量産型英雄伝

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外伝1 皇帝の憂鬱

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 レグオン帝国首都レグオン グランドース城 帝王執務室

 レグオン帝国はアポリオンが最初に撃退された後に作られた国だ。最初は復興された土地に作られた小さな国でしかなかった。ある皇帝の代で、周囲の国々を併呑し、巨大なレグオン帝国へとなった。今では、大陸の中でも有数の長い歴史を持つ国家となっている

 長い歴史を持つ国家に相応しく首都レグオンは、きらびやかな街であった。街の中央部に作られた巨城グランドース城。街を見下ろすその城は、帝王の城に相応しい威容を誇っている。

 皇帝アルカリウス7世は、その日も機嫌よく執務室で仕事をしていた。
 勇者が来た事により、レグオン帝国のアポリオンによる被害は大分減ったからだ。
 勇者が来る前は、帝国に正式採用されていたフォルス カニンガムで数に任せて撃退していた。
 カニンガムはスベン公国で使用されていたダロスの二世代後の最新鋭機。
 だが、それをもってしてもアポリオンの群れを撃退するのには苦労していた。現在は勇者に、最前線で戦ってくれるお陰で、大きなアポリオンの群れが帝国内で暴れる事は少なくなり、小さな群れならカニンガムの部隊でも十分対処できるようになっていた。
 人類同盟からの支援もあり、レグオン帝国は着々と戦力を充実させていた。
(ククク。いずれは全てを、手に入れて見せよう。我が帝国の為に)
 手元にある書類を見ながら満足そうに目を細める。そこには、カニンガムを運用する兵士が着々と育っている事が記されていた。

 そこへ帝国の宰相であるアルベルトが慌てた様子で執務室へと飛び込んできた。
「大変でございます!陛下!スベン公国の首都ハイレルゲンが落ちました!」
「何?状況はどうなっている?」
 一方その報を聞いた皇帝アルカリウス7世は、顔を引き締めた。
「はっ!首都ハイレルゲンから撤退する際にダリル・ガレイロス・スベン公王は負傷し、たどり着いたカルナートにて死去。現在は公女フォニア・ダリル・スベンが、後を継ぎ公王を名乗っております。そのフォニア公王より、即位の報告と追加の支援要請を願う書状が来ております」
「ほう。追加の支援か?併合の願いでも、勇者の派遣でもなく?」
 書状の内容にアルカリウス七世は首をかしげた。
「はい」
「何を考えている?ハイレルゲンが落ちたという事は、もう防衛戦力など無いにも等しいはず。民を道連れに滅ぶつもりか?いや、そんな事を考える様な娘ではなかったはずだが…」
 アルカリウス七世は、やせこけたフォニア公女の姿を思い出していた。アルカリウス七世の中ではフォニア公女は、国政に向かない人の良い姫と言う認識だった。それゆえに、首都が落ち、公王も亡くなったら、彼女な国民の為に他国の庇護をを求めると思っていた。
 以前は、スベン公国を併合するメリットよりデメリットが多いと判断した為断ったが、今併合をスベン公国が願い出たならば、アルカリウス七世は、受け入れるつもりだった。兵も民も減った今ならば、労せずして、新たな領土を獲得する事が出来るからだ。
「まぁよい。完全に滅んだら滅んだで、ケンジがアポリオン共を駆逐した後で我が領土とすれば良い」
「さようですな。では、要求の方はいかがなさいますか」
「…では、好きだけ持って行けと返事をだせ。帝国は太っ腹だからな!それに、支援物資を我々が渋ったから、ハイレルゲンがアポリオンに滅ぼされたと因縁をつけられるのは面倒だからな」
「ですが、陛下それでは…」
「構わん。だが、輸送はスベン公国の者達にやらせろ。それに優遇するのは一回のみだ」
「なるほど、輸送には多くの人手に護衛の者も必要ですからな。守りに徹している彼らには、それを捻出するのも大変でしょう。出したとしてもそれは大した数は出せるはずはない。それに優遇したという事実があれば、諸外国にも言い訳は出来ましょう」
「そうだ。せいぜい物資を竜車に満載して送り出してやれ。どうせ大した量にはならん」
 そうすれば、帝国は、危機に陥った公国に最大限の支援をしてやったと国際社会に言い切る事が出来る。それに、本来スベン公国へと送られるはずの新型フォルスの変わりに旧型中古のダロスを送っていたのは事実なのだ。
「は、かしこまりました。すぐにその旨の返事を出しましょう」
「うむ。…そういえば、勇者のなりそこないが、スベン公国に行っていたな。そやつはどうした?」
「はっ。手紙を届けに来た使者の話によりますと現在は、カルナートに居るそうです。現在はスベン公国軍の再編に協力しているそうです」
「ほー。まぁあの程度の力しか無いのなら、長くは持つまい。まぁ逃げてきたのなら保護してやらんでもないかな。我が国は広大だ。辺境にでも送ればケンジの負担の軽減にはなろう」
 アルカリウス七世は自身の髭をなでながら考える。
「左様ですな」
 その時執務室の扉が前触れも無く勢い良く開かれた。
「おっさん帰ったぞ!」
 皇帝の居る執務室だというのにその闖入者は、悪びれた様子も無く言い放った。そしてそのままずかずかと部屋の中に入ると皇帝の前に立った。
「ご苦労。良く戻った」
「ケンジ様。勇者様とは言え、陛下のお部屋にノックも無しに入るのは失礼ですぞ!それに機密文書という物もあるのですぞ!」
「いいじゃねぇか別にオ○ニーしてるわけじゃねぇんだし。それに俺には、難しい分かんねぇから見たって大丈夫だ!」
 部屋に入ってきた勇者ケンジは、情けない理由で胸を張った。だが、勇者が故に違和感には鋭い。アルカリウス7世が持っていた紙が折りたたまれ、見た事が無い封蝋がされていた事に目ざとく気付いた
「ん?ソイツは何だ?」
 ひょいとアルカリウス7世が持っていた紙を取った。
「勇者様!」
 あまりにも自然な動作に誰も反応できなかった。
「あーこれがアレでここがあっちっ行ってっと…」
 勉強嫌いなケンジもアクアヴィーネの勇者水上紗枝に半ば無理矢理に、この世界の読み書きを勉強させられた。文字が読めないという事はかなりのハンデになるという事は分かっていたケンジは、嫌々ながらも何とか読み書きできるレベルまでにはなっている。
 何気なく読んでいるとだんだんとケンジの顔が険しくなっていく。
「こいつぁ…。おい!アイツは…アマタは無事なんだろうな?」
「落ち着いて下さいませ。無事です。今は、スベン公国の復興に協力しているようです」
「そうか…アイツもがんばってんだな…。よし、ちょっと行って、そのカルナートって所のアポリオンを一掃してくるぜ!」
「お待ち下さい!」
 背中を向けて出て行こうとするケンジを、宰相アルベルトがさせまいと止める。
(そんな事をされては、下手したらスベン公国が簡単に復興してしまうではないか!)
「なんだよ?今日の討伐ノルマは終えたぜ?」
 ケンジは、レグオン帝国内を飛び回り、アポリオンを見つけてはフレイムソスの圧倒的攻撃力で葬っていた。その数は数十万単位まで増えており、レベルも順当に上がっていた。同時にただでさえ高い攻撃力を持つフレイムソスの火力がさらに上がり、その制御にケンジは四苦八苦していた位だ。
「そうではありません!勝手に他国へと行かないでください!要請も無しに行ったら国際問題になりますよ!それに」
「んなもんテメェらの軍で守ればいいじゃねぇか?知ってんだぜ。また軍備の拡張したろ。そんだけの戦力があるなら、俺が戻ってくるまで守る事ぐらい出来んだろ?それとも何か?そのスベン公国ってーのが滅べばいいとか思ってんじゃねぇだろうな?」
「違います。その様な事は考えておりません」
 図星を指され、内心冷や汗ものの宰相アルベルトだったが、長年鍛えたポーカーフェイスにて動揺を押し殺して答える。
「落ち着け。もちろんこちらでも、支援はする。渡せる最大限の支援物資を渡す予定だ」
 助け舟を出すように、アルカリウス七世が言う。
「本当だろうな?」
「何なら、神にでも誓うが?」
「ふん。下らねぇ事、考えんじゃねぇぞ?」
 それを見て、ケンジは冷めた目でアルカリウス七世を見た。

 ケンジは、元の世界では、曲がった事が大嫌いで、彼の目の前でそんな事が起これば、誰彼構わず食って掛かっていた。それが、同級生だろうが上級生だろうが、教師であろうが、社会人であろうが。相手が気に入らなければぶん殴り、徹底的に叩きのめした。お陰で警察にお世話になる事が多く、周りからは不良のレッテルを張られ、避けられていた。別に彼は、正義漢を気取っているわけではない。悪い事が気に入らない、ただそれだけの野性にも似た衝動に突き動かされて動いていた。
 彼を良く知る人間からは、当然彼の気風の良さもあいまって好かれているのだが、彼自身が人を寄せ付けない事を良しとしている為、殆ど知られる事は無かった。
 そんな彼の野生の感が、二人がよからぬ事を考えている事を察したのだ。
(こやつの感の鋭さは、本当に驚異的だな。良い奴なのだが良い奴過ぎるというのも問題だな本当に…)
 アルカリウス七世は、ケンジの事を気に入っていたが、その分、曲がった事が大嫌いと言う性格が残念でならなかった。
(もう少し清濁を併せ呑んでくれればなぁ。だが、奴はまだ若いおいおい分かってくるだろう。さすれば…)
 目の前に不遜な態度で立つ青年を見ながらアルカリウス七世は思った。
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