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7話 お披露目
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そして現在僕らは、今お披露目会の会場の近くにある控え室にいた。
時間は、夜だ。
「はぁ」
木下先輩の憂鬱そうな声がする。
「大丈夫ですか木下先輩?」
僕は、隣のソファに座っていた木下先輩に声を掛けた。
「天田は何か普通だな…。うらやましい」
先輩は、顔をこちらに向けて、うらやましそうに僕の姿を見る。
木下先輩は目立つ事が苦手な人だ。自身の力を高める事を至上の命題とした武道家って感じの人だから、人前に出るのが嫌なのだろう。
「あの人達は僕に興味ないですからね。こんなものでしょ。それにしても皆さん気合の入った格好ですねぇ」
僕は、今日のお披露目会の主役である先輩たちを改めて眺めた。
ケンジさん達は、メイドさん達にわやくちゃにされながら、見た事も無いような豪華な服を着されられ、髪を整えられていた。
ケンジさんは、赤を基調とした自称全裸の人が着ていたのと似た、軍服を着て壁によりかかっている。
水上先輩は、綺麗なマーメイドラインを持った青いドレスだ。背中が大胆に開いている事と青い髪をアップにまとめている事からとても色っぽい。しかも先輩は、野暮ったいめがねを外すと美人だという漫画でしか見たことの無い稀有な属性を持っていた。なので、最初に見た時は、僕は先輩達と一緒にかなりびっくりした。
そんなドレスを着た水上先輩はソファに足を組んで優雅に座っている。それだけで一枚の絵になりそうなほど似合っている。
木下先輩は、ケンジさんの緑の色違いの軍服だったのだが、ムキムキの体なので違和感が凄い。それでちょっと顔に傷があればド○ル・○ビの様にも見える。
そして、悲しいのは軍服が似合っていないのを本人が自覚しているという事。今は、水上先輩の正面に座り頭を抱えている。
僕は、なんというか既製品の服を失礼にならない程度に手直した程度の物で、他の三人の衣装と比べるといかにも手抜き感が凄い。ガウス大司教の指示か、それとも大司教の意思を忖度した誰かがそうしたのかは分からないけどね。
けれど、そのおかげで目立つ格好ではないので気楽ではある。
せいぜい小姓の様に脇に立って目立たないようにしよう。そうすれば余計な面倒ごとに巻き込まれる事は無いだろう。
本当なら僕は、部屋に待機していてくださいとガウス大司教に言われていたんだけど、先輩達がなんで僕を出さないんだ!って抗議した結果、このような事になっていた。
僕自身は別に出なくても良いと思ったんだけど僕の為に怒ってくれた先輩達が嬉しくて…。
「ヒデだけ楽なんてさせるか」
「そうよ。天田君だけ、楽はさせないわ」
「客寄せパンダは多いほうが一人に対する負担が減るからな」
「皆さん?僕の事心配して抗議したんですよね?ねぇ?」
だけど、いい笑顔で僕を見つめるだけで答えてはくれなかった。
「さてみなさん。準備が整いましたのでパーティールームへとお越し下さい」
先輩達の人の良さにむせび泣いていると、メイドさんが僕達を呼びにきた。
「あいよ。あ~メンドクセ」
「ほんと。嫌になるわ」
「はぁ」
ケンジさんは、寄りかかるのを止め、他の二人の先輩はソファから立ち上がって部屋の外へと向かう。
メイドさんの案内でお披露目の会場の扉の前まで来る。
会場の扉は両開きで、その前に並ばされた。ケンジさんが面白半分に俺を中心に据えようとしたが、それはメイドさんに阻止された。
僕は、一番端に配置され、自主的に先輩達から一歩下がる。
中からは、お披露目回の司会をしているガウス大司教の声が漏れ聞こえている。
「さぁ。我らの救世主、新たな勇者に登場していただきましょう!」
まるで、どっかのスターみたいだ。
ガウス大司教のご高説が終わると目の前にあった扉が開かれた。
一瞬扉の向こうの明るさに目が眩む。何とか目を細めて目が慣れるのを待つ。
この世界には光石と呼ばれる鉱石が存在し、この石はなんと光を内部に溜める事が出来るそうだ。パーティ会場には、その光石を使った明かりが多数置かれており、パーティ会場は電灯で照らされているかの様に明るかった。
万来の拍手によって先輩達は迎えられた。
分かっている。これは僕に向けられた拍手じゃない。先輩達へ向けられた拍手だ。
目が慣れるとそこに、はきらびやかな衣装を纏った人達が所狭しとおり、笑顔で先輩達を迎えていた。
いっその事、僕も拍手しようかな?
「ご紹介しましょう!炎の神霊機フレイムソスの勇者 ケンジ・アッタ!」
紹介にあわせて、めんどくさそうにケンジさんが前に出る。片方の手をポケットに突っ込み、猛片方の手では首の後ろを掻いている。はっきり言って凄い態度が悪い。
「水の神霊機アクアヴューネの勇者。サエ・ミナカミ嬢!」
水上先輩は、優雅に微笑みながら、手は、ちゃんとしなさいと叱るようにケンジさんを叩いている。
「木の神霊機ククノチの勇者。ハジメ・キノシタ!」
「ウス」
木下先輩は、緊張して顔を真っ赤にしながら前に出る。
「最後に、何故か召還されたデアフレムデ。ヒデユキ・アマタ」
僕の紹介は非常にそっけなく、いかにも。一応前に出るが、拍手は少ない。つまり、勇者以外お偉いさん達は用は無いという事だろう。
「あれが例外機の乗り手か」
「召還出来るようだが、神霊機と比べるとその力はかなり劣っている…」
「我が国にはいらないな…」
僕を見ているお偉いさん達がヒソヒソ声で言う。
例外機。それは僕の召還するザムの事。神霊機でもフォルスでもない例外的な機体。だから例外機。
この世界において勇者とは神霊機に乗り操る者。神霊機では無いザムを召還する僕は、単なるイレギュラー。デアフレムデ…異邦人として紹介されただけでもマシと思おう。
勇者に比べて僕のザムは明らかに弱い。以前、周囲を警戒していた兵士にザムの強さについて聞くと、この世界で開発されたフォルスなる人型兵器よりは大きく、強いが、一機だけでアポリオンの群れを撃退できるかといわれれば、出来そうに無いそうだ。
アポリオン…この大陸を侵略している謎の生物の総称。全てを壊し貪り尽くす異形の化け物。
勉強の一環でアポリオンの絵が描かれた本を見たが、その姿は奇妙極まりない物だった。基本的にクマのような獣の形をしているのに、頭部が昆虫になっている物、馬の両脇から蟷螂の鎌のような腕が突き出ている物など、不気味且つ、不自然極まりない姿をしている。そして何よりそれらは人間より圧倒的に大きいのだそうだ。この世界の人間はそんな化け物達相手に絶望的な戦いをしていた。
ケンジさんは憮然としつつ、水上先輩はすまし顔で、木下先輩は顔を真っ赤にしてパーティ会場の中へと進む。
僕は皆さんの邪魔にならない様に脇に下がる。
部屋に入ったケンジさん達は、あっという間に、きらびやかに着飾った人達に囲まれた。何故かその様子をガウス大司教が満足そうに見ている。
このお披露目が終わると、先輩達は、別々の国に派遣される。
派遣される国は、このお披露目の後に国家間の会議によって決められるらしい。もちろん、勇者に行きたいと思う国があれば、それが優先される。なので、今最前線国家のお偉いさん達は、ケンジさんのご機嫌取りに必死なのだ。
僕はそんな騒ぎに巻き込まれないように、挨拶が終わると地味に移動して、料理が並べられているテーブルへと向かう。目指せ壁の花。いや、男の場合壁のシミだっけ?
それはさておき料理だ料理。僕の身柄が具体的にどうなるか分からないけど、これからしばらくは冷遇されるだろうし、豪華な飯が食べられるのもしばらく無いだろう。今の内に楽しまないとね。
お披露目は、立食パーティー式に行われている。テーブルの上には、高級そうな料理が所狭しと並べられ、食べられるのを待っているが、その食べる人々の殆どが、メインディッシュである勇者様達に群がっている。
僕は料理の並べられたテーブルに近寄って皿を取ると、おいしそうな料理を片っ端からその上へと載せていく。
異世界の料理は発達してないって言うけど、ここの料理は十分発達していていいね!…宮廷料理だからかもしれないけど。一般的な料理はおいしいかなぁ?ちょっと心配だな。
料理を物色している僕の背後で、何やら騒ぎが起きている。「この方をどなたと心得る!」とかケンジさんが「ああ!何処の誰かも知らない奴に下げる頭はねぇ!失せろボケがっ!」と言い合っている声が聞こえている。
ケンジさんだしね。しょっぱなから上から目線で来る人間が嫌いだからしょうがないね。まぁケンジさんなら何の問題も無いでしょ。
僕は気にせず、テーブルの間を蝶の様にひらひらと行き来しながら料理に舌鼓を打つ。
もったいないなぁ。お披露目会に来ている人達の殆どはケンジさん達に群がり、料理に目もくれず、群がられたケンジさん達も当然、料理に手を伸ばす事が出来ない。
仕方ない!ケンジさん達に代わり僕が十分に堪能しようじゃないか!次は、この肉料理にしよう!
僕は、ローストビーフを取るべく皿に置かれたトングを手を伸ばした。
「あっあの!」
やっぱり肉がうまいな。塩コショウを使っているだけなのだが、元の世界では普通に使われていた塩と胡椒だが、こっちでは塩はともかく、やはり胡椒は、貴重品らしく、普段教会で出される料理は一味足りない。
「もしっ!?」
ん?誰か女の子に声を掛けられているぞ早く答えてやれよ。うるさいから。むっ!この鶏肉のクリーム煮めっちゃうまい!こんなの元の世界じゃ食べた事無いよ!
「デアフレムデ様!」
デアフレムデ?そいつが女の子の呼びかけている奴の名前か?…あれ?それ俺に付けられた呼び名じゃなかったか?
女の子が僕に話しかけてくる?理由は何だ?僕は勇者じゃないしぁ…何だろ。
声のする方を振り向くと、そこには僕と同じくらいの年の薄幸そうな女の子が立っていた。
前髪ぱっつんのボブカットに、妙に豪華なティアラをつけた女の子だ。着ているドレスは青いシンプルな物。確かこのタイプのドレスはタイプはロングドレスって言うのだったかな?水上先輩がお披露目で着ていくドレスを選ぶ時に迷っていたスタイルだ。
ここに来ている女性の多くが服飾品を多く身につけ、ちょっと目に悪いギラギラゴテゴテとした出で立ちをしているのだが、その少女は、何というかあまり装飾品を身に着けておらず、目に優しい。
うん。僕はこっちの方がギラギラゴテゴテより好きだ。
ただ疲れきっているのか化粧では隠し切れないほどのクマが目の下に出来ており、まるで疲れきったOLのように僕には見えた。
…あれ?このドレス見覚えがある。たしか召還された時に、このドレスを着た子が居たような気がする。あの時も、聖職者を含め、豪奢な服を着た人間が多い中、地味な格好をしていた一団が居たので、印象に残っていたのだ。
時間は、夜だ。
「はぁ」
木下先輩の憂鬱そうな声がする。
「大丈夫ですか木下先輩?」
僕は、隣のソファに座っていた木下先輩に声を掛けた。
「天田は何か普通だな…。うらやましい」
先輩は、顔をこちらに向けて、うらやましそうに僕の姿を見る。
木下先輩は目立つ事が苦手な人だ。自身の力を高める事を至上の命題とした武道家って感じの人だから、人前に出るのが嫌なのだろう。
「あの人達は僕に興味ないですからね。こんなものでしょ。それにしても皆さん気合の入った格好ですねぇ」
僕は、今日のお披露目会の主役である先輩たちを改めて眺めた。
ケンジさん達は、メイドさん達にわやくちゃにされながら、見た事も無いような豪華な服を着されられ、髪を整えられていた。
ケンジさんは、赤を基調とした自称全裸の人が着ていたのと似た、軍服を着て壁によりかかっている。
水上先輩は、綺麗なマーメイドラインを持った青いドレスだ。背中が大胆に開いている事と青い髪をアップにまとめている事からとても色っぽい。しかも先輩は、野暮ったいめがねを外すと美人だという漫画でしか見たことの無い稀有な属性を持っていた。なので、最初に見た時は、僕は先輩達と一緒にかなりびっくりした。
そんなドレスを着た水上先輩はソファに足を組んで優雅に座っている。それだけで一枚の絵になりそうなほど似合っている。
木下先輩は、ケンジさんの緑の色違いの軍服だったのだが、ムキムキの体なので違和感が凄い。それでちょっと顔に傷があればド○ル・○ビの様にも見える。
そして、悲しいのは軍服が似合っていないのを本人が自覚しているという事。今は、水上先輩の正面に座り頭を抱えている。
僕は、なんというか既製品の服を失礼にならない程度に手直した程度の物で、他の三人の衣装と比べるといかにも手抜き感が凄い。ガウス大司教の指示か、それとも大司教の意思を忖度した誰かがそうしたのかは分からないけどね。
けれど、そのおかげで目立つ格好ではないので気楽ではある。
せいぜい小姓の様に脇に立って目立たないようにしよう。そうすれば余計な面倒ごとに巻き込まれる事は無いだろう。
本当なら僕は、部屋に待機していてくださいとガウス大司教に言われていたんだけど、先輩達がなんで僕を出さないんだ!って抗議した結果、このような事になっていた。
僕自身は別に出なくても良いと思ったんだけど僕の為に怒ってくれた先輩達が嬉しくて…。
「ヒデだけ楽なんてさせるか」
「そうよ。天田君だけ、楽はさせないわ」
「客寄せパンダは多いほうが一人に対する負担が減るからな」
「皆さん?僕の事心配して抗議したんですよね?ねぇ?」
だけど、いい笑顔で僕を見つめるだけで答えてはくれなかった。
「さてみなさん。準備が整いましたのでパーティールームへとお越し下さい」
先輩達の人の良さにむせび泣いていると、メイドさんが僕達を呼びにきた。
「あいよ。あ~メンドクセ」
「ほんと。嫌になるわ」
「はぁ」
ケンジさんは、寄りかかるのを止め、他の二人の先輩はソファから立ち上がって部屋の外へと向かう。
メイドさんの案内でお披露目の会場の扉の前まで来る。
会場の扉は両開きで、その前に並ばされた。ケンジさんが面白半分に俺を中心に据えようとしたが、それはメイドさんに阻止された。
僕は、一番端に配置され、自主的に先輩達から一歩下がる。
中からは、お披露目回の司会をしているガウス大司教の声が漏れ聞こえている。
「さぁ。我らの救世主、新たな勇者に登場していただきましょう!」
まるで、どっかのスターみたいだ。
ガウス大司教のご高説が終わると目の前にあった扉が開かれた。
一瞬扉の向こうの明るさに目が眩む。何とか目を細めて目が慣れるのを待つ。
この世界には光石と呼ばれる鉱石が存在し、この石はなんと光を内部に溜める事が出来るそうだ。パーティ会場には、その光石を使った明かりが多数置かれており、パーティ会場は電灯で照らされているかの様に明るかった。
万来の拍手によって先輩達は迎えられた。
分かっている。これは僕に向けられた拍手じゃない。先輩達へ向けられた拍手だ。
目が慣れるとそこに、はきらびやかな衣装を纏った人達が所狭しとおり、笑顔で先輩達を迎えていた。
いっその事、僕も拍手しようかな?
「ご紹介しましょう!炎の神霊機フレイムソスの勇者 ケンジ・アッタ!」
紹介にあわせて、めんどくさそうにケンジさんが前に出る。片方の手をポケットに突っ込み、猛片方の手では首の後ろを掻いている。はっきり言って凄い態度が悪い。
「水の神霊機アクアヴューネの勇者。サエ・ミナカミ嬢!」
水上先輩は、優雅に微笑みながら、手は、ちゃんとしなさいと叱るようにケンジさんを叩いている。
「木の神霊機ククノチの勇者。ハジメ・キノシタ!」
「ウス」
木下先輩は、緊張して顔を真っ赤にしながら前に出る。
「最後に、何故か召還されたデアフレムデ。ヒデユキ・アマタ」
僕の紹介は非常にそっけなく、いかにも。一応前に出るが、拍手は少ない。つまり、勇者以外お偉いさん達は用は無いという事だろう。
「あれが例外機の乗り手か」
「召還出来るようだが、神霊機と比べるとその力はかなり劣っている…」
「我が国にはいらないな…」
僕を見ているお偉いさん達がヒソヒソ声で言う。
例外機。それは僕の召還するザムの事。神霊機でもフォルスでもない例外的な機体。だから例外機。
この世界において勇者とは神霊機に乗り操る者。神霊機では無いザムを召還する僕は、単なるイレギュラー。デアフレムデ…異邦人として紹介されただけでもマシと思おう。
勇者に比べて僕のザムは明らかに弱い。以前、周囲を警戒していた兵士にザムの強さについて聞くと、この世界で開発されたフォルスなる人型兵器よりは大きく、強いが、一機だけでアポリオンの群れを撃退できるかといわれれば、出来そうに無いそうだ。
アポリオン…この大陸を侵略している謎の生物の総称。全てを壊し貪り尽くす異形の化け物。
勉強の一環でアポリオンの絵が描かれた本を見たが、その姿は奇妙極まりない物だった。基本的にクマのような獣の形をしているのに、頭部が昆虫になっている物、馬の両脇から蟷螂の鎌のような腕が突き出ている物など、不気味且つ、不自然極まりない姿をしている。そして何よりそれらは人間より圧倒的に大きいのだそうだ。この世界の人間はそんな化け物達相手に絶望的な戦いをしていた。
ケンジさんは憮然としつつ、水上先輩はすまし顔で、木下先輩は顔を真っ赤にしてパーティ会場の中へと進む。
僕は皆さんの邪魔にならない様に脇に下がる。
部屋に入ったケンジさん達は、あっという間に、きらびやかに着飾った人達に囲まれた。何故かその様子をガウス大司教が満足そうに見ている。
このお披露目が終わると、先輩達は、別々の国に派遣される。
派遣される国は、このお披露目の後に国家間の会議によって決められるらしい。もちろん、勇者に行きたいと思う国があれば、それが優先される。なので、今最前線国家のお偉いさん達は、ケンジさんのご機嫌取りに必死なのだ。
僕はそんな騒ぎに巻き込まれないように、挨拶が終わると地味に移動して、料理が並べられているテーブルへと向かう。目指せ壁の花。いや、男の場合壁のシミだっけ?
それはさておき料理だ料理。僕の身柄が具体的にどうなるか分からないけど、これからしばらくは冷遇されるだろうし、豪華な飯が食べられるのもしばらく無いだろう。今の内に楽しまないとね。
お披露目は、立食パーティー式に行われている。テーブルの上には、高級そうな料理が所狭しと並べられ、食べられるのを待っているが、その食べる人々の殆どが、メインディッシュである勇者様達に群がっている。
僕は料理の並べられたテーブルに近寄って皿を取ると、おいしそうな料理を片っ端からその上へと載せていく。
異世界の料理は発達してないって言うけど、ここの料理は十分発達していていいね!…宮廷料理だからかもしれないけど。一般的な料理はおいしいかなぁ?ちょっと心配だな。
料理を物色している僕の背後で、何やら騒ぎが起きている。「この方をどなたと心得る!」とかケンジさんが「ああ!何処の誰かも知らない奴に下げる頭はねぇ!失せろボケがっ!」と言い合っている声が聞こえている。
ケンジさんだしね。しょっぱなから上から目線で来る人間が嫌いだからしょうがないね。まぁケンジさんなら何の問題も無いでしょ。
僕は気にせず、テーブルの間を蝶の様にひらひらと行き来しながら料理に舌鼓を打つ。
もったいないなぁ。お披露目会に来ている人達の殆どはケンジさん達に群がり、料理に目もくれず、群がられたケンジさん達も当然、料理に手を伸ばす事が出来ない。
仕方ない!ケンジさん達に代わり僕が十分に堪能しようじゃないか!次は、この肉料理にしよう!
僕は、ローストビーフを取るべく皿に置かれたトングを手を伸ばした。
「あっあの!」
やっぱり肉がうまいな。塩コショウを使っているだけなのだが、元の世界では普通に使われていた塩と胡椒だが、こっちでは塩はともかく、やはり胡椒は、貴重品らしく、普段教会で出される料理は一味足りない。
「もしっ!?」
ん?誰か女の子に声を掛けられているぞ早く答えてやれよ。うるさいから。むっ!この鶏肉のクリーム煮めっちゃうまい!こんなの元の世界じゃ食べた事無いよ!
「デアフレムデ様!」
デアフレムデ?そいつが女の子の呼びかけている奴の名前か?…あれ?それ俺に付けられた呼び名じゃなかったか?
女の子が僕に話しかけてくる?理由は何だ?僕は勇者じゃないしぁ…何だろ。
声のする方を振り向くと、そこには僕と同じくらいの年の薄幸そうな女の子が立っていた。
前髪ぱっつんのボブカットに、妙に豪華なティアラをつけた女の子だ。着ているドレスは青いシンプルな物。確かこのタイプのドレスはタイプはロングドレスって言うのだったかな?水上先輩がお披露目で着ていくドレスを選ぶ時に迷っていたスタイルだ。
ここに来ている女性の多くが服飾品を多く身につけ、ちょっと目に悪いギラギラゴテゴテとした出で立ちをしているのだが、その少女は、何というかあまり装飾品を身に着けておらず、目に優しい。
うん。僕はこっちの方がギラギラゴテゴテより好きだ。
ただ疲れきっているのか化粧では隠し切れないほどのクマが目の下に出来ており、まるで疲れきったOLのように僕には見えた。
…あれ?このドレス見覚えがある。たしか召還された時に、このドレスを着た子が居たような気がする。あの時も、聖職者を含め、豪奢な服を着た人間が多い中、地味な格好をしていた一団が居たので、印象に残っていたのだ。
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