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第二章 馬頭 四節
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藤園さんの機嫌がけっこう悪くなってきたので、私は駆け足で市場の西へと向かった。
占いといえば人目に付き難い場所でひっそりと店が出ているイメージがあった為、容易に見つかるのか不安はあった。だがすぐに、占い処という看板がデカデカと掲げられた天幕を発見するに至り、やっぱりゲームなんだなと実感させられる事になる。
中へ飛び込むと、ロアフレンドリーとは程遠いアラビアンな女性占い師が水晶を構えて待っていた。客が来るまで、ずっとこうして居たのだろうか。だとすれば、頭が下がるロールプレイだ。
「ようこそ、占いのや・・・」
「ボスと、この装備で闘った場合の勝率を占ってください!」
台詞を食い気味で要求しても認識してくれるのが、このゲームの良いところである。
「少々お待ちを・・・・・・出ます!」
占い師が撫で回していた水晶を掲げると、そこから光が溢れだしてきた。どうなるのか、眩しいが注視していると、光は天幕の壁へと伸び、プロジェクターの様に結果を映し出した。
(残念! 勝率ゼロだよ? 死んじゃうから考え直して(涙))
色々と、残念な結果である。
「あらあら、あまり良い結果ではありませんでしたね。追加料金で開運の祈祷が出来ますが、どう致します?」
「ああ、お願いします。有り金全部で」
「おい!」
藤園さんの痛恨の叫びと共に、猫君が私の右脛に噛み付いてきた。
「痛い痛いっ! LIFE減っちゃうから、噛まないで!?」
どうにか猫君を引き剥がし、抱き上げて面と面を突き合わせた。
「どうしたのさ、藤園さん・・・実力行使なんて、らしくないじゃないか?」
「らしさなんて知ったことか、君の凶行を止める為に強行手段に出たまでの事だよ。というか顔が近い!」
「大丈夫だって、大した額じゃないから。祈祷の効果も知っておきたいんだよ、体感で」
「チッ・・・データを読み出して上昇率を試算しても無駄みたいだね。分かったよ、運なんて言う非科学的な数値を否定する良い機会だ。黙って見ているよ」
「うん、ありがとう」
私は猫君を床へ降ろし、占い師に有り金を全て渡した。そうして行なわれた開運の儀式だったが、謎の白い粉を吹き掛けられ、開始3秒で終了してしまった。粉まみれで天幕を後にすると、外で待っていた猫君が、それ見たことかと言わんばかりに伸びをしている。
「それ見たことか・・・チンパンジーにも劣る馬鹿野郎だな、君は?」
口頭でも言われてしまった。
「ま、まだ判らないだろ? きっと良いことが起こるよ・・・たぶん」
「はっ、これで幸運が舞い込んだ時は、君にキスでもしてあげよう。此方の計算違いでしたって負けを認めてね?」
「そう虐めないでよ、駄目だったって判ったんだから。ほら、失敗は成功の・・・」
私が必死に言い訳を考えていると、背後から肩を叩かれた。振り返ってみると、細長い包みを持つ、小柄な老人が立っていた。
「お前さんが、盗賊共を退治してくれた人かい?」
「え? 町の近くに居た連中の事でしたら、そうですが?」
「そうか、ありがとうよ・・・奴らには長年困らされていたんだよ。お礼としては不足かもしれないが、どうか受け取って欲しい」
そう言って、老人は包みを手渡してきた。そして促されるままに、包みを解いていった。
「・・・これは!?」
包みの中から、拵えの上等な鞘入りの太刀が顔を覗かせた。
「儂がヤンチャしていた頃に使っていた獲物だよ。手入れは欠かしていないから、まだまだ現役だ。使わないにしても、売って路銀の足しにでもしておくれ」
老人はそう言い残すと、制止も聞かずに歩き去ってしまった。そして結果的に、如何にも業物な武器が手元に残っている。
「・・・嘘だぁ」
藤園さんの、魂が抜け出してしまいそうな感情の吐露を耳にし、私もようやく状況を理解することが出来た。
「つまり・・・開運のおかげ?」
「そんな馬鹿な・・・・・・何て事だ、ランダムイベントだって? 最初の盗賊を逃げずに倒したのがトリガーに・・・・・・しかも、武器を装備していないことが隠し条件の。おいおい、この町で買えるどの武器よりも強いじゃないか・・・」
「おお、凄いじゃん! やっぱり買わなくて正解だったな・・・という事は、俺の勝ちなのかな?」
「ぐっ・・・・・・納得は到底出来ないが、その通りだね。その、約束の件だけど・・・」
「ああ・・・止めておこう、誰も幸せにならない」
「いや、そうもいかないさ・・・猫を抱き上げてくれ」
「猫君を?」
私は言われるがままに、猫君を抱き上げた。
「それで?」
「それから・・・こうだ」
猫君が頑張って頭を上げ、彼の鼻先と私の鼻先をくっつけてきた。
「・・・何これ?」
「その・・・自然界における、哺乳類のキスだよ。飼い猫にして欲しい仕草のトップに躍り出ている」
「ああ、なるほど・・・・・・何故か判らないけど、癒されるものはあるね」
「・・・約束は果たした、早くその武器を試しに行こうじゃないか」
「おお、確かに! ワクワクして来たよ!」
私は猫君を放し、全速力で始まりの町の北門へと駆け出した。
占いといえば人目に付き難い場所でひっそりと店が出ているイメージがあった為、容易に見つかるのか不安はあった。だがすぐに、占い処という看板がデカデカと掲げられた天幕を発見するに至り、やっぱりゲームなんだなと実感させられる事になる。
中へ飛び込むと、ロアフレンドリーとは程遠いアラビアンな女性占い師が水晶を構えて待っていた。客が来るまで、ずっとこうして居たのだろうか。だとすれば、頭が下がるロールプレイだ。
「ようこそ、占いのや・・・」
「ボスと、この装備で闘った場合の勝率を占ってください!」
台詞を食い気味で要求しても認識してくれるのが、このゲームの良いところである。
「少々お待ちを・・・・・・出ます!」
占い師が撫で回していた水晶を掲げると、そこから光が溢れだしてきた。どうなるのか、眩しいが注視していると、光は天幕の壁へと伸び、プロジェクターの様に結果を映し出した。
(残念! 勝率ゼロだよ? 死んじゃうから考え直して(涙))
色々と、残念な結果である。
「あらあら、あまり良い結果ではありませんでしたね。追加料金で開運の祈祷が出来ますが、どう致します?」
「ああ、お願いします。有り金全部で」
「おい!」
藤園さんの痛恨の叫びと共に、猫君が私の右脛に噛み付いてきた。
「痛い痛いっ! LIFE減っちゃうから、噛まないで!?」
どうにか猫君を引き剥がし、抱き上げて面と面を突き合わせた。
「どうしたのさ、藤園さん・・・実力行使なんて、らしくないじゃないか?」
「らしさなんて知ったことか、君の凶行を止める為に強行手段に出たまでの事だよ。というか顔が近い!」
「大丈夫だって、大した額じゃないから。祈祷の効果も知っておきたいんだよ、体感で」
「チッ・・・データを読み出して上昇率を試算しても無駄みたいだね。分かったよ、運なんて言う非科学的な数値を否定する良い機会だ。黙って見ているよ」
「うん、ありがとう」
私は猫君を床へ降ろし、占い師に有り金を全て渡した。そうして行なわれた開運の儀式だったが、謎の白い粉を吹き掛けられ、開始3秒で終了してしまった。粉まみれで天幕を後にすると、外で待っていた猫君が、それ見たことかと言わんばかりに伸びをしている。
「それ見たことか・・・チンパンジーにも劣る馬鹿野郎だな、君は?」
口頭でも言われてしまった。
「ま、まだ判らないだろ? きっと良いことが起こるよ・・・たぶん」
「はっ、これで幸運が舞い込んだ時は、君にキスでもしてあげよう。此方の計算違いでしたって負けを認めてね?」
「そう虐めないでよ、駄目だったって判ったんだから。ほら、失敗は成功の・・・」
私が必死に言い訳を考えていると、背後から肩を叩かれた。振り返ってみると、細長い包みを持つ、小柄な老人が立っていた。
「お前さんが、盗賊共を退治してくれた人かい?」
「え? 町の近くに居た連中の事でしたら、そうですが?」
「そうか、ありがとうよ・・・奴らには長年困らされていたんだよ。お礼としては不足かもしれないが、どうか受け取って欲しい」
そう言って、老人は包みを手渡してきた。そして促されるままに、包みを解いていった。
「・・・これは!?」
包みの中から、拵えの上等な鞘入りの太刀が顔を覗かせた。
「儂がヤンチャしていた頃に使っていた獲物だよ。手入れは欠かしていないから、まだまだ現役だ。使わないにしても、売って路銀の足しにでもしておくれ」
老人はそう言い残すと、制止も聞かずに歩き去ってしまった。そして結果的に、如何にも業物な武器が手元に残っている。
「・・・嘘だぁ」
藤園さんの、魂が抜け出してしまいそうな感情の吐露を耳にし、私もようやく状況を理解することが出来た。
「つまり・・・開運のおかげ?」
「そんな馬鹿な・・・・・・何て事だ、ランダムイベントだって? 最初の盗賊を逃げずに倒したのがトリガーに・・・・・・しかも、武器を装備していないことが隠し条件の。おいおい、この町で買えるどの武器よりも強いじゃないか・・・」
「おお、凄いじゃん! やっぱり買わなくて正解だったな・・・という事は、俺の勝ちなのかな?」
「ぐっ・・・・・・納得は到底出来ないが、その通りだね。その、約束の件だけど・・・」
「ああ・・・止めておこう、誰も幸せにならない」
「いや、そうもいかないさ・・・猫を抱き上げてくれ」
「猫君を?」
私は言われるがままに、猫君を抱き上げた。
「それで?」
「それから・・・こうだ」
猫君が頑張って頭を上げ、彼の鼻先と私の鼻先をくっつけてきた。
「・・・何これ?」
「その・・・自然界における、哺乳類のキスだよ。飼い猫にして欲しい仕草のトップに躍り出ている」
「ああ、なるほど・・・・・・何故か判らないけど、癒されるものはあるね」
「・・・約束は果たした、早くその武器を試しに行こうじゃないか」
「おお、確かに! ワクワクして来たよ!」
私は猫君を放し、全速力で始まりの町の北門へと駆け出した。
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