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65話 泳ぐ悪夢
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「臨時司令部。こちら、マザムリン01。海賊の回収に出ます」
『臨時司令部、了解。お気をつけて』
僕らは、ザムイーワックの発見したすべて遭難者の救助を完了した。現在は、津波に被災した人たちに対する支援がメインの作業となっている。
被災者支援に対して僕に出来る事はない。というかスベン公国の重要人物である僕が手を出したら迷惑になる。
なので最後に忘れていた海賊を回収する。
そんな雑事は、私たちがやります!とマザムリン02のパイロット達が申し出てくれたのだが、僕が始めたことなので最後までさせてほしいとお願いしてやらせてもらった。
この機会を逃せば、次にマザムリンに乗る機会は当分先の事になる。
なお回収に行くのは僕とメリナさんだけ。
なぜ二人だけかと言うと、被災者用の避難所が人手不足だからだ。大勢の遭難者を救出し、なおかつ周辺地域の被災者たちまで大勢集まってきているので、それだけ世話で多くの人出が必要なる。今では爺さん達を含む他のマザムリンパイロット達もそちらの方に駆り出されている。
逆に海賊船の回収は、マザムリンに乗って海賊船の所まで行き、適当にアンカーをぶち込んで曳航するだけというなので、時間的にも数時間。大した手間も時間もかからない。本当なら一人でもいいのだが、そこはお目付け役のメリナさんがつく。
交代のパイロットを連れて行かなかった。この油断が、後に僕らをひどい目に合わせるのだが…。
「きょっ。今日は天気が良くてよかったですね」
空を見上げるとそこには雲一つない青空が広がっており、海もこちらに来た頃の濁り切っていた海とは変わり、だいぶ澄んできていた。美しい空と海。その一言に尽きる。
ヘッドセット越しではあるが、解像度は高く裸眼と変わらないほどはっきり見える。それでいてまぶしくない。素晴らしい技術だ。
『はい。これであれば海賊どもの回収作業はすぐに済むことでしょう』
「そうですね」
ある意味お決まりになってきたメリナさんのそっけない返事。内心、早く本国へと戻ってほしいと思っているのだろう。
なので早く仕事を終わらせる為に、マザムリンは潜らず、海面で白波を引きながら航行する。
その上空をトブタイと、それに乗ったザムイーワックが飛んで追い越していく。こちらを追い越す時、ザムイーワックはトブタイを軽くバンクさせ、こちらに向かって敬礼して飛んでいく。
最後の遭難者捜索のついでに先行して海賊船の位置確認及び周辺警戒をしてもらうのだ。
マザムリンにマッピングしておいた海賊船に向かう途中、先行しているザムイーワックから、海賊の現在位置が送られて来た。多少海流に流されているものの、以前確認した場所からはあまり離れていない。
「さて、そろそろ目視できる距離だけど、ちょっと様子を見ようか」
『よろしいかと思われます』
海賊船を目視できないぎりぎりの位置まで来ると一度停船し、ドローンを放出。海賊船の様子を見る。
飛ばしたドローンから、船上でダラダラしている海賊たちの映像が送られてきた。
「あれは…」
そこに少し気になるものがあった。半ばから折られたマストに、縛り付けられている船員。
『見せしめのようですね。彼らは船長に反抗的な態度でもとったのでしょう』
ドローンの殻の映像はキャビンの方にも流しているのでメリナさんも見ている。
画像を拡大すると散々殴られたのだろう。顔はぼこぼこに腫れた顔が見える。集団リンチを受けた様だ。マストに縛り付けられているのは三人。中には口からだらしなく舌が垂れ下がっている者もいた。
しかし、彼らはまだマシかもしれない。ダラダラしている海賊が大半の中、二人の海賊がぐったりとした仲間の海賊を運んでいた。船の縁まで近づくと、二人は調子を合わせて海へと投げた。ぐったりとした海賊は何の反応もなく海へと落ちる。
つまりは…そういう事だろう
「…」
『気にする必要はありません。あの連中は、他の人間に同じようなことをしてきました。今度は自分たちの番だった。それだけです』
「…了解。えっ?」
それは唐突に起きた。突然海賊船の下が黒くなったかと思うと海賊船の左右から、赤茶色をした巨大な柱の様なものが水しぶきを上げて突き出したのだ。柱の高さはかなりのもので、海賊船の船体の高さを軽々と超えている。先端は緩やかなカーブを描く爪の様だ。
高々と伸びた二本の柱は中ほどから海賊船ある内側へと倒れていく。
倒れる?いや違う。アレの意志で折れてるんだ。
よく見れば赤茶色の柱の中ほどにはカニの様な関節が見えた。
船の上の海賊たちは、呆然としながらその二本の柱を見上げている。
ほかの船員と比べると豪華な服を着た人物が船室から飛び出してきた。服装からして海賊船の船長だろう。船長は、海賊船に向かって倒れてくる柱を見上げると、いの一番に船を捨て海へと飛び込む。
我に返ったほかの海賊たちが、船長に続いて海へと飛び込んだ。
まるで海賊船を抱きしめるように二本の柱が折れていく。そして船体にそれが食い込むと、いとも簡単に砕いていく。柱はそのまま、船体を真っ二つにするとそのまま沈んでいった。
海へと飛び込んだ海賊たちはそれを呆然と見てた。僕も。そしてきっとメリナさんも。
だけど話はそれで終わらなかった。
『ぎゃああ!』
今度は海に落ちた海賊が悲鳴を上げ、海中に消えた。続くように浮かんでいる海賊たちが次々と海中へ消える。その様子は大量に魚のいる池に餌を投げ込んだかのようだ。
気が付けば、海賊たちの浮かぶ海の周りに体をくねらせるように泳ぐ無数の影あった。
僕には見覚えのある影。あればバグリザド。なんで海に?いや、バグリザドには水生昆虫の頭を付けた奴もいたから不思議じゃないか?
バグリザドが海賊を捕食している姿はまさしくホラー映画のようだった。
瞬く間にバグリザドたちが海賊たちを食い尽くすと、巨大な何かかが浮上してくる。
「嘘だろ!」
『何…あれ』
普段冷静沈着無表情を貫くメリナさんから驚愕の声が上がる。
それもそうだ。浮上してきたのは、形からしてエイ。
アポリオンだ。けれど異形のアポリオンにしてさらに異形。通常のアポリオンが動物の胴体に虫の頭部を持つのに対し、エイの頭部にあたる部分からタガメの胴体と頭が生えている。海賊船を真っ二つにしたあの二本の柱は、タガメの特徴的な鎌状の腕だった。
そして何より、マザムリンが計測したアポリオンの大きさだ。
「全長…1Kmって嘘だろ!」
超大型アポリオン。
マザムリンの画像解析によって判明したエイ型アポリオンの大きさに驚く。今まで遭遇したアポリオンとは比べ物にならない巨大さ。海面に浮いている姿はもはや島。
『撤退を進言します!』
「っ…とりあえず、ドローンでできる限り情報を集めます」
『アマタ様!』
「まだ大丈夫です。アポリオンが次の動きを始め次第撤退しますよ」
幸いにしてまだ距離がある。
ドローンを操作し、できる限りの情報を集める。初見の相手が、こちらの存在に気づいていない状態で偵察出来る機会なんてそうは無い。いいチャンスなのだ。
映像をズームさせると背中には無数の大小さまざまなイボの様なものがびっしりとついていた。
「うっ!」
集合体恐怖症気味の自分にはきつい。あまりの気持ち悪さにえずく。肌が泡立つのがわかる。
目を背けたい。だけど、それでも見なきゃ。あれやヤバい。そう僕の感が、生存本能が、オタク知識が警鐘を最大音量で鳴らしている。
震える指でイボに向かってズームする。それは半透明で、中で何かがうごめくのが見えた。
何かいる。
画像に補正をかけ、何が居るのか確認する。
中にあったものと目が合った。いや、こちらはドローン越しに見ているので錯覚なのだが、そう感じた。
…アバドン!?
半透明の殻の中でアバドンが胎児の様に丸まっていた。
超大型のアポリオンの背中にあるのはイボなどではなく、アポリオンの卵。
アポリオンの背中にはびっしりと覆いつくすように乗っかっている。その数は、数百にも及ぶだろう。あれがすべてアポリオン。
「これじゃまるで強襲揚陸艦じゃないか!?」
いや待て、こんな奴がここにあるって事はつまり!
「海からハヌマ王国侵攻するつもりか!臨時司令部!こちらマザムリン01!緊急事態発生!緊急事態発生!臨時司令部応答せよ!」
『こちら臨時司令部。マザムリン01如何な…』
『アマタ様!』
臨時司令部に通信をつなげた瞬間。超大型のアポリオンが動き出した。それに合わせるように周りを泳いでいたバグリザド達も動く。最悪なことに、こちらの方に向かって。その動きには、一切の淀みがなく。確実に何かを感じて動き出していた。つまりは…。
「ばれたのか!何で!?」
って状況から言って通信したからか!?
『それより撤退を!早く!』
「分かった!臨時司令部!超大型アポリオン及びその取り巻きのと思われる多数のバグリザドに遭遇!なお超大型アポリオンには大量の中小のアポリオンの卵を背負っている事から強襲揚陸用と思われる!現在、超大型アポリオンに見つかったらしい!撤退する!」
『っ了解!すぐに援軍を差し向けます!』
マザムリンをハヌマ王国に向けて回頭させ、ジェネレータの出力を全開にする。
速度をどんどん上げるマザムリンだが、ソナーに表示されるバグリザドを示す光点は一向に離れない。
「早い!なんでトカゲのくせに早いんだ」
巡行形態のマザムリンの速度より早い。
それなりに距離が離れているが、追いつかれるのは時間の問題。
追いつかれて、組み付かれる。そうなったらいかに頑丈な装甲を持つマザムリンでも身動きが取れなければ、ただの棺桶。
そうさせない為に、一度マザムリンを変形させる。
流線形の形から、人型へと変わる事により、減速。シートから引き剥がされそうになる。
シートが回転し、正面が海底の方向になる。
メインの推進力を出している脚を、そのままに両腕ととなった艦首を後方へと向けた。
僕のヘッドセットには、太陽光の差し込む海の映像にバグリザドの位置を示す無数の点が現れた。
すでに魚雷の装填は完了し、発射管には注水されている。
発射。
わずかな振動とともに、発射された魚雷が、ほとんど泡も出さずに後方へと向かって進んでいく。
マザムリンを巡行形態へと戻って追手に背を向ける。
魚雷はぐんぐんと加速しつつ、マザムリンに迫るバグリザドの群れへと向かう。
そして起爆。起爆した魚雷が一瞬の爆炎と無数の泡へと変わる。
起爆したのはバグリザドの群れの中…ではなく群れの前。
これは別に魚雷が誤爆したわけじゃない。海中で遠くの敵の位置を知る最もポピュラーな方法は"音"。相手の出す音を聞いて、どの方向に敵がどのくらい離れた距離に居るのかを知る。元の世界の潜水艦では、聞こえてくる音によって、対象がどこの国のどの型の潜水艦であるかもわかるらしい。
ここで撃った魚雷は、一種の猫だまし。大きな音を立てて、こちらの推進音をかき消したのだ。とは言っても、効果は一瞬。その一瞬に、囮となるデコイを射出して、進行方向を変え、足のスクリューを使用しない、静穏航行モードで静かに移動する。
こうすればマザムリンの航行音を真似た音を出しているデコイの方をアポリオンは追っていく…はず。
そもそも、音以外でこちらを感知したなら無意味なんだけど…。
『臨時司令部、了解。お気をつけて』
僕らは、ザムイーワックの発見したすべて遭難者の救助を完了した。現在は、津波に被災した人たちに対する支援がメインの作業となっている。
被災者支援に対して僕に出来る事はない。というかスベン公国の重要人物である僕が手を出したら迷惑になる。
なので最後に忘れていた海賊を回収する。
そんな雑事は、私たちがやります!とマザムリン02のパイロット達が申し出てくれたのだが、僕が始めたことなので最後までさせてほしいとお願いしてやらせてもらった。
この機会を逃せば、次にマザムリンに乗る機会は当分先の事になる。
なお回収に行くのは僕とメリナさんだけ。
なぜ二人だけかと言うと、被災者用の避難所が人手不足だからだ。大勢の遭難者を救出し、なおかつ周辺地域の被災者たちまで大勢集まってきているので、それだけ世話で多くの人出が必要なる。今では爺さん達を含む他のマザムリンパイロット達もそちらの方に駆り出されている。
逆に海賊船の回収は、マザムリンに乗って海賊船の所まで行き、適当にアンカーをぶち込んで曳航するだけというなので、時間的にも数時間。大した手間も時間もかからない。本当なら一人でもいいのだが、そこはお目付け役のメリナさんがつく。
交代のパイロットを連れて行かなかった。この油断が、後に僕らをひどい目に合わせるのだが…。
「きょっ。今日は天気が良くてよかったですね」
空を見上げるとそこには雲一つない青空が広がっており、海もこちらに来た頃の濁り切っていた海とは変わり、だいぶ澄んできていた。美しい空と海。その一言に尽きる。
ヘッドセット越しではあるが、解像度は高く裸眼と変わらないほどはっきり見える。それでいてまぶしくない。素晴らしい技術だ。
『はい。これであれば海賊どもの回収作業はすぐに済むことでしょう』
「そうですね」
ある意味お決まりになってきたメリナさんのそっけない返事。内心、早く本国へと戻ってほしいと思っているのだろう。
なので早く仕事を終わらせる為に、マザムリンは潜らず、海面で白波を引きながら航行する。
その上空をトブタイと、それに乗ったザムイーワックが飛んで追い越していく。こちらを追い越す時、ザムイーワックはトブタイを軽くバンクさせ、こちらに向かって敬礼して飛んでいく。
最後の遭難者捜索のついでに先行して海賊船の位置確認及び周辺警戒をしてもらうのだ。
マザムリンにマッピングしておいた海賊船に向かう途中、先行しているザムイーワックから、海賊の現在位置が送られて来た。多少海流に流されているものの、以前確認した場所からはあまり離れていない。
「さて、そろそろ目視できる距離だけど、ちょっと様子を見ようか」
『よろしいかと思われます』
海賊船を目視できないぎりぎりの位置まで来ると一度停船し、ドローンを放出。海賊船の様子を見る。
飛ばしたドローンから、船上でダラダラしている海賊たちの映像が送られてきた。
「あれは…」
そこに少し気になるものがあった。半ばから折られたマストに、縛り付けられている船員。
『見せしめのようですね。彼らは船長に反抗的な態度でもとったのでしょう』
ドローンの殻の映像はキャビンの方にも流しているのでメリナさんも見ている。
画像を拡大すると散々殴られたのだろう。顔はぼこぼこに腫れた顔が見える。集団リンチを受けた様だ。マストに縛り付けられているのは三人。中には口からだらしなく舌が垂れ下がっている者もいた。
しかし、彼らはまだマシかもしれない。ダラダラしている海賊が大半の中、二人の海賊がぐったりとした仲間の海賊を運んでいた。船の縁まで近づくと、二人は調子を合わせて海へと投げた。ぐったりとした海賊は何の反応もなく海へと落ちる。
つまりは…そういう事だろう
「…」
『気にする必要はありません。あの連中は、他の人間に同じようなことをしてきました。今度は自分たちの番だった。それだけです』
「…了解。えっ?」
それは唐突に起きた。突然海賊船の下が黒くなったかと思うと海賊船の左右から、赤茶色をした巨大な柱の様なものが水しぶきを上げて突き出したのだ。柱の高さはかなりのもので、海賊船の船体の高さを軽々と超えている。先端は緩やかなカーブを描く爪の様だ。
高々と伸びた二本の柱は中ほどから海賊船ある内側へと倒れていく。
倒れる?いや違う。アレの意志で折れてるんだ。
よく見れば赤茶色の柱の中ほどにはカニの様な関節が見えた。
船の上の海賊たちは、呆然としながらその二本の柱を見上げている。
ほかの船員と比べると豪華な服を着た人物が船室から飛び出してきた。服装からして海賊船の船長だろう。船長は、海賊船に向かって倒れてくる柱を見上げると、いの一番に船を捨て海へと飛び込む。
我に返ったほかの海賊たちが、船長に続いて海へと飛び込んだ。
まるで海賊船を抱きしめるように二本の柱が折れていく。そして船体にそれが食い込むと、いとも簡単に砕いていく。柱はそのまま、船体を真っ二つにするとそのまま沈んでいった。
海へと飛び込んだ海賊たちはそれを呆然と見てた。僕も。そしてきっとメリナさんも。
だけど話はそれで終わらなかった。
『ぎゃああ!』
今度は海に落ちた海賊が悲鳴を上げ、海中に消えた。続くように浮かんでいる海賊たちが次々と海中へ消える。その様子は大量に魚のいる池に餌を投げ込んだかのようだ。
気が付けば、海賊たちの浮かぶ海の周りに体をくねらせるように泳ぐ無数の影あった。
僕には見覚えのある影。あればバグリザド。なんで海に?いや、バグリザドには水生昆虫の頭を付けた奴もいたから不思議じゃないか?
バグリザドが海賊を捕食している姿はまさしくホラー映画のようだった。
瞬く間にバグリザドたちが海賊たちを食い尽くすと、巨大な何かかが浮上してくる。
「嘘だろ!」
『何…あれ』
普段冷静沈着無表情を貫くメリナさんから驚愕の声が上がる。
それもそうだ。浮上してきたのは、形からしてエイ。
アポリオンだ。けれど異形のアポリオンにしてさらに異形。通常のアポリオンが動物の胴体に虫の頭部を持つのに対し、エイの頭部にあたる部分からタガメの胴体と頭が生えている。海賊船を真っ二つにしたあの二本の柱は、タガメの特徴的な鎌状の腕だった。
そして何より、マザムリンが計測したアポリオンの大きさだ。
「全長…1Kmって嘘だろ!」
超大型アポリオン。
マザムリンの画像解析によって判明したエイ型アポリオンの大きさに驚く。今まで遭遇したアポリオンとは比べ物にならない巨大さ。海面に浮いている姿はもはや島。
『撤退を進言します!』
「っ…とりあえず、ドローンでできる限り情報を集めます」
『アマタ様!』
「まだ大丈夫です。アポリオンが次の動きを始め次第撤退しますよ」
幸いにしてまだ距離がある。
ドローンを操作し、できる限りの情報を集める。初見の相手が、こちらの存在に気づいていない状態で偵察出来る機会なんてそうは無い。いいチャンスなのだ。
映像をズームさせると背中には無数の大小さまざまなイボの様なものがびっしりとついていた。
「うっ!」
集合体恐怖症気味の自分にはきつい。あまりの気持ち悪さにえずく。肌が泡立つのがわかる。
目を背けたい。だけど、それでも見なきゃ。あれやヤバい。そう僕の感が、生存本能が、オタク知識が警鐘を最大音量で鳴らしている。
震える指でイボに向かってズームする。それは半透明で、中で何かがうごめくのが見えた。
何かいる。
画像に補正をかけ、何が居るのか確認する。
中にあったものと目が合った。いや、こちらはドローン越しに見ているので錯覚なのだが、そう感じた。
…アバドン!?
半透明の殻の中でアバドンが胎児の様に丸まっていた。
超大型のアポリオンの背中にあるのはイボなどではなく、アポリオンの卵。
アポリオンの背中にはびっしりと覆いつくすように乗っかっている。その数は、数百にも及ぶだろう。あれがすべてアポリオン。
「これじゃまるで強襲揚陸艦じゃないか!?」
いや待て、こんな奴がここにあるって事はつまり!
「海からハヌマ王国侵攻するつもりか!臨時司令部!こちらマザムリン01!緊急事態発生!緊急事態発生!臨時司令部応答せよ!」
『こちら臨時司令部。マザムリン01如何な…』
『アマタ様!』
臨時司令部に通信をつなげた瞬間。超大型のアポリオンが動き出した。それに合わせるように周りを泳いでいたバグリザド達も動く。最悪なことに、こちらの方に向かって。その動きには、一切の淀みがなく。確実に何かを感じて動き出していた。つまりは…。
「ばれたのか!何で!?」
って状況から言って通信したからか!?
『それより撤退を!早く!』
「分かった!臨時司令部!超大型アポリオン及びその取り巻きのと思われる多数のバグリザドに遭遇!なお超大型アポリオンには大量の中小のアポリオンの卵を背負っている事から強襲揚陸用と思われる!現在、超大型アポリオンに見つかったらしい!撤退する!」
『っ了解!すぐに援軍を差し向けます!』
マザムリンをハヌマ王国に向けて回頭させ、ジェネレータの出力を全開にする。
速度をどんどん上げるマザムリンだが、ソナーに表示されるバグリザドを示す光点は一向に離れない。
「早い!なんでトカゲのくせに早いんだ」
巡行形態のマザムリンの速度より早い。
それなりに距離が離れているが、追いつかれるのは時間の問題。
追いつかれて、組み付かれる。そうなったらいかに頑丈な装甲を持つマザムリンでも身動きが取れなければ、ただの棺桶。
そうさせない為に、一度マザムリンを変形させる。
流線形の形から、人型へと変わる事により、減速。シートから引き剥がされそうになる。
シートが回転し、正面が海底の方向になる。
メインの推進力を出している脚を、そのままに両腕ととなった艦首を後方へと向けた。
僕のヘッドセットには、太陽光の差し込む海の映像にバグリザドの位置を示す無数の点が現れた。
すでに魚雷の装填は完了し、発射管には注水されている。
発射。
わずかな振動とともに、発射された魚雷が、ほとんど泡も出さずに後方へと向かって進んでいく。
マザムリンを巡行形態へと戻って追手に背を向ける。
魚雷はぐんぐんと加速しつつ、マザムリンに迫るバグリザドの群れへと向かう。
そして起爆。起爆した魚雷が一瞬の爆炎と無数の泡へと変わる。
起爆したのはバグリザドの群れの中…ではなく群れの前。
これは別に魚雷が誤爆したわけじゃない。海中で遠くの敵の位置を知る最もポピュラーな方法は"音"。相手の出す音を聞いて、どの方向に敵がどのくらい離れた距離に居るのかを知る。元の世界の潜水艦では、聞こえてくる音によって、対象がどこの国のどの型の潜水艦であるかもわかるらしい。
ここで撃った魚雷は、一種の猫だまし。大きな音を立てて、こちらの推進音をかき消したのだ。とは言っても、効果は一瞬。その一瞬に、囮となるデコイを射出して、進行方向を変え、足のスクリューを使用しない、静穏航行モードで静かに移動する。
こうすればマザムリンの航行音を真似た音を出しているデコイの方をアポリオンは追っていく…はず。
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