすればいいの?」

「何か魔法を使ってみてください」

「オッケー」

ティムは頷くと両手を地面に置いた。目を閉じて気持ちを集中させる。
その様子をライアンは固唾を飲みながら見つめている。

「風よ、吹け!」とティムはおもむろに言い放った。
その後は辺り一帯を静けさが支配した。

「・・・何も起こらねえな」
数秒待っても何も変化が現れないため、ライアンは怪訝そうな顔で言った。

ソニアは地面に落ちている葉っぱを拾い上げ、掌の上に乗せた。するとその葉っぱはゆらゆらと空中を踊ると、舞い落ちていった。

「おお」
ライアンは声を漏らした。

微弱な風。単なる自然現象の風かもしれない。でももしティムが起こした風なら、それは紛れもなく魔法ということになる。

「っはー!」
ティムは大きく息を吐いた。姿勢をくずし楽な体勢になる。

「ティム、全然風を感じませんよ。昨日の方がもっと風が吹いていました」
ソニアが落ち着いた声でぴしゃりと言う。
「もっと気を集中させないと。散漫だと風が一か所に集まりませんよ」

「うー、また同じ練習を続けていくか」
ティムは頭を掻いた。

「これが魔法か」
ライアンはごくりと唾を飲み込む。

ティムが照れくさそうに手を振る。
「いやいや、こんなのまだ魔法って程じゃないよ」

「そうですね。これではただの一発芸にもなりませんね」
ソニアがさらりと言うと、ティムは「ぐはあ・・・」とうなだれた。

ソニアがパンパンと手を鳴らす。
「はい、じゃあ気を取り直して特訓に入りましょう!ティムは引き続きひたすら風を吹かせる練習を。ライアンは・・・まずは、魔法を使うイメージトレーニングからやりましょうか」

「はーい・・・」ティムは心折られ、力なく返事。ライアンも思わずたじろいで「お、おう」と答えた。

ティムとライアンは少し間を置いて並んで座り、二人に向かい合うようにして、ソニアが立った。

まずティムを一人で練習させ、ソニアはライアンに説明を始めた。

「ティムの持つサファイアは風の守護神石ですが、ライアンの持つルビーは炎の守護神石です。ルビーを持っているライアンは、炎の魔法を操ることができます」

「俺でも魔法が使えるのか。まだ信じがたい話だぜ」

「勿論、練習次第ですが。既に共鳴は完全ではないにしろ形にはなってきているので、実践的な練習をやっていきましょう」

「今ティムがやっているあれか?」

「まあ、そうです。でもいきなりやってもできないと思うので、まずはイメージトレーニングからやりましょうか」
そう言うとソニアはライアンの前に座り込んだ。
「この世界―エルゼリアは十二の神々によって生み出されました。炎の神ヒース・ムーアは、その十二の神の一つです」

ソニアは人差し指を立てて見せた。
「エルゼリアには火や熱の要素でいっぱいです。照りつける太陽の熱さ、焚火の炎、枝を木板に擦り合わせると、摩擦熱が発生します。これらはみんな炎の神ヒース・ムーアが生み出したものです」

ライアンはすぐ横で燃える焚火を見た。
「この焚火もルビーに宿る神様が作ったってことだな」

「そうです。そしてライアン、今あなたはそのルビーを持っている訳です。だから、そのルビーの力を使えば、炎を自在に操ることができるはずです」

「できるはずなんだけどねえ」
ライアンが気の抜けた声を上げる。

「ちゃんと修行を積めばできるようになりますよ。私なんかは石の力を使わずに、一から修行をして魔法を習得したんですからね」
ソニアは気持ち胸を張ってみせた。

「ソニアちゃんはすげえよなあ」

「石がある状態から始めるのと無い状態から始めるのでは、習得の速さに天と地程差が出るんですよ。私の場合、実戦で使えるレベルの魔法が使えるようになるまで一年半かかりました」

「へえ」

「石があるライアンさんの場合は、一週間もあれば大丈夫でしょう」

「いっ・・・」
ライアンは息を飲んだ。
「いやいやソニアちゃん、いくらなんでもそれは・・・」

ソニアは立ち上がりざまに言った。
「とにかく挑戦してみましょう。何も無い所からいきなり火を生み出すことはまだ難しいと思うので、まずはそこの焚火の火を動かすことから始めましょう」

「え?ど、どうやって?」

「共鳴と同じ感覚です。ルビーと心を一つにして、念じるんですよ。その念を言葉に表せば、炎を操ることができます」

「なるほどな。意外と簡単そうだな」




そして、夜が更けた。ソニアはもうぐっすり寝静まっている。

「全然できねえ!」
焚火と長い間睨めっこしていたライアンは、しびれを切らして喚いた。手に握りしめていたルビーを投げ出し、仰向けに倒れこむ。

「どうした、ライアン。諦めんの?」
少し離れて、きりかぶに座って練習をしていたティムが言う。

「ずっと念じてるのに、焚火の火がピクリとも動かねえよ」
ライアンは腰を上げて、弱音を吐く。
「本当に魔法なんて使えるようになるのか?」

「なるでしょ。俺は何となくコツが掴めてきてるし」

「お前、もう実践練習始めてから今日で三日だっけ」

「うん」

「そうだよなあ」
ライアンは両手を頭の後ろで組んだ。
「三日でようやくコツが掴めるのに、今日いきなりできるようになる訳無えかあ」

「俺だって最初は何もできなかったからな。まだヘーゼルガルドまで三、四日くらいはかかるし、それまでにある程度はできるようになってるんじゃない?」

「うーん、そうなればいいけどな」

共鳴にすらかなり手こずったライアンは、不安な気持ちでいっぱいだった。
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