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第1章 守護神石の導き
第2話 決断、そして旅立ち(2)
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一通り話し終わると、ハグルは一息吐いて紅茶をすすった。
「少し駆け足じゃったが、とりあえず話は終わりじゃ。基本的にはエルゼリア史について話したわけじゃが、一応お前の質問に対する回答にもなったかのお」
「うーん、要するに守護神石っていうのは、魔族によって石に変えられちゃった神様・・・ってこと?」
「うむ。その解釈で問題なかろう」
「この石は、確かサファイアっていったっけ。これはどの神様なの?」
「サファイアは風の神ブッフェローンの化身じゃ。他の十一の石についても教えてやろうか?」
「いや、いい。どうせ覚えきれないから。ところで石になっちゃったとはいえ、神様なんだよね?何か石に特別な力はないの?」
「それなんじゃがな、実はわしもよくわからんのじゃよ。持ち続けていると魔法が使えるようになるだとか不老不死になるだとか言われてはいるが、どれも噂の域を出ん。そもそも滅多にお目にかかれる物ではないからのお。どんな力があるか、知りたいと思っても限界があるわな」
「へえ、ハグルにも知らないことがあるんだね」
「ほっほっほ、知らないことなんぞいくらでもあるぞ」
ハグルは目を細めて、宙を見つめた。
「まあ、十二守護神が石になってしまった時、わしはもう五十を過ぎておったからのお。もう少し若けりゃ好奇心が漲って、守護神石について研究する旅に出ていたかもしれんな」
「ああ、そうか」
ティムは手をぽんと叩いた。
「今が一○八六年でハグルは八十一歳だから、ハグルはエルフとハビリスの戦争を最初から最後まで経験しているんだね」
「いかにも。わしが生まれてすぐに戦争が始まったんじゃ」
「じゃあハグルは兵士として戦争に参加した?」
「ああ、もちろんじゃ。青年時代の大部分は軍隊で過ごした」
「やっぱり辛かった?」
「当然辛いことは多かった。エルフの強力な魔法を食らって、全身焼けただれて、生死の狭間を彷徨ったこともある。だが辛いことばかりではない。辛い中でも色んな出会いがあった。広い世界を目にすることで、見識が深まった」
「そうなんだ」
思えば、ハグルとこんな真面目な話をするのは久しぶりだ。しかもこんなにたくさんハグルの過去に関する話を聞くのは初めてである。
「戦争って五十年近く続いたんだよね。何でそんなに長引いちゃったの?」
「色々な理由があるが、恐らく一番の理由は両者の戦法があまりにも異なっていたからじゃな。エルフはとにかく魔力が高い種族でな。基本的な戦法は、遠くから集団で強力な魔法をブチ込むというものじゃった。一方ハビリスは剣技に非常に長けておった。基本的な戦法は、馬に乗って突っ込み接近戦に持ち込むというもの。この両軍の全く異なる戦法が、逆に均衡状態を生み出し、戦争が泥沼化したんじゃ」
「ふーん。それで、最終的にハビリスが勝った決め手は何だったの?」
「何じゃ、今度はエルフとの戦争の話に興味が湧いたのか?」
ハグルが呆れたように笑ったが、その後答えた。
「決め手は・・・月並みな表現になってしまうが、やはりハビリスの方に武運があったとしか言いようがない。ただハビリスは戦争の終盤、従来の剣技だけに焦点を置く戦法からエルフのような魔法も積極的に使う戦法に方向転換した。一方のエルフは、最後まで魔法ばかり使っていたがのお。もしかしたらそのあたりが勝敗を分けた要因なのかもしれん。いずれにしても、ハビリスの方に武運があったのは間違いない」
「魔法かあ」
魔法と言われても、ティムにはピンとこない。魔法なんて見たこともなければ、そもそも魔法が使える人が本当にいるのかどうかも知らなかった。
「ちなみにハグルは魔法を使えるの?」
「使えるのなら、とっくにお前たちに見せておるよ」
「なーんだ、使えないのかあ」
ティムががっかりした顔をする。
そんなティムを見てハグルは微笑した。
「実は、若い頃少しではあるが使えたこともある。しかしもう忘れてしまったよ。それにわしは魔法のセンスがなかったみたいでなあ。簡単な魔法を使うのにも、とんでもない体力を消耗した。戦いの最中に使えるレベルではとてもなかったわい」
「へえー、そうなんだ」
「じゃあ、そろそろ話を戻そうか。守護神石にどんな力があるかの話じゃったな」
ハグルが一つ咳払いを入れた。
「さっきも言った通り、よく分からんことは多い。ただ一つ間違いなく言えることは、これは意思を持っておるということじゃ」
「意思?」
ティムが首を傾げる。
「ああ、そうじゃ。わしら人間と同じようにな」
ハグルは紅茶をすすりながら続ける。
「もちろん意思があるとはいえ、これは石じゃ。勝手に動き回ることはない。だがどうやら自身の運命を操る力はあるようでなあ。守護神石がどこに行き誰の手に渡るかというのは、ある程度その守護神石の判断が入っているようじゃ。わしが十五年前にボヘミアンからサファイアを受け取ったこと、そして今それをお前が受け取ろうしているのも、サファイアの意思なのかもしれんな」
ティムはただ黙ってハグルの話に聞き入った。
ハグルは続ける。
「これから始まるお前の旅路がどのようなものになるのか、それは誰にも分からん。だが少なくともお前は、この石、サファイアには認められているということじゃ」
しかし、ティムはどうも合点がいかないように言う。
「そんなこと言われてもねえ。だって親父も同じ立場だったのに、死んじゃったんだろ?」
ハグルは喉を鳴らして唸ると言った。
「あいつに一体何があったのか。結局それは分からず終いじゃ。だがあいつも、少なくともサファイアには認められていたはずなんじゃ」
「うーん、過酷な旅になりそうだなあ・・・」
「当然じゃ。だからお前はけして一人で戦うんでないぞ。お前の父親は恐らく一人で戦っていた。その結果が死じゃ。お前はけして親父の二の舞を踏むな。旅先で同じ志を持つ仲間を探すのじゃ。そうすればあらゆる障害も乗り越えていけるだろう」
「分かったよ」
「おっと、そうじゃ。すっかり忘れておった」
ハグルが、紅茶を飲もうとしていた手を止める。
「実は、お前の旅の仲間を一人見つけておいた」
「本当に?」
突然の吉報にティムは驚いた。
「誰?」
「ライアンじゃ」
そう言ってハグルはにっこりと微笑んだ。
ライアンとは、隣村のカーネギーに住むティムの幼馴染の青年である。
お互い自分の村に同年代の友達がいなかった二人は、物心ついた時からよく一緒に遊ぶ親友同士だった。ライアンは幼い頃から正義感が異常に強かったから、ライアンが魔族退治の旅に出るというのは特に驚く話でもなかった。
「良かった!ライアンが来てくれるなら、これ以上のことはないよ」
ティムの声が弾む。正直なところ、一人で旅をするのは心細かったからなおさらだ。
「だが、ずっと一緒に旅をすることはできないようなんじゃ」
ハグルは先程飲みかけていた紅茶をすすった。
「あいつの目的は、お前のように魔族を倒すことではない。あいつの目的は、ヘーゼルガルドの兵士になることじゃ。だからお前と一緒にいることができるのも、ヘーゼルガルドまでということになる」
「何だ、そうなのか」
ヘーゼルガルドとは、この近辺の地域一帯を統治しているエルゼリアの王家の一つである。父親がヘーゼルガルドの兵士長であるためか、ライアンは幼い頃から兵士になることを夢見ていた。
ティムはライアンから父親の話やヘーゼルガルドの話をいつも聞かされていたから、そのことはよく知っていた。なのにそれを忘れて共に最後まで旅ができると思っていたティムは、少しがっかりした気持ちになった。
「ヘーゼルガルドは立派な王国じゃ。守護神石の一つや二つあっても全くおかしくはない。お前にとっても行く価値のある所というわけじゃ」
「なるほどねえ」
まるで他人事のようにティムが相槌を打つ。
ハグルはテーブルに身を乗り出した。
「途中までしか同行できないとはいえ、慣れない旅の序盤に仲間がいるのは心強いことじゃ。まずは一緒にヘーゼルガルドを目指してみたらどうかな?」
すぐにティムが頷く。
「もちろん。大歓迎さ」
「決まりじゃな」
ハグルも満足げに頷いた。
「他に聞きたいことがなければ、今日はこのへんでお開きにしようか。ライアンとは明日の朝カーネギーで落ち合え。ライアンにもそう伝えてある」
「ちょっと待って」
席を離れようとするハグルをティムが制止する。
「守護神石を十二個全部揃えたらどうすればいいの?」
「おおっと、まだそれは説明していなかったのお」
ハグルは、苦笑いを浮かべながら座り直した。
「全部揃えたら、その時は十二守護神殿に行け。そして守護神石を祭壇に置くのじゃ。そうすれば神々は力を取り戻す」
「なるほどね」
ティムは更に続けた。
「あの、もう一ついい?これは質問じゃなくて、お願いになるんだけど」
「何じゃ?」
「ヤギの世話を誰かに頼んでほしいんだ」
「ああ、それは抜かりないぞ。鍛冶屋のアーニーが引き取ってくれるそうじゃ。息子をヤギ飼いにさせたいようでなあ。喜んで面倒を見させてもらうとのことじゃ」
「そうなんだ、それなら良かったよ」
そう微笑むと、ティムは立ち上がった。
「じゃあ仕事もあるし、そろそろ行くよ。明日の朝には村を発つ」
するとハグルは一瞬寂しげな表情をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「わかった。準備を怠るでないぞ。分からないことがあったら、また聞きに来るが良い」
「うん、ありがとう。じゃあまた明日」
そう言い残すと、ティムはハグルの家を後にした。
正直なところ、分からないことばかりだ。守護神石を探すためには何をすればいいのか?ヘーゼルガルドのような王国はどんな場所なのか?エルフやドワーフ、ホビットはどんな種族なのか?上位の魔族とはどんなものか?守護神殿はどこか?
しかしティムはそこで質問をやめた。ティムは知っていたからだ。旅を続けていればそれらは自ずと明らかになっていくことを。今ハグルに質問をするより、ティムは自分の力ですべてを知るべきだと思ったのだ。
「少し駆け足じゃったが、とりあえず話は終わりじゃ。基本的にはエルゼリア史について話したわけじゃが、一応お前の質問に対する回答にもなったかのお」
「うーん、要するに守護神石っていうのは、魔族によって石に変えられちゃった神様・・・ってこと?」
「うむ。その解釈で問題なかろう」
「この石は、確かサファイアっていったっけ。これはどの神様なの?」
「サファイアは風の神ブッフェローンの化身じゃ。他の十一の石についても教えてやろうか?」
「いや、いい。どうせ覚えきれないから。ところで石になっちゃったとはいえ、神様なんだよね?何か石に特別な力はないの?」
「それなんじゃがな、実はわしもよくわからんのじゃよ。持ち続けていると魔法が使えるようになるだとか不老不死になるだとか言われてはいるが、どれも噂の域を出ん。そもそも滅多にお目にかかれる物ではないからのお。どんな力があるか、知りたいと思っても限界があるわな」
「へえ、ハグルにも知らないことがあるんだね」
「ほっほっほ、知らないことなんぞいくらでもあるぞ」
ハグルは目を細めて、宙を見つめた。
「まあ、十二守護神が石になってしまった時、わしはもう五十を過ぎておったからのお。もう少し若けりゃ好奇心が漲って、守護神石について研究する旅に出ていたかもしれんな」
「ああ、そうか」
ティムは手をぽんと叩いた。
「今が一○八六年でハグルは八十一歳だから、ハグルはエルフとハビリスの戦争を最初から最後まで経験しているんだね」
「いかにも。わしが生まれてすぐに戦争が始まったんじゃ」
「じゃあハグルは兵士として戦争に参加した?」
「ああ、もちろんじゃ。青年時代の大部分は軍隊で過ごした」
「やっぱり辛かった?」
「当然辛いことは多かった。エルフの強力な魔法を食らって、全身焼けただれて、生死の狭間を彷徨ったこともある。だが辛いことばかりではない。辛い中でも色んな出会いがあった。広い世界を目にすることで、見識が深まった」
「そうなんだ」
思えば、ハグルとこんな真面目な話をするのは久しぶりだ。しかもこんなにたくさんハグルの過去に関する話を聞くのは初めてである。
「戦争って五十年近く続いたんだよね。何でそんなに長引いちゃったの?」
「色々な理由があるが、恐らく一番の理由は両者の戦法があまりにも異なっていたからじゃな。エルフはとにかく魔力が高い種族でな。基本的な戦法は、遠くから集団で強力な魔法をブチ込むというものじゃった。一方ハビリスは剣技に非常に長けておった。基本的な戦法は、馬に乗って突っ込み接近戦に持ち込むというもの。この両軍の全く異なる戦法が、逆に均衡状態を生み出し、戦争が泥沼化したんじゃ」
「ふーん。それで、最終的にハビリスが勝った決め手は何だったの?」
「何じゃ、今度はエルフとの戦争の話に興味が湧いたのか?」
ハグルが呆れたように笑ったが、その後答えた。
「決め手は・・・月並みな表現になってしまうが、やはりハビリスの方に武運があったとしか言いようがない。ただハビリスは戦争の終盤、従来の剣技だけに焦点を置く戦法からエルフのような魔法も積極的に使う戦法に方向転換した。一方のエルフは、最後まで魔法ばかり使っていたがのお。もしかしたらそのあたりが勝敗を分けた要因なのかもしれん。いずれにしても、ハビリスの方に武運があったのは間違いない」
「魔法かあ」
魔法と言われても、ティムにはピンとこない。魔法なんて見たこともなければ、そもそも魔法が使える人が本当にいるのかどうかも知らなかった。
「ちなみにハグルは魔法を使えるの?」
「使えるのなら、とっくにお前たちに見せておるよ」
「なーんだ、使えないのかあ」
ティムががっかりした顔をする。
そんなティムを見てハグルは微笑した。
「実は、若い頃少しではあるが使えたこともある。しかしもう忘れてしまったよ。それにわしは魔法のセンスがなかったみたいでなあ。簡単な魔法を使うのにも、とんでもない体力を消耗した。戦いの最中に使えるレベルではとてもなかったわい」
「へえー、そうなんだ」
「じゃあ、そろそろ話を戻そうか。守護神石にどんな力があるかの話じゃったな」
ハグルが一つ咳払いを入れた。
「さっきも言った通り、よく分からんことは多い。ただ一つ間違いなく言えることは、これは意思を持っておるということじゃ」
「意思?」
ティムが首を傾げる。
「ああ、そうじゃ。わしら人間と同じようにな」
ハグルは紅茶をすすりながら続ける。
「もちろん意思があるとはいえ、これは石じゃ。勝手に動き回ることはない。だがどうやら自身の運命を操る力はあるようでなあ。守護神石がどこに行き誰の手に渡るかというのは、ある程度その守護神石の判断が入っているようじゃ。わしが十五年前にボヘミアンからサファイアを受け取ったこと、そして今それをお前が受け取ろうしているのも、サファイアの意思なのかもしれんな」
ティムはただ黙ってハグルの話に聞き入った。
ハグルは続ける。
「これから始まるお前の旅路がどのようなものになるのか、それは誰にも分からん。だが少なくともお前は、この石、サファイアには認められているということじゃ」
しかし、ティムはどうも合点がいかないように言う。
「そんなこと言われてもねえ。だって親父も同じ立場だったのに、死んじゃったんだろ?」
ハグルは喉を鳴らして唸ると言った。
「あいつに一体何があったのか。結局それは分からず終いじゃ。だがあいつも、少なくともサファイアには認められていたはずなんじゃ」
「うーん、過酷な旅になりそうだなあ・・・」
「当然じゃ。だからお前はけして一人で戦うんでないぞ。お前の父親は恐らく一人で戦っていた。その結果が死じゃ。お前はけして親父の二の舞を踏むな。旅先で同じ志を持つ仲間を探すのじゃ。そうすればあらゆる障害も乗り越えていけるだろう」
「分かったよ」
「おっと、そうじゃ。すっかり忘れておった」
ハグルが、紅茶を飲もうとしていた手を止める。
「実は、お前の旅の仲間を一人見つけておいた」
「本当に?」
突然の吉報にティムは驚いた。
「誰?」
「ライアンじゃ」
そう言ってハグルはにっこりと微笑んだ。
ライアンとは、隣村のカーネギーに住むティムの幼馴染の青年である。
お互い自分の村に同年代の友達がいなかった二人は、物心ついた時からよく一緒に遊ぶ親友同士だった。ライアンは幼い頃から正義感が異常に強かったから、ライアンが魔族退治の旅に出るというのは特に驚く話でもなかった。
「良かった!ライアンが来てくれるなら、これ以上のことはないよ」
ティムの声が弾む。正直なところ、一人で旅をするのは心細かったからなおさらだ。
「だが、ずっと一緒に旅をすることはできないようなんじゃ」
ハグルは先程飲みかけていた紅茶をすすった。
「あいつの目的は、お前のように魔族を倒すことではない。あいつの目的は、ヘーゼルガルドの兵士になることじゃ。だからお前と一緒にいることができるのも、ヘーゼルガルドまでということになる」
「何だ、そうなのか」
ヘーゼルガルドとは、この近辺の地域一帯を統治しているエルゼリアの王家の一つである。父親がヘーゼルガルドの兵士長であるためか、ライアンは幼い頃から兵士になることを夢見ていた。
ティムはライアンから父親の話やヘーゼルガルドの話をいつも聞かされていたから、そのことはよく知っていた。なのにそれを忘れて共に最後まで旅ができると思っていたティムは、少しがっかりした気持ちになった。
「ヘーゼルガルドは立派な王国じゃ。守護神石の一つや二つあっても全くおかしくはない。お前にとっても行く価値のある所というわけじゃ」
「なるほどねえ」
まるで他人事のようにティムが相槌を打つ。
ハグルはテーブルに身を乗り出した。
「途中までしか同行できないとはいえ、慣れない旅の序盤に仲間がいるのは心強いことじゃ。まずは一緒にヘーゼルガルドを目指してみたらどうかな?」
すぐにティムが頷く。
「もちろん。大歓迎さ」
「決まりじゃな」
ハグルも満足げに頷いた。
「他に聞きたいことがなければ、今日はこのへんでお開きにしようか。ライアンとは明日の朝カーネギーで落ち合え。ライアンにもそう伝えてある」
「ちょっと待って」
席を離れようとするハグルをティムが制止する。
「守護神石を十二個全部揃えたらどうすればいいの?」
「おおっと、まだそれは説明していなかったのお」
ハグルは、苦笑いを浮かべながら座り直した。
「全部揃えたら、その時は十二守護神殿に行け。そして守護神石を祭壇に置くのじゃ。そうすれば神々は力を取り戻す」
「なるほどね」
ティムは更に続けた。
「あの、もう一ついい?これは質問じゃなくて、お願いになるんだけど」
「何じゃ?」
「ヤギの世話を誰かに頼んでほしいんだ」
「ああ、それは抜かりないぞ。鍛冶屋のアーニーが引き取ってくれるそうじゃ。息子をヤギ飼いにさせたいようでなあ。喜んで面倒を見させてもらうとのことじゃ」
「そうなんだ、それなら良かったよ」
そう微笑むと、ティムは立ち上がった。
「じゃあ仕事もあるし、そろそろ行くよ。明日の朝には村を発つ」
するとハグルは一瞬寂しげな表情をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「わかった。準備を怠るでないぞ。分からないことがあったら、また聞きに来るが良い」
「うん、ありがとう。じゃあまた明日」
そう言い残すと、ティムはハグルの家を後にした。
正直なところ、分からないことばかりだ。守護神石を探すためには何をすればいいのか?ヘーゼルガルドのような王国はどんな場所なのか?エルフやドワーフ、ホビットはどんな種族なのか?上位の魔族とはどんなものか?守護神殿はどこか?
しかしティムはそこで質問をやめた。ティムは知っていたからだ。旅を続けていればそれらは自ずと明らかになっていくことを。今ハグルに質問をするより、ティムは自分の力ですべてを知るべきだと思ったのだ。
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