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引きこもり、毒を使う①

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 タイポイから外に出るとそこは静かな森のマップだった。
 草むらの中を歩きながら、ヴァットは注意深くあたりを探る。

 ここは街の周囲には大抵ある、通称草刈りマップ。
 居はゆる安全地帯のようなマップで、基本的にアクティブモンスターはおらず草が大量に生えているのがポイントだ。
 プロレシアにてヴァットが草を刈っていたのも、こういった場所である。
 ふと、ヴァットは木の根元に青色の草が生えているのを見つける。

「お、ラッキー青草だ」

 駆け寄ると、ヴァットは早速攻撃を開始した。
 何度か攻撃すると青草は消滅し、代わりにブルーハーブが落ちた。
 これはSPを回復させるアイテムで、緊急時に使われる。
 ボス戦やスキルを利用したソロ狩りなどでは重宝し、ゴミ扱いされているポーションの中でもこれだけはそれなりの値段で取引されていた。
 更に錬金術師のスキルで調合することで、SPポーションが生成できるのだがこれはブルーハーブの倍近くSPが回復するのだ。

「ロケテの時にはSP剤が全然なくて参ったが、これを使えばもっと楽に攻略が進むだろう……お、あっちにも、こっちにも!」

 拾ったブルーハーブを鞄に入れ、ヴァットは次々と草刈りを続ける。
 ぽつぽつと生えた青草を狙い続けることしばし、遠くに何か蠢くものを見つけた。
 草むらの中、巨大な芋虫が草を食んでいる。
 まだら模様がどこか蛇のような印象を受ける芋虫のの頭上には、キャタピラーと表示されていた。

「……そういえば本来の目的を忘れてたな。いけねぇいけねぇ」

 ヴァットは自分の迂闊さを窘めると、鞄から先刻作ったばかりのベナムポーションを取り出す。
 そしてキャタピラーに向けて投げつけた。
 ポーションの割れるエフェクトと共にどよん、と不気味な音が鳴る。
 するとキャタピラーの足元、地面に毒々しく泡を吹く紫色の水たまりエフェクトが生まれた。
 キャタピラーがそれに触れると、一瞬にしてその身体が青く染まる。
 毒状態になったのだ。

「よし、毒耐性の高いキャタピラーにも問題なくかかるようだな」

 毒に侵されてなお、キャタピラーはのんびり草を食んでいる。
 アクティブモンスターではないキャタピラーは、毒状態にされても攻撃をしてくることはない。
 モンスターが攻撃されたと判定をするのは直接ダメージを与えられた時なのだ。
 それを利用した狩りはいくつか存在し、毒を利用した狩りもその一つである。
 とはいえ手間がかかるので、これを使うのは格上を狙う時くらいなのだが。

「さて、しばらく様子を見るとするか」

 キャタピラーの動向を見守りながら草を刈るヴァット。
 すると、ランダム移動によりキャタピラーが毒の泉から出てしまう。
 数秒後、毒状態も解除されてしまった。

「おっと、結構すぐに解除されるもんだな。やっぱり状態異常耐性が高いのは厄介か」

 そう言うと、ヴァットは足元の石ころを拾い、キャタピラーに投げつけた。
 こん、と軽い音と共に1ダメージが表示されると、キャタピラーはヴァットを敵と認識したようだ。

「ピグー!」

 鳴き声を上げながら襲い掛かってくるキャタピラーだが、その足は遅い。
 ヴァットが走って逃げると、すぐに置き去りにされてしまった。

「そして戻る!」

 ヴァットは振り切ったのを確認し、すぐに戻った。
 するとキャタピラーはまたのんびりと草を食んでいる。
 リンク型モンスターは一度プレイヤーを見失うと、また待機状態へと戻るのだ。
 先刻ヴァットを追いかけて毒の泉に触れたキャタピラーは、また毒状態に犯されていた。
 そんな事を数度繰り返した。

「ピ……グゥ……」

 弱々しいなき声を上げ、キャタピラーは倒れて消滅した。
 代わりに蜘蛛の糸がドロップされた。
 ヴァットはそれを拾い、ふむと頷く。

「……時間はかかるが毒だけでも倒せるようだな。これなら問題なく使えそうだ」

 蜘蛛の糸を拾い鞄に入れると、ヴァットは街へと戻るのだった。

 ■■■

「あ、それおいそー♪ おじさんちょうだい!」
「あいよぉ!」

 一方エイスは街中で売られている出店で、食べ歩きをしていた。
 両手には団子やクレープ、アイスなどが抱えられていた。

「んー♪ 仮想空間ならではよねぇ。体重を気にせず美味しいものがたくさん食べれる! しあわせー!」

 手や口元に付いたクリームもただのエフェクトでありすぐに消えてなくなる。
 勿論腹の中に入れてもそれは消化されることはなく、味のみがデータとしてプレイヤーにその感覚をもたらすだけなのだ。
 つまりいくら食べても、いくら飲んでも、現実の体重には変化はない。
 VRによる食事は現実世界ではダイエットに効果があると、評判であった。

「とはいえあまり食べすぎると、現実に戻った時にゲーム内での感覚のまま食事しちゃうこともあるらしいから、食べすぎは禁物よね」

 うんうんと頷き自戒しながらも、エイスはふらふらと引き寄せられるように露店のシャーベットを買うのだった。
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