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40話 伏魔殿到着
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精緻な細工をされた両開きの扉が、パリッとした軍服を着た兵士によって開かれる。
この扉一枚とっても、この人類同盟の建物に莫大な予算が掛けられている事が容易に想像できた。
フォニアさんを先頭に僕らは扉をくぐる。
ここに来たのは、フォニアさんと僕を除いて、数人の護衛だけだ。
扉の先は、ダンスパーティが余裕で二つは開催できそうなほど広いホールだ。天井も高く、ドーム状になっており、そこには、アポリオンと戦う神霊機の姿が色彩豊かに描かれている。思わず圧倒された。
すげぇ。まるでどっかの大聖堂って言われても不思議じゃないな。
視線を下げるとそこにあったのは盛大なお出迎えだった。
床には白と黒の四角い石が市松模様になるようにおかれ、その上にレッドカーペットが敷かれていた。そのカーペットの左右にきれいなメイドさん達が列を成している。色っぽいメリハリのある体をした妖艶なお姉さん風のメイドや、仕事が出来るOL風。背の低い妹系とバラエティ豊かな顔ぶれだ。
彼女達の着ているメイド服は、スベン公国のメイドさん達が来ている服より洗練され、どちらかと言うと元の世界のクラシックなメイド服に近い。
ここの人たちも相当業が深そうだ。
そのメイドさん達が、僕らが到着したのを合図にいっせいにカーテシーをする様は圧巻だ。
メイドさんの列の先を見れば紳士服を着た豚が立っていた。
…いや、あれは人か。一瞬ファンタジー物に出てくるオークかとも思ったが、聞いた話によるとオークはこの世界にはいないそうだ。
そのぶ…人の胸には、ジャラジャラと大量に勲章があったので人類同盟の中では、地位が高いと思われる。一体どんな功績を挙げればそれだけの勲章がもらえるのだろうか?
そして、その人物の後ろに赤髪ドリル…長い赤髪をドリル状に巻いた髪型をしたごーじゃすな美人メイドさんと、何故かほかのメイドさんとは違い、大正ロマンな袴なメイド服を着た白髪の楚々とした美人メイドさんが付き従っていた。
「やぁやぁ!ようこそいらっしゃいました!デアフレムデ様!」
紳士服の人物は、そういいながら僕らに近づく。体が丸々と太っているのでまるで弾むように走っている。
近づくと、僕を見て少しぎょっとしたように一瞬だけ止まった。
何かあったかな?…ああ、そういえば僕はヘッドセットをつけたままだったわ。初対面の人間が仮面を付けていたらそりゃ面食らうよな。
今僕がつけているヘッドセットは、正しい意味で僕専用のヘッドセットだ。このヘッドセットは僕の顔の形を正確にトレースして作られた物で、僕以外の人が被る事は出来ない。
鼻から上を覆うドミノマスクタイプの仮面で、色は白、目の部分に穴は無く、その部分にはグリーンの高性能アイレンズが嵌っている。
通常のザムや指揮官用のザムのヘッドセットとは一線を画すデザインだ。
ちなみに服は、ガルロックさんのお古の軍服を仕立て直したものを着ている。
僕の感覚からすれば中世ごろのグリーンの軍服。方にはモップのようなモールが付き、袖や襟などには金糸で装飾されている。とりあえず格好だけはフォニアさんの隣に立っていても恥ずかしくないものになっている。
僕自身に似合っているかどうかは別だけど…。
「オホン!私、人類同盟総長をしておりますディエトロ・カルナミル・デヴェロアと申します」
気を取り直したデヴェロア総長は、何とか取り繕いながら挨拶をした。
だけど、その挨拶に僕は答えない。
目の前では、僕の返事を待つデヴェロア総長が笑顔のまま僕の返事を待っている。その時ぷんとキツイ香水の臭いが僕の鼻を刺激する。さすがに吐き気を催すものではないが、長い間嗅いでいたいとは思わない。だが、満員電車の中で長時間嗅がされたら嫌いになりそうな臭いだ。
「あの…どうかなされましたか?」
挨拶を返さない僕を疑問に思ったデヴェロア総長が聞いてくる。
「あなた。失礼ではないですか」
「なっ!?」
僕の一言に鼻白んだ。しかもかなり不快に思ったのか表情がゆがむ。
まぁいきなり会った若造にお前は失礼だと言われたのならそう思うのも無理は無いのかもしれないが…。
「スベン公国公王たるフォニア陛下がいらっしゃると言うのに。陛下を無視していきなり僕に挨拶とは…」
立場としては、一国の女王であるフォニアさんの方が当然上。僕は、フォニアさんの部下。上司を無視していきなりその人の部下に挨拶するのは、礼儀知らずといわれても仕方が無い。
まぁわざとしているのかもしれないけどね。
「こっコレは申し訳ない!挨拶が送れたこと、謝罪いたします。フォニア陛下。先公王崩御お悔やみ申し上げます。ならびに戴冠およびハイレルゲン奪還おめでとうございます」
デヴェロア総長は、慌てた様子でフォニアさんに向き直り、挨拶する。
「ええ、デヴェロア総長ごきげんよう。アマタ様のお力を考えれば挨拶が遅れるのも分かりますわ」
フォニアさんが黒い扇子を出し、それで口元を隠すように言う。
彼女も臭いがきついと思ったんだな。
「そう言って頂けますと幸いです。改めましてデアフレムデ様。私、人類同盟総長をしておりますディエトロ・カルナミル・デヴェロアと申します」
「デアフレムデとか呼ばれている英行 天田です。よろしく」
「アマタ様のご高名はかねがね。さぁさぁ長旅お疲れになったでしょう。こちらに部屋を用意をしております。この者達はデアフレムデ様の世話をさせるエレンシアとシズネです。存分にお休みください」
デヴェロア総長は、自分についてきた二人のメイドさんを紹介する。
「よっよろしくお願いいたしますわ!」
「不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
言い慣れていない様子で赤髪ごーじゃすメイドさんは、高潮した顔で言い、白髪大正ロマンメイドさんは、何を考えているのか良く分からない口調でとんでもないことを言う。
横でミシリと何かがきしむ音がした。
おい、その台詞は、違うだろ!
思わず突っ込みを入れそうになった時、僕の視界の隅に文字が現れた。
それはザムの画面で表示される文字で、公国軍ではザム言語またはザム語と呼ばれている。この世界の公用語とはまったく違う言語だが、ザム又はトブタイのパイロットになった兵士たちは全員使用する事の出来る言語だ。もちろん僕も読めるし書ける。
画面に現れた文字読むとこう書かれていた。
”わお。お姫様二人が付くなんてすごいじゃない”
お姫様?
文字を送ってきたのは、城壁の外でザムに乗っているセリアさんだ。彼女は今周囲警戒を部下に任せて、僕から送られてくる映像をザムのコックピットで見ている。
忘れられているかもしれないが、セリアさんは元々裏工作が得意なセイラン王国のお姫様だ。
なので、下手に言質を取られそうになったりとか、罠っぽい事に誘われそうになったら、止めたり今回のように文字を送ってアドバイスしてくれる。
一緒に来ればよかったじゃないかと思うかもしれないが、セイラン王国の暗部はある意味有名で、一緒に来ていれば人類同盟に超警戒され、誘拐などの強硬手段を早々に取る可能性があった。
僕とフォニアさんだけなら相手は、世間知らずな若造と小娘ならどうとでもなると強硬な手段はとらないだろうと、僕らは考えたのだ。
僕は返事はできないが視線追跡操作でネットゲームのように定型文を返す事が出来る。
僕は素直に疑問符を送った。
"?"
僕が疑問を呈すると、すぐに返答が帰ってきた。
"両方とも有名な美姫よ。赤髪の子が"真紅のバラ姫"ことエレンシア・フィオネル・ラナマーク。ラナマーク王国の姫。白髪の子は、"百合の白姫"ことシズネ・シルドリア・アマサキ・クルミコム。この子もクルミコム国の姫。両方の国は共和国の西にあったんだけど、アポリオンによって滅ぼされてしまったわ"
姫って…なんでそんな人達が僕のお世話係なんて仕事をすることになってるんだ?要人として保護されていたとしても不思議じゃないだろ。
"彼女達は、避難してきた国民を人質にされてるんでしょうね。アマタを篭絡すれば自国民の待遇をよくしてやるとか言って…。二人とも貴族としての矜持はちゃんと持ってるから断れなかったんでしょうね"
ノブリス・オブ・リージュって奴か。
内心の疑問を見透かしたかのようにセリアさんから回答が届く。僕の中の人類同盟評価がまた一段下がる。
それなら、ごーじゃすメイドさんが慣れている様子が無いのも理解できる。彼女達は本来奉仕される側の人間で、奉仕する側の人間じゃなかったって事だ。
「一級品の茶葉も美味な茶菓子も用意しております。ささ、参りましょうぞ!」
デヴェロア総長は、満面の笑みで僕を迎えようとするが、僕のデヴェロア総長へ向ける視線はさめるばかりだ。
「ああ、それはお断りします」
「なっ何故です?もしやこの二人が気に入らなかったのですかな!?」
デヴェロア総長の言葉に背後に居た二人はびくっと震える。
「違います。お二人は御綺麗で、そんなお二人に世話をされるのは至上の喜びでしょう」
さすがに、僕が気に入らなかったと言う理由で罰を受けるかもしれないのは嫌なので、そこはフォローしておく。
また、横でミシリと何かがきしむ音がした。今度は冷たい視線も感じる。
僕の否定に、ごーじゃすメイドさんは、まんざらでもないといった顔をする。一方大正ロマンメイドさんの表情は曇ったままだ。
「…しかし、僕らは、到着の挨拶と明日の審問会の開催時間の確認をしに来ただけなのです。明日の準備もありますので」
「そうおっしゃらずに…。オホン。デアフレムデ殿は人類同盟に何か誤解なさっていらっしゃる様子。それを解くためにもお時間をいただけないでしょうか?」
そこでデヴェロア総長が何かを促すようにごーじゃすメイドさんを見る。
「そっそうですわ!よろしければ、アマタ様の武勇伝のお話などもお聞かせください!」
「私もそれには、興味があります。お聞かせ願いませんか?」
大正ロマンメイドさんもそれに追随する。
「誤解も何も僕は、人類同盟がスベン公国に対して行った事を自分なりに評価しただけです。…で、明日の審問会の開催時間はいつですか?早く教えてください」
僕の取り付く島も無い返答にデヴェロア総長は、一瞬苦虫を噛み潰したような表情になった。
内心この若造が調子に乗りおって!とか思ってるんだろうなぁ。
「…申し訳ありません。審問会に参加する方が遅れておりまして。たぶんではありますが、開催が三日ほど遅れると思われます」
三日…三日ねぇ。それくらいの時間があれば僕を懐柔できると思ってるって事かな…。
「そうですか、では、二日後にまた来ます。では陛下一旦カルナートに戻りましょう」
デヴェロア総長が青ざめる。
「おっお待ちください!遅れた者が開催が早まるかもしれません!なのでどうか、ラガツにて、お待ちください!」
懐柔しようというのに本人がいないんじゃ出来ないよねぇ。
「どうしますか?陛下」
決定権はあくまで上司であるフォニアさんにある。僕はフォニアさんに聞いた。
「…ふぅ。仕方ありませんね。分かりましたら連絡を。私達は、トブタイの着陸した所にいますので連絡はそこに…」
フォニアさんが言う。下手に追い詰めるのもいけないからね。
「分かり次第、そのようにしましょう」
汗を拭きながらデヴェロア総長は言った。
「では陛下。用事は済みましたので、戻りましょう」
「ええ、そうね。ではデヴェロア総長ごきげんよう」
「今度は、審問会でお会いしましょう。後ろのお二人も次は、別の形でお会い出来たらうれしいです」
「えっええ」
「楽しみにしております」
別の"機会"ではなく、"形"。
メイドさんたちをフォローしつつ、人類同盟に向けての事実上の係わってこないでください宣言だ。
「いえいえ、そういわずに何か用があれば、どんな小さなことでも、お気軽に人類同盟を頼ってください」
最後までデヴェロア総長ニコニコと笑っていたが、その目は笑っていない。
「分かりました。では失礼します」
そういうと僕らは、身を翻して人類同盟の城から出て行った。
この扉一枚とっても、この人類同盟の建物に莫大な予算が掛けられている事が容易に想像できた。
フォニアさんを先頭に僕らは扉をくぐる。
ここに来たのは、フォニアさんと僕を除いて、数人の護衛だけだ。
扉の先は、ダンスパーティが余裕で二つは開催できそうなほど広いホールだ。天井も高く、ドーム状になっており、そこには、アポリオンと戦う神霊機の姿が色彩豊かに描かれている。思わず圧倒された。
すげぇ。まるでどっかの大聖堂って言われても不思議じゃないな。
視線を下げるとそこにあったのは盛大なお出迎えだった。
床には白と黒の四角い石が市松模様になるようにおかれ、その上にレッドカーペットが敷かれていた。そのカーペットの左右にきれいなメイドさん達が列を成している。色っぽいメリハリのある体をした妖艶なお姉さん風のメイドや、仕事が出来るOL風。背の低い妹系とバラエティ豊かな顔ぶれだ。
彼女達の着ているメイド服は、スベン公国のメイドさん達が来ている服より洗練され、どちらかと言うと元の世界のクラシックなメイド服に近い。
ここの人たちも相当業が深そうだ。
そのメイドさん達が、僕らが到着したのを合図にいっせいにカーテシーをする様は圧巻だ。
メイドさんの列の先を見れば紳士服を着た豚が立っていた。
…いや、あれは人か。一瞬ファンタジー物に出てくるオークかとも思ったが、聞いた話によるとオークはこの世界にはいないそうだ。
そのぶ…人の胸には、ジャラジャラと大量に勲章があったので人類同盟の中では、地位が高いと思われる。一体どんな功績を挙げればそれだけの勲章がもらえるのだろうか?
そして、その人物の後ろに赤髪ドリル…長い赤髪をドリル状に巻いた髪型をしたごーじゃすな美人メイドさんと、何故かほかのメイドさんとは違い、大正ロマンな袴なメイド服を着た白髪の楚々とした美人メイドさんが付き従っていた。
「やぁやぁ!ようこそいらっしゃいました!デアフレムデ様!」
紳士服の人物は、そういいながら僕らに近づく。体が丸々と太っているのでまるで弾むように走っている。
近づくと、僕を見て少しぎょっとしたように一瞬だけ止まった。
何かあったかな?…ああ、そういえば僕はヘッドセットをつけたままだったわ。初対面の人間が仮面を付けていたらそりゃ面食らうよな。
今僕がつけているヘッドセットは、正しい意味で僕専用のヘッドセットだ。このヘッドセットは僕の顔の形を正確にトレースして作られた物で、僕以外の人が被る事は出来ない。
鼻から上を覆うドミノマスクタイプの仮面で、色は白、目の部分に穴は無く、その部分にはグリーンの高性能アイレンズが嵌っている。
通常のザムや指揮官用のザムのヘッドセットとは一線を画すデザインだ。
ちなみに服は、ガルロックさんのお古の軍服を仕立て直したものを着ている。
僕の感覚からすれば中世ごろのグリーンの軍服。方にはモップのようなモールが付き、袖や襟などには金糸で装飾されている。とりあえず格好だけはフォニアさんの隣に立っていても恥ずかしくないものになっている。
僕自身に似合っているかどうかは別だけど…。
「オホン!私、人類同盟総長をしておりますディエトロ・カルナミル・デヴェロアと申します」
気を取り直したデヴェロア総長は、何とか取り繕いながら挨拶をした。
だけど、その挨拶に僕は答えない。
目の前では、僕の返事を待つデヴェロア総長が笑顔のまま僕の返事を待っている。その時ぷんとキツイ香水の臭いが僕の鼻を刺激する。さすがに吐き気を催すものではないが、長い間嗅いでいたいとは思わない。だが、満員電車の中で長時間嗅がされたら嫌いになりそうな臭いだ。
「あの…どうかなされましたか?」
挨拶を返さない僕を疑問に思ったデヴェロア総長が聞いてくる。
「あなた。失礼ではないですか」
「なっ!?」
僕の一言に鼻白んだ。しかもかなり不快に思ったのか表情がゆがむ。
まぁいきなり会った若造にお前は失礼だと言われたのならそう思うのも無理は無いのかもしれないが…。
「スベン公国公王たるフォニア陛下がいらっしゃると言うのに。陛下を無視していきなり僕に挨拶とは…」
立場としては、一国の女王であるフォニアさんの方が当然上。僕は、フォニアさんの部下。上司を無視していきなりその人の部下に挨拶するのは、礼儀知らずといわれても仕方が無い。
まぁわざとしているのかもしれないけどね。
「こっコレは申し訳ない!挨拶が送れたこと、謝罪いたします。フォニア陛下。先公王崩御お悔やみ申し上げます。ならびに戴冠およびハイレルゲン奪還おめでとうございます」
デヴェロア総長は、慌てた様子でフォニアさんに向き直り、挨拶する。
「ええ、デヴェロア総長ごきげんよう。アマタ様のお力を考えれば挨拶が遅れるのも分かりますわ」
フォニアさんが黒い扇子を出し、それで口元を隠すように言う。
彼女も臭いがきついと思ったんだな。
「そう言って頂けますと幸いです。改めましてデアフレムデ様。私、人類同盟総長をしておりますディエトロ・カルナミル・デヴェロアと申します」
「デアフレムデとか呼ばれている英行 天田です。よろしく」
「アマタ様のご高名はかねがね。さぁさぁ長旅お疲れになったでしょう。こちらに部屋を用意をしております。この者達はデアフレムデ様の世話をさせるエレンシアとシズネです。存分にお休みください」
デヴェロア総長は、自分についてきた二人のメイドさんを紹介する。
「よっよろしくお願いいたしますわ!」
「不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
言い慣れていない様子で赤髪ごーじゃすメイドさんは、高潮した顔で言い、白髪大正ロマンメイドさんは、何を考えているのか良く分からない口調でとんでもないことを言う。
横でミシリと何かがきしむ音がした。
おい、その台詞は、違うだろ!
思わず突っ込みを入れそうになった時、僕の視界の隅に文字が現れた。
それはザムの画面で表示される文字で、公国軍ではザム言語またはザム語と呼ばれている。この世界の公用語とはまったく違う言語だが、ザム又はトブタイのパイロットになった兵士たちは全員使用する事の出来る言語だ。もちろん僕も読めるし書ける。
画面に現れた文字読むとこう書かれていた。
”わお。お姫様二人が付くなんてすごいじゃない”
お姫様?
文字を送ってきたのは、城壁の外でザムに乗っているセリアさんだ。彼女は今周囲警戒を部下に任せて、僕から送られてくる映像をザムのコックピットで見ている。
忘れられているかもしれないが、セリアさんは元々裏工作が得意なセイラン王国のお姫様だ。
なので、下手に言質を取られそうになったりとか、罠っぽい事に誘われそうになったら、止めたり今回のように文字を送ってアドバイスしてくれる。
一緒に来ればよかったじゃないかと思うかもしれないが、セイラン王国の暗部はある意味有名で、一緒に来ていれば人類同盟に超警戒され、誘拐などの強硬手段を早々に取る可能性があった。
僕とフォニアさんだけなら相手は、世間知らずな若造と小娘ならどうとでもなると強硬な手段はとらないだろうと、僕らは考えたのだ。
僕は返事はできないが視線追跡操作でネットゲームのように定型文を返す事が出来る。
僕は素直に疑問符を送った。
"?"
僕が疑問を呈すると、すぐに返答が帰ってきた。
"両方とも有名な美姫よ。赤髪の子が"真紅のバラ姫"ことエレンシア・フィオネル・ラナマーク。ラナマーク王国の姫。白髪の子は、"百合の白姫"ことシズネ・シルドリア・アマサキ・クルミコム。この子もクルミコム国の姫。両方の国は共和国の西にあったんだけど、アポリオンによって滅ぼされてしまったわ"
姫って…なんでそんな人達が僕のお世話係なんて仕事をすることになってるんだ?要人として保護されていたとしても不思議じゃないだろ。
"彼女達は、避難してきた国民を人質にされてるんでしょうね。アマタを篭絡すれば自国民の待遇をよくしてやるとか言って…。二人とも貴族としての矜持はちゃんと持ってるから断れなかったんでしょうね"
ノブリス・オブ・リージュって奴か。
内心の疑問を見透かしたかのようにセリアさんから回答が届く。僕の中の人類同盟評価がまた一段下がる。
それなら、ごーじゃすメイドさんが慣れている様子が無いのも理解できる。彼女達は本来奉仕される側の人間で、奉仕する側の人間じゃなかったって事だ。
「一級品の茶葉も美味な茶菓子も用意しております。ささ、参りましょうぞ!」
デヴェロア総長は、満面の笑みで僕を迎えようとするが、僕のデヴェロア総長へ向ける視線はさめるばかりだ。
「ああ、それはお断りします」
「なっ何故です?もしやこの二人が気に入らなかったのですかな!?」
デヴェロア総長の言葉に背後に居た二人はびくっと震える。
「違います。お二人は御綺麗で、そんなお二人に世話をされるのは至上の喜びでしょう」
さすがに、僕が気に入らなかったと言う理由で罰を受けるかもしれないのは嫌なので、そこはフォローしておく。
また、横でミシリと何かがきしむ音がした。今度は冷たい視線も感じる。
僕の否定に、ごーじゃすメイドさんは、まんざらでもないといった顔をする。一方大正ロマンメイドさんの表情は曇ったままだ。
「…しかし、僕らは、到着の挨拶と明日の審問会の開催時間の確認をしに来ただけなのです。明日の準備もありますので」
「そうおっしゃらずに…。オホン。デアフレムデ殿は人類同盟に何か誤解なさっていらっしゃる様子。それを解くためにもお時間をいただけないでしょうか?」
そこでデヴェロア総長が何かを促すようにごーじゃすメイドさんを見る。
「そっそうですわ!よろしければ、アマタ様の武勇伝のお話などもお聞かせください!」
「私もそれには、興味があります。お聞かせ願いませんか?」
大正ロマンメイドさんもそれに追随する。
「誤解も何も僕は、人類同盟がスベン公国に対して行った事を自分なりに評価しただけです。…で、明日の審問会の開催時間はいつですか?早く教えてください」
僕の取り付く島も無い返答にデヴェロア総長は、一瞬苦虫を噛み潰したような表情になった。
内心この若造が調子に乗りおって!とか思ってるんだろうなぁ。
「…申し訳ありません。審問会に参加する方が遅れておりまして。たぶんではありますが、開催が三日ほど遅れると思われます」
三日…三日ねぇ。それくらいの時間があれば僕を懐柔できると思ってるって事かな…。
「そうですか、では、二日後にまた来ます。では陛下一旦カルナートに戻りましょう」
デヴェロア総長が青ざめる。
「おっお待ちください!遅れた者が開催が早まるかもしれません!なのでどうか、ラガツにて、お待ちください!」
懐柔しようというのに本人がいないんじゃ出来ないよねぇ。
「どうしますか?陛下」
決定権はあくまで上司であるフォニアさんにある。僕はフォニアさんに聞いた。
「…ふぅ。仕方ありませんね。分かりましたら連絡を。私達は、トブタイの着陸した所にいますので連絡はそこに…」
フォニアさんが言う。下手に追い詰めるのもいけないからね。
「分かり次第、そのようにしましょう」
汗を拭きながらデヴェロア総長は言った。
「では陛下。用事は済みましたので、戻りましょう」
「ええ、そうね。ではデヴェロア総長ごきげんよう」
「今度は、審問会でお会いしましょう。後ろのお二人も次は、別の形でお会い出来たらうれしいです」
「えっええ」
「楽しみにしております」
別の"機会"ではなく、"形"。
メイドさんたちをフォローしつつ、人類同盟に向けての事実上の係わってこないでください宣言だ。
「いえいえ、そういわずに何か用があれば、どんな小さなことでも、お気軽に人類同盟を頼ってください」
最後までデヴェロア総長ニコニコと笑っていたが、その目は笑っていない。
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