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朽葉色の髪
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部屋に行為の跡が残っている。精液で汚れた布団、汗の匂い、腹の中の違和感。これが1番嫌いだ。希は元々潔癖症で汚れた物が嫌いだった。早く洗い流したい、腹の中の違和感を取り除きたい。その事しか考えられなかった。客が帰っていき希は腹の中に注がれた白濁をなんとか掻き出すと大きくため息をついた。体力がもたない、体が疲れきっている。近くにあった手鏡を手に取って自分を写すと首元に痕が残っていた。
「……最悪」
希は痕に触れていると部屋の障子が開いた。また客だろうか、と希は作り笑いをしようとした。
「希、今日はもう終わりだ」
「あ……」
入ってきたのは支配人だった。支配人は希にそう伝えるとすぐに出て行った。希は糸が切れたように精液まみれの布団に倒れ込んだ。体が動かなくなって無意識に涙が流れる。もう希の精神は疲れ切っていた。最近希は仕事を終えると今のようになってしまう。歯車が外れたねじ巻き人形のようにぴくりとも動かなくなってしまうのだ。そして悲しいのか、苦しいのか、辛いのかわからずただ涙が流れる。頭の中では必死に立ち上がって体を洗いたいと思っているのに体が言うことを聞かない。そんな状態になってしまった希はずっと答えが帰ってこない疑問を頭の中で問うていた。なんでこんな体になってしまったんだろう、なんで男なのにこんなことされなくちゃいけないのだろう。視界がぼやけていく中、希は何度も何度も考え続けた。そして、希の意識が闇に放られた。
━━━━━━━━━━━━━━━
どこからか雀の囀りが聞こえる。それで希は目を覚ました。起き上がると来ていた着物ははだけていて寝ていた布団からは精液が乾いた匂いがした。
「……洗濯出さないとなぁ…」
希はなんとか立ち上がって布団を部屋の外に出すと湯あみをして昨晩の情事の跡を洗い流した。希は夜を明かした部屋には戻らず、希に設けられた部屋に入った。四畳程の広さで希にとって狭すぎた。文句を言うと怒鳴られるのはわかっていたため黙っていたがやはり何度見ても狭いと思ってしまう。希は新しい着物に着替えて座布団に座り込む。午前中だけこうしてぼんやりとできる。午後からは昨日と同じ鳥籠の中に入って見世物のようにじっとしながら街の景色を眺める。そして夜は仕事…、そんな毎日を希は繰り返していた。希が何もせずただぼんやりと部屋の天井を眺めていると部屋の障子が開いた。誰かと思うと店の従業員の女性だった。
「希さん、贈り物が届いてますよ」
従業員は希に封筒に包まれた贈り物を渡した。
「あ、ありがとう…」
希は従業員に軽く会釈すると従業員は部屋の障子を閉めてどこかへ行ってしまった。希は受け取った贈り物の封筒を開けると中から花や蝶などの派手な装飾がされた髪留めだった。女性用の物だというのは見てわかった。
「…要らない」
希は髪留めを封筒の中に収めるとくしゃくしゃに丸めて屑籠に捨てた。希のところには偶に贈り物が届くのだがどれも女性物が多く希にとって要らないものだった。
「男ってわかって送ってんのか…?こんなの送る奴の考えがわかんない」
静かな部屋に向けて希は愚痴を吐いた。
━━━━━━━━━━━━━━━
午後になり希は鳥籠の中に入って外を眺めていた。いつも変わらない景色だけど少しだけ現実から離れることができた。ぼんやり景色を眺めていると急に賑やかになった。何かと思って外を見回してみると左の方から煌びやかな女性が歩いてきていた。その女性の周りを男たちが囲っている。あの女性を希は知っていた。
「…茉那恵様だ…」
茉那恵。この花街で太夫と呼ばれる最高位の遊女だ。希は彼女を見るたびに不快な気分になった。希は視線を逸らしたが彼女は希に寄ってきた。男たちは声を堪えて笑っている。希は必死に目を合わせないようにしていた。
「……滑稽やねぇ。男の人やのにこんなところにいて恥ずかしいだろうに。愛してくれる人もいなくて遊ばれてるだけでねぇ…。残念な子」
彼女が希の見て嘲笑う。周りも彼女のように笑う。希はただ黙って笑い声を聞いていた。
しばらくすると茉那恵と男たちはいなくなっていた。希は大きくため息をついた。
「散々馬鹿にしやがって…」
希は行き場のない怒りをどうする事もできず歯を食いしばることしかできなかった。希の頭の中でさっき茉那恵が言った言葉が蘇る。
『愛してくれる人がいない』『残念な子』
その二つの言葉が希の中に残った。
「同じこと言われると腹立つな…」
希は己のやせ細った手を見て呟いた。茉那恵以外にもあの言葉を言われたことがあった。初めてその言葉を聞いた時、希は心に大きな穴が空いたような感覚になったのを嫌なほど覚えている。希はまたため息をつくと街を眺めた。気づけばもう日がだいぶ傾いていた。あと少しで仕事の時間になる。希の気持ちは沈んで行った。暗くなっていく花街を見ていると見慣れない男を見た。その男は顔が非常に整っていて背が高く最近流行りの洋服を着ていて胸の辺りまで伸びた長い朽葉色の髪を一つに束ねている。希は初めて目を奪われた。
(綺麗な朽葉色…)
希がそう思っていた直後、その男と目が合った。
「……最悪」
希は痕に触れていると部屋の障子が開いた。また客だろうか、と希は作り笑いをしようとした。
「希、今日はもう終わりだ」
「あ……」
入ってきたのは支配人だった。支配人は希にそう伝えるとすぐに出て行った。希は糸が切れたように精液まみれの布団に倒れ込んだ。体が動かなくなって無意識に涙が流れる。もう希の精神は疲れ切っていた。最近希は仕事を終えると今のようになってしまう。歯車が外れたねじ巻き人形のようにぴくりとも動かなくなってしまうのだ。そして悲しいのか、苦しいのか、辛いのかわからずただ涙が流れる。頭の中では必死に立ち上がって体を洗いたいと思っているのに体が言うことを聞かない。そんな状態になってしまった希はずっと答えが帰ってこない疑問を頭の中で問うていた。なんでこんな体になってしまったんだろう、なんで男なのにこんなことされなくちゃいけないのだろう。視界がぼやけていく中、希は何度も何度も考え続けた。そして、希の意識が闇に放られた。
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どこからか雀の囀りが聞こえる。それで希は目を覚ました。起き上がると来ていた着物ははだけていて寝ていた布団からは精液が乾いた匂いがした。
「……洗濯出さないとなぁ…」
希はなんとか立ち上がって布団を部屋の外に出すと湯あみをして昨晩の情事の跡を洗い流した。希は夜を明かした部屋には戻らず、希に設けられた部屋に入った。四畳程の広さで希にとって狭すぎた。文句を言うと怒鳴られるのはわかっていたため黙っていたがやはり何度見ても狭いと思ってしまう。希は新しい着物に着替えて座布団に座り込む。午前中だけこうしてぼんやりとできる。午後からは昨日と同じ鳥籠の中に入って見世物のようにじっとしながら街の景色を眺める。そして夜は仕事…、そんな毎日を希は繰り返していた。希が何もせずただぼんやりと部屋の天井を眺めていると部屋の障子が開いた。誰かと思うと店の従業員の女性だった。
「希さん、贈り物が届いてますよ」
従業員は希に封筒に包まれた贈り物を渡した。
「あ、ありがとう…」
希は従業員に軽く会釈すると従業員は部屋の障子を閉めてどこかへ行ってしまった。希は受け取った贈り物の封筒を開けると中から花や蝶などの派手な装飾がされた髪留めだった。女性用の物だというのは見てわかった。
「…要らない」
希は髪留めを封筒の中に収めるとくしゃくしゃに丸めて屑籠に捨てた。希のところには偶に贈り物が届くのだがどれも女性物が多く希にとって要らないものだった。
「男ってわかって送ってんのか…?こんなの送る奴の考えがわかんない」
静かな部屋に向けて希は愚痴を吐いた。
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午後になり希は鳥籠の中に入って外を眺めていた。いつも変わらない景色だけど少しだけ現実から離れることができた。ぼんやり景色を眺めていると急に賑やかになった。何かと思って外を見回してみると左の方から煌びやかな女性が歩いてきていた。その女性の周りを男たちが囲っている。あの女性を希は知っていた。
「…茉那恵様だ…」
茉那恵。この花街で太夫と呼ばれる最高位の遊女だ。希は彼女を見るたびに不快な気分になった。希は視線を逸らしたが彼女は希に寄ってきた。男たちは声を堪えて笑っている。希は必死に目を合わせないようにしていた。
「……滑稽やねぇ。男の人やのにこんなところにいて恥ずかしいだろうに。愛してくれる人もいなくて遊ばれてるだけでねぇ…。残念な子」
彼女が希の見て嘲笑う。周りも彼女のように笑う。希はただ黙って笑い声を聞いていた。
しばらくすると茉那恵と男たちはいなくなっていた。希は大きくため息をついた。
「散々馬鹿にしやがって…」
希は行き場のない怒りをどうする事もできず歯を食いしばることしかできなかった。希の頭の中でさっき茉那恵が言った言葉が蘇る。
『愛してくれる人がいない』『残念な子』
その二つの言葉が希の中に残った。
「同じこと言われると腹立つな…」
希は己のやせ細った手を見て呟いた。茉那恵以外にもあの言葉を言われたことがあった。初めてその言葉を聞いた時、希は心に大きな穴が空いたような感覚になったのを嫌なほど覚えている。希はまたため息をつくと街を眺めた。気づけばもう日がだいぶ傾いていた。あと少しで仕事の時間になる。希の気持ちは沈んで行った。暗くなっていく花街を見ていると見慣れない男を見た。その男は顔が非常に整っていて背が高く最近流行りの洋服を着ていて胸の辺りまで伸びた長い朽葉色の髪を一つに束ねている。希は初めて目を奪われた。
(綺麗な朽葉色…)
希がそう思っていた直後、その男と目が合った。
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