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第1章

第38話 調査報告

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 結局西山製薬の監査に行った先では、明らかな物証は得られていない。しかし中東系の大男を見掛けた事と、黄泉津大神の証言がある。
 俺達が見付けた研究内容と、死神様の見立てから攻め口は作れる。神に禁じられた研究をしている疑いで、本丸らしき研究に対して横槍を入れる事が可能だ。
 強制捜査とまでは行かずとも、突かれたくない部分を詰められるのは向こうも辛いだろう。それらを伝える為に、監査から戻った俺達は支部長室で詳細な報告を行っていた。

「あの男は生命に関わる神の研究をしている。これ以上踏み込むなら処罰が必要になるわ」

「なるほど、分かりました。証言おおきにです」

「やるなら早くやりなさいね。待たされるのは嫌いなの」

 それだけ言い残すと黄泉津大神はまた消えて行った。本当に自由な死神様だ。だが今回は非常に助かった。
 これは神や天使の様な存在にしか感じ取れないらしいが、神の領域に手を出したものを見るだけで理解出来るらしい。
 例えばバベルの塔の様に、伝承として残された神罰の例は幾つもある。あれらがそうやって、不当に神に近付こうとした者達の末路だ。
 そうやって神話の時代からずっと警告され続けているのに、今もなお神の領域に手を出す者達が居る。
 何が彼らをそこまで引き付けるのかは未だに理解出来ない。罰則の下る事をやろうとする人間の思考は、大体は滅茶苦茶なものが多い。とても正常な精神状態ではない。

「流石に物証までは無理やったにしても、ここまでやってくれたのは助かったわ」

「本当ならもう少し、何か欲しかったのですが」

「気にせんでエエ、ツッコミ入れるには十分なネタや」

 俺としてはまだまだな結果だったけれど、波多野はたの支部長としては十分な成果らしい。指示書の様な物証の類を狙っていたのだけれど、そこまでは期待して居なかった様だ。
 ガチガチに脇を固めている所から、新ネタが出て来ただけで良かったそうで。ここからは再び情報部の仕事となる。
 今回得た情報から、再度抗議と監査を行い揺さぶりを掛けて行くそうな。警察の方も、中東系の大男を見たと言う証言から動いてくれるらしい。
 疑っているとハッキリ示してしまったのは痛手ではあるものの、相手も今から逃げ出すのは不可能に近い。後はジワジワと包囲網を狭めて行くだけだ。

「せやけど、森下もろしたって子は気になるなぁ」

「確かに。あの子、何者なの清志せいじ?」

「んー、普通の子って印象しかないよ」

 そこは未だに謎なままだ。結局何をしているのかは聞けていない。ただ明らかにあちら側の人間と言う事だけしか分かっていない。
 特に彼女との接点も無かったので、プロフィールもあまり知らない。何度か会話をしたぐらいで、どんな魔術師なのかも良く知らない。
 特筆する様な分かり易い特徴もない。本当にただ普通の生徒だと言う事以外に言える事は無かった。

「協力者なのか、被害者なのかで話変わるからなぁ」

「何とも言えない様子でしたね」

「騙されている可能性もあるわよね」

 西山製薬側の人間なのは間違いなくても、自ら協力者になったのか騙されていたり洗脳されているのかは不明だ。
 前者なら何らかの犯罪に手を染めている可能性があるし、後者なら程度によって減刑される。何も関与はしていない場合もあるので、いきなりから容疑者扱いは出来ない。
 例えば特別講義を切っ掛けに平和的な協力をしているだけなら、何らかの罪に問うことは出来ないし何の罪もない。
 容疑者である事を前提に話を進めるのは、場合によっては名誉毀損になってしまう。

「悪いんやけど、ちょっと探り入れてくれへんかな?」

「それはもちろん。最初からそのつもりです」

「女性同士じゃないと言えない話かも知れないし、私も協力するわ」

 これと言って接点のない女子生徒だ、アイナが協力してくれるのは助かる。プライベートに関わる話だと、男の俺があまり突っ込んだ話をするべきではない。
 もしそうであるなら、アイナに任せてしまった方が良い。女性向けの医薬品関係だったりしたら、俺が関わるのは辞めておこう。
 デリカシーに欠ける行為はあまり宜しくない。最悪の場合は茉莉まりにでも頼もうかと考えていたぐらいだ。話が早くて良い。

「あとは、中東系の大男やな」

「間違いなくAランク魔術師でしたよ」

「体も鍛えられていたわ」

 中東系だからと言って、全員が怪しいと決まってはいない。だけどあの男からは、危険な気配がしていた。
 物騒な空気と言うか、人の死に関わっているタイプのそれだ。元軍人と言うだけの可能性もゼロではないが、タイミング的にはテロリストの可能性を考慮すべきだ。
 しかもかなりの手練れだと思われる。以前に戦った者達よりも、動きに無駄が無かった。明らかに数段上の実力者だと感じた。

「中東解放戦線には顔がハッキリ分かって無いのが何人かおるんや」

「その誰か、と言う事ですか?」

「確定やないけどね。ただリーダーと幹部数人が名前しか分かってないんや」

 もしあの大男がリーダーだと言うなら、納得の空気を纏っていた。何度も戦闘を経験した魔術師特有の雰囲気があの男にはあった。
 もしそうならば、激しい戦闘がそう遠くない未来に起こる可能性がある。より一層気を引き締めておく方が良いだろうな。
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