量産型英雄伝

止まり木

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20話 僕のこれから…、とかいう物は置いといてバリエーション機!

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 翌日、メイドさんに起こされた。
 メイドさんは、服と僕の鎧を持ってきてくれていたので、彼女に部屋の外で待っていてもらい、それを着る。僕の鎧は綺麗に拭かれており、すこしも吐瀉物の嫌な臭いがしなかった。誰かが綺麗に洗って手入れをしてくれたのだろう。本当に申し訳ない。
 廊下に出てメイドさんに案内されながら食堂へと向かう。
 途中の廊下アランさんに出合った。
「おはようございます。アマタ殿」
「はい。おはようございます。アランさん」
「良く眠れましたか?」
「ええ、お陰さまで…」
「アマタ殿には、フォニア陛下より、朝食の後に執務室に来るようにとの事です」
「分かりました」
「朝食をご一緒してもいいですか?ザムについて聞きたい事があるんです」
「構いませんよ」
 アランさんとザムの話をしながら、廊下を歩いていると若いメイドさんとすれ違った。僕を見たそのメイドさんは、僕の顔を見ると真っ赤にして、一礼すると足早に去っていった。
 元の世界では、女の子にそこに誰も居ないように対応された事はあるが、こんな反応をされた事は無い。どういう事だ?
「ククク。かわいいですねぇ。アマタ殿も罪なお人だ」
 それを見たアランさんが面白そうに言った。何か原因を知っているのか?
「罪なお人って、僕は彼女とは初対面ですよ?一体何が出来るって言うんですか?」
「着替えさせたのは、セリア隊長とこの城のメイド達ですよ」
「はっ?」
「英雄だって言って、皆でキャイキャイいいながらお前の体を拭いていたそうですよ」
「えっ?」
「安心してください。アマタ殿の体を拭いてくれたのは、若いメイド達ですから」
 それは、何の慰めにもなってない!一方的に僕が恥ずかしい思いをしただけじゃないか!


 それから僕は行く先々で、顔を真っ赤にしたメイドさんに逃げられるor妙にメイドさんに見つめられると言う世にも珍しい待遇を受けた。
 朝食を終えると僕はアランさんに、公王の執務室へと案内された。執務室は、今ではフォニアさんの仕事部屋となっている。

 執務室には、すでにガルロックさんとリーリアさんが居た。
 僕達が部屋に入るとフォニアは、椅子から立ち上がって僕らを歓待してくれた。顔には喜色が浮かんでいるが、それより疲労の方が目立っていた。親が死に、公王としての仕事の引き継ぎ、さらにアバドンの襲撃がありその対応に追われていたのだから仕方が無いといえば仕方が無い。
 僕と同い年の彼女が何故こんな事をしなければならないのかと思う。
「カルナート防衛。誠にありがとうございましたアマタ様。改めて礼を言わせていただきます。詳細は、先に戻ってきたセリア様から聞いています」
「ですが、街にアバドンの侵入を許してしまいました」
 僕の脳裏に崩れた街並みと死んだ兵士の顔がフラッシュバックする。
「我々ではギメランタイマイを止める事は出来なませんでした。であれば、このカルナートは、徹底的に蹂躙され、私達も死んでいたでしょう。アバドンが街に侵入したのに街の区画一つと兵の被害だけですんだのは、快挙なのです。だから、ありがとう。被害を気にする必要は無いとは言いませんが、必要以上に気負う必要はありません。我々の国なのです。本来は我々だけで守らねばならない戦いに貴方様を巻き込んだ私達が悪いのです。それを覚えて置いて下さい」
「…はい。一つお伺いしたいのですが、この国での対アポリオン戦略はどの様な物なのでしょうか?」
「うむ、確かに防衛をになってもらうアマタ殿には知っていて欲しい事ではあるな。では教えよう」
 僕の質問に答えたのはフォニアさんの隣に立っていたガルロックさんだ。
 はっきり言って、ガルロックさんから聞いた戦略はお粗末としか言いようのない物だった。簡単に言えば、他の国の作戦に右倣えといった感じの物だ。ようは、勇者が育ち、侵攻作戦が開始されるまでひたすら、防御に徹するという戦略だった。侵攻作戦が開始されたら、当然スベン公国にうろつくアポリオンも"ついで"に駆逐される。後方にアポリオンの支配地域があっても、人類同盟に百害あって一理なしだからだ。それまで防備を固めて待つのだという。

 うん、ダメだよね?その戦略。
 勇者って何時侵攻作戦が開始できるまで成長するの?その間、防備を固めるだけ?敵はどんどん増えているのに?
 そしてその戦略の結果が、ハイレルゲンの陥落という事なのだろう。
 スベン公国がすべきだったのは、アポリオンの駆除。
 でも、仕方が無かったのだろう。アポリオンに対して、有効な兵器が殆ど存在しない状況でアポリオンに対して攻勢に出ようなんて考えられなくても仕方が無いのかもしれない。
 
「明日、私は、国民に向けて、王位を継承した事を発表します。アマタ殿もそれに参加し、協力をお願いしたいのです」
「分かりました喜んで協力させていただきます」
「ありがとうございます。では、具体的には…」

 明日行われると言う王位継承の発表と式典の段取り説明された。
「それと…今日アマタ様にお願いしたい事なんですが…」
 フォニアさんが申し訳なさそうに今日僕にやってほしい事を教えてくれた。
 今日の仕事は、新たなザムを召喚して引き渡すのと、昨日排除したアポリオンの死体の後始末だ。
 そんなに申し訳なさそうにする必要は無いのに…。この国と僕とは一蓮托生の様なものだ。お客様扱いはもう必要ないのに…。
「分かりました。やっておきます」
「お願いします」
 僕はお願いを了承すると執務室から辞した。

 城から盛大な見送りに送られ、竜車に揺られて城壁の外へと向かう。途中でスクラップ置き場へと寄り道してポイントを確保する。昨日の戦いでは、殆どのポイントを弾薬として使った。もし、昨日の召喚実験の時にザムを二機召喚出来ていたらと思うとぞっとする。その場合、マシンガンの弾の補充も、ましてや無反動砲の調達が出来ず、ギメランタイマイに突破され、カルナートは、蹂躙されていた事だろう。
 
 昨日とは別のスクラップ置き場で資材ポイントを68ポイント補充する。残りとあわせると71ポイントにまでなった。

 門を抜けてると、窓の外には、無数のアバドンの死体の山が見え、臭いが竜車の中に入ってくる。鼻で息をする事が耐えられず僕は、鼻を摘んで口で息をするのに集中する事で何とか対処する。こんな物が目の前にあったら、気を休める事すら出来ない。
 既にアバドンの死体をダロスが片付けている最中で死体にロープを掛けてカルナートから離れた場所へと引っ張っている。
「アバドンの死体の始末が大変そうですね」
「死体の始末に関しちゃ楽な方なんですよ。こいつらの死体は、死ぬと、すぐに腐って土になるんです。一週間もすると、ここに死体があったって事は、わからなくなってしまいます。信じられますか?臭いも無くなるんですよ」
「そんなに早いんですか?」
 それって菌の力で腐敗してるって言うより、まるで証拠隠滅の為にわざと腐りやすくしているんじゃないか?生物兵器が死亡したら敵に情報を与えない為に、急速に腐敗して、相手に死体を調査させないなんてのはフィクションの生物兵器にはよくある設定だ。
「こんな特性があったせいでしょうね。アポリオンの死体や、骨格標本の一つでも残っていてくれれば、アポリオンが再来すると言う話に信憑性が残ったのでしょう。実際私も、アポリオンが攻めてくるまでアポリオンって御伽噺に出てくる空想上の化け物と思ってました」
「そういえば、ザムが二機しかありませんけど、後一機はどうしたんですか?」
 僕視界には、立ったまま放置されているザムと、右腕を失ったザムが、膝をついている様子が見えている。
「今セリア隊長が乗って哨戒に出ています。アレだけの数のアポリオンを倒したんだから周辺には居ないとは思いますが、一応念のためだそうです」
「そうですか。確認は大事ですからね」

 僕は竜車から降りて、自身が乗っていたザムを見上げる。
 ううむ。これに乗りたくは無いかなぁ。
 僕の最後の記憶から、ザムのコックピットが吐瀉物にまみれになっている事は容易に想像出来る。そこで僕は、初回コールを使って新たにザムを召喚する事にした。
「送還!」
――――経験値が一定値を超えました。レベルが4に上昇しました。
――――これによりシステテテテテテテテテテ
――――不正なアクアクアクアクアクアクアク
――――直ちににににににににブツン!
――――アップデートを完了しました。基本システムがアップデートされます。資材ポイントを使ってオプションの召喚が可能になりました。召喚リストを確認して下さい。一日に召喚可能なGS数が2機に増加しました。機体名称"GS-06B ザム"の熟練度が一定値を越えました。系譜システムにより、召喚可能なGSが増えました。召喚リストを確認して下さい。以上です。

 レベルアップと同時に、もはや恒例行事となったバグりながらのアップデートがされた。内容を詳しく確認したいが、アバドンの死体が散乱しているような臭い場所で長々と確認なんて出来ない。
 とっとと、ザムを召喚してこの場から逃げ出そうと思った時、唐突に僕の目の前に半透明のプレートが現れた。
「わっ!ってこれ」
 そのプレートには、リストが書かれていた。GS-06Bザムと言った僕の召喚できる物の名前が縦に並び、それらの横に召還に必要な資材ポイントが表示されている。それ以外にも呼べるギアソルジャーや装備が増えている。

初回コール 使用中

一日の最大コール回数  現在のコール可能数    保有資材ポイント
2            2             71

召還品名        消費資材ポイント
GS-06B ザム        10
GS-06S 指揮官用ザム    12
GS-06E ザム・イーワック   15
GS-06V 作業用ザム・タンク  11

75mmマシンガン×2    1
75mm装填済みマガジン×6    1
ゼス500mm無反動砲×2    1
ゼス500mm無反動砲マガジン×2 1
GS支援用可翔機トブタイ  10 

 これで、自分が何を召喚できるか一目で分かるぞ!召喚する機体の説明もある!全部ザムだけど!それに、初回コールの使用状況や、今日呼べる残りの召喚枠まで表示されてる!仕様が一気にユーザーフレンドリーになった!改善要求が通ったらしい。今後も何かあったらその都度お願いしてみよう!
 
「どうかしましたか?」
 アランさん、固まっている僕を見て声を掛けてきた。どうやら、僕以外にこのウィンドウは見えないようだ。
「僕の召喚能力が成長しました。一日にザムが二機召喚出来るようになりました。それにそれ以外にも色々出来るようになったんですよ。それにちょっと驚いちゃって」
「ほう、それは凄い!詳しく聞きたいですが…。ここでは…」
 ちらりと、アバドンの死体の山を見た。
「ええ、臭いもたまらないし作業をしながらにしましょう」

 ウィンドウに表示された所有ポイントが二機のザムを召喚しても、武器弾薬を召喚する分のポイントが残る事を確認して、本日分のザムを召喚する。召喚するのはノーマルのザムだ。バリエーション機が増えているけど、どれもノーマルのザムよりポイント消費が激しい。今欲しいのは数だ。なので一番ポイントの安いノーマルザムを召喚する。
 その時どうせならと、二機同時に召喚出来ないか試してみた。すると二機のザムが横並びに現れ、召喚出来た。
 一機をアランさんに召喚したザムを引き渡し、もう一機は後で、取りに来るそうだ。

 今度は僕の乗るザムを召喚しよう。よし、これにしよう。今回の作業にはこれがぴったりのはずだ。
 僕は、召喚リストの中から、新たに召還出来るようになったザムの一つを選んだ。
「コール!GS-06V 作業用ザムタンク」
 現れたのは、オレンジ色をメインに、所々に黄色と黒のストライプ模様…俗に言う警戒色が塗装された機体だ。最大の特徴は、タンクの名の通り下半身が二本足ではなく、戦車のようなキャタピラを持った車体になっている事。それに車体の前部には大きなドーザーブレード、後部にはウィンチが付いている。両腕には通常の腕ではなく、重機についているようなアームが付いており、アームの先端には、無骨なマジックハンドが付いている。背中には、腕部用のアタッチメントが付いたバックパックに装備されている。
「これは何ですか?これもザムなんですか?」
 ザムタンクを呆然と見上げてアランさんは言った。
「せっかくだから、新しく呼べるようになった作業用のザムを呼んでみました」
「作業用…ですか?」
「戦闘能力はありませんが、整地などの作業には強力な力を発揮してくれます。っと、細かい話は後にしましょう。この臭いはたまらない」
「お!そうですね。そうしましょう」
 僕は、タンク部の側面に作られたはしごを上ってタンク部の上に登り、ハッチを開ければそのまま乗る事が出来る。コックピットに乗り込み、即効でハッチを閉める。起動処理を行い最優先で空気清浄機を最大稼動させ、コックピット内に充満するあの悪臭を洗い流す。
「ふぅ。ようやく普通に呼吸出来る」
 深呼吸をして一息つくとケースからMRヘッドセットを取り出す。
 ザムタンクのMRヘッドセットのデザインは、溶接マスクの様に完全に顔を隠す形のデザインをしておりその表面には、平行に並んだ三本の線が並んでいる。
 何か見た事のある様なデザインだな…。まるで何処かのエンジニアの様だ。
 そう思いつつそれを被ると、他のザムから通信が入った。
「アランさんかな?気が早いなぁ」
 そう言って、機器に手を伸ばして、通信要請を受諾する。
「アマタ!貴方大丈夫?ってあなたアマタよね?」
 通信画面に映ったのは、予想に反してセリアさんだった。顔を完全に隠すタイプのヘッドセットのため、僕が誰だか自信が無かったようだ。
「えっああ、セリアさん。おはようございます。あと、はい僕はです。大丈夫です」
「驚いたわよ。いきなり気を失うんだから…」
「お見苦しい物を見せて、申し訳ありません」
「新兵には良くある事よ。気にしてないわ。むしろ異世界の人も普通の人なんだなって思ったわ」
「向こうでは、戦いには縁の無い普通の一般人の学生でしたからね」
「そう。今日はこれから戻ってくるのよね?」
「ええ。ああ申し訳ないんですが、セリアさん戻ったら、ちょっとお時間いただけませんか?」
「えっ良いけど何かしら?」
「ちょっと相談したい事があるんです」
 僕の考えている事が、ちゃんと通用するか実戦を知る人に聞いて欲しいし…。
「分かったわ。いやーまいったわねぇ。じゃあ後でね!」
 セリアさんは、何故かと嬉しそうに通信を切った。
 一体僕の言った事の何処に嬉しがる要素があったんだ?

 その後、アランさんと一緒に、カルナートの前に出来た死体の山をザムタンクによって片付けていく。
 ザムタンクは作業用という事も有り片付けには大活躍だった。
 ギメランタイマイの死体に、後ろ向きで近寄り、上半身を180度回転させ、背後にあるウィンチから伸ばしたワイヤーロープを結びつける。その後上半身を元に戻してそのまま廃棄場所へと死体を引きずっていく。
 一緒に作業していたダロスもアバドンの死体に紐を結び付け、廃棄場所へ運んでいく。
 作業中、城のほうからゴーンゴーンゴーンと鐘の音が響いていた。
「何の音ですかこれ?昨日のアバドンの襲撃の音とは違うと思いますけど…」
「これは、鎮魂の鐘ですね。昨日の戦いで散って行った仲間たちへ向けての鐘です」
「そう…ですか」
 僕はでコックピットで黙祷をささげると、死体を片付ける作業に戻った。
 アバドンの死体の処理をあらかた終えたのは夕方だった。ふと街の外を見るとセリアさんの乗ったザムが帰ってきたのが見えた。
「セリアさんお帰りなさい」
 降りてきた、セリアさんに声を掛ける
「それはこちらの台詞よ。アマタ。貴方あの後大変だったんだから!」
「っ!」
 僕はその言葉を聞いて顔に血が集まり真っ赤になっていくのを感じる。
「えっ!あっ!大丈夫大丈夫!立派だったから!」
 慌てた様子で僕を慰めようとするセリアさんの顔も赤い。でも立派って何ですか!ナニですかそれは、慰めと言うか余計僕が恥ずかしく感じるんですが!
「コホン!ねぇアマタ。相談って何かしら?」
 咳を一つして気を取り直したセリアさんが聞いた
「はい、実は…」
「何かしら?答えられる事なら何でも教えてあげるわよ?」
 何でセリアさんは顔を赤くしているのだろう?
「実は…について意見を聞きたくて…」
「はいっ?」
 僕が相談したい事を話すと、セリアさんはきょとんとした表情で僕を見た。そして左手の甲を頭に立てると上を向いた。
「どうかしましたか?」
「はぁ。いえ、なんでもないわ。ちょっと自分の馬鹿さ加減に嫌気が差しているだけよ」
「それでですね。実際の現場を知っている人の意見が聞きたくて…」
「いいわ。聞かせて」
 僕は真剣な顔をしたセリアさんに、僕の考えを話した。
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