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引きこもり、タイポイにいく①

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「エイス、タイポイへ行かないか」

 いつものように街角でのほほんとしていたヴァットとエイス。
 ふと、ポーションを作っていたヴァットが言った。
 エイスはキョトンとした顔をヴァットに向ける。

「タイポイって……中華っぽいマップだっけ? ローカルマップの?」
「あぁ。前に言ってたパンダ帽子の材料、笹の葉だっけか。あそこのモンスターがドロップするらしいぞ」
「おおっ! いくいくー!」

 ヴァットの誘いに、エイスはすぐにテンションを上げて答える。

「いやー、ヒキコーモリのヴァットが自分から外へ行こうなんてねぇ。髪型と服装を変えたからかねぇ。おかーさんは嬉しいよ」
「誰がお母さんだ……ったく。ポーションの材料を落とすからそのついでだっつーの」
「うんうん、照れない照れない。そういう事にしておいてあげよう! そんじゃま、早速行くかいねー」
「おう。歩いてでいいか」
「そうだねー」

 そんなわけで二人はプロレシアの街を発つのだった。

「タイポイってどっちだっけ?」
「プロレシアから左、左、左、下、左、下、左」
「なるほも、大体わかった」

 エイスは頷くと、ヴァットの後ろについた。
 記憶と思考を放棄した顔をしていた。
 それをヴァットは冷たい目で見た。

「……覚える気はなし、と」
「あははー。その代わり戦闘は任せろー」
「はいはい、頼りにしてますよ」

 ため息を吐きながら二人はマップを移動する。

「ところでヴァット、なんか今日は歩くの早くない?」
「あぁ、倉庫NPCにアイテムの大半を預けてきたからな」
「あーそれでかぁー」
「重量があると移動速度も落ちる。移動マップが多いし、モンスターに襲われても逃げやすい。この辺なら大したモンスターはいないから、狩りの時でも荷物を持ってるけどな」

 プロレシア周辺には危険なモンスターはいない。
 リンク型モンスターが殆どで、たまに襲ってくるアクティブモンスターも弱いし数が少ないのだ。
 草むらがぽつぽつあるくらいで見晴らしも良く、時折居残り組のプレイヤーが狩りをしているのを見かけた。

「しかし案外街から出てるプレイヤーもいるんだな」
「そりゃ、死ぬのは嫌だけどずっと街にいても暇だしね。日銭を稼ぐくらいはみんなやってるよー。美味しいものを食べたり着飾ったり、気が変わって攻略組に入ろうとする人もたまにいるしね」
「ふーん、まぁそうか」

 そんな会話をしながら、二人は隣のマップに移動する。
 先刻よりも草が茂り、川のせせらぎも聞こえてきた。
 鳥の鳴く声が遠くに聞こえる、自然豊かなマップだった。

「さて、この辺りからアクティブモンスターが多くなってくる。気をつけろよ」

「おー、私この辺はたまに来るよ! 確か蛇が出て来るんだよね」
「アナコンダだな」

 まだら模様の蛇型モンスター、アナコンダは攻撃速度が速いが、半面躱しやすくHPも低めに設定されている。
 ビードルと同じく、AGI職によく狩られる獲物である。

「じゃあパーティ組んで……っと、ほい」

 エイスがコンソールをぽちぽちと叩くと、ヴァットの前にパーティ招待のウインドウが出現する。
 そこには†猫天使の翼団†と書かれており、ヴァットはうんざりした顔をした。

「ダセェー」
「なんでよっ! 可愛いじゃない! この十字架みたいな記号に加えて猫! そして天使! とどめの翼! 可愛さしかないわ!」
「いや、ダサさしかないわ」
「むぎぃーっ!」

 歯嚙みをするエイスを見て、ヴァットはため息を吐くのであった。

「それよりほれ、アナコンダ出たぞ」
「むっ、仕方ないわね……」

 川の中から赤くて太い縄のようなものがニョロリと出てくる。
 チロチロと舌を動かしながら、巨大な蛇が鎌首をもたげた。

「シュー……!」

 蒸気が吹くような鳴き声を上げながら、アナコンダが二人を睨みつける。
 エイスは剣を抜くと、アナコンダの前に立ちはだかる。

「下がってて、ヴァット! てやぁぁぁぁぁ!!」

 エイスはかけ声を上げながら、斬りかかる。
 連続して繰り出される斬撃。アナコンダの反撃も、エイスは余裕を持って躱していた。
 後ろに下がっていたヴァットはそれを見てふむと頷く。

「ソロ狩りをしていただけあって、攻撃は当たってるな。DEXポーションは必要ないか」
「たまーにミスるけどねー。避けれるからAGIポーションもいらないよ。くれるなら欲しいけどっ!」
「……じゃあこいつを試してみるか」

 ヴァットは鞄から赤色のポーションを取り出し、エイスに投げつけた。
 ぱりん! と破裂音が鳴り、瓶の割れるエフェクトと共にエイスの身体が光り始める。
 と、同時にエイスの動きが僅かに素早さを増した。

「お、お! お? おおーーーっ!?」

 エイスは感動の声を上げながら、アナコンダに斬撃を繰り出し続ける。

「すごいっ! 何そのポーション! 今の私は過去最高の攻撃速度だよっ!」
「スピードポーション、攻撃速度のみを上げる効果がある。AGIを上げたわけじゃないので、回避率や移動速度は上がらないが、その分効果は高めだ」
「これだよ! 私が求めていたものは! これなんだ! いやっふーーー!」

 連続して斬りまくるエイスを見ながら、ヴァットは難しい顔をする。

「……俺が使うよりエイスが使った方が効果は高く見えるな。AGIと乗算なのかもしれない。要検証だ」
「たーーーのしーーー!」

 ブツブツ呟くヴァットと裏腹に、エイスは楽しそうにアナコンダを斬り続ける。

「でりゃあ!」

 最後の一撃が加えられ、アナコンダは真っ二つになり消滅していった。
 その後に落ちたのは、毒の牙である。
 ヴァットはそれを拾い上げた。

「なぁこれ貰っていいか?」
「いいよー私は使い道ないしね」
「悪いな」

 毒の牙を鞄に仕舞い込むヴァットを見て、エイスは訝しむ。

「……そんな怪しいもの、何に使うつもりなの?」
「ポーションの材料にしようと思ってな」

 怪しく笑うヴァットにエイスはゾッとした顔をした。

「ま、まさかそれで作ったポーションを、私に飲ます気じゃないでしょうね……?」
「さて、どうだろう」
「ひぃーっ! もしかしてもう飲んでるとかっ!? てかまさかさっきのポーションとかっ!?」
「さて、どうだろう」
「成分表示っ! ポーションの成分表示を要求するっ!」
「そいつは企業秘密だな。お、またアナコンダだぞ」
「話を逸らさないでよーっ!」

 文句を言いながらも、エイスはヴァットの言う通りアナコンダと戦闘を開始するのだった。
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