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その16 正々堂々
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体育祭当日。天気は快晴、雲一つないきれいな青空だ。
赤と白のハチマキを頭につけたクラスメイトたちに、これから体育祭が始まるんだなってワクワクする。
「野崎さん、おはよ」
教室に入って、真っ先に声をかけてくれた結城さんに、心がほっと和んだ。
昨日は、小さな子供みたいに泣きわめいちゃったから、少し恥ずかしいけど……。
「結城さん。昨日は、本当にありがとうね」
「ううん。今日は、良い体育祭日和だよ。思いっきり、楽しもうね」
穏やかな表情の結城さんに、また、少しだけ泣きそうになった。
わたし、本当に良い友だちを持ったなぁ。
「莉子―。結城さんー。おっはよー!」
「由美ちゃん! 今日は珍しくポニーテールだね」
「そーそー。体育祭自体は正直萎えるけど、格好ぐらいはスポーツ少女らしくと思って!ま、今日は、漣くんの勇姿が見られれば大満足だけど! あとは借り物競争!」
「漣くんはわかるとして、なんで借り物競争?」
「吹部の先輩に聞いたんだけどー、借り物競争には恋のジンクスがあるんだって! 『好きな人』ってお題を引いて、公開告白で結ばれたカップルは永遠に結ばれるんだってよ~! 素敵じゃない?」
「永野さんは、その手の話題にほんとに詳しいね」
盛りあがっている由美ちゃんと結城さんから視線をはずして、教室の端を見やれば、奏多が窓の外に視線をやっていた。
結局、昨晩は彼にメッセージを送ろうとして、やめたんだ。
携帯を通さずに、顔を見ながら、きちんと自分の口で伝えたいと思ったから。
その相手は、奏多だけじゃない。
彼女にも、ちゃんと伝えなきゃ。
「なあに、野崎さん。昨日の話の続きでもするの?」
登校してきた月城さんを下駄箱でつかまえると、昨日と同じ体育館裏までやってきた。
今日の月城さんは、ツインテール姿だ。体育着からのびる白い手足はカモシカみたいで美しい。今日も今日とて、月城さんのかわいらしさは完ぺきだ。
「うん。わたしもね、月城さんに、伝えなきゃいけないことができたんだ」
月城さんが、大きな瞳を、パチパチとまたたかせる。
わたしが怯えずにちゃんと言い返したことが、意外だったのかもしれない。
それにしても……本音を言うのって、ものすごく緊張するな。
だけど、ここでまた逃げ出したら、わたしはずっと変われない。
わきあがってきた緊張をしずめるように、深く深呼吸する。
「わたしね、ずっと月城さんみたいなお姫さまになれたらいいのにって思ってたんだ」
ふわふわと波うつミルクティー色の髪も。すらりとした細長い手足も。お人形さんみたいにかわいらしいお顔も。
なによりも、心からみちあふれる、その確固たる自信を。
奏多と並んでも引けをとらない月城さんのすべてが、うらやましくて仕方なかった。
月城さんは、わたしの言葉を聞き届けるように、さくらんぼの唇を引き結んでいる。
「わたしは、奏多の幼馴染だけど、ずっと彼の隣に並ぶ自信がなかった。だから、奏多に中学では他人のフリをしてもらっていたの」
正直にいうと、今でも、堂々とした自信はない。
そんなときに月城さんがあらわれて、敵うはずがないやって自分に言い訳してたんだ。
星がまたたいているような瞳を、真っ向から見つめかえす。
「だけど……そうやって逃げるのは、もう、終わりにするね。わたし、奏多が好きだから」
はっきりと宣言した、そのとき。
まとわりついていた憑き物がすっと落ちたみたいに、身体が軽くなった。
奏多のことが、好き。
しっくりときた。
そうだ。
わたしは、奏多のことが好き!
たとえ、周りの誰からも、認められなくても。
誰から見ても奏多とお似合いな、月城さんがライバルであっても。
この気持ちを受け入れるか否定するかを決めるのは、奏多だけだって、やっと気がついたから。
奏多に否定されるまでは、諦めたくない。
月城さんは、ふっと唇から息をもらして、首をかしげた。
「なぁに? いまさらケンセイしにきたの?」
「違うよ。そういうつもりで言ったんじゃない」
「そうなの?」
「わたしは、ちゃんと向き合おうとしてくれた月城さんとフェアになりたかっただけ」
ずっと、眩しすぎて、目を背けてきたから。
今になって初めて、月城さんを真正面から見られた気がする。
「月城さん。わたしと向き合ってくれて、ありがとう」
「……奏多くんが、うらやましいなぁ」
「えっ」
「っ。なんでもない。奏多くんに、告白するんでしょ」
「う、うん」
あらためて言葉にされると、なんだか胸がむずがゆい。
顔を赤らめたわたしに、月城さんは、口元をゆるめた。
「ふぅん。勝手にすれば?」
言葉はぶっきらぼうだったけど、その表情は、どこか楽しげで。
きびすを返して去っていく月城さんの背中を、ポカンと見送る。
月城さん、なんか吹っきれた顔してたような……?
頭の中に浮かんだはてなマークは、体育祭の始まりを告げるチャイムの音にかき消された。
赤と白のハチマキを頭につけたクラスメイトたちに、これから体育祭が始まるんだなってワクワクする。
「野崎さん、おはよ」
教室に入って、真っ先に声をかけてくれた結城さんに、心がほっと和んだ。
昨日は、小さな子供みたいに泣きわめいちゃったから、少し恥ずかしいけど……。
「結城さん。昨日は、本当にありがとうね」
「ううん。今日は、良い体育祭日和だよ。思いっきり、楽しもうね」
穏やかな表情の結城さんに、また、少しだけ泣きそうになった。
わたし、本当に良い友だちを持ったなぁ。
「莉子―。結城さんー。おっはよー!」
「由美ちゃん! 今日は珍しくポニーテールだね」
「そーそー。体育祭自体は正直萎えるけど、格好ぐらいはスポーツ少女らしくと思って!ま、今日は、漣くんの勇姿が見られれば大満足だけど! あとは借り物競争!」
「漣くんはわかるとして、なんで借り物競争?」
「吹部の先輩に聞いたんだけどー、借り物競争には恋のジンクスがあるんだって! 『好きな人』ってお題を引いて、公開告白で結ばれたカップルは永遠に結ばれるんだってよ~! 素敵じゃない?」
「永野さんは、その手の話題にほんとに詳しいね」
盛りあがっている由美ちゃんと結城さんから視線をはずして、教室の端を見やれば、奏多が窓の外に視線をやっていた。
結局、昨晩は彼にメッセージを送ろうとして、やめたんだ。
携帯を通さずに、顔を見ながら、きちんと自分の口で伝えたいと思ったから。
その相手は、奏多だけじゃない。
彼女にも、ちゃんと伝えなきゃ。
「なあに、野崎さん。昨日の話の続きでもするの?」
登校してきた月城さんを下駄箱でつかまえると、昨日と同じ体育館裏までやってきた。
今日の月城さんは、ツインテール姿だ。体育着からのびる白い手足はカモシカみたいで美しい。今日も今日とて、月城さんのかわいらしさは完ぺきだ。
「うん。わたしもね、月城さんに、伝えなきゃいけないことができたんだ」
月城さんが、大きな瞳を、パチパチとまたたかせる。
わたしが怯えずにちゃんと言い返したことが、意外だったのかもしれない。
それにしても……本音を言うのって、ものすごく緊張するな。
だけど、ここでまた逃げ出したら、わたしはずっと変われない。
わきあがってきた緊張をしずめるように、深く深呼吸する。
「わたしね、ずっと月城さんみたいなお姫さまになれたらいいのにって思ってたんだ」
ふわふわと波うつミルクティー色の髪も。すらりとした細長い手足も。お人形さんみたいにかわいらしいお顔も。
なによりも、心からみちあふれる、その確固たる自信を。
奏多と並んでも引けをとらない月城さんのすべてが、うらやましくて仕方なかった。
月城さんは、わたしの言葉を聞き届けるように、さくらんぼの唇を引き結んでいる。
「わたしは、奏多の幼馴染だけど、ずっと彼の隣に並ぶ自信がなかった。だから、奏多に中学では他人のフリをしてもらっていたの」
正直にいうと、今でも、堂々とした自信はない。
そんなときに月城さんがあらわれて、敵うはずがないやって自分に言い訳してたんだ。
星がまたたいているような瞳を、真っ向から見つめかえす。
「だけど……そうやって逃げるのは、もう、終わりにするね。わたし、奏多が好きだから」
はっきりと宣言した、そのとき。
まとわりついていた憑き物がすっと落ちたみたいに、身体が軽くなった。
奏多のことが、好き。
しっくりときた。
そうだ。
わたしは、奏多のことが好き!
たとえ、周りの誰からも、認められなくても。
誰から見ても奏多とお似合いな、月城さんがライバルであっても。
この気持ちを受け入れるか否定するかを決めるのは、奏多だけだって、やっと気がついたから。
奏多に否定されるまでは、諦めたくない。
月城さんは、ふっと唇から息をもらして、首をかしげた。
「なぁに? いまさらケンセイしにきたの?」
「違うよ。そういうつもりで言ったんじゃない」
「そうなの?」
「わたしは、ちゃんと向き合おうとしてくれた月城さんとフェアになりたかっただけ」
ずっと、眩しすぎて、目を背けてきたから。
今になって初めて、月城さんを真正面から見られた気がする。
「月城さん。わたしと向き合ってくれて、ありがとう」
「……奏多くんが、うらやましいなぁ」
「えっ」
「っ。なんでもない。奏多くんに、告白するんでしょ」
「う、うん」
あらためて言葉にされると、なんだか胸がむずがゆい。
顔を赤らめたわたしに、月城さんは、口元をゆるめた。
「ふぅん。勝手にすれば?」
言葉はぶっきらぼうだったけど、その表情は、どこか楽しげで。
きびすを返して去っていく月城さんの背中を、ポカンと見送る。
月城さん、なんか吹っきれた顔してたような……?
頭の中に浮かんだはてなマークは、体育祭の始まりを告げるチャイムの音にかき消された。
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