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第八章 休暇求ム
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東境界砦に、増援が南門砦を発ったという一報が入ったのは、砦に篭って七日目の朝のことであった。
午前中には砦から出ることを想定し、荷物を纏め、兵舎等を掃除しておく。そして、増援の到着を待つこと数刻、輸送路を通って、総勢50人を超える隊列が姿を現した。
緊張感から解放され、ようやく帰還することが出来る。そんなお気楽ムードが流れる中、増援部隊の指揮官とアタオの間で、砦の引き継ぎが行なわれた。
先んじて砦を後にした訓練兵団は、増援部隊のお歴々方に様々な賛辞を送られながら、カシュンガルへの帰路に就くのであった。
先日、狼の死骸だらけだった輸送路は、増援部隊の進行に伴い、綺麗サッパリ片付けられていた。ゆえに我々は、木漏れ日の下を晴れやかな気分で行く、まさにハイキングような状況なのである。
隊列は乱れないものの間延びし、警戒感は薄れ、私語が蔓延するという、あまり褒められた行軍ではないのだが、東の森に特筆すべき脅威も居なくなったので、アタオも黙認しているようだ。
かく言う我が隊も、殿を務めながらも、私語が蔓延している。
「はぁ・・・やっと帰れる」
明らかに疲労を溜め込んだ顔で、アシャ訓練兵がぼそりと呟いた。
「アシャ訓練兵、貴様は何度同じことを呟くつもりだ? 流行らせるつもりなら、諦めろ」
「流行らせるわけないでしょ!? ・・・でもまあ、今の兵団内では、皆思っているでしょうけど」
「そこが判らない。何が不満なんだ? 風雨を凌げる暖かい寝床、三食洗濯付きで、風呂まであるなど、普通はあり得ないのだぞ?」
「砦の施設も悪くは無いのだけど、良くもないし・・・それに休みが無いから、疲れも溜まる一方だし」
「あぁ・・・確かに、我々は最初休暇を賜ったが、他の者はカシューンに来てから休み無しなのだな」
「私たちって、訓練兵団なのに苦難の連続だったじゃない? 今回も砦を守り抜いたわけだから、もしかしたら休みが貰えるんじゃないかって、皆期待してるのよ・・・というか、このままだと過労死しちゃう」
「なるほど、士気は低いのに、意気揚々な理由はそれか・・・確かにそろそろ、身体を休ませたい」
「へぇ・・・ナディットも疲れるんだ?」
「当たり前だろう? 貴様らの尻拭いで倍は動いているのだから、幾ら身体を鍛え、経験を有していても、疲れるものは疲れる」
「そうなの? 一日中戦えそうなのに・・・」
「皮肉に聴こえるのだが・・・経験では五日と半日で一瞬昏倒したな。あの時は、ユマンとかくれんぼ中だったから、焦ったな。見付かっていたら、挽き肉にされていた」
「怖っ・・・というか化け物ね、あんた」
「失礼な、回復魔法を常に掛けながら、騙し騙し戦い抜いた結果だ。ちなみに、そこまで疲労しても他人に回復魔法を掛けてもらえば、一日で回復出来るぞ? 私の時は、皆ダウンしていたが」
「あんたのエピソード、何だか泣けてくるわね・・・」
「そうだな、軽いホームシックだ。私たちが帰るまで、何人生きているのやら・・・」
「帰りたいの!?」
「私もすっかり、狂人というわけだな。いつか連れていってやろう」
「そんなお誘い嬉しくない!!」
「安心しろ、意思など聞かれない。一枚の紙を渡され、こう言われる。おめでとう、地獄からの片道切符のプレゼントだ、とな。あれは爆笑した」
「どこも笑えないけど!? というか、ナディットの爆笑が気になる!!」
「確か、気が触れたのだと誤解されたな」
「あ、それ判る気がする・・・」
「・・・どういう意味だ?」
「とにかく、皆休暇が欲しいのよ!」
「むぅ・・・全ては監督官の采配次第だからな」
「監督官かぁ・・・」
『休暇、無理だな』
アシャ訓練兵と珍しく意見が合ったところで、私は背後に違和感を覚えた。
「・・・アシャ訓練兵、振り向き様に、背後の茂みへダートを射てるか?」
「え、何で?」
「出来るか?」
「で、出来るけど・・・」
「よし、身体を陰にして、炎を出すんだ」
私は胸の前で円盤を、アシャ訓練兵もそれに倣って、ダートを現出させた。
「タイミングを合わせろ・・・今だ!」
私は後方にある木の枝葉に向けて、アシャ訓練兵はやや後方の茂みに向かって、それぞれ魔法を放った。
すると着弾と同時に、木の上から弓を手にした男が落ちていき、茂みの中からは悲鳴が聴こえてきた。
「あれって・・・!?」
「ああ、賊だ・・・ん、来ないな?」
バレたのだから、飛び出してくると思ったのだが、賊共は一向に姿を現そうとしない。
「誘っているのか・・・アシャ訓練兵、前方のソリア訓練兵達と合流して、シャンテ訓練兵にアタオへの伝言を託せ。我々を追尾する敵有り、慎重に行軍せよ、だ」
「わ、分かった・・・ナディットは?」
「落とした奴を調べてくる、行け!」
アシャ訓練兵を送り出してから、私は長剣を引き抜き、賊が落ちたはずの木の根元へと近付いた。
茂みを掻き分けていくと、やはり根元に男が倒れていた。どうやら、落ちた際に首の骨を折ったようで、既に事切れていた。
死体を調べてみると、こいつの肌もテカテカと光っている事に気が付いた。そう、不燃樹の樹液である。
一度ならず二度までも、何故我々を狙うのか。手掛かりが無いかと男の持ち物を調べていくと、気になる巻紙を見つけた。拡げて確かめようとしたその時、誰かが茂みを掻き分けてくる音が近付いてきた。
私が咄嗟に木の陰へ隠れた直後、茂みから二人の男が現れた。倒れている男と同じく、毛皮を張り合わせたような服装をしており、賊の一派だと思われる。
男らは、倒れている仲間へ駆け寄り、舌打ちをした。
「駄目だ、死んでやがる」
「どうする? 死んでるなら置いていくか?」
「馬鹿、痕跡を残すなって言われただろ? 持って帰るぞ」
「お、おう・・・」
賊にしては、理知的な行動を取ろうとしている。ここは、もう少し情報を得ておいた方が良いだろう。
「おい、足を持て! 早くしろ、王国軍が来るぞ・・・ひっ!?」
先程から指示を出していた男が見たのは、仲間の首が胴体とおさらばしている姿であった。そして、そんな男の首筋には、私の長剣が食い込んでいる。
「残念だったな、もう来てしまっている」
「っ・・・なんで、俺を殺さない?」
「話がしたかったからさ。そっちの間抜けよりも、話が早そうだったから残したが・・・どうする、後を追うか?」
「い、いや・・・それじゃあ、割りに合わねぇ。話すから、殺さないでくれ」
「素直に答えてくれれば、怪我一つ負わないが・・・嘘をつけば、貴様を苦しめねばならなくなる。そうだな、耳を落とそうか?」
「ひっ・・・う、嘘はつかない、ちゃんと答える!!」
「賊にしては賢いじゃないか・・まずは、貴様らの目的を話してもらおうか?」
「も、目的・・・お、俺たちは女を拐えって頼まれたんだ」
「それは、特別な理由があってのことか?」
「り、理由なんて判らねぇよ! ただ似顔絵の女を拐えって」
「なるほど・・・では、次の質問だ。貴様らに不燃樹の樹液や依頼を流しているのは、どこの誰だ?」
「そ、それは・・・あに」
男が何かを言いかけたその時、不意に風切り音を耳が捉えた。矢が射掛けられたのだ。
「むっ!?」
私は反射的に盾を手に取って、心臓を狙って射たであろう矢を受け止めることが出来た。だが、捕らえていた男から目を放してしまった。逃げ出しているかと焦ったが、男はまだ同じ場所で俯いていた。頭頂部に矢が突き刺さった姿で。
本当の狙いは、男の始末であったか。射掛けてきた方向を見ると、背を向けて走り去る男が、藪の隙間から一瞬、垣間見えた。
あの射手を追い掛けようかと思案したが、こうも手掛かりを消そうとする相手を、単独で追い掛けるのは無謀というものである。
追跡は諦め、最初に回収した巻紙を拡げてみることにした。
「・・・これは、いったい?」
巻紙には、とある人物の似顔絵が書かれていた。見知った人物、アシャ訓練兵の顔である。
私が訓練兵団に追い付いたのは、東橋関所の手前辺りであった。
賊の出現に伴い、アタオが兵団を纏めて、迅速に移動してきたのだ。
我が分隊、特にアシャ訓練兵の無事を確認してから、私はアタオの元へ向かった。賊は退いた、今告げるのはこれだけにしておく。
殿へ戻ると、隊員らが報告しろと詰め寄ってきたので、賊に追跡されていたが、バレた途端に逃げていったとだけ答えておく。
アシャ訓練兵が狙われている件は、監督官の意見を仰ぐまで秘匿しておくと決めたのだ。
訓練兵団は関所を抜け、約一週間ぶりに南門砦へと帰還した。中庭には、監督官が仁王立ちで待ち構えており、訓練兵らを大いに動揺させた。
「任務の完遂、ご苦労。貴様らは大いに役立った。よって本日は宿舎へ帰って休め。アタオ訓練兵は、報告の為、私と来い。以上、解散だ!」
待ち望んだ休暇、というよりも早帰りに近いのだが、訓練兵らは歓声を上げ、嬉々として家路に就いていった。隊員らと別れを告げた後、私はクリメルホと合流し、彼に先ほどの賊に関する本当の報告をした。彼から私の判断は間違っていない、というお墨付きを貰ってから、共に監督官の執務室へと向かった。
すると、部屋の前で報告を終えたアタオと鉢合わせ、彼にも本当の報告をすると、監督官が私を呼んでいると教えてくれた。賊の件を聞きたがっているそうだ。彼も監督官も、私の報告に違和感を覚えていたようだ。
結果は帰ってから話すと約束し、私は一人で執務室へと入室した。
「失礼します」
「早かったな、ナディット訓練兵。早速だが、賊の件を聞かせてもらおうか?」
監督官のオーダー通り、私は見聞きした事を事細かに報告した。もちろん、アシャ訓練兵が狙われていることもだ。
「・・・そうか、あの子が」
報告を聴いた監督官は、妙に含みの有ること呟いた。
「監督官は、アシャ訓練兵が狙われている理由に心当たりがおありで?」
「・・・こちらへ来い、ナディット訓練兵。少し雑談に付き合ってもらう」
「はっ」
接近を許すということは、あまり大きな声では言えない話をするということだ。監督官に手を伸ばせば届く程の距離まで接近した。
「彼女には、王都では知る者も多いが、ここでは知られていない事実がある・・・彼女は、私の姪だ」
「・・・姪? と申しますと、御兄弟の御息女で?」
「ああ、兄の子だ」
監督官、南部方面軍将軍ラミダ・べゼリアの兄といえば、有名な御仁が一人居る。
「王国軍大将ラミダ・ダグラット・・・」
「そう、あれは大将の子なのだよ、ナディット訓練兵」
衝撃の事実、という程ではない。入隊の仕方からして、背後に権力者が居ることは容易に想像出来るからだ。ああ、大将なんだ、くらいな印象である。
確かに、大将の子というのは、狙われる要素にもなり得るものだ。しかし、目的がまるで見えてこない。
「大将の子女を拐ったとして、どうするつもりなのでしょうか? 正直、山賊が大将を脅すメリットは皆無に等しいと愚考致します。身代金目当てだとしても、受け取り後、包囲殲滅がオチでしょう」
「その通りだ・・・よほど御粗末な頭で無ければ、狙うメリットは無い。そもそも、一介の賊ごときが知り得る情報でもない。だが・・・この地には、メリットを生み出しかねない勢力が居る」
「・・・あっ、例の思想集団ですね?」
「そうだ・・・これは明日、貴様らに命じる予定の任務なのだが・・・カシュンガルから北西の山脈裾野にある都市遺跡を知っているか?」
「いえ、初耳です」
「神暦の遺構らしいのだが・・・最近、ここに山賊が屯しているという狩人らの通報が増えているのだ」
「つまり、例の賊が根城にしていると?」
「ああ、可能性は高い。そしてそこでは、妙なローブ姿の人物も確認されている。これは思想集団を追っていた班からの情報だ」
「なるほど・・・点が繋がったわけですか」
「そうだ、奴らの結託は間違いない。賊の言っていた雇い主とは、ヴィデオ・ヴィネカの事なのだろうな」
「つまり、我々に課す予定の任務とは、その遺跡の鎮圧ですか?」
「そうだ、ヴィデオ・ヴィネカが居ようが居まいが、奴らの活動拠点を潰す。その混乱を理由すれば、奴の居所へたどり着けるやもしれないからな」
「・・・その作戦に、アシャ訓練兵は参加させるのですか?」
「・・・ああ、外すつもりはない。自らに害意を持つ者は、自らの手で打ち払わねばな。四六時中、護衛が付くような生活を、あの子自身望んではいないだろう」
自分で自分の身を守る事に慣れさせておきたい、という意図なのだろうか。確かに、ヤブーに怯えているようでは、駄目だが。
「分かりました・・・今回のお話なのですが、アタオ、クリメルホ両訓練兵に伝達してもよろしいでしょうか?」
「狂人部隊ならば、問題無いだろう。貴様らの間で認識の齟齬が生まれては、有事の際に困るからな」
「ありがとうございます。お話は以上でしょうか?」
「ああ、用件は以上だ。貴様も帰って休むが良い」
「はい、失礼します」
執務室出ると、私は大きく嘆息した。
今回の一件といい、私がアシャ訓練兵と組まされたのは、こういう事態を想定しての事なのかもしれない。何とも、損な役回りである。
彼女を取り巻く状況は、まだハッキリとはしないが、判った事もある。
我々の休日は、まだ遠いということだ。
翌日、監督官から正式に山賊討伐の指令が発布された。
「訓練兵諸君、貴様らの働きでカシュンガルの東の守りは保たれた。まずは、その武功を讃えさせてもらう。貴様らには相応の手当と休暇をプレゼントする予定であったが、火急的速やかに対処せねばならない事態が発生した。我らがカシューンへ来た日、我らを襲った山賊共の根城が判明したのだ。そう、貴様の出鼻を挫いた憎き輩だ。その報復をする時がやって来たのだ。奴らは、東境界砦を壊滅させた武装集団と結託していることも確認された。奴らは虎視眈々と我ら王国軍の命を狙い続けている。さあ、今こそ機先を制し、奴らを一網打尽にする時だ! 誉れ高き王国軍の力を示すのだ! その暁には、一週間の長期休暇を約束しよう!!」
『オオォォォ!!』
監督官の演説に、訓練兵らが歓声を上げ、王国軍万歳と唱和までし始めた。監督官の口車に乗せられてのぼせ上がったのか、そこまで休暇を待ち望んでいたのか、私では理解に苦しむ状況である。
今回の作戦を冷静に要約するなら、やっぱり訓練兵に丸投げ大作戦、であろうか。今回も、短期訓練兵団や駐留軍の援護は無く、戦術も自分達で決めなくてはならない。何だかんだ重要な作戦さえ、訓練の一環のように仕立ててしまう彼女のやり口は恐ろしいほど鮮やかだ。
まあ、具体的な作戦内容を協議するのも正規軍からの派遣組たる分隊長らなので、さして問題はないのだが、長期訓練兵団が完全に、南の女帝の遊撃部隊(私物)化している気がしてならない。
今回の作戦は、包囲殲滅戦である。
まずは、遺跡内に設営されている敵拠点を左右二分隊で挟撃していく。いきなり半包囲してしまうと、洞窟内に強固な防衛線を敷かれてしまう可能性があるので、洞窟の反対側、南方面を最初はがら空きの様に見せ掛けて、逃げ道を作っておく。
次に、挟撃で混乱した敵を南方面へ敗走するように圧力を掛け、反撃の芽を奪う。
そして、逃げ道の先にはアタオ率いる第一分隊が控えており、敗走してきた敵を漏らさず刈り取っていき、敵大部分の殲滅完了となるわけだ。
贅沢を言えば、敗走してきた敵を迎え撃つのは、アシャ訓練兵の様な大火力の放射魔法が良いのだが、ある不安材料があったので、今回は見送ってもらった。
作戦は明日、その前に確かめておかねばなるまい。
「皆、聴いて欲しい」
私は隊員を集め、彼女たちにとある質問を投げ掛けた。
「この中で、賊を斬れない者はいるか?」
そう、質問とは倫理的なものだ。人を殺せるか、それを遠回しに聴いているのだ。もちろん、三人娘は困惑し、互いに顔を見合わせている。
「抵抗感があるのは、正常な証拠だ。だが、貴様らは率先して手を汚さねばならない立場にいるのは理解して欲しい。誰かが、法を破る者らに鉄槌を下さねばならないのだ。そうしなければ、割りを食うのは法を遵守する者達だからだ。私は、その様な理不尽を許すつもりはない。ゆえに斬る。人であろうと、獣であろうと、ユマンであろうとな」
私なりの信条を、はっきりと伝えてみたのだが、三人娘は予想以上にきょとんとしている。スベった、スベったのだろうか。
だが、次の瞬間、アシャ訓練兵が笑いを噴き出し、それから堰を切ったように、シャンテ、ターヤ両訓練兵も笑い始めた。腹を抱えて、呼吸困難になりながらも。
「ふふっ・・・全く、一番理不尽な奴が、理不尽を許さないなんて、よく言えたわね」
「ん? 私は理不尽か?」
「理不尽だからね!? ・・・その、なんて言うか、そのくらいの覚悟は入隊したときに決めたつもり。今さら、私の手が綺麗だとは言わない。だから、大きなお世話なのよ!」
「アシャ訓練兵・・・」
「次はあたしかな? あたしは、無垢な乙女達を守ると決めてるから、楽勝よ!」
「シャンテ訓練兵・・・」
「私は、どちらかと言えば、傷を癒す道を歩みたいのですが・・・雑菌を焼却するという意味では、吝かでもありませんよ?」
「ターヤ訓練兵・・・」
三者三様の決意に、私は込み上げてくる想いを抑えることが出来なかった。
「アシャ訓練兵・・・そんな事を言う奴に限って、土壇場でチキるんだぞ?」
「んなっ!?」
「シャンテ訓練兵。無垢な乙女が敵に回ったら、斬れるか?」
「いや、それは・・・うーむ」
「ターヤ訓練兵。君は素養があり過ぎて心配だ」
「ウフフ・・・☆」
想いの丈をぶつけていると、背後から何者かに小突かれた。
「コラッ、彼女達が折角決意したのだから、へし折るな」
ソリア訓練兵である。
「いや、こういう問題はしっかりと話し合うべきであってだな・・・」
「全く、隊長殿は容赦を知らないからな。今までは他人事だと笑っていたが、今後は私がたしなめようと思う」
「今後・・・というと?」
「第三分隊は、本日で解散。私は第四分隊へ正式に編入することになった。よろしく頼む」
「それは・・・ありがたい。私だけで、この三人をフォロー出来る気がしていなかった。良ければ、副官に任命しても?」
「それは・・・三人が認めてくれるなら、引き受けよう」
『大歓迎です!』
「だそうだ、ソリア副官。喜べ貴様ら、第四分隊に良心が来てくれたぞ!」
『わ~!!』
「ど、どうも・・・コホン、不肖ソリア、この剣に掛けて、第四分隊の良心であることを誓おう!」
こうして、第四分隊に良心が生まれたのであった。
「では、第四分隊の悪心からも一言送ろう」
私は咳払いをしてから、頼れる我が隊員たちを睥睨した。
「これより先は、一切の希望を捨てよ」
これは、完全にスベりました。
カシュンガルから都市遺跡の付近までは、徒歩で三時間も掛かった。ほぼ山で、道が整備されていなかったからだ。
先行し、遺跡を偵察してきたクリメルホによると、敵のほとんどは遺跡中心部の野営地で寛いでおり、これといった見張りは居なかったらしい。この場所が見つかるとは、夢にも思っていないのだろう。
我々は手筈通り、左右に展開し、挟撃の準備に移った。左翼には第二、第五分隊が、残った第四、第六が右翼を担当する。遺跡は林に囲まれているので、それを利用して洞窟近くまで入り込むのだ。
所定の位置に着いたら、ちょっとした身支度を始める。手拭いを、鼻や口を覆うように結び、フードを目深に被るのだ。
手拭いは風化の進んだ遺跡内での防塵対策、フードは魔法の飛び交う乱戦が予想されるから、といった建前を用意しているが、これはアタオ達と考えたアシャ訓練兵隠しの小技なのである。
さて、その準備が整ったのを高台でクリメルホが確認すれば、合図が上がる手筈だ。そして間もなく、西の空に火球が打ち上がった。
「よし、作戦開始だ」
長剣を抜き放ち、朽ちかけた建物を利用しながら移動していく。
野営地では、謎の火球によって、山賊共が狼狽えている。奇襲をするなら今だ。
「確認するぞ。私とソリア副官、シャンテ訓練兵が前衛として斬り込む。アシャ訓練兵はダートで前衛を援護、ターヤ訓練兵は基本的にアシャ訓練兵から離れず、適宜回復魔法に従事する・・・分かったな?」
「おう・・・!!」
その時、二度目の火球が上がった。突撃の合図である。
「行くぞ、消毒の時間だ!」
我々は、潜んでいた建物の陰から飛び出し、野営地へ向けて突撃を敢行した。接近するまでは、それぞれの変化型魔法を放ち、野営地は瞬く間に炎上し始めた。
炎に驚き、テントから這い出してきた山賊を、我々は手当たり次第に切り伏せていった。かなり数を減らせたが、それでもまだ兵団の三倍程の敵が現存している。
そしてこれからは、態勢を調えた敵との戦闘へ移行していく。
四方八方から押し寄せてくる敵を、仲間に背を預けながら、斬り、焼き、殴り倒していく。
シャンテ訓練兵は、少し押され気味であったが、アシャ訓練兵のダートで敵が怯み、その隙を突いて押し返していた。
ソリア副官は言わずもがな、長剣を流れるように操り、前後から来る敵を的確に切り裂いている。皮肉無しで、見惚れてしまうような剣技だった。
私は、目に入る敵を、武器ごと叩き斬っているだけだ。 どれほど時が経ったのか、山賊共は徐々に南へ敗走し始め、我々は第二分隊と鉢合わせた。これで、洞窟への退路を断ったことになる。
逃げ惑う山賊は、既に兵団の数を下回り始め、さらに第五、第六分隊の猛攻に曝され、その数を減らしていく。どうにか、戦場を逃れた山賊を待っていたのは、アタオの突撃であった。
第一分隊の突撃で、敗走していた山賊は簡単に蹴散らされ、包囲するまでも無く、殲滅することが出来た。このまま勝鬨を、と行きたいところだが、まだ洞窟内が残っている。
各分隊は洞窟前で集合し、損害の確認を行なった。手傷を負った者は多いが、戦死者や脱落者も居ない。なかなか上出来な状態だった。
はて、ここから先は、少数精鋭で潜入することになるだろう。まあ、各分隊長が攻め込むのだが。
分隊長がアタオの元へ集結した、まさにその時だった。洞窟の中から、十数もの敵が飛び出してきたのである。
あの、モドキと呼ばれたユマンである。この強力な敵を、各分隊ごとに二体の割合で相対していく。
分隊長が集まった即席部隊では、即座に一体を斬り伏せたが、実力者を欠いた各分隊は苦戦を強いられているようだ。例えば、我が分隊では、ソリア副官が一体を引き受けているが、残る一体を三人娘だけで倒さねばならない。
実質、戦力はアシャ、シャンテ両訓練兵のみ。ダートで牽制しつつ、シャンテ訓練兵が斬り込んでいくが、攻め手が足らず、決定打を与えられずにいた。助けねばならないか、二体目のユマンを斬り伏せながら見守っていると、意外にもターヤ訓練兵に動きがあった。
「・・・仕方ない」
そんな風に、唇が動いた次の瞬間、彼女の手に炎が現出し、細長い槍へと形状を変化させた。それから、その槍をユマンに向けて投擲し、胸に突き刺さった途端、小爆発を起こした。さらにその隙に、新たな槍を現出させ、ターヤ訓練兵は前衛へと躍り出た。そのまま、アシャ、シャンテ両訓練兵と連携、ユマンを圧倒し始めている。ターヤ訓練兵め、まだそんな隠し球を持っていたのか。
ここは任せられる。そう判断した私は、他の分隊長らと共に洞窟内へと進撃した。蓋をすれば、後続の敵は我々しか襲えなくなるからだ。
襲い来るユマンを一体、また一体と斬り伏せていくと、やがて洞窟の最深部への辿り着いた。ここも、何かの遺構らしく、壁面には見たことの無い様式の絵が描かれている。広い空間ではあったが、どうやら敵は、これで打ち止めのようだ。
洞窟の入り口まで戻ると、そこにはユマンを残らず始末し終えた仲間たちの姿があった。昏倒している者も居たが、やはり戦死者は居ないので、概ね快勝の言える状況にあった。
これを見たアタオは、長剣を持つ手を突き上げ、高らかに宣言した。
「みなさん、我々の勝利ですぞぉーー!!」
『おおーー!!』
アタオのちょっと残念な号令の下、訓練兵団の勝鬨が都市遺跡中へ轟いた。洞窟内では声が反響してメチャクチャうるさかった。
午前中には砦から出ることを想定し、荷物を纏め、兵舎等を掃除しておく。そして、増援の到着を待つこと数刻、輸送路を通って、総勢50人を超える隊列が姿を現した。
緊張感から解放され、ようやく帰還することが出来る。そんなお気楽ムードが流れる中、増援部隊の指揮官とアタオの間で、砦の引き継ぎが行なわれた。
先んじて砦を後にした訓練兵団は、増援部隊のお歴々方に様々な賛辞を送られながら、カシュンガルへの帰路に就くのであった。
先日、狼の死骸だらけだった輸送路は、増援部隊の進行に伴い、綺麗サッパリ片付けられていた。ゆえに我々は、木漏れ日の下を晴れやかな気分で行く、まさにハイキングような状況なのである。
隊列は乱れないものの間延びし、警戒感は薄れ、私語が蔓延するという、あまり褒められた行軍ではないのだが、東の森に特筆すべき脅威も居なくなったので、アタオも黙認しているようだ。
かく言う我が隊も、殿を務めながらも、私語が蔓延している。
「はぁ・・・やっと帰れる」
明らかに疲労を溜め込んだ顔で、アシャ訓練兵がぼそりと呟いた。
「アシャ訓練兵、貴様は何度同じことを呟くつもりだ? 流行らせるつもりなら、諦めろ」
「流行らせるわけないでしょ!? ・・・でもまあ、今の兵団内では、皆思っているでしょうけど」
「そこが判らない。何が不満なんだ? 風雨を凌げる暖かい寝床、三食洗濯付きで、風呂まであるなど、普通はあり得ないのだぞ?」
「砦の施設も悪くは無いのだけど、良くもないし・・・それに休みが無いから、疲れも溜まる一方だし」
「あぁ・・・確かに、我々は最初休暇を賜ったが、他の者はカシューンに来てから休み無しなのだな」
「私たちって、訓練兵団なのに苦難の連続だったじゃない? 今回も砦を守り抜いたわけだから、もしかしたら休みが貰えるんじゃないかって、皆期待してるのよ・・・というか、このままだと過労死しちゃう」
「なるほど、士気は低いのに、意気揚々な理由はそれか・・・確かにそろそろ、身体を休ませたい」
「へぇ・・・ナディットも疲れるんだ?」
「当たり前だろう? 貴様らの尻拭いで倍は動いているのだから、幾ら身体を鍛え、経験を有していても、疲れるものは疲れる」
「そうなの? 一日中戦えそうなのに・・・」
「皮肉に聴こえるのだが・・・経験では五日と半日で一瞬昏倒したな。あの時は、ユマンとかくれんぼ中だったから、焦ったな。見付かっていたら、挽き肉にされていた」
「怖っ・・・というか化け物ね、あんた」
「失礼な、回復魔法を常に掛けながら、騙し騙し戦い抜いた結果だ。ちなみに、そこまで疲労しても他人に回復魔法を掛けてもらえば、一日で回復出来るぞ? 私の時は、皆ダウンしていたが」
「あんたのエピソード、何だか泣けてくるわね・・・」
「そうだな、軽いホームシックだ。私たちが帰るまで、何人生きているのやら・・・」
「帰りたいの!?」
「私もすっかり、狂人というわけだな。いつか連れていってやろう」
「そんなお誘い嬉しくない!!」
「安心しろ、意思など聞かれない。一枚の紙を渡され、こう言われる。おめでとう、地獄からの片道切符のプレゼントだ、とな。あれは爆笑した」
「どこも笑えないけど!? というか、ナディットの爆笑が気になる!!」
「確か、気が触れたのだと誤解されたな」
「あ、それ判る気がする・・・」
「・・・どういう意味だ?」
「とにかく、皆休暇が欲しいのよ!」
「むぅ・・・全ては監督官の采配次第だからな」
「監督官かぁ・・・」
『休暇、無理だな』
アシャ訓練兵と珍しく意見が合ったところで、私は背後に違和感を覚えた。
「・・・アシャ訓練兵、振り向き様に、背後の茂みへダートを射てるか?」
「え、何で?」
「出来るか?」
「で、出来るけど・・・」
「よし、身体を陰にして、炎を出すんだ」
私は胸の前で円盤を、アシャ訓練兵もそれに倣って、ダートを現出させた。
「タイミングを合わせろ・・・今だ!」
私は後方にある木の枝葉に向けて、アシャ訓練兵はやや後方の茂みに向かって、それぞれ魔法を放った。
すると着弾と同時に、木の上から弓を手にした男が落ちていき、茂みの中からは悲鳴が聴こえてきた。
「あれって・・・!?」
「ああ、賊だ・・・ん、来ないな?」
バレたのだから、飛び出してくると思ったのだが、賊共は一向に姿を現そうとしない。
「誘っているのか・・・アシャ訓練兵、前方のソリア訓練兵達と合流して、シャンテ訓練兵にアタオへの伝言を託せ。我々を追尾する敵有り、慎重に行軍せよ、だ」
「わ、分かった・・・ナディットは?」
「落とした奴を調べてくる、行け!」
アシャ訓練兵を送り出してから、私は長剣を引き抜き、賊が落ちたはずの木の根元へと近付いた。
茂みを掻き分けていくと、やはり根元に男が倒れていた。どうやら、落ちた際に首の骨を折ったようで、既に事切れていた。
死体を調べてみると、こいつの肌もテカテカと光っている事に気が付いた。そう、不燃樹の樹液である。
一度ならず二度までも、何故我々を狙うのか。手掛かりが無いかと男の持ち物を調べていくと、気になる巻紙を見つけた。拡げて確かめようとしたその時、誰かが茂みを掻き分けてくる音が近付いてきた。
私が咄嗟に木の陰へ隠れた直後、茂みから二人の男が現れた。倒れている男と同じく、毛皮を張り合わせたような服装をしており、賊の一派だと思われる。
男らは、倒れている仲間へ駆け寄り、舌打ちをした。
「駄目だ、死んでやがる」
「どうする? 死んでるなら置いていくか?」
「馬鹿、痕跡を残すなって言われただろ? 持って帰るぞ」
「お、おう・・・」
賊にしては、理知的な行動を取ろうとしている。ここは、もう少し情報を得ておいた方が良いだろう。
「おい、足を持て! 早くしろ、王国軍が来るぞ・・・ひっ!?」
先程から指示を出していた男が見たのは、仲間の首が胴体とおさらばしている姿であった。そして、そんな男の首筋には、私の長剣が食い込んでいる。
「残念だったな、もう来てしまっている」
「っ・・・なんで、俺を殺さない?」
「話がしたかったからさ。そっちの間抜けよりも、話が早そうだったから残したが・・・どうする、後を追うか?」
「い、いや・・・それじゃあ、割りに合わねぇ。話すから、殺さないでくれ」
「素直に答えてくれれば、怪我一つ負わないが・・・嘘をつけば、貴様を苦しめねばならなくなる。そうだな、耳を落とそうか?」
「ひっ・・・う、嘘はつかない、ちゃんと答える!!」
「賊にしては賢いじゃないか・・まずは、貴様らの目的を話してもらおうか?」
「も、目的・・・お、俺たちは女を拐えって頼まれたんだ」
「それは、特別な理由があってのことか?」
「り、理由なんて判らねぇよ! ただ似顔絵の女を拐えって」
「なるほど・・・では、次の質問だ。貴様らに不燃樹の樹液や依頼を流しているのは、どこの誰だ?」
「そ、それは・・・あに」
男が何かを言いかけたその時、不意に風切り音を耳が捉えた。矢が射掛けられたのだ。
「むっ!?」
私は反射的に盾を手に取って、心臓を狙って射たであろう矢を受け止めることが出来た。だが、捕らえていた男から目を放してしまった。逃げ出しているかと焦ったが、男はまだ同じ場所で俯いていた。頭頂部に矢が突き刺さった姿で。
本当の狙いは、男の始末であったか。射掛けてきた方向を見ると、背を向けて走り去る男が、藪の隙間から一瞬、垣間見えた。
あの射手を追い掛けようかと思案したが、こうも手掛かりを消そうとする相手を、単独で追い掛けるのは無謀というものである。
追跡は諦め、最初に回収した巻紙を拡げてみることにした。
「・・・これは、いったい?」
巻紙には、とある人物の似顔絵が書かれていた。見知った人物、アシャ訓練兵の顔である。
私が訓練兵団に追い付いたのは、東橋関所の手前辺りであった。
賊の出現に伴い、アタオが兵団を纏めて、迅速に移動してきたのだ。
我が分隊、特にアシャ訓練兵の無事を確認してから、私はアタオの元へ向かった。賊は退いた、今告げるのはこれだけにしておく。
殿へ戻ると、隊員らが報告しろと詰め寄ってきたので、賊に追跡されていたが、バレた途端に逃げていったとだけ答えておく。
アシャ訓練兵が狙われている件は、監督官の意見を仰ぐまで秘匿しておくと決めたのだ。
訓練兵団は関所を抜け、約一週間ぶりに南門砦へと帰還した。中庭には、監督官が仁王立ちで待ち構えており、訓練兵らを大いに動揺させた。
「任務の完遂、ご苦労。貴様らは大いに役立った。よって本日は宿舎へ帰って休め。アタオ訓練兵は、報告の為、私と来い。以上、解散だ!」
待ち望んだ休暇、というよりも早帰りに近いのだが、訓練兵らは歓声を上げ、嬉々として家路に就いていった。隊員らと別れを告げた後、私はクリメルホと合流し、彼に先ほどの賊に関する本当の報告をした。彼から私の判断は間違っていない、というお墨付きを貰ってから、共に監督官の執務室へと向かった。
すると、部屋の前で報告を終えたアタオと鉢合わせ、彼にも本当の報告をすると、監督官が私を呼んでいると教えてくれた。賊の件を聞きたがっているそうだ。彼も監督官も、私の報告に違和感を覚えていたようだ。
結果は帰ってから話すと約束し、私は一人で執務室へと入室した。
「失礼します」
「早かったな、ナディット訓練兵。早速だが、賊の件を聞かせてもらおうか?」
監督官のオーダー通り、私は見聞きした事を事細かに報告した。もちろん、アシャ訓練兵が狙われていることもだ。
「・・・そうか、あの子が」
報告を聴いた監督官は、妙に含みの有ること呟いた。
「監督官は、アシャ訓練兵が狙われている理由に心当たりがおありで?」
「・・・こちらへ来い、ナディット訓練兵。少し雑談に付き合ってもらう」
「はっ」
接近を許すということは、あまり大きな声では言えない話をするということだ。監督官に手を伸ばせば届く程の距離まで接近した。
「彼女には、王都では知る者も多いが、ここでは知られていない事実がある・・・彼女は、私の姪だ」
「・・・姪? と申しますと、御兄弟の御息女で?」
「ああ、兄の子だ」
監督官、南部方面軍将軍ラミダ・べゼリアの兄といえば、有名な御仁が一人居る。
「王国軍大将ラミダ・ダグラット・・・」
「そう、あれは大将の子なのだよ、ナディット訓練兵」
衝撃の事実、という程ではない。入隊の仕方からして、背後に権力者が居ることは容易に想像出来るからだ。ああ、大将なんだ、くらいな印象である。
確かに、大将の子というのは、狙われる要素にもなり得るものだ。しかし、目的がまるで見えてこない。
「大将の子女を拐ったとして、どうするつもりなのでしょうか? 正直、山賊が大将を脅すメリットは皆無に等しいと愚考致します。身代金目当てだとしても、受け取り後、包囲殲滅がオチでしょう」
「その通りだ・・・よほど御粗末な頭で無ければ、狙うメリットは無い。そもそも、一介の賊ごときが知り得る情報でもない。だが・・・この地には、メリットを生み出しかねない勢力が居る」
「・・・あっ、例の思想集団ですね?」
「そうだ・・・これは明日、貴様らに命じる予定の任務なのだが・・・カシュンガルから北西の山脈裾野にある都市遺跡を知っているか?」
「いえ、初耳です」
「神暦の遺構らしいのだが・・・最近、ここに山賊が屯しているという狩人らの通報が増えているのだ」
「つまり、例の賊が根城にしていると?」
「ああ、可能性は高い。そしてそこでは、妙なローブ姿の人物も確認されている。これは思想集団を追っていた班からの情報だ」
「なるほど・・・点が繋がったわけですか」
「そうだ、奴らの結託は間違いない。賊の言っていた雇い主とは、ヴィデオ・ヴィネカの事なのだろうな」
「つまり、我々に課す予定の任務とは、その遺跡の鎮圧ですか?」
「そうだ、ヴィデオ・ヴィネカが居ようが居まいが、奴らの活動拠点を潰す。その混乱を理由すれば、奴の居所へたどり着けるやもしれないからな」
「・・・その作戦に、アシャ訓練兵は参加させるのですか?」
「・・・ああ、外すつもりはない。自らに害意を持つ者は、自らの手で打ち払わねばな。四六時中、護衛が付くような生活を、あの子自身望んではいないだろう」
自分で自分の身を守る事に慣れさせておきたい、という意図なのだろうか。確かに、ヤブーに怯えているようでは、駄目だが。
「分かりました・・・今回のお話なのですが、アタオ、クリメルホ両訓練兵に伝達してもよろしいでしょうか?」
「狂人部隊ならば、問題無いだろう。貴様らの間で認識の齟齬が生まれては、有事の際に困るからな」
「ありがとうございます。お話は以上でしょうか?」
「ああ、用件は以上だ。貴様も帰って休むが良い」
「はい、失礼します」
執務室出ると、私は大きく嘆息した。
今回の一件といい、私がアシャ訓練兵と組まされたのは、こういう事態を想定しての事なのかもしれない。何とも、損な役回りである。
彼女を取り巻く状況は、まだハッキリとはしないが、判った事もある。
我々の休日は、まだ遠いということだ。
翌日、監督官から正式に山賊討伐の指令が発布された。
「訓練兵諸君、貴様らの働きでカシュンガルの東の守りは保たれた。まずは、その武功を讃えさせてもらう。貴様らには相応の手当と休暇をプレゼントする予定であったが、火急的速やかに対処せねばならない事態が発生した。我らがカシューンへ来た日、我らを襲った山賊共の根城が判明したのだ。そう、貴様の出鼻を挫いた憎き輩だ。その報復をする時がやって来たのだ。奴らは、東境界砦を壊滅させた武装集団と結託していることも確認された。奴らは虎視眈々と我ら王国軍の命を狙い続けている。さあ、今こそ機先を制し、奴らを一網打尽にする時だ! 誉れ高き王国軍の力を示すのだ! その暁には、一週間の長期休暇を約束しよう!!」
『オオォォォ!!』
監督官の演説に、訓練兵らが歓声を上げ、王国軍万歳と唱和までし始めた。監督官の口車に乗せられてのぼせ上がったのか、そこまで休暇を待ち望んでいたのか、私では理解に苦しむ状況である。
今回の作戦を冷静に要約するなら、やっぱり訓練兵に丸投げ大作戦、であろうか。今回も、短期訓練兵団や駐留軍の援護は無く、戦術も自分達で決めなくてはならない。何だかんだ重要な作戦さえ、訓練の一環のように仕立ててしまう彼女のやり口は恐ろしいほど鮮やかだ。
まあ、具体的な作戦内容を協議するのも正規軍からの派遣組たる分隊長らなので、さして問題はないのだが、長期訓練兵団が完全に、南の女帝の遊撃部隊(私物)化している気がしてならない。
今回の作戦は、包囲殲滅戦である。
まずは、遺跡内に設営されている敵拠点を左右二分隊で挟撃していく。いきなり半包囲してしまうと、洞窟内に強固な防衛線を敷かれてしまう可能性があるので、洞窟の反対側、南方面を最初はがら空きの様に見せ掛けて、逃げ道を作っておく。
次に、挟撃で混乱した敵を南方面へ敗走するように圧力を掛け、反撃の芽を奪う。
そして、逃げ道の先にはアタオ率いる第一分隊が控えており、敗走してきた敵を漏らさず刈り取っていき、敵大部分の殲滅完了となるわけだ。
贅沢を言えば、敗走してきた敵を迎え撃つのは、アシャ訓練兵の様な大火力の放射魔法が良いのだが、ある不安材料があったので、今回は見送ってもらった。
作戦は明日、その前に確かめておかねばなるまい。
「皆、聴いて欲しい」
私は隊員を集め、彼女たちにとある質問を投げ掛けた。
「この中で、賊を斬れない者はいるか?」
そう、質問とは倫理的なものだ。人を殺せるか、それを遠回しに聴いているのだ。もちろん、三人娘は困惑し、互いに顔を見合わせている。
「抵抗感があるのは、正常な証拠だ。だが、貴様らは率先して手を汚さねばならない立場にいるのは理解して欲しい。誰かが、法を破る者らに鉄槌を下さねばならないのだ。そうしなければ、割りを食うのは法を遵守する者達だからだ。私は、その様な理不尽を許すつもりはない。ゆえに斬る。人であろうと、獣であろうと、ユマンであろうとな」
私なりの信条を、はっきりと伝えてみたのだが、三人娘は予想以上にきょとんとしている。スベった、スベったのだろうか。
だが、次の瞬間、アシャ訓練兵が笑いを噴き出し、それから堰を切ったように、シャンテ、ターヤ両訓練兵も笑い始めた。腹を抱えて、呼吸困難になりながらも。
「ふふっ・・・全く、一番理不尽な奴が、理不尽を許さないなんて、よく言えたわね」
「ん? 私は理不尽か?」
「理不尽だからね!? ・・・その、なんて言うか、そのくらいの覚悟は入隊したときに決めたつもり。今さら、私の手が綺麗だとは言わない。だから、大きなお世話なのよ!」
「アシャ訓練兵・・・」
「次はあたしかな? あたしは、無垢な乙女達を守ると決めてるから、楽勝よ!」
「シャンテ訓練兵・・・」
「私は、どちらかと言えば、傷を癒す道を歩みたいのですが・・・雑菌を焼却するという意味では、吝かでもありませんよ?」
「ターヤ訓練兵・・・」
三者三様の決意に、私は込み上げてくる想いを抑えることが出来なかった。
「アシャ訓練兵・・・そんな事を言う奴に限って、土壇場でチキるんだぞ?」
「んなっ!?」
「シャンテ訓練兵。無垢な乙女が敵に回ったら、斬れるか?」
「いや、それは・・・うーむ」
「ターヤ訓練兵。君は素養があり過ぎて心配だ」
「ウフフ・・・☆」
想いの丈をぶつけていると、背後から何者かに小突かれた。
「コラッ、彼女達が折角決意したのだから、へし折るな」
ソリア訓練兵である。
「いや、こういう問題はしっかりと話し合うべきであってだな・・・」
「全く、隊長殿は容赦を知らないからな。今までは他人事だと笑っていたが、今後は私がたしなめようと思う」
「今後・・・というと?」
「第三分隊は、本日で解散。私は第四分隊へ正式に編入することになった。よろしく頼む」
「それは・・・ありがたい。私だけで、この三人をフォロー出来る気がしていなかった。良ければ、副官に任命しても?」
「それは・・・三人が認めてくれるなら、引き受けよう」
『大歓迎です!』
「だそうだ、ソリア副官。喜べ貴様ら、第四分隊に良心が来てくれたぞ!」
『わ~!!』
「ど、どうも・・・コホン、不肖ソリア、この剣に掛けて、第四分隊の良心であることを誓おう!」
こうして、第四分隊に良心が生まれたのであった。
「では、第四分隊の悪心からも一言送ろう」
私は咳払いをしてから、頼れる我が隊員たちを睥睨した。
「これより先は、一切の希望を捨てよ」
これは、完全にスベりました。
カシュンガルから都市遺跡の付近までは、徒歩で三時間も掛かった。ほぼ山で、道が整備されていなかったからだ。
先行し、遺跡を偵察してきたクリメルホによると、敵のほとんどは遺跡中心部の野営地で寛いでおり、これといった見張りは居なかったらしい。この場所が見つかるとは、夢にも思っていないのだろう。
我々は手筈通り、左右に展開し、挟撃の準備に移った。左翼には第二、第五分隊が、残った第四、第六が右翼を担当する。遺跡は林に囲まれているので、それを利用して洞窟近くまで入り込むのだ。
所定の位置に着いたら、ちょっとした身支度を始める。手拭いを、鼻や口を覆うように結び、フードを目深に被るのだ。
手拭いは風化の進んだ遺跡内での防塵対策、フードは魔法の飛び交う乱戦が予想されるから、といった建前を用意しているが、これはアタオ達と考えたアシャ訓練兵隠しの小技なのである。
さて、その準備が整ったのを高台でクリメルホが確認すれば、合図が上がる手筈だ。そして間もなく、西の空に火球が打ち上がった。
「よし、作戦開始だ」
長剣を抜き放ち、朽ちかけた建物を利用しながら移動していく。
野営地では、謎の火球によって、山賊共が狼狽えている。奇襲をするなら今だ。
「確認するぞ。私とソリア副官、シャンテ訓練兵が前衛として斬り込む。アシャ訓練兵はダートで前衛を援護、ターヤ訓練兵は基本的にアシャ訓練兵から離れず、適宜回復魔法に従事する・・・分かったな?」
「おう・・・!!」
その時、二度目の火球が上がった。突撃の合図である。
「行くぞ、消毒の時間だ!」
我々は、潜んでいた建物の陰から飛び出し、野営地へ向けて突撃を敢行した。接近するまでは、それぞれの変化型魔法を放ち、野営地は瞬く間に炎上し始めた。
炎に驚き、テントから這い出してきた山賊を、我々は手当たり次第に切り伏せていった。かなり数を減らせたが、それでもまだ兵団の三倍程の敵が現存している。
そしてこれからは、態勢を調えた敵との戦闘へ移行していく。
四方八方から押し寄せてくる敵を、仲間に背を預けながら、斬り、焼き、殴り倒していく。
シャンテ訓練兵は、少し押され気味であったが、アシャ訓練兵のダートで敵が怯み、その隙を突いて押し返していた。
ソリア副官は言わずもがな、長剣を流れるように操り、前後から来る敵を的確に切り裂いている。皮肉無しで、見惚れてしまうような剣技だった。
私は、目に入る敵を、武器ごと叩き斬っているだけだ。 どれほど時が経ったのか、山賊共は徐々に南へ敗走し始め、我々は第二分隊と鉢合わせた。これで、洞窟への退路を断ったことになる。
逃げ惑う山賊は、既に兵団の数を下回り始め、さらに第五、第六分隊の猛攻に曝され、その数を減らしていく。どうにか、戦場を逃れた山賊を待っていたのは、アタオの突撃であった。
第一分隊の突撃で、敗走していた山賊は簡単に蹴散らされ、包囲するまでも無く、殲滅することが出来た。このまま勝鬨を、と行きたいところだが、まだ洞窟内が残っている。
各分隊は洞窟前で集合し、損害の確認を行なった。手傷を負った者は多いが、戦死者や脱落者も居ない。なかなか上出来な状態だった。
はて、ここから先は、少数精鋭で潜入することになるだろう。まあ、各分隊長が攻め込むのだが。
分隊長がアタオの元へ集結した、まさにその時だった。洞窟の中から、十数もの敵が飛び出してきたのである。
あの、モドキと呼ばれたユマンである。この強力な敵を、各分隊ごとに二体の割合で相対していく。
分隊長が集まった即席部隊では、即座に一体を斬り伏せたが、実力者を欠いた各分隊は苦戦を強いられているようだ。例えば、我が分隊では、ソリア副官が一体を引き受けているが、残る一体を三人娘だけで倒さねばならない。
実質、戦力はアシャ、シャンテ両訓練兵のみ。ダートで牽制しつつ、シャンテ訓練兵が斬り込んでいくが、攻め手が足らず、決定打を与えられずにいた。助けねばならないか、二体目のユマンを斬り伏せながら見守っていると、意外にもターヤ訓練兵に動きがあった。
「・・・仕方ない」
そんな風に、唇が動いた次の瞬間、彼女の手に炎が現出し、細長い槍へと形状を変化させた。それから、その槍をユマンに向けて投擲し、胸に突き刺さった途端、小爆発を起こした。さらにその隙に、新たな槍を現出させ、ターヤ訓練兵は前衛へと躍り出た。そのまま、アシャ、シャンテ両訓練兵と連携、ユマンを圧倒し始めている。ターヤ訓練兵め、まだそんな隠し球を持っていたのか。
ここは任せられる。そう判断した私は、他の分隊長らと共に洞窟内へと進撃した。蓋をすれば、後続の敵は我々しか襲えなくなるからだ。
襲い来るユマンを一体、また一体と斬り伏せていくと、やがて洞窟の最深部への辿り着いた。ここも、何かの遺構らしく、壁面には見たことの無い様式の絵が描かれている。広い空間ではあったが、どうやら敵は、これで打ち止めのようだ。
洞窟の入り口まで戻ると、そこにはユマンを残らず始末し終えた仲間たちの姿があった。昏倒している者も居たが、やはり戦死者は居ないので、概ね快勝の言える状況にあった。
これを見たアタオは、長剣を持つ手を突き上げ、高らかに宣言した。
「みなさん、我々の勝利ですぞぉーー!!」
『おおーー!!』
アタオのちょっと残念な号令の下、訓練兵団の勝鬨が都市遺跡中へ轟いた。洞窟内では声が反響してメチャクチャうるさかった。
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