量産型英雄伝

止まり木

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6話 教会での生活

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 こちらに来て一週間が過ぎた。
 毎日が訓練と勉強の日々だ。先輩達は神霊機の操作、特に攻撃の威力の調整に四苦八苦しているようだった。それだけじゃない。ケンジさん達は、神霊機の操縦の訓練をしていくうちに、それぞれの属性に即した魔法が生身でも使えるようになったのだ!
 ケンジさんは、全身に炎を纏ってファイヤーボールを撃ったり、水上先輩は、水を腕に纏わり付かせて鞭のように振るったり、木下先輩は、地面から意思より硬く、金属よりしなやかな木の壁を出せるようになったりしていた。
 僕?僕は何の魔法も使えなかったよ!当然でしょ!

 ちなみにこちらの世界でも魔法を使える人はいるが、数万人に一人と言う超稀有な才能と長い訓練を必要とする為、数が少ない。尚且つ、それでもアポリオンを撃退するまでの力は無く。もっぱら要人の護衛や、魔法の研究職をしているそうだ。

 そんな日々の中、僕はザムの能力を十全に使いこなす為の練習に没頭していた。ザムに搭載されている各種レーダーの切り替え方や、オプション機能の把握、リミッターの解除の仕方に、自爆の仕方とその解除の仕方など、習得すべき事はたくさんある。
 高度な電子機器の塊であるザムは、操作方法が頭に入っているからと言って一朝一夕に乗りこなせる機体ではなかった。ザムは戦車や戦闘機に連なる軍事兵器である事を痛感する。
 それはそれで楽しいんだけどね。毎日の空いた時間は、何故か送還しても残っていたヘッドセット起動してザムの取扱説明書…と言うかヘルプを読んで過ごしている。一度も見た個も無い言語で書かれているのに読めるというのは不思議な気持ちだった。こちらの世界の本を調べてみたけど、ザムに表示されている言語は全て未知の言語だった。もしかしたらザムも僕達と異世界で作られ、この世界に召喚されているものかもしれない。

 
 そして夜になれば、誰かの部屋に集まり、色々な相談をする。最初は、それぞれで集めたこの世界の情報の報告や、その情報を分析した結果を話し合っていたけど、今では、神霊機の力制御についての愚痴や、ガウス大司教に対しての文句などが殆どになっていた。

 勉強も進み、この大陸の歴史や、現在の社会情勢、貴族相手の礼儀作法にダンス、それにこの大陸を襲っているアポリオンと呼ばれる謎の化け物についてなど色々な事を学んだ。僕と水上先輩と木下先輩は授業を真面目に聞いていたけど、ケンジさんは堂々と居眠りをしていた。やっぱり勉強は苦手のようだ。
 とはいえ、教えられる事を鵜呑みにする事は出来ない。特に歴史。元の世界でも所変われば歴史が変わる。どの国も自国の輝かしい歴史を喧伝し負の歴史については、黙り込む。しかも自国の歴史を棚に上げて他国を非難することなど何時もの事だ。僕は、ある意味歴史こそ信用なら無いものの一つだと思っている。

 そういえば、ケンジさんにフレイムソスの中をスマホで撮った画像を見せてもらった。
 映っていたのは、いかにもファンタジーな内装のコックピットだった。 
 良くわからない素材で出来た全天周囲モニターに、肘掛の先にある水晶球の用な物が設置され、それに手を突っ込んで操縦するらしい。僕のザムの様に複雑な操作手順とかは無く、水晶球に手を入れれば自身の体を動かすのと同じように動かせるのだそうだ。ただ攻撃する時は、明確に威力や範囲などのイメージを込めて攻撃しないと、思わぬ威力が発揮され、二日目のような大惨事が引き起こされると言う事らしい。 
 水上先輩と木下先輩もケンジさんのスマホを覗くとアクアヴィーネもククノチも同じような内装だと言う。違いは、それぞれのコックピットの内装のカラーがそれぞれの属性に則したものになっているくらいだそうだ。
 代わりにザムのコックピットを三人に見せると感心したように見ていた。

 最初に会った頃はいかにも不良って感じだったケンジさんが怖かった。水上先輩は女性で、木下先輩はいかにもスポーツマンと言った感じで圧倒的インドア派である僕は、苦手意識を持っていた。でも最近は大分、ケンジさん達に慣れ、普通に話せるようになった。
 
 けど、やっぱりガウス大司教を始めとする一部教会関係者との関係は改善される事は無かった。ケンジさん達が身近に居る手前、露骨に罵倒されたりはしないが、僕を邪魔そうに見たり、教会関係者がケンジ先輩達と話している時、僕の存在など目に入っていないように振舞っていた。
 そんな態度を水上先輩が、怒ってくれたりするけど、一向に僕に対する態度を改める気は無いようだ。
 世話をしてくれているメイドさん達も、その事を察していて、僕と接する時、失礼では無いけれど、まるで腫れ物に触るような扱いをされる。

 勇者として期待されていないという意味では気楽でありがたいけどね。
 けど、同時に不安にもなる。じゃあ僕は何処に行けばいいんだろうかと…。ケンジさん達は、迎えたいという場所が沢山あるだろう。けど僕は?
 戦いたいわけじゃない。けれど居場所が無いというのは、とても心細い。

 二週目に入ると、訓練の中に神霊機同士の模擬戦をするようになった。
 一対一の総当たり戦だ。僕のザムを含んだね。
 その結果、神霊機に三すくみの関係があるのが分かった。
 フレイムソスは、ククノチに強くて、アクアヴィーネ相手に弱い。
 アクアヴィーネは、フレイムソスに強くて、ククノチに弱い。
 ククノチは、アクアヴィーネに強くて、フレイムソスに弱い。
 とは言え、神霊機が未成長の段階なので、これからどうなるかは、分からないんだとか。

 だけどその戦いは圧巻だった。
 フレイムソスがアクアヴィーネに炎を纏った大剣を振り下ろした時は、アクアヴィーネは三叉の槍に水を纏わり付かせ、それを鞭のように伸ばしてフレイムソスの腕を掴んで攻撃をそらした。そらされた大剣が地面を軽々と溶断した。
 アクアヴィーネが、槍に纏った水を水刃にしてククノチに飛ばした時は、ククノチにより山が作られ水刃は山を切り裂かんとしたものの、高さを増していく山にすぐに刃の鋭さを削り取られてしまった。
 ククノチがロケットパンチのように腕から、木の幹の様な物を伸ばして殴りかかると、フレイムソスは、大剣を振ってその幹を一瞬にして燃やしつくした。
 元の世界では絶対に見る事の出来ない超絶ロボット異能バトルだ。

 僕?全敗だよ。
 フレイムソスには、大剣で両腕を切り飛ばされ、アクアヴィーネには、槍を振った時に出てきた水刃で足を切り飛ばされた。ククノチには防御したにも関わらす、軽く打ったパンチ一発で防御した両腕は破壊され、尚且つその攻撃で吹っ飛んだ拍子に地面にぶつかって両足が千切れた飛んだ。その中に居た僕はコクピットでエアバッグに揉まれながら洗濯物の気分を味わった。ザムのコックピットの生存性が素晴らしい事が身を持って分かっただけマシだと思うしかない。
 方やこっちの攻撃はまったくと言っていいほど通らない。76mmマシンガンは、相手の装甲で弾かれ、バトルアックスは軽々と避けられる。もはや無理ゲーとしか言いようが無い。戦いにすらなっていない。それこそレ○バーで、新ゲ○ターロボに立ち向かう様なものだ。ある意味、主役級ロボットに駆逐される雑魚ロボットらしいとも言える。

 しかし、ここで僕の可笑しな召還の特性が判明した。
 神霊機は、送還しておくと自動的に修復されるらしい。損傷が大きければ、その分修復に時間が掛かる。実際、フレイムソスとククノチが戦った時に、ククノチの装甲が大きく傷ついた事があった。そしてその装甲が修理されるのに三日ほど掛かっていた。
 だが、僕のザムはどんなにボロボロにされても、それこそ手足を全部もがれようが、翌日に再び召還すれば傷一つ無い新品同然のザムが現れるのだ。
 教会の人達の話だと、ザムは弱い分、修復速度が速いのでは無いかと分析されていた。
 まぁ、それでも、ザムが雑魚なのは変わらないんだけどね。アポリオンは、蟻のような大軍で襲い掛かってくる化け物らしい。そんなの相手に、どんなに破壊されても翌日には修理完了です!って言われても破壊された時に敵に囲まれていればおしまいだ。結局神霊機のような圧倒的力で敵を殲滅するのが一番安全で効率が良いのかもしれない。

 二週目を終えると、この世界にも慣れただろうという事もあり、最前線国家のトップに対してお披露目される事になった。
 最前線国家とは、現在進行してきているアポリオンに侵攻されている国家の事だ。現在は北からケルー及びサリア共和国、スベン公国、レグオン帝国、ハヌマ王国の四カ国だ。
 この大陸の人類対アポリオンの戦いは、人類が圧倒的劣勢に立たされている。既に大陸の半分をアポリオンに奪われ、多くの国が滅ぼされた。だが、これでも人類が団結するのは早かったという。
 前回のアポリオン侵攻では、大陸の3/4を奪われ、尚且つ勇者が現れ、団結しろと神霊機の力によって半ば脅迫した結果、初の人類の一致団結に至ったそうだ。

 大陸の半分を取られている時点でどうなんだと思うが、元の世界の事も考えると早いほうなのだろう。
 召還された時に居た偉そうな人達が、その国々のお偉いさんだったそうな。勇者の召還を直接確かめる為にあの場に居たらしい。

 時折、そのお偉いさん達が訓練の見学に来ていたが、「ガウス大司教が気にしないでください。こちらで対応しますから」とケンジさん達に言っていたので接する事は無かった。

 お披露目されるのはいいとして、勇者じゃない僕はどうなるんだろうねぇ。
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