トンカツと魔性

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第三章ドライビーフシチュー 一節目

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 3人目の犠牲者が出ると、さすがに各種メディアが黙ってはいなかった。ワイドショーではワンコーナー程度の扱いだが、ネット上ではお祭り騒ぎである。サイコパスやら人狼、果てはエイリアン等といった根拠の無い噂が我が物顔で飛び交っていた昨日までとは打って変わって、現実的な獣狩りが検討され出していた。
 時を同じくして、道悟や逍子らには中間試験が襲来していた。努力の甲斐あって、道悟としては納得の出来であったが、逍子は意気消沈気味なので、あまりよろしくなかったようである。試験期間が明ける頃には、唐揚げ定食も修行明けし、逍子は新たな修行メニューを求めていた。
「自分が発案したことですけど・・・もう止めても良いんじゃないですか、新人女将の修行メニュー?」
「それは駄目よ、まだ私の修行が明けたとは言えないもの・・・それに、期待は裏切れ無いわ」
「評価は勝ち得ていると思うのですが・・・まあ、まだメニューが二品しかないのも味気ないですよね」
「ええ、今日で試験も終わったことだし、営業時間までにメニューを捻り出しましょう♪」
「と言われましても・・・とっさに思い付きませんね」
「う~ん・・・頂いた挽き肉が大量にあるのだけれど、どうする?」
「そういえば、貰ってましたね。挽き肉か・・・選択肢は依然多いですね。種類は何でしたっけ?」
「確か・・・牛と豚?」
「牛豚は汎用性高いですよね・・・ハンバーグ、餃子、肉団子・・・あれ、そうでもないか?」
「うふふ・・・困った時は、私に任せなさい♪」
 逍子はそっと携帯を取り出すと、数回タップし、そっと耳に寄せた。
「・・・・・・あ、もしもし、遙花ちゃん? 挽き肉使うとしたら、何食べたい? ・・・ドライカレー? あの炒めるやつ? なるほど、なるほど・・・了解で~す♪」
 通話を終えた後、逍子は澄まし顔で親指を立てた。
「さて・・・ドライカレーで決まり、ね?」
「さも何事も無かったかの如く・・・・・・流石は女将、人使いが粗い、というか雑」
「うふふ、優秀な人が周りに居て、私は幸せ者ね・・・しみじみ♪」
「使い倒す気満々ですね・・・それで、カレールーとかあります?」
「確か・・・あったはずよ?」
「なら出来そうですね。挽き肉を解凍して、具材を切らないと・・・微塵切り、面倒だなぁ」
「うふふ、私に任せなさい♪」
「任せなさいって・・・まさか、若女将投入ですか?」
「うふふ、とりあえずいらっしゃいな♪」
 逍子に手招かれ、厨房へと移動する道悟。逍子は作業台の下から、あるものを取り出していた。
「じゃ~ん、フ~ドプロセッサ~♪」
「おお、凄い! そんな便利器具、あったんですね?」
「ええ、そうなのよ♪」
「ではそれで、玉ねぎと人参を粗微塵に・・・カレールーはどこに?」
「ああ、それはこっちに・・・」
 戸棚を探り始めた逍子の動きが、ピタリと止まる。
「あらら・・・」
「どうしたんですか?」
「・・・これ」
 逍子が手渡してきたのは、カレーではなく、ビーフシチューのルーだった。
「Oh・・・マジか。カレールーは無かったんですか?」
「ええ・・・」
「う~ん・・・買いに行きます?」
「・・・・・・それで作ったら、どんな味になるのかしら?」
「チャレンジャーですね・・・やりましょう」
 では早速、料理開始。解凍した挽き肉をニンニクと共に炒め、色が変わったらフードプロセッサーで粗微塵にした野菜を加え、さらに炒めていく。
 野菜がしんなりとしてきたら、フライパンの3分の1ほどの水を加え、煮たったら火を止めて、ルーを溶かす。それから水分を飛ばす様に火に掛けて、ドライビーフシチューの完成とする。
「ふむ・・・面白い風味ですね、悪くない」
「ええ、意外だわ」
「何で、失敗前提でチャレンさせているんですか!」
「失敗は成功の素・・・だけど失敗しないに越した事は無い。今は成功を喜びましょう♪」
「そうですね・・・若女将にも食べてもらいましょうか」
「ええ、呼んで来るわね♪」
 そう言い残し、逍子は厨房の奥へ掛けていった。電話で良かったのではないか、それを伝える暇も無い。
 道悟が椅子に腰を下ろし、一息つこうとしたその時、彼の携帯が鳴動した。どうやら、メールが届いたようである。鳴動したのは、仕事用の携帯。確認すると、それは待ち望んでいた相手からの着信だった。ようやく、重い腰を上げてくれたらしい。
「さて・・・やっと狩り出せそうだな」
 道悟は画面を見つめながら、妖しく微笑んだ。
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