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第三章ドライビーフシチュー 八節目
しおりを挟む野暮用を済ませた二人は、線路を越え、北本丸町へとやって来ていた。
「それにしても、不思議なところよね。郊外なのに、オフィス街があるなんて」
諏方は、歩き回って来た南本丸町を思い返しながら、ビルの林立する街並みを見渡す。
「地価がお手頃なうえ、都心へのアクセスが容易ですから、成長株の企業が幾つか、本社を置いているんですよ。それが呼び水となって関連企業やサービス業が集結し、世界一通勤し易いビジネス街があっという間に形成されたというわけです」
「へぇ・・・詳しいんだね。もしかして、歴史好き?」
「特にそういうわけでは・・・小学校の自由研究で調べた事があるだけですよ」
「自由研究でそのチョイス!?」
そんな無駄話をしているうちに、二人はとある路地の前に行き着く。そこには、団体名入りの黄色いテープで規制線が張られていた。
「もしかして・・・ここが?」
「ええ、この奥が御所望の現場ですよ・・・見ての通り、立ち入り禁止ですが」
「それはそうよね・・・・・・ふむ、見張りは居ないのね」
「まさか・・・入るつもりじゃあないでしょうね?」
「もちろん、入らなきゃ始まらないもの!」
「まあ、そう言い出すと思ってましたよ・・・・・・ここは大通り、人の目が多いので、止めてください。行くつもりなら、裏通りから回りましょう」
「え、ええ・・・止めないの?」
「止めて聴かないでしょうし、後で無茶されても困るんですよ。ほら、少し先の路地から回り込みましょう」
道悟に促され、諏方は協力的な彼に戸惑いながらも、指示された路地へと、道悟に続いて足を踏み入れていった。
「ちょっと・・・いえ、だいぶ意外ね。ここまでアグレッシブに手伝ってくれるなんて」
「これが一番早く、一番平和裏に事を終わる判断しただけですよ」
「あのさ・・・怒ってる?」
「・・・まあ、強迫されたわけですから、それなりには」
「・・・それでも、手伝ってくれて、ありがとう」
「いきなり何なんですか?」
「こういう性格だからかな、友達にも一線引かれちゃってて・・・まあ、向こうは友達とすら思ってないかもだけど・・・新田君は私の同類だと思ってた」
「・・・はい?」
「誰とでも話せるのに、誰ともつるまないで、一線を引く。ずっとボッチ仲間だと、思ってた」
「ボッチ仲間って・・・・・・思っていた? 過去形?」
「最近変わったなって、生き生きした顔で帰っていくから・・・ボッチ卒業したのかなって」
「ボッチ言わないでください・・・自覚はありませんよ?」
「自覚があったらイタイでしょう・・・実は気になってたの、何がキッカケ? もしかして、例のバイト?」
「ふむふむ・・・バイトの件を忘れてくれるなら良いですよ」
「それくら・・・」
諏方が何かを言い掛けたその時、けたたましい破裂音が路地にこだました。
「・・・何?」
二人が周囲を見渡したその時、近くのビルの硝子が割れ、そこから人影が転落してきた。彼らの、眼前に。
「嘘でしょ・・・」
トレンチコートを身に纏ったその遺体は、胸に風穴が開いていた。
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