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第三章ドライビーフシチュー 六節目
しおりを挟む「ドライビーフシチューです♪」
深さのある丸皿へ、白米を円柱状に盛り、その上にドライビーフシチューを掛けてある。見た目はドライカレーなのだが、色が濃く、スパイスの代わりに牛の旨味が香っていた。
「ほう・・・奇抜だな」
この料理を新種の深海魚かの如く見据えていた袖崎は、スプーンでルーと白米、そして彩りで散らしたグリンピースを掬い上げ、口内へと運んでいった。
「(咀嚼)・・・・ふむ、悪くない」
袖崎が問題なく食べ進めていくのを見届けてから、三山も料理を食べ始めた。遠慮していただけで、警戒したわけではない。
「おお、これはまた!? 唐揚げといい、この店には外れがありませんね」
とにもかくにも、道悟が警戒していたほど、場は荒れなかった。むしろ、逍子は興味深い話を聞き出していた。
「やっぱり、この辺りには危ない動物が徘徊しているんですか?」
「・・・いいや、公式の発表や報道でもあるように、猛獣が逃げ出したという事実も付近に野犬が住み着いている事実も無い。気を付けるべきは人間というわけだな」
つまり、警察の見解としては、猛獣が犯人とは最初から想定しておらず、別の線を辿っているようだ。例え妄言の様な捜査方針であろうと、今は少しでも侵入者の情報が欲しい。そこで道悟は、袖崎の後を手下の火猿に追跡させていた。
そして仕事帰りに、道悟はゴドーへと姿を変え、袖崎が拠点としているビジネスホテルへとやって来ている。場所と室内の構造は室内に潜入している火猿と情報を共有しているのでゴドーも把握出来ていた。
指を鳴らし、机で書類を整理しているという袖崎の背後へと転移する。そして、手に灯した炎を彼の眼前に差し出し、そのまま意識を失わせた。彼は今、夢を見ている。捜査状況を上司へ報告する夢を。ゴドーは袖崎の頭を鷲掴みにし、その内容を盗み見た。
「進捗状況は?」
「当初の調べ通り、被害者には買春の前科があり、事件当日にも誰かと接触していたようです。自分としては、この相手がサービス提供者を装った殺人犯に違いないと考えています。とはいえ通販を装った違法サイトでやり取りを行なっていたのですが、接触しようとしていた相手は捨てアカウントに嘘八百の個人情報、アカウント名もアルファベットと数字の適当な羅列で役に立ちません」
「今後の方針は?」
「例のサイトを利用し、潜入捜査を行なおう予定です。上手く事が運べば、現行犯で逮捕出来るかと」
袖崎は、意外な視点から事件の核心へ迫ろうとしていた。これは自分だけでは考えることも無かっただろうとゴドーは無い舌を巻く。十分な情報は得られたが、少しだけ確かめておきたい事がある。
「・・・美味い飯屋はあったか?」
「ん? はい、地元の警官が教えてくれました。未成年が切り盛りしている店でしたが、味は意外にも絶品でしたよ。解決までに何度か通いたいと思います」
「・・・そうか、御苦労」
ゴドーは袖崎の頭から手を離し、指を鳴らしてホテル向かいの建物屋上へと退避した。
面白い事になってきた、ゴドーは気持ちほくそ笑みながら、夜闇に消えていった。
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