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図書館の朽葉色
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ぱらぱら、と書物が捲られていく音が響く。ここは花街の隣街にある図書館だ。見渡す限り書類と書物で溢れかえっている。この光景を江野宮 俊はもう見慣れてしまっていた。
俊はこの図書館の司書だ。この職に就いてもう8年となる。司書という職に就いた理由はただ書物が好きだからだ。過去から保管されている巻物、詩書、俳句を誰よりも愛していた。幼き頃も友人を作らず、文字ばかり読んでいた。書物ばかり読んでいて成人しても結婚なども考えず周囲から呆れられていた。三十になった今でもこうして書物に溺れている。
俊は図書館の保管庫に行き一般には公開されていない巻物が保管されている棚から一つ巻物を取り出して近くの机に置いて丁重に広げる。それは江戸時代中期に書かれた代物だ。巻物には詩歌が綴られている。なんとも風流で美しく俊の心を掴まれる。
「一人で笑ってると気持ち悪がられるぞ」
急に声が聞こえて顔を上げると目の前には俊の同僚の内原が呆れた表情を浮かべていた。
「笑ってましたか?…ていうか、ここに入る時は声を掛けろとこの前も言いましたが…」
「言われたか?まぁいいや、そんなことよりお前に手紙が届いてるぞ」
(まぁいいやって…)
俊は内原に軽く注意をしようと思ったが内原が俊に見せた手紙を見てはっとした。差出人は母親からだった。何事かと思い内原から手紙を受け取ると封を切って手紙を読んだ。読み終わると俊はため息をついた。
「何でため息なんかついてんだ?普通親からの手紙でため息なんかつかないだろ?」
「それは内原の場合でしょう?こっちは飽き飽きしてるんですよ」
俊は手紙を内原に渡した。手紙の内容を読むと納得したようで苦笑いした。
「縁談の話か」
「そうです。私は別に結婚する予定も無いんです」
「独り身は寂しいぞぉ?」
「既婚者に言われたくないです。私には書物さえあればいいんです」
俊は内原から手紙を返してもらうと手紙を破いて屑籠に捨てた。母親から縁談についての手紙はこれで五回目だった。俊は書物にしか興味が無いため女性や縁談については全くと言っていいほど興味が無かった。
「書物に囲まれて死ぬってか?」
内原がふざけてそう言うと俊は「そうです」と即答した。本当にそう考えているとは思わず内原は唖然とした。
「好きな物に囲まれて死ぬというのは幸せなことでしょう?実際にそうして死んでいかれた偉人の方もいらっしゃる」
俊は真っ直ぐな眼差しで内原を見た。内原は頭が痛くなり大きくため息をついた。
「お前なぁ…。別に俺は否定しないけど少しは違うことにも目を向けろよ」
内原は俊が広げた巻物を丁寧に巻いて元の棚に戻した。
「見てた途中だったんですが」
「何回も見てんだからいいだろ?文字ばっかり見てるからそんな考えになるんだ。たまにはなぁ…隣の花街にでも行ってこいよ」
「…はい?」
花街。内原からその言葉が出て俊はしばし困惑した。彼は自分の話を聞いてたのか?俊は言い返そうとすると内原が話し出す。
「無機質な文字じゃなくて煌びやかな街を見てみろよ。ちょっとはお前の考えが変わる」
「…あなたは私の母親の味方をしようとしてるのですか?」
「違うって。文字だけに執着するなって意味だよ。昔の偉人は町の風景、人の関係とかを見て詩とか物語を書いて遺してるだろ?ちょっとは色々見ていった偉人のように死んでった方がいいだろ」
内原の考えを聞いて俊は驚いた。内原の言う通りだ。俊が今まで読んでいった書物の作者たちは自らの経験を通して書かれているのが殆どだ。その経験を胸に残して亡くなられている。
「…た、確かに…。わかりました、仕事が終わったらその花街に寄ってみますよ」
俊は内原を避けて仕事場に向かって行った。
俊はこの図書館の司書だ。この職に就いてもう8年となる。司書という職に就いた理由はただ書物が好きだからだ。過去から保管されている巻物、詩書、俳句を誰よりも愛していた。幼き頃も友人を作らず、文字ばかり読んでいた。書物ばかり読んでいて成人しても結婚なども考えず周囲から呆れられていた。三十になった今でもこうして書物に溺れている。
俊は図書館の保管庫に行き一般には公開されていない巻物が保管されている棚から一つ巻物を取り出して近くの机に置いて丁重に広げる。それは江戸時代中期に書かれた代物だ。巻物には詩歌が綴られている。なんとも風流で美しく俊の心を掴まれる。
「一人で笑ってると気持ち悪がられるぞ」
急に声が聞こえて顔を上げると目の前には俊の同僚の内原が呆れた表情を浮かべていた。
「笑ってましたか?…ていうか、ここに入る時は声を掛けろとこの前も言いましたが…」
「言われたか?まぁいいや、そんなことよりお前に手紙が届いてるぞ」
(まぁいいやって…)
俊は内原に軽く注意をしようと思ったが内原が俊に見せた手紙を見てはっとした。差出人は母親からだった。何事かと思い内原から手紙を受け取ると封を切って手紙を読んだ。読み終わると俊はため息をついた。
「何でため息なんかついてんだ?普通親からの手紙でため息なんかつかないだろ?」
「それは内原の場合でしょう?こっちは飽き飽きしてるんですよ」
俊は手紙を内原に渡した。手紙の内容を読むと納得したようで苦笑いした。
「縁談の話か」
「そうです。私は別に結婚する予定も無いんです」
「独り身は寂しいぞぉ?」
「既婚者に言われたくないです。私には書物さえあればいいんです」
俊は内原から手紙を返してもらうと手紙を破いて屑籠に捨てた。母親から縁談についての手紙はこれで五回目だった。俊は書物にしか興味が無いため女性や縁談については全くと言っていいほど興味が無かった。
「書物に囲まれて死ぬってか?」
内原がふざけてそう言うと俊は「そうです」と即答した。本当にそう考えているとは思わず内原は唖然とした。
「好きな物に囲まれて死ぬというのは幸せなことでしょう?実際にそうして死んでいかれた偉人の方もいらっしゃる」
俊は真っ直ぐな眼差しで内原を見た。内原は頭が痛くなり大きくため息をついた。
「お前なぁ…。別に俺は否定しないけど少しは違うことにも目を向けろよ」
内原は俊が広げた巻物を丁寧に巻いて元の棚に戻した。
「見てた途中だったんですが」
「何回も見てんだからいいだろ?文字ばっかり見てるからそんな考えになるんだ。たまにはなぁ…隣の花街にでも行ってこいよ」
「…はい?」
花街。内原からその言葉が出て俊はしばし困惑した。彼は自分の話を聞いてたのか?俊は言い返そうとすると内原が話し出す。
「無機質な文字じゃなくて煌びやかな街を見てみろよ。ちょっとはお前の考えが変わる」
「…あなたは私の母親の味方をしようとしてるのですか?」
「違うって。文字だけに執着するなって意味だよ。昔の偉人は町の風景、人の関係とかを見て詩とか物語を書いて遺してるだろ?ちょっとは色々見ていった偉人のように死んでった方がいいだろ」
内原の考えを聞いて俊は驚いた。内原の言う通りだ。俊が今まで読んでいった書物の作者たちは自らの経験を通して書かれているのが殆どだ。その経験を胸に残して亡くなられている。
「…た、確かに…。わかりました、仕事が終わったらその花街に寄ってみますよ」
俊は内原を避けて仕事場に向かって行った。
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