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323 精霊の森へ④
しおりを挟む「そう言えばイエラたちにメアたちの事を報告してくれたか?」
「うん、急いでいたから手短にだけどね。まだバタバタしてるから、少し落ち着いてからここを目指すって言ってたわ」
どうやらちゃんと報告をしてくれたようである。
偉いぞミリィ。
「ゼフたちは先に行ってくれ。でも無理はしちゃダメじゃぞー……だってさ」
「最初からそのつもりではあったがな」
エイジャス号には非戦闘員も多く乗っているし、戦える者が全員こちらについて来たら帰る船を守る者がいなくなってしまう。
そもそもあまりゾロゾロついてこられてもやりにくいばかりだ。
ワシらはずっと少人数でやってきたしな。
オリジナルのティアマットとやらの強さがどの程度かわからんが、どうしても敵わないようなら逃げればいいだけの話である。
人数が必要になったら、改めて作戦を練ればいい。
「では当初の目的通り、精霊の住む森へ移動しよう。メア、大体の場所を教えてくれるか?」
「はい。精霊の森はここから北の方角ですわぁ。結構遠いので私一人でも頑張って三日、タイタニアでゆっくり移動したら十日以上かかってしまいますわねぇ」
「ふむ……確かに遠いな。レディア、馬車の方は使えそうか?」
「車輪がもうダメっぽいね~次の着地には耐えられないかも。下手したらバラバラになっちゃうかな」
馬車を整備していたレディアがやれやれといった感じで首を振る。
あのスピードの上、整備もされていない道だからな
……やはり馬車は使わない方が無難だろう。
「バイロードだと少人数しか乗れませんしね」
「やはりタイタニアで行くしかありませんかねぇ。走ればそれなりの速度はでますわよぉ。……多少ゆれますが」
メアの言葉に皆が顔はごくりと唾を飲む。
先刻、ウルクに乗ってひどい目にあったのだ。無理もあるまい。シルシュはワクワクしているようだが。
「だったらさ、私がタイタニアに馬車を取り付けるよ。簡単な工具なら持ってるし、バネで固定すれば大分マシだと思うから、すぐに出来るよ」
「それはいいですわねぇ。私も手伝いますわぁ」
「皆でやればすぐ終わるわよ! ねっゼフ」
「そうだな」
レディアから工具箱を受け取り、皆で作業を開始する。
小一時間もすればタイタニアが背負うような形で荷車は取り付けられた。
「ん、これで大丈夫だと思うよ~」
「強度は……大丈夫そうですわねぇ」
メアの怪力で荷車をギシギシと揺らすが、壊れるような音は立ててない。上手く接合されているようである。
これなら大きく揺れても外れる事はあるまいか。
「じゃあ今度こそ、しゅっぱーつ♪」
「おーっ、ですわぁ!」
ミリィに続くように、メアが元気よく手を突き上げるのだった。
ずしん、ずしんと走るタイタニア。
一歩踏み出すたびにワシらの乗る荷車は揺れ、土煙が辺りに舞う。
「皆さまぁ、乗り心地は如何ですかぁ?」
「大丈夫だよーっ……あわわっ!?」
「おいミリィ、落ちるなよ」
乗り出して返事するミリィを引っ張り支えてやる。
乗り心地はいいとも言えぬが、耐えられぬ程ではない。
油断すると今のミリィのようになってしまうが、そのうち慣れるだろう。
「わぁ、すごいですーっ! レディアさーん、もっともっとーっ!」
「あっはは、任せときなさいな」
「きゃーっ! 速い速ーい!」
ちなみにシルシュはレディアの駆るバイロードへ乗っていた。
一人で寂しいというレディアに仕方なくついて行くという体ではあったが、すごく楽しそうである。
レディアもレディアで、シルシュに煽られて無茶苦茶な運転をしていた。
バイロードの前輪を持ち上げ後輪だけで走り、岩の上をぴょんぴょんと跳び渡り、地面に出来た亀裂を飛び越えたり……見ているこっちの方が冷や冷やするぞ。
「メアさーん、折角ですし勝負しませんかー!」
「えぇえ~……私は構いませんけどもぉ……」
そう言いながら、ちらりとこちらを見るメア。
クロードとミリィが全力で首を振るのを見て、メアはシルシュに両手でばってんのポーズをとった。
「そうですか……残念ですー」
「他の皆さんがいない時に、勝負いたしましょう~」
「あっはは、それいいね~」
……是非そうしてくれるとありがたい。
レディアとメアが全力で動いたら、巻き込まれるものはたまったものではないぞ。
タイタニアに乗っていたメア以外の全員が胸を撫で下ろす。
「っ! レディアさん、メアさん、止まってください!」
不意に上げたシルシュの声に、タイタニアとバイロードが急停止した。
シルシュはバイロードの上に立ち、目を瞑って鼻を鳴らしている。
「魔物のニオイです。辺りに沢山いるようです」
「シルシュさまは鼻が利きますのねぇ。確かにこの辺りは魔物が多く潜んでいるようですわぁ」
見れば、岩の陰に何やら蠢くものが見える。
シルエットだけは人型だが、身体は人あらざる程に大きく、その目は理性を感じさせない。
鋭い爪と濃い体毛の生えた太い腕には、石を削って造られた武器を持っていた。
「街や旅人を襲う乱暴な種族……私たちはオーガと呼んでおりますわぁ」
どうやらメアたちとも敵対している種族のようである。
ワシらの大陸にも、亜人が多く住む地にはこの手の人型の魔物が多いのだ。
岩陰から身を乗り出すオーガの一匹にスカウトスコープを念じる。
オーガ
レベル73
魔力値20341/20341
ふむ、魔物の強さとしては珍しい部類でもないが、この数は少々厄介かもしれない。
リーダー格のオーガがワシらを指さし吠えると、岩陰からぞろぞろとオーガ共があらわれた。
手には武器を持ち、数も多い。ざっと30以上はいるだろうか。
こちらは7人、勝利を確信したのかオーガ共はニヤリと笑う。
――――だが相手が悪かったな。
「えい♪」
可愛らしい掛け声を上げ、タイタニアがオーガの一匹を踏み潰す。
ぶち、と音を立ててオーガの一匹がぺしゃんこになった。合掌、である。
確かに数は上かもしれないが、戦力差を考えなかったのだろうか。
あまり頭はよろしくないようである。
「ゴア! ゴアアアア! ゴアッ!」
だがそれでも簡単に引くわけにはいかないのか、声を荒げながらタイタニアにかかっていくオーガを見て、メアは薄く笑う。
「あははぁ♪ 邪魔をしないでいただけますかぁ……?」
足元に群がるオーガを蹴り飛ばし、踏み潰し、叩き落とし……見る見るうちにオーガは数を減らしていった。
サイズの大きさによる戦力差は相当大きいようだな。
「あっはは、じゃあ私たちも行きますかぁ」
通せんぼするオーガを避け抜いた後、背後を取ったレディアが長斧をずらりと抜き放つ。
「は……い……っ!」
そしてシルシュの髪が、瞳がゆっくり緋色に染まっていく。
聖職衣を脱ぎ捨て、ノースリーブにスパッツ姿となったシルシュがレディアの背を守る様に鋭く伸びた爪を構える。
二人とも戦闘態勢だ。
バオン、とレディアが片手でアクセルをふかすと、バイロードがギャリギャリと音を立てながらその周りに後輪の跡で円を刻む。
――――これ以上入らば斬り落とす、とでも言わんばかりに。
「ガァァアアア!!」
だがそんな機微など通じなかったのか、襲い掛かるオーガ共。
円の中に入った瞬間、その手が一瞬にして切り刻まれた。
接近戦最強の二人が組んでいる中に突っ込んでいくとは、命知らずにも程があるな。
「ブルーゲイルっ!」
「――――ブラックゼロ」
更にタイタニアの上では、ミリィとセルベリエが魔導を撒き散らす。
水竜巻がオーガ共を巻き上げ、それを黒き風の槍がまとめて貫き消滅させていく。
タイタニアが暴れ、レディアとシルシュが爪と斧で斬り捨て、セルベリエとミリィが魔導を撃ちまくる。
「あはは……ボクの出番はなさそうですね」
「クロードも魔導は使えるだろう。軽く撃ってみるといい」
元々クロードは幾つか魔導を覚えていた。
魔導師殺しを持つが故、まともには使えていなかったが、今のクロードはレベルも上がり魔力も増えている。
「えぇ……でも皆の前でなんて恥ずかしいですよ……」
「こんな状況だ。ワシしか見ていないさ」
恥ずかしそうに顔を赤らめるクロードだが、観念したかのようにため息を吐いた。
「わかりました……っ!」
魔力を集中させ、放つのはブルーゲイル。
ワシやミリィのものと比べると、随分可愛らしい水竜巻が一体のオーガを切り刻んでいく。
「おぉ、ちゃんと一人でも出来るようになったのだな」
「はぁ……はぁ……はい、一応練習しましたので……」
以前はワシが補助して何とか撃てていたブルーゲイルを一人で発動させるとは、やはり魔導の方も修行を積んでいたようだな。
流石に今のでクロードの魔力値はほぼゼロになっていた。クロードは額の汗を拭いながら、呼吸を整えている。
「ぁ……」
小さく声を漏らすクロードの視線の先で、小さな水竜巻がミリィのものとぶつかりかき消される。
大してダメージを受けていなかったオーガだったが、ミリィのブルーゲイルに飲まれ消滅した。
「うーん、やはり適材適所、ですね。一応練習はしましたが、あれでは何の役にも立ちません」
「そんな事はないぞ……これを飲め、クロード」
悲しそうに笑うクロードの手を取り、魔力回復薬を飲ませた。
口元から白い液を垂らしながら、目を白黒させている。
「ん……けほっ! ぜ、ゼフ君!?」
「もう一度だ」
戸惑うクロードだったが、ワシの言葉通りもう一度魔力を集中させていく。
ワシもそれに合わせるように、クロードの手を介して魔力線を絡み付かせた。
クロードがブルーゲイルを発動させると同時に念じるのは、緋系統大魔導レッドインフェルノ。
――――二重合成大魔導、ゲイルインフェルノ。
オーガ共の中心を狙い、解き放つ。
一瞬、光ったかと思うと大爆発が巻き起こり、大量にあった岩が吹き飛んだ。
隠れる場所を失い、慌てるオーガ共をミリィのブルーゲイルが襲う。
「……とまぁこんな具合だ。ミリィがいない時など、クロードと合成魔導を撃つ事もある。戦闘のバリエーションは多い方がいいのだよ」
「でも、別にそれはボクじゃなくても……」
「合成魔導は誰とでも使えるわけではない。魔導の扱いに長けている者ならともかく、そうでないなら余程身体の相性が良くなければならないのだ」
「え……ちょっ!? ぜぜぜ、ゼフ君っ!? 一体何を言って……っ!?」
「別に本当の事なのだが……クロード?」
「もう! 知りませんっ!」
いきなり茹で上がったようにクロードの顔が真っ赤に染まる。
不思議に思ってクロードを見ていると、ちらりとこちらを見た後、俯いてしまった。
何か変な事を言っただろうか。
「ふむぅ、ミリィさまを警戒していたのですがぁ……私が一番警戒すべきなのは、もしかしてクロードさまなのですかぁ?」
「どういう意味だ?」
「さぁて~どういう意味なのでしょう~」
そう言ってメアはニヤニヤ笑いながら、足元のオーガを踏みつぶすのであった。
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