トンカツと魔性

Arpad

文字の大きさ
上 下
26 / 33

第三章ドライビーフシチュー 八節目

しおりを挟む


 野暮用を済ませた二人は、線路を越え、北本丸町へとやって来ていた。
「それにしても、不思議なところよね。郊外なのに、オフィス街があるなんて」
 諏方は、歩き回って来た南本丸町を思い返しながら、ビルの林立する街並みを見渡す。
「地価がお手頃なうえ、都心へのアクセスが容易ですから、成長株の企業が幾つか、本社を置いているんですよ。それが呼び水となって関連企業やサービス業が集結し、世界一通勤し易いビジネス街があっという間に形成されたというわけです」
「へぇ・・・詳しいんだね。もしかして、歴史好き?」
「特にそういうわけでは・・・小学校の自由研究で調べた事があるだけですよ」
「自由研究でそのチョイス!?」
 そんな無駄話をしているうちに、二人はとある路地の前に行き着く。そこには、団体名入りの黄色いテープで規制線が張られていた。
「もしかして・・・ここが?」
「ええ、この奥が御所望の現場ですよ・・・見ての通り、立ち入り禁止ですが」
「それはそうよね・・・・・・ふむ、見張りは居ないのね」
「まさか・・・入るつもりじゃあないでしょうね?」
「もちろん、入らなきゃ始まらないもの!」
「まあ、そう言い出すと思ってましたよ・・・・・・ここは大通り、人の目が多いので、止めてください。行くつもりなら、裏通りから回りましょう」
「え、ええ・・・止めないの?」
「止めて聴かないでしょうし、後で無茶されても困るんですよ。ほら、少し先の路地から回り込みましょう」
 道悟に促され、諏方は協力的な彼に戸惑いながらも、指示された路地へと、道悟に続いて足を踏み入れていった。
「ちょっと・・・いえ、だいぶ意外ね。ここまでアグレッシブに手伝ってくれるなんて」
「これが一番早く、一番平和裏に事を終わる判断しただけですよ」
「あのさ・・・怒ってる?」
「・・・まあ、強迫されたわけですから、それなりには」
「・・・それでも、手伝ってくれて、ありがとう」
「いきなり何なんですか?」
「こういう性格だからかな、友達にも一線引かれちゃってて・・・まあ、向こうは友達とすら思ってないかもだけど・・・新田君は私の同類だと思ってた」
「・・・はい?」
「誰とでも話せるのに、誰ともつるまないで、一線を引く。ずっとボッチ仲間だと、思ってた」
「ボッチ仲間って・・・・・・思っていた? 過去形?」
「最近変わったなって、生き生きした顔で帰っていくから・・・ボッチ卒業したのかなって」
「ボッチ言わないでください・・・自覚はありませんよ?」
「自覚があったらイタイでしょう・・・実は気になってたの、何がキッカケ? もしかして、例のバイト?」
「ふむふむ・・・バイトの件を忘れてくれるなら良いですよ」
「それくら・・・」
 諏方が何かを言い掛けたその時、けたたましい破裂音が路地にこだました。
「・・・何?」
 二人が周囲を見渡したその時、近くのビルの硝子が割れ、そこから人影が転落してきた。彼らの、眼前に。
「嘘でしょ・・・」
 トレンチコートを身に纏ったその遺体は、胸に風穴が開いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...